年末調整と仕訳
2020/9/17
【ご注意】
下記の説明は預り金勘定に源泉所得税に関する「補助科目」を設定していることを前提としております。預り金勘定は住民税の特別徴収や社会保険料の従業員負担部分などについても用いますので、補助科目を設定したほうが処理と管理が行いやすくなります。
年末調整に関する仕訳と勘定科目
給与から徴収した源泉所得税は預り金勘定に計上し、納付した際に預り金勘定を減少させます。通常月は、「徴収(貸方)」と「納付(借方)」は同額で、結果として「残高ゼロ」という動きを繰り返しますが、年末調整を行う12月は特別な動きをします。
◆還付金は預り金勘定の減少
還付金は毎月の給料から源泉徴収した所得税を返金するわけですから、源泉徴収したときに預り金勘定の貸方に計上した分を借方に計上して預り金勘定を減少させます。
≪借方≫給料+預り金(源泉所得税)
≪貸方≫預金または現金+預り金(源泉所得税)+預り金(住民税、社会労働保険料)
借方の預り金(源泉所得税)は各従業員への還付金の合計額です。貸方の預り金(源泉所得税)は12月も源泉徴収される従業員の源泉所得税の合計額です。
◆還付をすれば預り金勘定がマイナスになる場合もある
このようなこともあります。11月分までの源泉所得税は全額納付しているとして(11月までの預り金は全額消えているとして)次のようなケースで考えてみます。
○12月に源泉徴収した税額合計→100(預り金の貸方)
○12月に年末調整で還付した金額合計→150(預り金の借方)
預り金(源泉所得税)はマイナス50となります。
「(その月に)源泉徴収した以上に還付するなんておかしい!?」と思われるかもしれませんが、年末調整は「年間の税額の精算」ですのでこのようなこともありうるのです。
◆預り金勘定のマイナスは厳密には「未収入金」
上記のように預り金勘定がマイナスということは、源泉徴収し納付しなければならない金額以上を税務署に代わって従業員に還付をしているわけですので、税務署から返金してもらう必要があります。しかし、通常は税務署からの返金ではなく翌年1月以降に源泉徴収する分から差し引いて納付します。(返金を受けるためには要件があり、さらに手続も面倒だからです。)
預り金勘定のマイナスを解消したい場合には下記の仕訳をします。
≪借方≫未収入金50
≪貸方≫預り金(源泉所得税)50
そして、未収入金相当額を差引いて納付した際に次の仕訳をします。
≪借方≫預り金(源泉所得税)→翌年1月徴収分
≪貸方≫現金または預金+未収入金50
預り金勘定(源泉所得税の帳簿での動き)がおかしい!?
源泉所得税は、源泉徴収義務者(会社などの給料を支払う者)が給料を支払う際に一定額を徴収し(天引し)、後ほど税務署に納付します。このように、源泉所得税は源泉徴収義務者にとっては預かった税金ですので、預り金勘定を用いて処理をしていれば「徴収(貸方)」と「納付(借方)」は同額で、結果として「残高ゼロ」となります。
しかし、様々な理由からこれがそう簡単にはできないのです。
■仕訳に間違いがある→源泉徴収税額も納付税額も正しい
この場合は仕訳を「源泉徴収税額=納付額」に一致するよう修正しなければなりません。徴収および納付したときの仕訳に勘定科目の誤りはないか(別の勘定科目で処理していないか)、金額に誤りはないかを検討しなければなりません。
■納付税額(納付書)に間違いがある→源泉徴収とその仕訳は正しい
「納付書」の税額を「書き間違った」という場合です。納付額に不足や過大があるのですから、不足の場合には追加納付しなければなりません。過大の場合には税務署に対して所定の用紙で還付の請求をしなければなりません。
■源泉徴収を間違った税額でしたが納付税額は正しい場合
源泉徴収の間違いに気がついて、納付は正しい税額でしている場合です。納付税額との差額は追加での源泉徴収、あるいは源泉徴収をした分の従業員への返金により、源泉徴収税額を納付額に一致させなければなりません。
■年末調整の還付
還付の際には還付額を預り金勘定の借方(減少)に記入し、納付書では「年末調整による超過税額」に記入します。
★預り金勘定の記帳が完璧にできれば経理はプロ級です!
源泉所得税についての経理処理の質問は、経理経験の浅い人、特に簿記の知識がないまま会計ソフトを使用している人から「非常!」に多いです。そして、その多くが「解決不能」の状態です。上記のとおり、預り金勘定には様々な要素が関連しており、そのすべてが「正しく」「相互に矛盾なく」行われなければ預り金勘定は正しい状態にはなりません。
預り金勘定の記帳が完璧にできれば経理はプロ級です。会社ならば経理の管理職(元帳や試算表の正確性を確認する人)、会計事務所の職員であればひとつの関与先を全面的に任される立場です。「給与台帳」「給与明細の控」「納付書」「通帳」「元帳」・・・、といった具合に個々の帳簿資料を検討し「どれが正しいか?」「どこが間違っているか?」を明確にし、間違いを正せる能力を会得しているということです。この能力はあらゆる経理処理で求められます。