有限責任の意味
2020/4/2
株主は出資した金額以上の責任(損失)は負わない
株式会社の株主は有限責任であるといわれますが、この有限責任であることの意味は次のとおりです。
「株主の責任は決められた額を出資することだけ!」です。株主総会に出席して会社の意思決定に参加するのは権利であって義務ではありません。配当をもらうのも権利です。「金は出すが口は出さない」「物言わぬ株主」「経営には無関心」「会社の事業内容さえ知らない」「社長の名前を知らない」「株を持っていることを忘れていた」といった株主がいてもよいのです。株主は資金があり出資さえすれば誰でもなれるということです。それ以外の能力は不要です。さらに、志や倫理観なども関係ありません。
株主が設立の際に1000万円出資したとします。この1000万円は会社の活動に必要な支出(仕入代金、事務所家賃、人件費など)に使われます。会社はこれらの支出を販売により回収しなければなりません。「回収>支出」であれば、株主が設立に際して出資した1000万円は増えます。反対に「回収<支出」ならば減ります。
株主が出資した1000万円が底をついた場合には借金をしなければなりません。借金を1000万円して、これを事業の支出に使いましたが、業績不振で回収ができなければ借金だけが残ります。当然、会社は倒産します。
☆ところで、この借金1000万円は誰が返すのでしょうか?
☆株主?
株主の出資した1000万円は、とっくに使い果たしていますので会社にはお金がありません。借金は返せないのです。返さなくてもよいのです。
結局、株主の損失は出資した1000万円です。株主はこれ以上の損失を被ることはありません。1000万円の借金を返すために追加で出資する責任はないのです。これが、株式会社(株主)は有限責任(出資者は出資額を限度額として責任を負う)であるといわれる理由です。
大株主で代表取締役(借入金への個人保証)
中小零細企業の場合には、代表取締役(会社の代表者)が会社に全額を出資していることがほとんどです。このような場合も株主としては有限責任です。
しかし、資本金を使い果たした後に金融機関からの借入金が残った場合には代表取締役が個人として返済しなければならないケースがほとんどです。金融機関から借入金をする際には代表取締役個人での「保証」を求められるからです。保証とは、会社が借入金を返せない場合に代表取締役が個人財産で肩代わりをすることです。この保証は株主として出資した金額とは無関係です。
★会社が破産すれば代表取締役個人も破産する
中小零細企業の場合、会社が破産すれば代表取締役個人でも破産するケースがほとんどです。会社が破産すれば、会社の借入金を保証している代表取締役個人が肩代わりしなければならず、ほとんどの場合は個人財産をもってしても返済できないので破産するしかないのです。要するに中小零細企業の場合、有限責任は「名ばかり」だということです。
★仕入代金などの未払い
仕入代金などは金融機関からの借入金のように代表取締役個人が保証しないことがほとんどです。ですから、未払いのまま倒産しても代表取締役個人が肩代わりする必要はありません。そんなことから、仕入業者などは常日頃から中小零細企業との取引条件には厳格で、取引先の状況の変化には敏感なのです。決められた取引条件、特に支払方法と期日を守ることは当然です。さらに良い取引条件を確立するには、経営者(代表取締役)は日ごろから襟を正し、取引先からの評価を高め、それを維持するように努めなければなりません。
支払いの優先順位(従業員・仕入先・銀行・税務署いずれから・・・)
事業を行う者は、事業に関するいかなる支払いであっても支払期日に遅れてはいけません。支払期日を守れない者とは安心して取引ができないからです。事業を継続するには、期日どおりの支払いを積み重ねることによって「信用」を築かなければならないのです。
しかし、どうしても資金のめどが立たず、支払いの一部を延期しなければならないこともあります。そのような場合、支払いの「優先順位」に悩みます。
■従業員・仕入先・銀行を優先する(税務署は後回し)
従業員の給料を優先するのは当然です。金融機関からの借入金を期日どおりに返済しない場合には以後の新規融資は受けられません。仕入先(外注先、賃貸事務所の家主など含む)の支払いを延期すると以後の取引がストップになり、事業に重大な支障が生じてしまいます。また、零細な仕入先は支払延期が生活の破綻に直結することから、計り知れない「恨み」を買ってしまいます(将来、報復されることもある)。
■金融機関からこれ以上は借りない場合
この場合には金融機関からの借入金の返済も後回しにしてもよいでしょう。ただし、第三者に保証人になってもらっている場合には、金融機関からその人に連絡がありますので注意が必要です。
■なぜ、税務署は後回しなのか?
