価格交渉と消費税(販売編)
消費税を、受け取らなければならないのだろうか(受け取れるのだろうか)?
1 消費税の表示と受取り
自身が消費税の課税事業者であること、どの取引が消費税の課税対象となるかは比較的容易に理解できます。しかし、実際の価格交渉や取引になると、どのようにして消費税を表示し受け取ればよいのかについては当惑してしまうのが実情です。商店、カタログ、請求書、見積書、領収書などにおいても消費税の表示方法はまちまちです。また、消費税は価格に上乗せ、あるいは含めなければなりませんので相手方との交渉が必要です。
《前置き》
敢えて説明させていただきます。
●自身が「確かに」課税事業者であることを示す必要はあるのか?(その「証拠」は??)
その必要はありません。
証拠??
敢えていえば、消費税の申告書や課税事業者届出書の控(ともに税務署の受付印あり)、
消費税の納付書の控(税務署あるいは金融機関の受領印あり)、消費税の納税証明書でしょう。
どうしても気になる場合は、
これらを額縁にでも入れて応接間や店頭に飾っておけばよいのではないでしょうか。
●免税事業者が消費税を受け取ると罪になるのか?
受け取ることができます。当然、罪にはなりません。
(1)消費税の税率
いうまでもなく5%です。ただし、国税部分が4%、地方税部分が1%です。表示上は、「消費税」「消費税等」「消費税及び地方消費税」などとするのが一般的です。
【税率を乗じる単位】
相手方にひとつの商品を販売した場合にはその価格に5%を乗じればよいのですが、複数の商品を販売した場合の処理方法は次のとおりです。
●各商品の価格に税率を乗じる方法
●各商品の価格を合計しそれに税率を乗じる方法
【消費税を受け取ることの意思表示】
パンフレット、見積書などに「別途消費税をいただきます」と表示しておくのがよいでしょう。なお、小売店など一般消費者への販売については、下記(5)総額表示(一般消費者への価格表示)をご覧ください。
(2)「税抜」と「税込」(鶏が先か卵が先か?水掛け論!!)
一般的には、本体価格に税率を乗じる「税抜」が理論的であると考えられています。消費税は間接税で、購買者は取引価格とは別に当然のこととして消費税を負担しなければならないからです。
しかし、消費税法の条文を読んでみると、「税抜」と「税込」のいずれが正しいかについては明らかではなく、あくまでも経済原理(市場原理)に委ねているのを知ることができます。「購買者は快く本体価格の5%の消費税を支払っている」「取引上消費税の金額は隠れているが、販売者は損のないように購買者に転嫁している」のいずれかを前提としているのでしょう。
ただし、消費税法は消費税の課税対象、納税義務者、納税額などについて定めた法律であり、「販売者の消費税を受け取る『権利』(預かる義務)」「購買者の消費税を支払う『義務』」を定めた法律ではないことだけは確かです。つまり、消費税法では消費税の課税事業者が消費税の課税対象となる(販売)取引を行った場合には、消費税を受け取っているとしているだけなのです(「税抜」か「税込」であるかは関係ないということです)。
【税抜表示の例】
本体価格100円消費税5円、価格100円(消費税別途)など。
【税込表示の例】
価格200円、価格200円(税込)など。購買者は価格の5÷105が消費税であることを察し取ります。
(3)消費税の端数
当然発生します。切上げ、切捨て、四捨五入すればよいのです。
(4)相手先や商品によって表示方法を変えることはできるか・・・・??
当然できます。上記(1)〜(3)からすれば、取るに足らないことであるのをご理解いただけると思います。
(5)総額表示(一般消費者への価格表示)
消費税法において、一般消費者(事業者以外)への価格表示は消費税を含んだ価格で行うことが義務付けられています。小売店(スーパー、百貨店、コンビニなど)の値札、飲食店のしながき、通販のカタログなどは、消費者に消費税を含んだ支払総額で価格表示しなければなりません。つまり、レジなどでの代金支払の際に「別途消費税の上乗せ」はできないということです。総額表示へ移行された理由は、「税込と税抜が混在していると、消費者の購買時の判断を混乱させる」ということです。
【総額表示の具体例】
「10,290円」、「10,290円(税込)」、「10,290円(本体価格9,800円)」、「10,290円(うち税490円)」、「10,290円(本体価格9,800円、税490円)」、「9,800円(税込10,290円)」。要するに、消費税を含んだ価格を明示しなければならないということです。
【レジシートと総額表示】
本体価格に税率を乗じるのではなく、「総額のみを表示する」、あるいは「総額を表示しそこから消費税を逆算する(5/105を乗じる)」方法による必要があります。
【総額表示しない場合には罰則があるのか?】
消費税法上の罰則はありません。
(6)印紙税と消費税
印紙税は契約書や領収書の「記載金額」を基準に課税されます。この「記載金額」には消費税は含みません。ただし、そのためには消費税の金額を明確に区分しておく必要があります。
(7)源泉所得税と消費税
特定の職業(デザイン、設計など)は代金から一定率の源泉所得税が差し引かれます。その場合の消費税の計算は、源泉所得税を差し引く前の価格に税率を乗じます。
【例】本体価格100,000円+消費税5,000円(本体価格の5%)−源泉所得税10,000円(本体価格の10%)。(消費税を区分けしていない場合には総額の10%の源泉所得税が差し引かれます。)
(8)相手先が消費税の支払いを拒んだ
・・・・・・・・・・。
(9)新たに課税事業者になった場合の値上げ
・・・・・・・・・・。
2 一課税期間における受け取った消費税の合計
消費税法は、一課税期間に受け取った消費税の合計金額の計算方法を次のように定めています。
●一課税期間における税込売上高合計×(5/105)
●(一課税期間における税抜売上高合計+一課税期間における受け取った消費税の合計)×(5/105)
つまり、消費税法においては、課税事業者の苦労をよそに「どんぶり勘定的な」計算方法によっているのです。せっかく価格交渉の段階で消費税を受け取ることを勝ち取ったのに、あるいは、わざわざ税込みを税抜きに計算し直したのに、なんとも不誠実(?)なことです。なお、「特例」として「取引の都度受け取った消費税の積上げ計算」によることもできます。多くの人が「原則」と考えている方法が、実は特例(例外)なのです。
3 受け取った消費税の保管
消費税法上は特に定められた方法はありません。ほとんどの事業者の場合は、売上代金を入金する預金口座に通常の資金と一緒に保管しているのが実情です。もっとも、税務署に納税する消費税は、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた金額となりますので、受け取った消費税の「全額」を別途保管しておく必要はありません。(納税する消費税については、「消費税の試算」をご覧ください。)
≪賃貸住宅の家賃と消費税≫
賃貸住宅の家賃は消費税が非課税です。常識です。しかし、現実の価格交渉においては、家主が「消費税相当額」を上乗せすることがあります。これも常識です。なぜならば、家主は賃貸物件の購入や維持にあたって消費税を支払っているので、これを家賃として回収しなければならないからです。ここで問題となるのが家主の請求書で「消費税を明示する」ということです。これは非常識な請求書の書き方です。しかし、違法とまではいえません。
消費税法という法律では消費税が非課税になる取引を明示しています。しかし、この法律は消費者に消費税相当額が転嫁されること自体を防ぐための法律ではありません。(家主の)消費税の納税額の計算において、住宅の家賃収入は非課税であることを定めているに過ぎないのです。消費税が明示された請求書の発行自体は非常識で不誠実なのでやめるべきですが、消費税の転嫁はやめる必要はないのです。