税務調査


2020/8/18

申告と税務調査は表裏一体

会社の法人税と消費税は申告納税制度を採用しています。申告納税制度は納税者の自主的で正しい申告が前提です。この申告納税制度では、ともすれば自主性尊重ゆえに自身に都合の良い違法な申告をする納税者もいます。これを国家権力によって正すのが税務調査です。

税務調査は主に税務署(国税の役所)が行う

会社は国税と地方税含めて3つの税務関連役所(税務署、都道府県税事務所、市役所・町村役場)に税務申告書を提出しますが、税務調査を行うのは主に国税に関する役所である税務署です。というのは、地方税である事業税(都道府県)、都道府県民税、市町村民税は、法人税(国税)の計算結果を受け計算されるという仕組みなっているので、法人税(国税)の調査結果がそのまま地方税にも当てはまるからです。また、消費税と地方消費税は税務署のみが窓口です。

決算申告の基となる帳簿の信頼性を調べられる

税務調査では帳簿の信頼性を調べられます。法人税の計算の基礎となる決算書は帳簿に基づいて作成されます。消費税の集計作業は、帳簿から一定の取引を抽出して行います。帳簿には漏れや重複があってはいけません。また、事実をありのままに記録しなければなりません。

帳簿には様々なものがありますが、基本となるのは総勘定元帳です。これが、決算書の各勘定科目に直結しているからです。総勘定元帳では詳細が明らかにならない取引もあります。例えば、売上や仕入がそうです。これらは、個々の得意先や仕入先との取引状況を記録した帳簿の確認作業が必要となります。

調査対象は帳簿の基資料にまで及ぶ

帳簿には基資料が存在します。基資料とは、帳簿に取引を記録するにあたっての事実関係を明らかにする証拠です。預金取引ならば預金通帳、出金ならば領収書や請求書といった具合です。税務調査ではこれらも調べられます。帳簿が基資料のとおりに(事実関係に基づいて)作成されているかを確認するのです。

これらの基資料は、常日頃から一定の方法で保存しておき、税務調査の際にはすみやかに提示できるようにしなければなりません。

帳簿や領収書がパソコンの中にしかない

帳簿のみならず領収書もパソコンの中で保存することができます。しかし、それには「電子帳簿保存法」の要件を満たしておく必要があります。要件は相当厳格です。詳しくは国税庁サイトの「電子帳簿保存法について」をご覧ください。

税務的判断の正しさ

帳簿に事実どおりの記録をしていても、税務的な判断を間違っていた場合には指摘を受けます。

例えば、応接セット一組を50万円で購入したという記録を、事実どおり行い、その請求書や領収書と共に記録していたとしても、これを減価償却の対象である備品とはせずに、消耗品費として購入時に費用としている場合です。

「悪意はなかった」「知らなかった」はもっともですが、間違いは正さなければなりません。

税務署独自の調査網

税務署は独自の調査網を張り巡らして、課税に関連する情報を日々収集しています。調査対象となる会社の取引関係、代表者の私生活など、大部分のことは把握されていると考えなければなりません。帳簿とこれらの情報との照合が必ずされます。

税務調査と個人情報保護

税務調査は個人情報保護に優先します。ですから、個人情報保護を理由として帳簿類を提示しないということが認められません。なお、税務署員には業務上知りえた個人情報についての守秘義務があるのは当然のことです。

修正申告(申告後に税額を増やす)

税務調査の結果、提出した申告書に誤りが発見され税額が増加することが判明した場合には、税額を増額させるための修正申告をしなければなりません。

修正は申告書で行う(帳簿と決算書の誤りは修正しない)

税務調査で帳簿や決算書の間違いが発見され、それが税額を過少にしていた場合でも帳簿や決算書は修正しません。その間違いは申告書において修正します。

例えば、在庫として翌事業年度に繰り越さなければならなかった商品を、売上原価として費用処理していた場合です。帳簿や決算書において在庫を繰り越す処理はしないで、法人税の修正申告書において、在庫の計上漏れ、所得(利益)の増加、税額の増加とします。

更正の請求(申告後に税額を減らす)

提出した申告書に誤りを発見し税額が減少することが判明した場合には、更正の請求ができます。ただし、更正の請求ができるのは申告期限から5年以内です。

更正(税務署が申告した税額を増やす)

上記の修正申告で税額を増やすことが納税者の意思により自主的に行われるのに対して、更正は税務署が強制的に申告した税額を増やすことをいいます。更正が行われるのは、税務署の指摘にもかかわらず納税者が修正申告に応じない場合であるのが実情です。なお、申告した税額が多い場合には税務署は税額を減少させることもできますが(減額更正)、これが行われるのはまれです。

決定

申告書の提出がない場合に、税務署が税額を確定することを決定といいます。

修正申告の税額は直ちに納税しなければならない

税務調査の結果、修正申告をした場合、修正申告分の税額は直ちに納税しなければなりません。しかし、資金繰りの関係からそうはいかないこともあります。その場合は税務署の管理徴収部門に相談すれば、いくつかの方法(分割納付など)を提示してくれます。なお、管理徴収部門は確定した税額を徴収する部門です。この部門との交渉で追徴税額が増減することはありません。

よそもやっているのに!

