簿記と会計


2019/8/3

簿記のメカニズム(仕訳から決算書が作成される仕組み)は会計ソフトを使っていては理解できません。会計ソフトでは、簿記のメカニズムがブラックボックスになっています。簿記を理解するには、面倒でも、簿記の教科書を読まなければなりません。

簿記のメカニズムが理解できても、それに通す数値が正しくなければ、正しい結果(決算書)は生まれません。簿記に加えて会計の知識も必要なのです。この会計というものは日々変化しています。

複式簿記とは?(世界標準の記帳方式)

帳簿を作成するために、帳簿に関することを調べていると、必ず「簿記」という言葉に出くわします。簿記(ぼき)は、英語で「bookkeeping」といいます。「帳簿を作成する=記帳する」という程度の理解でよいです。

簿記の方式には複式簿記と単式簿記があります。帳簿には様々な取引(入出金など貨幣価値で測定できる出来事)を記録しますが、複式簿記と単式簿記とでは取引の把握の仕方が異なります。

複式簿記では取引の両面を記録します。「売上が生じて現金が増えた」「仕入をして現金が減った」といった具合です。一方、単式簿記では、「売上があった」「仕入があった」といった具合に記録をします。家計簿がこれです。

わが国に限らず世界中のほとんどの会社は複式簿記で帳簿を作成しています。市販されている会計ソフトも複式簿記の原理で帳簿を作成するためのものです。複式簿記で帳簿を作成するのが世界標準なのです。「複式、単式」という言葉にこだわる必要はありません。簿記といえば複式簿記なのです。

仕訳とは?取引とは?

簿記を習得するに当たっては、「仕訳」に対する理解を避けて通ることができません。仕訳とは、取引を記録することです。「取引」とは、入出金など貨幣価値で測定できる出来事で、「1万円で売った」「5千円で仕入れた」「電車賃3千円を払った」「現金を盗まれた」「倉庫が放火され全焼した」などのことです。「会議で有意義な議論をした」「優秀な人材を採用することができた」「お客さんに商品をほめてもらえた」などは簿記での取引ではありません。

仕訳は帳簿を作成し決算書を作成するという一連のプロセスの最初の作業です。帳簿や決算書は仕訳の集計結果です。

勘定科目とは?

勘定科目とは取引を仕訳する際に、取引を分類し集計する単位です。「売った→売上」「仕入れた→仕入」「電車賃→交通費」「現金で支払った→現金」「資金を借りた→借入金」といった具合に、取引を分類します。その後に、この分類ごとに集計するのです。

借方と貸方(試算表の集計場所のこと)

仕訳は左右同額で、左右それぞれに勘定科目を割り当てます(仕訳は左右しかありません)。勘定科目が左右のどちらになるかは、勘定科目ごとに決まっています。仕訳の左側を借方(英語ではdebit)、右側を貸方(英語ではcredit)といいます。この「借方と貸方」という言葉の意味に深入りしてはいけません。

大切なことは、仕訳を集計する試算表を理解することです。試算表には個々の仕訳で生じた左側(借方)の勘定科目は左に、右側(貸方)の勘定科目は右に集計します(試算表は左右しかありません)。仕訳は左右の金額が一致しますので、試算表の左右の合計金額も一致します。勘定科目によっては左右両方に金額が集計される場合がありますが、その場合は左右を差引したものが試算表での集計金額です。

この説明は簿記の教科書では必ずされていますので、この部分は必ず読んでください。会計ソフトでは、このプロセスがブラックボックスになっています。会計ソフトにも試算表と称する帳票がありますが、それは実質的には決算書(貸借対照表と損益計算書)と呼ぶべきものです。

取引を両面から把握する習慣を身につける

取引の性質を理解して、それを両面から把握することが大切です。

販売した(売上)・・・売上代金(売掛金、現金、預金)
仕入れた(仕入)・・・仕入代金(買掛金、現金、預金)
預金が増えた(預金)・・・売上代金の回収(売掛金)
預金が減った(預金)・・・仕入代金の支払い(買掛金)

取引、つまり記帳の対象となる取引には必ず両面があります。これが、仕訳(借方と貸方、左右)に他ならないのです。

取引を両面から把握する「習慣」を身につければ、複式簿記は理解できるようになります。

複数の勘定科目が同時に変動する(取引の両面)

