決算
2020/4/2
決算をする(株主と債権者のため)
会社は事業年度(1年)が終了したならば決算をしなければなりません。決算とは事業年度の業績(売上や利益)と事業年度末の財産(預貯金や設備、借入の状況)を株主と債権者に報告することです。これは会社法で定められた経営者(役員=取締役)の義務です。
会社は株主の出資によって設立されます。株主が出資する目的は配当です。会社が配当をするには利益を出さなければなりません。株主がこれを確かめるには決算による報告が必要なのです。会社には債権者がいます。債権者とは会社に資金を貸している金融機関、会社から支払いを受けなければならない仕入先などです。債権者は会社の信用状況(支払能力)を知りたいのです。この手段が決算です。
決算書の作成方法(複式簿記)
決算報告は決算書により行います。決算書は、主として「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」からなります。これらは「複式簿記」という方法により、個々の取引(主に入出金)を仕訳という形式にして記録し(分類し)、これを集計することにより作成します。
複式簿記は特殊な技術ですので、多くの会社はこれに精通した担当者を自社で雇用するか、会計事務所(税理士)という専門業者に外注することにより決算書を作成しています。昨今では、財務会計ソフトで決算書を作成することが普通になっていますが、この財務会計ソフトを使うのにも複式簿記の知識は必要です。
決算のスケジュール(法人税の申告期限との関連)
決算は事業年度が終了してから「3か月以内」に開催しなければならない定時株主総会で承認された後に「確定」します。この定時株主総会で、株主に対する配当金の額も決定されます。
法人税は決算書の利益に基づいて課税されますので、法人税の申告をするにはそれに先立ち株主総会で決算書を確定させなければなりません。法人税の申告期限が事業年度終了日の翌日から「2か月以内」であることから、ほとんどの会社はこの期限に合わせて決算書を作成し株主総会の承認を受けています。
決算は税務署のためにする?
すべての会社は事業年度が終了した翌日から2か月以内に法人税の申告書を税務署に提出し、法人税を納税しなければなりません(赤字の場合にも申告しなければなりません)。そして、この法人税の申告書には決算書を添付しなければなりません。
株主はその会社の代表者1人だけで(いわゆるオーナー経営者がすべての株式を保有している)、金融機関からの借入れはないというような会社は、決算書を公表する相手は税務署だけになります。そのような会社にとっては、実質的には「決算は税務署のためにする」ということになります。
決算書とは?
決算書とは次の書類です。
○貸借対照表
○損益計算書
○販売費及び一般管理費明細書(損益計算書の一部である場合もある)
○製造原価報告書(製造業のみ、損益計算書の一部である場合もある)
○株主資本等変動計算書・個別注記表
○勘定科目明細書(内訳書)
これは決算書そのものではありませんが、決算書の勘定科目ごとの詳細を記載したものです(預金ならば銀行別・預金種類別、売掛金なら得意先別といった具合)。
税務署に法人税の申告書を提出する際には、上記を添付書類として一緒に提出しなければなりません。
金融機関に融資を申し込む際には、上記と「法人税申告書」「消費税申告書」「地方税(道府県民税、事業税、市町村民税)申告書」の「控の写し」を提出しなければなりません。決算書で計算された利益に従い申告納税をしているかを確認するためです。
会計事務所に依頼している場合は、決算が確定し申告書を提出したならば、以上の書類をひとつのファイルにまとめて手渡されます。これを大切に保管しておかなければなりません。
損益計算書は事業年度の業績(一定期間)
損益計算書は一事業年度の「経営成績」を表します。「業績」です。売上や利益を記載したのが損益計算書です。利益は「収益−費用」として計算します。ただし、収益総額と費用総額を対比させるのではなく、段階的に特定の収益と特定の費用を対比させながら利益を算出します。
売上高(収益)−売上原価(費用)=売上総利益
→売上総利益−販売費及び一般管理費(費用)=営業利益
→営業利益+営業外収益(収益)−営業外費用(費用)=経常利益
→経常利益+特別利益(収益)−特別損失(費用)=当期利益
→当期利益−法人税等(費用)=税引後当期利益
といった具合です。
貸借対照表は事業年度末の財産(一定時点)
貸借対照表はとっつきにくいです。事業年度末の「財政状態」を表すと説明されますが、こんな説明でわかるはずがありません。事業年度末の資産と負債の状況、資本金を記載した書類です。「資産=負債+純資産」「資産−負債=純資産」「純資産=資本金+創業来の累積利益」、このように考えてゆくと少しずつわかってきます。
財産にはプラス(資産)とマイナス(負債)があり、それを差し引いたのが正味の財産である純資産です。
勘定科目
決算書を読むには、損益計算書と貸借対照表のそれぞれの仕組みと両者の関係だけでなく勘定科目(かんじょうかもく)の意味を知らなければなりません。勘定科目は簿記の分類集計の単位です。簿記では個々の取引(貨幣価値で測定できる出来事)を勘定科目に分類して集計します。
勘定科目は貸借対照表勘定科目と損益計算書勘定科目に分かれます。「資産」「負債」「純資産(資本)」に関する勘定科目が貸借対照表勘定科目で、「収益」「費用」に関する勘定科目が損益計算書勘定科目です。
利益と所得の違い(利益×法人税率=税額とはならない)
法人税の課税対象は利益を基に計算される「所得」です。所得は利益を基に計算しますが、利益の計算における収益や費用の一部は除外される場合があります。例えば、納税した法人税は、利益の計算においては法人税という費用としてこれを利益から差し引きますが、所得の計算においてはこれを差し引くことができません。また、役員賞与は利益の分配であることから所得の計算においては差し引くことができません。
申告調整(法人税申告書別表4における利益と所得の調整)
法人税が課税される所得は決算書の利益に一定の調整をすることにより算出します。これを申告調整といいますが、このプロセスを明らかにするのが法人税申告書の別表4と呼ばれる書類です。
財務会計ソフトがあれば会計事務所に依頼する必要はない?