税務調査に関しては、「運不運」があるのは事実です。しかし、明らかに非がある場合はあきらめるしかありません。どうしても納得いかない場合は、税務署に「よそ(他の会社など)」のことを密告するのも一法です。密告された内容次第では税務署も動きます。そうすれば少しは気が済むのではないでしょうか。

なぜ?もっと早く指摘してくれなかったのか

税務調査は遅れてやってきます。税務調査は申告書を提出して直ちに行われるのではありません。通常は3事業年度分程度の申告をまとめて行われます。そこで、「税務署なんてあんな程度か(笑)」と侮り、ついついエスカレートしてしまうことがあります。

「遅れてやってくる」のが税務調査の恐ろしさです。また、調査の回数を重ねるごとに厳格になる場合もあります。何よりも悲惨なのは、業績下降期に全盛期の調査が行われることです。「無いから払えない」は通用しません。払うべきものを使ってしまったのですから。

一定の水準を超えると税額が激増することも(意識の切り替えが必要)

会社の税金というのは一定の水準を超えると税額が激増することがありますが、その際は意識の切り替えが必要です。この意識の切り替えができず、不正な手段で税額を圧縮していることは税務署からすれば一目瞭然で、税務調査の対象にされてしまいます。

会社を設立して2・3年の間は、納税するといえば「地方税の均等割」と「源泉所得税」だけという場合もめずらしくはありませんが、会社が成長し一定の水準を超えると税額が「激増!」することがあります。税額が10倍になることなんてざらです。100倍になることもあります。

多くの会社は資本金の額を1000万円未満にすることで設立初年度には消費税が課税されないようにしています。設立時の初期投資は多額であること、設立当初は安定顧客が少ないことからそう簡単には利益は出せず法人税も課税されません。

設立から相当の年数が経過している会社であっても、規模の拡大、業種や業態の変化、申告方法の選択肢の変化(例えば、消費税の簡易課税が適用できなくなるなど)、繰越欠損金の期限切れなどにより税額が激増することがあります。

◆これがわが国の税制の仕組みなんですよ!

このように考えるしかありません。大切なことは、この仕組みを理解して、あらかじめ税額を予測し、納税資金を確保しておくということです。

次に大切なのは、有利な方法を選択して税額を計算するということです。消費税ならば「原則課税と簡易課税」の有利なほうを選択する、法人税ならば「青色申告」を申請し各種の特典を享受するといった具合です。

◆消費税は販売価格に転嫁を

消費税については販売価格に転嫁するしかありません。価格設定の段階で消費税の納税を意識しておくことです。

◆法人税はコストとして認識する(法人税を払わなければ蓄積は増えない)

法人税はコストであると認識しなければなりません。

売上−売上原価−諸経費−法人税

これが会社の「利益」なのです。利益は法人税を納税した残りです。利益は「留保」と呼ばれる会社の「蓄積」です。優良と呼ばれる会社は長年にわたってこれを積上げているのです。この積上げた留保(蓄積)を投資して、さらに利益を出し留保(蓄積)を増やしているのです。「利益が出て法人税を払うのが馬鹿らしいので、ゴルフ、宴会、旅行・・・」、これではいつまで経っても留保(蓄積)は増えません。法人税を払わなければ(払った結果として利益が出さないと)蓄積は増えないのです。

★役員報酬や投資を抑えていませんか?

会社が成長を続けているのに、役員報酬をいつまでも設立当初の水準に据え置いていることがあります。源泉所得税や社会保険料の負担を抑えたいというのがその理由です。代表者としての正当な対価は受け取るようにしなければなりません。適正な役員報酬はコストですので、これを抑えての利益は本当の利益ではありません。

投資(設備、人材、研究開発など)のタイミングは難しいです。また、投資に失敗することもあります。しかし、ある程度の先行投資をしておかなければ収益機会を失う恐れがあります。適正な先行投資は将来の収益機会の獲得と法人税の節税の両面で必要なことなのです。経営者はこれを恐れてはいけないのです。