資本金


2020/4/2

資本金とは(出資があったという事実)

資本金とは、設立時の出資金額および設立後の追加出資金額のことです。資本金は「登記事項」ですので、「法務局」で所定の手続をしなければ資本金とは認めてもらえません。登記事項ですので、法務局へ行けば誰でも調べたい会社の資本金の額を知ることができます。ですから、資本金は会社の「信用の目安」になるのです。

設立時、資本金は預金ですが、会社が活動するにつれて商品、事務所の保証金、車両などに変化していきます。

★会社は資本金相当額の現金(預金)を常に保有していなければならない

このように考えている人が非常に多いですが、とんでもない誤解です。資本金は会社の活動のために使うのです。資本金はそのために株主から出資してもらっているのです。株主は出資した資本金を事業に投下し利益を出した結果としての配当を望んでいるのです。使わないのであれば資本金はいらないのです。

資本金よりも純資産(会社の正味財産)

◆資本金は出資があったという過去の事実

資本金は株主から出資があったという「過去の事実」にすぎず、資本金相当額の財産(現金や預金など)を会社が保有しているという意味ではありません。

◆純資産(資産−負債)は会社の正味財産

会社の財産は、資本金ではなく純資産で考えなければならないのです。純資産とは「資産−負債」です。この純資産は、決算書の貸借対照表に表れます。

○資産
現金・・・硬貨、紙幣、預金
現金になるもの・・・売掛金=未回収の売上代金、商品=販売すれば現金になる、土地や有価証券=換金できる

○負債
現金で支払うもの・・・借入金、買掛金=未払いの仕入代金

純資産とは、お金に換えられるもの(資産)はすべてお金に換え、支払うべきもの(負債)はすべて支払い、そのあとに残るお金と考えることができます。

純資産の変動と資本金との関係

会社の設立当初は純資産と資本金は一致します。設立当初は、出資された資本金相当額の現金(預金)という資産しかありませんので、資産(現金)=純資産=資本金となります。しかし、この関係は会社が活動するにつれて変化していきます。

◆純資産が資本金よりも増えているパターン(資本金は50)

(その1)資産60=純資産60(資本金50)
(その2)資産100−負債40=純資産60(資本金50)
(その3)資産110−負債50=純資産60(資本金50)

◆純資産と資本金が同額のパターン(資本金は50)

(その1)資産50=純資産50(資本金50)
(その2)資産100−負債50=純資産50(資本金50)
(その3)資産90−負債40=純資産50(資本金50)

◆純資産が資本金よりも減っているパターン(資本金は50)

(その1)資産40=純資産40(資本金50)
(その2)資産100−負債60=純資産40(資本金50)
(その3)資産90−負債50=純資産40(資本金50)

利益が純資産を増加させる

純資産を増加させるのは「利益=収益−費用」にほかなりません。収益は純資産を増加させ、費用は純資産を減少させます。利益が生じているということは「収益>費用」ですので純資産も増えます。一方、利益がマイナス(収益<費用)の場合は純資産を減少させます。

★収益は資産を増やす(純資産を増やす)
収益が生じると、現金預金や売掛金(売上代金の未回収部分)などの資産が増えています。資産が増えれば純資産が増えます。

★費用は資産を減らし負債を増やす(純資産を減らす)
費用が生じると、現金預金という資産が減る、あるいは買掛金や未払金(代金の未払部分)という負債が増えます。資産が減り、負債が増えるわけですから、純資産は減ります。

純資産(決算書)なんて誰も知ることができないのでは?

確かに、株式上場をしていない会社であれば、純資産(決算書)が広く世間一般に知られることはありません。しかし、金融機関に融資を申し込む際には決算書の提出を必ず求められます。また、信用調査会社による企業信用調査でも決算書は重要資料となります。これらの際、純資産が資本金よりも少なければ評価が低くなるのは当然です。

資本金の役割

「資本金なんて意味はない?」と考える人がいるかもしれません。しかし、資本金は会社制度において次のように重要な役割を果たしています。

■「純資産>資本金」でなければ配当はできない

純資産は利益によって増減します。創業来の利益がプラス(黒字)であれば純資産は資本金よりも多くなります。創業来の利益がマイナス(赤字)であれば純資産は資本金よりも少なくなります。配当は利益の結果ですので、「純資産>資本金」でなければできないのです。

■資本金を元に純資産を増加させるのが経営者の使命

当たり前です。利益を出すのが経営者の使命です。つまり、資本金を活用して純資産を増加させるのが経営者の使命なのです。「当社は株主から○○万円の出資を受けています」、「当社の経営者の使命はこの○○万円で事業活動を行い、これを増加させ株主に配当することです」ということを「宣誓する」のが資本金なのです。資本金とは、経営者が株主から託され、増殖させなければならない資金です。

配当(現実にはしていない会社がほとんど)

会社の仕組みからして資金提供者である株主に配当をするのは当然ですが、現実には次の理由から多くの中小零細企業が配当をしていないのが実情です。

■株主と経営者が同一人物(配当すると資産が減る)

株主と経営者が同一人物の会社では、会社と経営者個人トータルしての資産をどのようにして増やすかという観点で物事を判断します。配当は会社の費用とはなりませんので利益を減らし法人税を減らすという節税効果はありません。一方、配当を受け取った経営者個人に所得税が課税されるので、配当をすると「会社と経営者個人トータルしての資産」が、配当金に課税される税金の分だけ減ってしまいます。ですから、配当はしないで資産を会社に残すという選択をするのです。

■法人税の税率と役員報酬に対する所得税の税率の比較(配当よりも役員報酬を増やす)

配当は利益の分配ですので、出金を伴いますが費用とはならず法人税を減らすという効果はありません。一方、役員報酬は会社の費用となって法人税を減らしますので、役員報酬に対する所得税の税率が利益に対する法人税の税率よりも低い限りは役員報酬を増やし利益を抑えるという選択をします。

純資産がマイナスでも会社はつぶれない

純資産がマイナスとは、資本金50として次のような状態をいいます。

資産50−負債100=純資産−50(資本金50−創業来の利益マイナス100)

資本金50で創業来の利益がマイナス100ということは、資本金以上の資金を使ってしまっているということです。

★こんなことで会社はつぶれないのか!?

