資金繰り
2020/8/18
会社を設立し、「経営者は会計に強くなければ!」「記帳から決算まで自分でできるようになりたい!」と意気込んで簿記や会計(記帳から決算書作成まで)を学んだけれども、それが全く役に立たないことに気がついて愕然とする人がいます。
経営にとって大切なことは資金繰りです。資金が不足したら会社は破綻します。利益がプラスでも資金が不足することはあります。
利益と資金繰りは別々に計算する
利益は「収益−費用」として計算しますが、収益と費用は入出金とはタイミングがずれることから利益の計算を資金繰りに用いることはできません。また、利益計算と資金繰りでは構成要素が異なります。その典型は減価償却と借入金です。減価償却は利益計算には含まれますが資金繰りからは除かれます。借入金は資金繰りには含まれますが利益計算からは除かれます(利息は利益計算に影響します)。利益の計算をしてもそれを資金繰りには利用できませんので、資金繰りは利益とは別に計算しなければなりません。
資金繰りの計算方法は、その結果を何に活用するかによって異なってきます。
■翌月の資金繰り(支払いはできるのか?)
これが一般的、というよりも一番切実な資金繰りだと思います。「翌月の支払いはできるのか?」「蓄えを取り崩す必要があるのか?」「借入れをする必要は?」「支払いを待ってもらわなければ・・・」といった具合です。
■中期的な資金繰り
翌事業年度など、比較的中期の資金繰りです。「毎月平均してどの程度の入金と出金があるか?」「月ごとで入出金にばらつきはないか?」「臨時の入出金は?」といった具合の見通しを立てます。
■先の状況が変化する場合の資金繰り
「事業を拡大する」「多額の設備投資をする」「人員を大幅に増やす」「取扱商品や取引先が激変する」「売上が激減する」など、先の状況が変化する場合には資金繰りの見通しを立てておかなければなりません。
■過去の資金繰りを分析する
過去の資金繰りを分析することも大切です。
「販売による収入−仕入代金の支払い−諸経費の支払い−借入金の返済」
当然、これがプラスでなければなりません。これがマイナスで「蓄えの取り崩し」や「借入」で補っているようではいずれ資金が枯渇します。
売掛金と利益と資金繰り
「黒字倒産」「勘定合って銭足らず」など、決算における利益計算のトリック(?)やパラドックス(?)の例として必ず挙げられるのが売掛金です。
売掛金を計上しなければならない理由や計上する時期と金額についてはともかくとして、売掛金に関しては下記の算式を前提に、経営者は様々な意思決定をし行動をしなければなりません。
■当期売上高=当期中の売上代金の入金(A)+期末売掛金(B)−期首売掛金(C)
当期中に入金のあった売上代金(A)のほか、販売はしたけれども(納品やサービス提供は済んでいるけれども)当期中に入金していない分(B)も売上に含めなければなりません。ただし、これから期首売掛金つまり前期に売上計上した分(C)は差し引くことができます。
業績が安定しており(得意先や販売商品の種類、数量、価格に変動がない)、さらに期首と期末の売掛金にほとんど変動もなければ売掛金を計上することのインパクトはほとんどありません。しかし、販売が増え続けている場合、代金の回収期間が長期化している場合には売掛金を計上することのインパクトは大きいです。
■当期中の売上代金の入金=当期売上高(D)−期末売掛金(B)+期首売掛金(C)
販売に関して当期中に得られる資金は上記のとおりです。販売した分(D)の内売掛金相当(B)は入金がありません。期首売掛金つまり前期に販売した分(C)は当期に入金されます(期末売掛金として残る場合もあります)。
経営上大切なことは、このようにして得られる資金の範囲内で、仕入代金や社員の給料、その他の諸経費を賄わなければならないということです。もし、資金が不足しそうな場合には借入も検討しなければなりません。余裕資金(過去の蓄積)がある場合には取り崩しが必要です。
「取引条件」を有利にすることも大切です。回収期間を早くすることです。「そんなことできない・・・」と思うかもしれませんが、「ある時払い」といった馴れ合いはやめる、「ルーズな相手先」には厳格な態度で接するなどすれば思いのほか効果は表れます。
「黒字倒産」「勘定合って銭足らず」とかいって嘆いている経営者の中には、このようなビジネスの基本を守れていない人も数多くいます。
仕入と利益と資金繰り(買掛金さらには在庫に関連)
〇仕入は納品の時点で計上する(代金は後払いでもよい)
〇仕入代金を支払っただけでは仕入にならない(納品されていなければならない)
〇販売しなければ費用にはならない(仕入れただけでは費用にはならない)
仕入に関しては、このことがわかっていなければ経営はできないといっても過言ではありません。
■一事業年度の仕入合計(納品された分の合計)
仕入の計上は代金を支払った時点ではなく納品された時点で行います。この際に仕入の相手勘定科目として計上されるのが買掛金です。一事業年度で計上される仕入と支払った仕入代金の合計額は以下のような関係になります。
当期仕入高=当期中の仕入代金の支払い合計額(A)+期末買掛金(B)−期首買掛金(C)
当期中に支払った仕入代金合計額(B)のほか当期中に仕入れたけれども(納品はあったけれども)代金を支払っていない分(B)も仕入に含まれます。ただし、前期に仕入れたけれども支払いは当期にした分(C)は除かれます。
■前渡金(代金を支払っただけでは仕入にはならない)
仕入に計上するには納品されていなければなりません。納品されていれば代金を支払っていなくても買掛金として仕入に計上することができます。代金を支払っていても納品されていなければ仕入には計上できません。それは前渡金という資産に属する(費用にはならない)勘定科目で処理します。
