価格交渉と消費税(購買編)
消費税を、支払わなければならないのだろうか(相手の請求は合法なのだろうか)?
正確な仕入税額控除のために!!
「安くさえ買えれば」は禁物です。
購買の際の消費税は、販売の際の消費税と反対であると考えることができます。(販売の際の消費税については「価格交渉と消費税(販売編)」をご覧ください。)
以下は、原則課税(簡易課税を選択していない)を前提にしています。
1 仕入税額控除とは
「消費税の試算」で説明しましたように、課税事業者が税務署に納税する消費税の金額は、課税期間に「受け取った消費税の合計金額」から「支払った消費税の合計金額」を差し引きした金額となります。仕入税額控除とは、この「支払った消費税の合計金額」を「受け取った消費税の合計金額」から差し引くことをいいます。
2 仕入税額控除の要件
仕入税額控除をするには、消費税を支払った事実を「帳簿」に記録し保存しておくとともに、事実を証明する「請求書など」を保存しておく必要があります。売上関係の事務資料が比較的管理しやすいのに対して、仕入関係の事務資料の管理は大変です。なぜならば、相手先が発行する資料であることから様式(記載事項)が千差万別であり、さらには自身ではそれをコントロールできないからです。そんなことから、購買の際には単なる価格交渉だけでなく「仕入税額控除の要件」を意識しておく必要があります。
(1)帳簿の要件(帳簿に記録すべき事項)
●相手先の氏名または名称
●取引の年月日
●取引の内容(購入した資産やサービスの内容)
●支払った金額
(2)請求書などの要件(請求書などに記載されていなければならない事項)
●請求書などの作成者の氏名または名称
●取引の年月日
●取引の内容(取引した資産やサービスの内容)
●取引金額
●請求書などを受け取る者の氏名または名称
3 本当にあった、恐ろしい話!!
上記2の「仕入税額控除の要件」に対して「厳しすぎる」「請求書も領収書も発行しない相手がいる」などの困惑したリアクションをされた方がほとんどだと思います。また、一度でも税務調査(消費税以外)を受け、一部資料の不備(場合によっては大半の資料の不備)を最終的には「推計による数値」でもって決着した経験をお持ちの方ならば、「これ(上記2)はあくまでも建前。どうせ、最後はアバウトさ」とお考えかもしれません。
しかし、仕入税額控除の要件を満たしていない場合には、税務署は相当厳格な態度に出てきます。これは本当にあった話ですが、帳簿や請求書が一切ない場合(提示しない場合を含む)に、一切の仕入税額控除を認めなかったという例があります(裁判で納税者は敗れています)。
法人税(会社の税金)、所得税(個人事業者の税金)ともに、帳簿に基づいて所得を計算しなければなりません。この帳簿がない場合には、「推計課税」という苦肉の策があります。しかし、消費税においてはこの「うやむや」が許されないようです。
【消費税法第30条7項】
第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存が無い課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存することができなかったことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
(注)第一項の規定とは仕入税額控除のことです。
≪通勤手当や出張手当と消費税≫
通勤手当や出張手当を支払った場合の消費税の処理は注意が必要です。支払った通勤手当や出張手当が「通常必要であると認められる部分」であるかどうかを判定しなければならないからです。
「通常必要であると認められる部分」とは、通勤や出張のために必要な交通機関の利用や交通道具の使用のための費用のことであり、合理的な経路や手段を選択した結果としての費用である必要があります。このようにして「通常必要である」と判断されるならば、その支出は課税仕入れ(仕入税額控除の対象)に該当することになります。「必要ではない=通勤や出張との関連がない」とされる場合には、通勤手当や出張手当を支払った役員や従業員の給与とされて課税仕入れには該当しないことになります。
【所得税の非課税限度】
所得税においては通勤手当や出張旅費の一定額は非課税とされ、それを受け取った役員や従業員に所得税は課税されません。しかし、消費税における「通常必要であると認められる部分」はこれと同一ではりません。通勤手当の非課税限度を超える地域から通勤している従業員に対する通勤手当でも、通勤のためであるならば課税仕入れに該当します。
【出張に際して支給される定額の日当と宿泊費】
出張の日数に応じて定額の日当と宿泊費を支給する会社の場合には、日当や宿泊費が実際に出張に要した支出と一致しないことがあります。このような場合には、出張地域や社内での地位に応じた合理的な基準(規程)が存在し、それに従って支給されているということが、「通常必要であると認められる部分」の判定にあたって必要となります。
【海外出張】
海外で使った旅費や宿泊費は、たとえ「通常必要であると認められる部分」であっても課税仕入れには該当しません。海外では日本の消費税が課税されないからです。