会社の税金
2020/4/2
会社の税金のほとんどが申告納税制度を採用(待ちの姿勢ではいけません!)
会社を設立するにあたっては、会社にはどのような税金が課税されるかを知っておかなければなりませんが、何よりも大切なことは税金に関する申告や届出などの「手続」です。
「どのような手続を」
「どの役所で」
「いつまでにしなければならないのか」
このことが大切です。
会社の税金のほとんどが納税者の自主性を尊重する申告納税制度を採用していますので、税務署など役所からの連絡を待っていてはいけないのです。自ら必要な手続を知り、自主的に手続をしなければなりません。
法人税(会社固有の税金、自主的な記帳と決算を前提とする)
会社の儲けには、法人税・地方法人税(国税)、事業税(都道府県税)、都道府県民税、市町村民税が課税されます。ここでは、これらをまとめて「法人税」といいます。法人税は会社(法人)に固有の税金です。個人事業者(個人事業主)や一般個人には法人税が課税されることはありません。ここでの「儲け」とは「利益(収益−費用)」のことで、法人税は利益に対して一定税率を乗じて課税されます。利益が多い会社のことを儲かっている会社といいますが、儲かっている会社は法人税をたくさん納めなければならないのです。
会社は自ら利益を計算しなければなりません。この計算は決算と呼ばれ、事業年度という1年ごとの単位で行います。結果として法人税を申告して納めるのも1年ごとになります。このように、自ら税額を計算して申告することを申告納税制度といいます。会社であっても、利益の生じていない、いわゆる赤字(収益<費用)の場合は法人税を納税する必要はありません。ただし、都道府県民税と市町村民税の均等割は赤字でも納税しなければなりません。また、法人税の申告は納税額がゼロでも必要です。
利益の計算作業(記帳と決算)をして法人税の申告手続をすることを「経理」とか「会計(財務会計)」と呼びます。この作業には複式簿記や税法という専門知識が必要であることから、多くの会社は会計事務所(税理士)という専門業者に依頼しています。また、市販されている「財務会計ソフト」と呼ばれるソフトはこの利益の計算を行うためのものです。
消費税(税務署に納めるのは事業者)
会社は消費税(国税および地方税)を納めなければなりません。消費税は会社(法人)だけでなく、事業を行っている個人(個人事業者)にも納税義務があります。会社は販売(サービス提供や貸付を含む)の際に消費税を受け取り、仕入や諸経費を支払う際に消費税を支払います。会社が税務署に納める消費税は、「受け取った消費税」から「支払った消費税」を差し引いた額です。
販売(サービス提供や貸付を含む)しても消費税が課税されない取引もあります。土地の譲渡(消費ではない)、住宅の貸付(政策上消費税を課税しない)がその典型です。また、消費税は国内の消費に課税されますので、輸出は消費税が免除されます。消費税は全ての会社が納めなければならないのではなく、売上規模、設立時の資本金額、設立後の年数によって納税義務が免除される場合があります。なお、消費税も法人税と同様、原則として事業年度ごとに会社が自ら計算して申告と納税を行います。
消費税は、広く公平に一般の消費を対象に課税する「間接税」であるといわれています。間接税とは税の負担者と納税義務者が異なる税をいいます。販売する事業者は本体価格(消費税を上乗せする前の価格)と消費税を区分して代金を受け取り、消費税は客(個人あるいは事業者)の負担となっています。しかし、これは、あくまでも理論上において客への負担(転嫁)が「予定」されているにすぎず、形式上は客への負担がなされているようでも、実際は販売する事業者の負担となっていることもあります。「消費税を取るならもう少し安くしてくれ!」という店頭での客と店主との会話は、このことを物語っています。これが、消費税の「納税」に苦労する会社が出る理由なのです。
源泉徴収(雇用者の義務、していない場合は会社の負担に)
会社には源泉徴収義務という雇用者としての義務があります(個人事業者でも雇用者であればこの義務はあります)。会社がその役員や従業員に給与(給料、賞与など)を支払う際には所得税(国税)を源泉徴収し(天引きし)、それを税務署に納めなければなりません。なお、所得税の源泉徴収同様、役員や従業員の住民税(都道府県民税と市町村民税)も天引きし市町村に納めなければなりません(都道府県民税も市町村に納める)。
役員や従業員の税金は、負担は役員や従業員であるけれども、その税額を計算し、預って、納付するのは会社であるという認識を持たなければなりません。
源泉徴収義務に関して特に留意しておかなければならないのは、源泉徴収をしていなかったことが税務署にばれた場合、会社が納付しなければならないということです。「預ってもいないのに!?」「従業員の税金なのだから従業員から直接取ってくれ!」とはいえないのです。これは本当です。これで大変な目にあっている会社が多数あります。
源泉徴収は特定の所得からのみ行うという、大変腑に落ちない制度かもしれません(給与以外の特定の報酬料金なども源泉徴収の対象となる)。特にサラリーマンにとっては「納税=税負担」を意識させないという弊害があります。しかし、法律ですので受け入れるしかありません。源泉徴収をしていなかった場合の後処理ほど大変なことはありません。「源泉徴収制度に理解のない者とは関わらないこと」が「ビジネスの鉄則」であると考えておく必要があります。源泉徴収制度を理解しない者(無視する者)のほとんどは、後でトラブルが起きたときに、もう、貴方の前から姿を消しているでしょう。結局、貴方が「泣き寝入り」することになるのです!