会計ソフトを操作していて、「入力した覚えがない勘定科目が変動している!?」「この会計ソフトには不具合があるのでは!?」といって驚く人がいます。これこそが、取引の両面です。ある勘定科目に入力をすると、もうひとつの勘定科目が必ず動きます。例えば、「事務用品を購入した→消耗品費」と入力すれば、現金や預金などのほかの勘定科目も動きます。これが複式簿記の特徴である両面同時の記録なのです。

勘定科目の集計と残高

勘定科目には集計する一方のものと、増減して差引きの残高を算出するものとがあります。収益と費用は前者、資産と負債と資本は後者です。(収益と費用も、修正、つまり当初の額を減額するという仕訳をした場合には減少することがあります。)

仕訳の基データとなる帳簿(帳簿組織の構築)

仕訳は様々な基データから行わなければなりませんが、それらが個々バラバラでは仕訳の漏れや重複が起こってしまいます。そこで、次のような「帳簿組織」を構築し、これらの帳簿を基データとして仕訳を行います。

○売掛帳・・・販売と代金回収の記録
○買掛帳・・・仕入と代金支払いの記録
○現金出納帳・・・現金(硬貨と紙幣)の出入りの記録(給与と経費の支払いはこれに記録される)
○預金出納帳・・・預金の出入りの記録(給与と経費の支払いはこれに記録される)

これだけの帳簿がそろっていれば、「売る」「仕入れる」「給与や経費を支払う」という企業の活動の全貌を「網羅」することができます。仕訳の漏れや重複も防げるのです。

仕訳の結果としての帳簿(総勘定元帳)

仕訳の結果は総勘定元帳に分類集計されます。総勘定元帳は仕訳を各勘定科目に集計し、試算表にその数値を提供する役割を果たしています。それぞれの勘定科目が「何月何日に」「どれだけの金額が」「どのようなことが原因で」増減したかを記録した帳簿が総勘定元帳です。

会計ソフトの機能は、仕訳を入力して仕訳の結果としての総勘定元帳を作成することですので、仕訳の基データとなる帳簿は会計ソフトの外で作成しなければなりません(会計ソフトによっては販売管理ソフトや仕入在庫管理ソフトと連動させる機能があります)。

試算表は貸借対照表と損益計算書に分割される

簿記の教科書では、試算表から貸借対照表と損益計算書が作成されるプロセス(いわゆる精算表)が必ず説明されています。この部分は必ず読んでください。

試算表から「資産」「負債」「資本(純資産)」に関する勘定科目を抽出すれば貸借対照表が、「収益」「費用」に関する勘定科目を抽出すれば損益計算書が作成できます。このプロセスも会計ソフトではブラックボックスです。

簿記にゴールはない!

簿記のメカニズムは非常に簡単です。

取引を仕訳にする(勘定科目に分類する)

勘定科目を試算表に集計する(そのプロセスが総勘定元帳)

試算表の勘定科目を貸借対照表と損益計算書に分割する(精算表)

この簿記のメカニズムはすでに完成されたものなので、今後も変わることはありません。簿記は、一度習得すれば、これを一生にわたって活かすことができます。それは、「九九」と同じなのです。また、会計ソフトにデータを入力すれば、上記の作業は自動的にしてくれます。

しかし、それでも簿記(決算書の作成)は難しいです。

簿記での記録の対象となる取引は無数にあり、教科書で説明されていない取引に遭遇することも頻繁にあります。また、取引として記録しなければならない経済事象そのものは日々変化しています。仕訳は、経済事象の性質(本質や背後)を正確に理解しなければできません。ときには、経済事象そのものが不明瞭、不透明なこともあります。この場合は、勘定科目はおろか金額さえ決まりません。

簿記に障害はつき物です。どこまでいってもゴールは見えません。簿記にゴールはないのです。

簿記と会計の違い(ゴールがないのは会計!)

「簿記会計」などといって、簿記と会計を同一であるかのような説明をすることがありますが、両者を区別したほうがわかりやすいです。

簿記は上記のとおり、取引を集計して決算書を作成するという計算技術(方式)です。会計は、簿記で集計する仕訳をどのようにするか、つまり「勘定科目」「金額」「日付」をどうするべきかの理論や諸制度です。

簿記の計算技術はすでに完成した原理原則です。簿記はすでにゴールに達しています。しかし、会計は時代によって変化していきます。それは、会計の対象とする経済事象が刻一刻と変化しているからです。時代によって会計が解決しなければならない課題は異なります。会計には次から次に解決しなければならない課題が突き付けられるのです。ゴールがないのは会計です。「今年はうまくいったので、来年も大丈夫!」は甘いです。