■仕入と売上原価の違い(売れた分だけしか費用にならない)
仕入のすべてが費用になるわけでありません。仕入の内、販売した分だけしか費用になりません。この分を売上原価といいます。年度末に販売していない分は在庫となります。
当期仕入−期末在庫=売上原価
期首に在庫がある場合は次のようになります。
当期仕入−期末在庫+期首在庫
「利益が出そうなので例年よりも多めに仕入れる(販売は翌事業年度)」は節税対策にはならないということです。
■在庫は資金繰りを圧迫する
在庫は未販売であることから、投資額(仕入代金)に見合う資金が回収できていないということになります。在庫が増え続けると資金繰りを圧迫するのです。
設備投資と利益と資金繰り(減価償却)
設備投資が利益に与える影響、さらには利益と資金繰りの関係は非常に複雑です。
ここでの設備投資とは、「土地」「建物」「機械」「備品」「車両」「ソフトウェアー」など、数年、場合によっては数十年にわたって使用するものを購入することをいいます。
■減価償却(複数事業年度への費用配分)
設備投資と利益の関係を考えるにあたって避けて通れないのが「減価償却」という会計独特の考え方です。減価償却とは設備投資に要した資金を複数の事業年度の費用として配分する手続をいいます。例えば、1000万円の設備投資をしたとすれば、10事業年度に100万円ずつ費用として配分するといった具合です。この配分した金額は損益計算書の「減価償却費」という費用の勘定科目に計上されます。
なぜ、このような扱いになるかというと、設備は長期間(2事業年度以上)にわたって消費するからです。通信費、交通費、広告宣伝費、交際費などは、支払った年度で消費してしまいますので、支払った年度に支払った全額を費用として計上するのです。
■土地(費用とはならない)
設備投資として土地を購入しても費用とはなりません。土地は使用しても消耗しないからです。土地は値下がりしますが、値下がりによる損失は土地を売却するまで認識しません。
これも大変重要なことです。
■設備投資資金(投資した年度に一括して流出)
設備投資に要した資金と利益の関係には注意が必要です。設備投資に対する資金は最初に流出しますが、設備投資に関する費用は複数の事業年度に配分されます。設備投資初年度は、資金は多額に流出するのに、費用(減価償却費)は流出額の内のわずかしか計上されないという現象が起こります。
なお、設備投資の中に土地が含まれている場合には、支出はあったのに土地に関する費用は一切計上されないことになります。
■設備投資資金を借入金で調達した場合(借入金の返済と減価償却費は連動しない)
設備投資資金を借入金で調達した場合には、設備投資に対する支出は、利息を支払う都度、借入金を返済する都度あります。一方、費用は減価償却という利息の支払いや借入金の返済とは連動しない方法で計上されることになります。
借入金と利益と資金繰り
借入金と利益の関係には注意が必要です。
借入金の返済は利益とは無関係です。借入金の返済によって資金は流出しますが、この流出額は費用にはならないので利益計算(収益−費用)とは関係しません。一方、借入金により資金を調達しても、その資金流入額は収益にはなりませんので利益には影響しません。
なぜ、このようになるかといえば借入金は「負債」だからです。借入金による資金調達は負債の増加、借入金の返済は負債の減少ですから、ともに利益計算(収益−費用)には関係ありません。借入金に関して利益計算に関係してくるのは利息の支払いだけです。利息は支払利息という費用の勘定科目で損益計算書に表示されます。
★借入金で調達した資金を何に使うのか?
借入金で資金調達した資金の使い道によって利益に与える影響は異なってきます。
○運転資金に充てた
仕入(在庫として残る分を除く)や給料その他諸経費の支払いに充てた場合には直ちに費用となって利益を減少させます。
○設備投資に充てた
設備投資に充てた場合には直ちには費用とはならず減価償却を通して複数の事業年度に費用となります。設備投資に土地が含まれている場合にはその部分は費用とはなりません。
○別の借入金の返済に充てた
いわゆる「借換え」です。負債が減って新たな負債が増えるのですから利益計算には影響しません。
○手元資金として温存しておく
現金(預金)のままですので費用とはなりません。
○株や金融商品で運用する
購入した時点では費用にはなりませんが、損失が生じたら費用となります。
★借入金と利益の関係を正確に把握することは経営上の最重要課題です!
借入金と利益の関係を正確に把握しけおかなければ、利益の見込みを誤り、納税額も見誤ってしまいます。そして、最終的には資金がショートしてしまうこともあります。
「こんなに借入金を返済しているのだから赤字になるはず」
「利益が出そうなので借入金を一括返済しよう(節税になる)!」
このような勘違いが非常に多いです。
試算表と決算書は資金繰りの参考になる(漏れのない資金繰り)
試算表と決算書は過去の利益を計算したものですが、資金繰りを計算するにあたっての参考になります。試算表と決算書の売上総利益率(売上と仕入の関係)、諸経費の内訳(販売費及び一般管理費)は資金繰りを見通すにあたって大変参考になります。試算表も決算書も「網羅性」がありますので、資金繰りにおいて何よりも大切な「漏れのない」見通しをするのに大変重宝します。
納税見込み額は資金繰りにおいても大変重要な計算要素です。納税見込み額を算出するには過去の試算表と決算書から将来の利益を見通さなければなりません。
試算表や決算書は経営上の様々な数値の「素材」になるのです。