固定資産税、自動車税、印紙税
これらは個人(すべての個人)と同じです。会社として不動産を所有していれば固定資産税が、自動車を所有していれば自動車税が、一定の契約書を作成すれば印紙税が、それぞれ課税されます。
会社と個人事業者の税金の違い(個人事業者は記帳や申告手続が粗雑でよい?)
「個人事業者は記帳や申告手続が粗雑でよい?」、ある意味で正しいかもしれません。なぜならば個人事業者の場合、貸借対照表の作成が義務付けられていないからです(白色申告の場合)。なお、個人事業者の場合は税務署と「交渉」し、推計値で税金が決まる(面倒な記帳は不要)ということが迷信的に信じられています。はるか昔の昭和時代にはそれでよかったようですが、現在はそんな方法では税務署から大目玉を食らいます。
会社も個人事業者も帳簿作成の労力は同様です。ただし、算出する利益(収益−費用)の捉え方が大きく異なります。それが、「勘定科目」という経理上の分類集計単位に表れ、記帳の方法も異なったものにしています。
◆会社の利益計算
利益=売上−仕入−人件費と諸経費(人件費に役員報酬=経営者取り分含む)
利益には「法人税」が、役員報酬には「所得税(役員報酬からの源泉徴収)」が課税されます。
◆個人事業者の利益計算
利益=売上−仕入−人件費と諸経費(人件費に経営者取り分含まず)
利益=事業所得に「所得税(確定申告が必要)」が課税されます。
違いは「経営者取り分」の扱いです。会社の場合は「役員報酬」という費用として差し引けますが、個人事業者の場合には差し引くことができません。そうであれば、会社のほうが「圧倒的に得」なように感じるかもしれませんが、会社の経営者取り分である役員報酬には所得税が課税されます(源泉徴収されます)。これは、経営者個人の税金です。会社の場合には会社(法人)と経営者個人の両方に課税されますが、個人事業者の場合には経営者個人にだけの課税となります。
個人事業者が経営者取り分(事業主)を引き出した場合は費用として差し引けませんので、個人事業者での赤字(事業所得がマイナス)は相当業績が悪いということです。事業主の取り分がゼロあるいはマイナス(蓄えの取り崩し)ということになります。 よく、「よそも赤字(おそらく会社と考えられます)で申告しているのだから、うちも赤字で申告する」という人がいます。そのような方のほとんどが、事業主の取り分を差し引いて事業所得を把握しています。
法律は個人事業者を「会社の簡略版」と位置付けているわけではありません。また、個人事業者に「粗雑さ」を許しているわけでもありません。しかし、記帳が済んだ後の申告手続に関しては、個人事業者よりも会社(法人)のほうが相当複雑で事務量も多いのは事実です。会社を選択した人の中にはこれで音を上げる人がいます。後悔する人がいます。そして、個人成り(会社から個人事業者に変更)しようとするのです。
税務関連役所(税務署、都道府県、市町村)
会社が申告納税手続をする役所は下記のとおりです。
〇税務署(特定の地域を管轄)→国税(法人税、消費税、源泉所得税)
税務署は特定の地域を管轄します。その地域に「登記上の本店」がある会社は、その地域を管轄する税務署で申告その他の手続をしなければなりません。
〇都道府県税事務所(特定の地域を管轄)→地方税(事業税と都道府県民税)
都道府県税事務所は都道府県内の特定の地域を管轄します。その地域に「事業所(登記の有無は問わない)」がある会社は、その地域を管轄する都道府県税事務所で申告その他の手続をしなければなりません。なお、事業所が複数あり、それぞれを管轄する都道府県税事務所が異なる場合には、複数の都道府県税事務所で手続をしなければなりません。
〇市役所・町村役場→地方税(市町村民税)
特定の市町村内に「事業所(登記の有無は問わない)」がある会社は、そこの市役所・町村役場で申告その他の手続をしなければなりません。担当は税務部とか税務課などと称する部署です。なお、事業所が複数あり、それぞれを管轄する市役所・町村役場が異なる場合には、複数の市役所・町村役場で手続をしなければなりません。
個人事業者の場合には申告書の提出先は税務署だけですが、会社は上記の3ヶ所です。個人で事業を営んでいて会社を設立した(法人成りした)人は注意が必要です。個人のように税務署が都道府県や市町村に連絡をしてくれるのではありません。
役所からの連絡(待っていてはいけません!)