このような状態でもつぶれない会社があります。それは、そのような会社にでも株主以外に資金提供をしてくれる者が存在するからです。

金融機関は、不動産や有価証券など資産の担保提供や、保証人を立てれば、業績が悪く純資産が減り続けマイナスになっていても融資をしてくれます。また、担保に提供する資産や保証人に立てる人がいなくても、代表者やその近親者は会社が窮地に陥っているときには資金を提供することが普通です。ですから、純資産がマイナスでもつぶれないこともあるのです。

減資(資本金を減らすための手続)

会社設立以降通算して赤字(収益−費用=利益がマイナス)の場合、貸借対照表の「資産−負債」である「純資産=資本金+累積利益」は減りますが資本金は減りません。資本金が減るのは減資の場合だけです。減資は法務局での所定の登記手続をしなければなりません。所定の手続をしない限りは、どんなに純資産が減っても登記簿に記載された資本金は変わりません。

資本金と社長借入金

ほとんどの中小零細企業は「株主=代表取締役(社長)」で、社長は会社の経営者であるとともに資金提供者でもあります。社長が会社に資金提供する方法は「資本金」と「社長借入金」のふたつがあります。

■資本金(手続が法定されていて面倒)

株主という立場での資金提供です。出資の手続は法定されており、法務局で登記をしなければ資本金として認められません。資本金の返金も可能ですが、それには法定の減資という手続が必要で、法務局で登記もしなければなりません。

■社長借入金(臨機応変な資金提供が可能)

必要に応じて、社長が個人的な資金を会社に貸し付けることをいいます。社長個人からすれば「会社への貸付金」ですが、会社からすれば「社長からの借入金」です。社長借入金に法定の手続はありませんが、借用書あるいは金銭消費貸借契約書を作成し、利率や返済期限などの条件は明確にしておく必要はあります。

★両者の共通点と違い
会社が使える資金であることに変わりはありません。「資本金1000万円」「資本金500万円+社長借入金500万円」「資本金10万円+社長借入金990万円」、いずれであっても会社が使える資金は1000万円です。両者の決定的な違いは、社長借入金は自由に増減させることができますが、資本金はそうはいかないということです。

★両者のバランス
中小零細企業の場合は資本金の返金である減資はまずはありえません。社長個人にすれば、資本金として提供した資金は会社が継続する限り拘束されますので、返金を受けたい資金は資本金ではなく社長借入金として会社に提供すべきです。

★社長借入金の返済財源
会社に現金(預金)がないとできません。受け入れた社長借入金は、設備投資や運転資金に投下されるでしょうから、返済はそれらの成果として獲得した現金(預金)で行うことになります。

創業融資(公的融資の活用)

自己資金(資本金+社長借入金)のみで不足する場合は、金融機関から融資を受ける必要があります。一般的には一定の営業年数があり、相応の業績でなければ融資は受けられませんが、創業時の融資に応じてくれる金融機関もあります。

しかし、金融機関の融資はハードルが高いことから、最初の融資はいわゆる公的融資(制度融資)、日本政策金融公庫や信用保証協会の保証(保証付きで金融機関から融資を受ける)によっていることがほとんどです。

★資金使途が制限されている

公的融資は使途が厳格に限定されています(設備資金と運転資金など)。使途を守れない場合、たとえば、資本金相当を株主に返金(?)した場合や、役員や株主の個人出費の立替に充当した場合は、以後の融資が一切打ち切られることも覚悟しなければなりません。なお、「使途違反」の結果は決算書に明瞭に表われ、これを隠すことはできません。「ばれるはずはない」は甘いです!また、いかがわしい「融資申込み代行業者」が存在しますので、くれぐれもご注意ください。

★公的融資は返済不要?

まれに、公的融資のことを「補助金」と勘違いしている人がいますが、あくまでも融資ですので返済しなければなりません。

特に信用保証協会の「保証」については誤解が多いです。信用保証協会は保証した企業が返済できない場合には「代位弁済」をしてくれます。つまり、企業に代わって金融機関に返済してくれます。しかし、この後の処理について理解をしていない人がいます。信用保証協会は「求償権」というものを行使して、返済できなかった企業に代位弁済した分の返済を求めてくるのです。

信用保証協会はこの求償権というものを徹底的に行使してきます。多くの債務者(返済できなかった企業)は、「保証料を払ったのに!」とか「なんのための公的融資だ!」といって驚きます。しかし、契約書(信用保証協会の求償権を認める)に署名押印している以上はどうにもなりません。要するに、信用保証協会は「肩代り」ではなく、「立替払い」をするに過ぎないということです。

保証ではなく直接融資をしてくれる日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)も同じです。返済できなければ徹底的に法的な手続を繰り返してきます。