決算を行うために利用されているのが「財務会計ソフト」ですが、財務会計ソフトに関しては次のとおり対立する二つの意見があります。
■誰でも簡単に財務会計ソフトで決算書が作れる
財務会計ソフトメーカーは、「簡単」で「誰でもできる」という姿勢を絶対に崩しません。しかし、この説明は財務会計ソフトの操作方法にのみに着目した説明です。多くの人はこの財務会計ソフトメーカーの説明を信じます。昨今では、パソコンで多くのことが解決できるので、「財務会計ソフトで・・・」と考えるのが当然といえば当然です。
■簿記会計や税務の知識がなければ財務会計ソフトは使えない
簿記会計を専門とする人(公認会計士・税理士)は、複式簿記、会計、税務の知識のない人が財務会計ソフトで作った総勘定元帳や試算表は「間違いだらけ」だといいます。これは本当のことです。「社長の話からすればこんなに売上が少ないはずはない?」「社長がいつも乗っている車は?」「家賃は?」というようなケースが実際にあります。
しかし、間違いによっては税務署や金融機関に指摘されず、何事もなかったように歳月が過ぎる場合もあります。そのような経験をした人は、「やっぱり、財務会計ソフトがあればできるんだ!」といいます。一方、間違いを指摘された人は、「財務会計ソフトメーカーにだまされた・・・。何が『誰でもできる』だ!」といって憤慨します。
さて、あなたはどちらの意見を信じますか?
答えは、そう簡単には出ません。答えを出してくれるのは「時間」です。しかし、時間が経ってからでは手遅れになる場合もあります。今までの人生で、こんな経験をした人は多いと思います(笑)。
財務会計ソフトには会計事務所のサポートが必要不可欠です
財務会計ソフトには入力間違いや入力漏れを自動的に発見して修正する機能はありません。やはり、この部分については会計事務所のサポートが必要です。「最初だけ会計事務所に教えてもらえば・・・」は甘いです。処理の対象は日々変化していき、税金や会計の法律は頻繁に変わりますので、会計事務所のサポートが不要になることはありません。
AIの普及
この先、AI(人工知能)はあらゆる分野で普及します。記帳や決算も例外ではありません。すでに、銀行から入手した預金データやスキャンした領収書を会計ソフトに取り込んで自動的に帳簿を作成するという機能が存在します。
しかし、どんなにAIが進化したとしても、AI搭載の会計ソフトを購入すれば、「以後は決算や税務申告のことは一切しなくてもよい」とまではいかないと思います。AIは堅実な判断をするでしょうから、リスキーなユーザーに対しては自らの責任が回避されるような処理をするに違いありません。要するにAIはユーザーのわがままを聞いてはくれず、「そのようなご要望にお応えすることはできません!」と画面に表示されることでしょう。
簿記のメカニズム
簿記のメカニズムは非常に簡単です。
取引を仕訳にする(勘定科目に分類する)
↓
勘定科目を試算表に集計する(そのプロセスが総勘定元帳)
↓
試算表の勘定科目を貸借対照表と損益計算書に分割する
この簿記のメカニズムはすでに完成されたものなので、今後も変わることはありません。簿記は、一度習得すれば、これを一生にわたって活かすことができます。それは、「九九」と同じなのです。また、財務会計ソフトに「仕訳を入力」すれば、上記の作業は自動的にしてくれます。
しかし、それでも簿記(決算書の作成)は難しいです。
簿記での記録の対象となる取引は無数にあり、教科書で説明されていない取引に遭遇することも頻繁にあります。また、取引として記録しなければならない経済事象そのものは日々変化しています。仕訳は、経済事象の性質(本質や背後)を正確に理解しなければできません。ときには経済事象そのものが、不明瞭、不透明なこともあります。この場合は、勘定科目はおろか金額さえ決まりません。
簿記に障害はつき物です。どこまでいってもゴールは見えません。簿記にゴールはないのです。
簿記と会計の違い(会計にゴールはない!)
「簿記会計」などといって、簿記と会計を同一であるかのような説明をすることがありますが、両者を区別したほうがわかりやすいです。
簿記は上記のとおり、取引を集計して決算書を作成するという計算技術(方式)です。会計は、簿記で集計する仕訳をどのようにするか、つまり「勘定科目」「金額」「日付」をどうするべきかの理論や諸制度です。
簿記の計算技術はすでに完成した原理原則です。簿記はすでにゴールに達しています。しかし、会計は時代によって変化していきます。それは、会計の対象とする経済事象が刻一刻と変化しているからです。時代によって会計が解決しなければならない課題は異なります。会計には次から次に解決しなければならない課題が突き付けられるのです。ゴールがないのは会計です。「今年はうまくいったので、来年も大丈夫!」は甘いです。