会社を設立したならば、すみやかに「登記上の本店」あるいは「事業所(登記の有無は問わない)」が所在する地域を管轄する税務関連役所を調べ、各役所で設立届けの提出など、所定の手続をしなければなりません。この手続は自らしなければなりません。それが義務です。この手続をしておけば、事業年度が終了して1か月ほどすれば各税務関連役所から申告書の用紙と納付書が送られてきます。
税務関連役所への届けや申告をしていないからといって、会社が設立できないとか、設立後の営業活動ができないというわけではありません。しかし、だからといって「待ちの姿勢」でいると恐ろしい結果を招きます。
会社の設立は法務局という役所で設立登記をしなければならないので、いずれは税務関連役所から会社を設立したことを把握され、申告などの手続をするように促されます。そして、役所から連絡がある頃には、すでに期限が過ぎており、期限に遅れたことによる「ペナルティを課される」「不利益を被る」ということになります。その際、「どうしてもっと早く連絡をくれなかったんだ!?」が一切通用しないのはいうまでもありません。
税務調査
会社の法人税と消費税は申告納税制度を採用しています。申告納税制度は納税者の自主的で正しい申告が前提です。この申告納税制度では、ともすれば自主性尊重ゆえに自身に都合の良い違法な申告をする納税者もいます。これを国家権力によって正すのが税務調査です。
会社は国税と地方税含めて3つの税務関連役所(税務署、都道府県税事務所、市役所・町村役場)に税務申告書を提出しますが、税務調査を行うのは主に国税に関する役所である税務署です。というのは、地方税である事業税(都道府県)、都道府県民税、市町村民税は、法人税(国税)の計算結果を受け計算されるという仕組みなっているので、法人税(国税)の調査結果がそのまま地方税にも当てはまるからです。また、消費税と地方消費税は税務署のみが窓口です。
一定の水準を超えると税額が激増することも(意識の切り替えが必要)
会社を設立して2・3年の間は、納税するといえば「地方税の均等割」と「源泉所得税」だけという場合もめずらしくはありませんが、会社が成長し一定の水準を超えると税額が「激増!」することがあります。税額が10倍になることなんてざらです。100倍になることもあります。
多くの会社は資本金の額を1000万円未満にすることで設立初年度には消費税が課税されないようにしています。設立時の初期投資は多額であること、設立当初は安定顧客が少ないことからそう簡単には利益は出せず法人税も課税されません。
◆これがわが国の税制の仕組みなんですよ!
このように考えるしかありません。大切なことは、この仕組みを理解して、あらかじめ税額を予測し、納税資金を確保しておくということです。
次に大切なことは、有利な方法を選択して税額を計算するということです。消費税ならば「原則課税と簡易課税」の有利なほうを選択する、法人税ならば「青色申告」を申請し各種の特典を享受するといった具合です。
◆消費税は販売価格に転嫁を
消費税については販売価格に転嫁するしかありません。価格設定の段階で消費税の納税を意識しておくことです。
◆法人税はコストとして認識する(法人税を払わなければ蓄積は増えない)
法人税はコストであると認識しなければなりません。
売上−売上原価−諸経費−法人税
これが会社の「利益」なのです。利益は法人税を納税した残りです。利益は「留保」と呼ばれる会社の「蓄積」です。優良と呼ばれる会社は長年にわたってこれを積上げているのです。この積上げた留保(蓄積)を投資して、さらに利益を出し留保(蓄積)を増やしているのです。「利益が出て法人税を払うのが馬鹿らしいので、ゴルフ、宴会、旅行・・・」、これではいつまで経っても留保(蓄積)は増えません。法人税を払わなければ(払った結果として利益が出さないと)蓄積は増えないのです。
★役員報酬や投資を抑えていませんか?
会社が成長を続けているのに、役員報酬をいつまでも設立当初の水準に据え置いていることがあります。代表者としての正当な対価は受け取るようにしなければなりません。適正な役員報酬はコストですので、これを抑えての利益は本当の利益ではありません。
投資(設備、人材、研究開発など)のタイミングは難しいです。また、投資に失敗することもあります。しかし、ある程度の先行投資をしておかなければ収益機会を失う恐れがあります。適正な先行投資は将来の収益機会の獲得と法人税の節税の両面で必要なことなのです。経営者はこれを恐れてはいけないのです。