会計事務所(税理士)がこのようなことをいうのは不謹慎かもしれません。ただし、「税金を払うな」といっているのではありません。遅れた場合の「ルール」に則って払えといっているのです。税金の支払いが遅れても「直ちに!」事業に支障が生じるわけではありません。税務署も納付期日の翌日に督促してくるわけではないからです(納付期日からしばらくして督促してきます)。ただし、遅れた場合の金銭的なペナルティ(延滞税、不納付加算税)は相当きついです。
なお、税務署は後回しにするといっても無制限に後回しにできるわけではありません。税務署からの督促を無視し続ける、延期後の期日を守らない場合には、税務署も預金の差押えなどの強硬な手段に出てきますので注意が必要です。「会社をつぶすような取立てはしないけれど、棒引きにはしない」、これが税務署の姿勢です。
取引先(金融機関は除く)にだけは迷惑をかけたくない・・・
「もはや倒産確実」という状況でこのような本音を語る人がいます。
■その真意(金融機関は除く理由)は?
金融機関とは絶縁になっても再起はできるからです。というよりも、ひとたび会社を倒産させると金融機関から融資など受けることはできず、以後は金融機関と無縁の人生となります。
また、こんなことをいうと金融機関の方々からお叱りを受けるでしょうが、倒産する側にすれば「貴方(金融機関の担当者)から直接借りたのではない」「貴方達(金融機関)も昔は公的資金で救われたではないか」「どうせ国のお金だから(公的融資や保証を受けている場合)」が本音であり、融資の返済ができなくても「どうせ誰も困らない」と考えるのです。
■仕入先や外注先とは今後も付き合いが続く
一方、仕入先や外注先の中には代金を踏み倒されると共倒れになってしまうところもあります。また、再起の際には協力をしてもらう必要もあります。そんなことから、「取引先(金融機関は除く)にだけは迷惑をかけたくない」となるのです。
★こんなことができるのか?(資産隠しでは?)
そのとおりです。「資産隠し」に該当するかもしれません。このようなことを可能にするには、仕入先や外注先への支払いは徐々に現金払い(借りを作らない)に切り替え、金融機関への返済も倒産の直前まで約定どおり行い、倒産に際しての負債は金融機関からの借入金だけという状態にしておく必要があります。
★弁護士にご相談を!
破産などの法的手続を行う場合、管財人(弁護士)は悪質な資産隠しの有無を確認するために、破産前一年程度の資金の動きを詳細に調べなければならないようです。「倒産!」を意識し始めたらできるだけ早く弁護士に相談し、「倒産と再起の方法」についての自身の希望を伝えておく必要があると思います。
会社形態だからこそ信用できない
「会社で事業をしている奴は信用できない!」
このように考える人もいます。どちらかといえば年輩で、取引先と腹を割って付き合うタイプの人です。このような人は業界や地域の重鎮であることが多く、親密になればビジネスにプラスに作用します。様々な有益な情報が得られたりするからです。しかし、このタイプの人は「株式会社は有限責任」という理屈に対して非常に憤慨します。
【1】ある会社が多額の仕入代金を未払にしたまま活動を停止した
【2】社長は「有限責任」を理由にその支払いを拒んだ
【3】しかし、その元社長は別の場所で別の名義(会社)で営業を継続している
これが許せないというのです。実際にこのようなことをする輩が少なからずおり、会社形態を嫌う人はこのような事態に何度か遭遇しています。
会社なんて、「誰でも」「何時でも」「簡単に」作れます。「資本金」や「設立費用」も何とでもなります。「社長」になんて簡単になれるのです。「新参者で、しかも会社形態」だと取引をしてもらえない業種や地域もあるようです。会社設立にあたっては、このあたりを十分に検討すべきです。特に、キーパーソンには十分な根回しをしておきましょう。会社を設立することによって失う信用や人間関係もあるのです。
★ビジネスの基本は「信用第一」です!
これを忘れてはいけません。「あいさつ!」「返事!」「時間を守る」「世話になった人へのお礼」「困っている人を助ける(自分一人だけが儲けない)」などの基本を重視する人が世の中にはまだまだ多いのです。「技術」「品質」「価格」「外見」などが似たり寄ったりの場合は、このような些細なことを選択の基準にする消費者も多いのです。