勘定科目のルール


2020/1/8

勘定科目が決まらなければ経理作業ができない(勘定科目をスムーズに、正確に決定する)

勘定科目を決めなければ仕訳ができません。仕訳ができなければ試算表も決算書も作成できません。もし、勘定科目を適当に決めて仕訳をしたとしても、その結果として作成された試算表や決算書はでたらめなものとなります。また、あとからの修正作業も大変です。

勘定科目をスムーズに、しかも正確に決定することは経理業務(試算表と決算書の作成)の効率性と正確性、さらには経理データの有用性を左右します。勘定科目の決定が滞らないようにするためには、勘定科目についてのルールを確立しておく必要があります。

同一取引については以後も同一の勘定科目を用いる(唯一絶対的に正しい勘定科目はない)

唯一絶対的に正しい勘定科目はなく、勘定科目を決めるにあたって候補となる勘定科目が複数存在する場合があります。例えば、ガソリン代です。旅費交通費、消耗品費、車両費いずれでもよいのです。しかし、一度用いた場合は以後も同一の勘定科目で処理しなければなりません。そうでないと勘定科目の金額を事業年度や月ごとに比較できないからです。

同じ取引であっても会社によって勘定科目が異なる場合があります。経理担当者で転職してきた人は戸惑うかもしれませんが、「郷に入りては・・・」と割り切らなければなりません。

必要に応じて勘定科目の新設、廃止・統合をする

新たな取引、今までは金額が少なく適当な勘定科目に含めていた取引の金額が多額となった場合には勘定科目の新設をしなければなりません。反対の場合は勘定科目の廃止・統合が必要です。なお、この場合上記「同一の取引については以後も同一の勘定科目を使用する」が守られなくてもしかたありません。

できるだけ特殊な業界用語や略称を勘定科目として用いない

会計ソフトの既存の勘定科目に適当な勘定科目が見当たらない場合があります。そのような場合は、独自の勘定科目を新設しなければなりません。特殊な業界用語や略称は外部第三者が理解に苦しみますので、他の表現が見つからない以外は勘定科目名としては用いることを避けなければなりません。

未知の取引への対応

あらゆる経済取引が仕訳の対象である以上は、日々変化する事象に応じて勘定科目を決定しなければなりません。特に昨今、金融やネットの分野での変化が激しく、その変化に「教科書」が適応できておらず「自己責任」で対応するしかないケースが目立ちます。

「未知の取引」に遭遇した場合には、まずは既存の勘定科目にあてはめてみます。しかし、それでは勘定科目の金額や推移が「不自然」「異常」「歪」である場合には独自の勘定科目を新設しなければなりません。

仮受金と仮払金は早期に解消する

どうしても勘定科目が決まらない場合には仮受金と仮払金でその場をしのぐしかありません。そうでなければ仕訳ができず以後の経理作業が滞るからです。

仮受金とは内容は後日確定する入金があったということです。仮払金とは内容は後日確定する出金があったということです。仮受金や仮払金については必ずフォローが必要なのです。仮受金と仮受金を残したまま決算はできません。

試算表(内部管理用)の勘定科目と決算書(外部報告用)の勘定科目の関連

内部管理用である試算表(総勘定元帳)の勘定科目は詳細に細分化されており、名称もその会社独自のものもあります。一方、外部報告用である決算書の勘定科目は総括的で名称も一般的となっています。そこで、両者が一致しないこともあるため内部管理用から外部報告用への「組替作業」が必要となります。

組替作業をした場合は、「組替表」を作成し試算表の勘定科目と決算書の勘定科目の関連を税務署や金融機関などの第三者に説明できるようにしておかなければなりません。税務署には決算書を提出しますが、税務調査の際に調査の対象とされる総勘定元帳は試算表の勘定科目(内部管理用)で作成されています。金融機関にも「月次決算」として試算表を提出することがあります。そこで、「組替表」、内部管理用と外部報告用の勘定科目の対応関係が説明できる表が必要なのです。

ちなみに、「弥生会計」の場合には「科目設定」というメニューで表示・印刷できる「勘定科目一覧表」において試算表の勘定科目と決算書の勘定科目の関係が明らかにされています。

消費税による区分

勘定科目を決めるにあたっては消費税の扱いも考慮しなければなりません(消費税の免税事業者の場合は不要)。会社が税務署に納める消費税は、「販売の際に受け取った消費税」から「仕入代金や諸経費を支払う際に支払った消費税」を差し引いた金額です。様々な勘定科目がこの計算に関わっていて、会計ソフトでも消費税に関する設定があり税務署に納める消費税の計算ができるようになっています。

難しいのは、同一の勘定科目でも消費税の扱いが(課税対象になるか否かが)異なる場合があるということです。例えば、交通費の場合、国内は課税対象、国外は対象外です。このような消費税の扱いを仕訳つまり勘定科目を決定する段階でしておく必要があります。特に消費税の申告を原則課税にしている場合は、大部分の勘定科目がこの計算に関連してきますのでこの区分が大切です。なお、簡易課税の場合には消費税の対象は収益勘定が中心となりますので比較的簡単です。

勘定科目の正確性は経営分析の精度に影響する

自己資本比率、損益分岐点、回転期間、流動比率、各種利益率などの経営指標は、正確な勘定科目分類のみならず、流動と固定の区分、損益計算書の計算プロセス(段階的利益計算)が正しく表示されていて初めて意味をなします。「最終の利益さえ」「どうせ費用になるのだから」などと、つい安易に考えてしまいますが気をつけてください。

業種別の勘定科目体系と会計ソフト

業種によっては、業種に適した勘定科目の名称が確立されており、管轄の役所(税務署以外)などに決算書を提出する場合にはそれに従わなければならないことがあります。また、会計ソフトもそのような業種にあらかじめ適応している場合もあります。

定期的に残高を確認する(貸借対照表勘定科目)

貸借対照表関係の勘定科目は「増加」と「減少」を積み重ね、結果として一定時点(月末や年度末)の「残高」を表します。この残高は預金ならば預金通帳の残高、売掛金ならば未入金の請求書の控などとの一致をもって勘定科目の金額が正しいことを確認できます。しかし、この確認ができず「意味不明」な勘定科目残高が貸借対照表に計上されたままのこともあります。

当年度末の貸借対照表は、翌年度期首の貸借対照表となります。「意味不明」の勘定科目もそのまま繰越され、半永久的に「未解決」であることもめずらしくありません。貸借対照表関係の勘定科目については、増減を正確に捉え定期的に(試算表を作成する段階で)その残高の正確性を確認しておくことが非常に重要なのです。

補助科目の設定と補助簿の活用

預金、売掛金、買掛金など、内容と出入りの多い勘定科目については必要に応じて補助科目を設定することが望まれます。補助科目とは、特定の勘定科目をさらに細分化するものです。預金を金融機関・支店・預金種類別に、売掛金を得意先別に、買掛金を仕入先別にといった具合に細分化します。そうすれば残高や中身を検討しやすくなります。

また、会計ソフトの中で全てを処理するのではなく補助簿の活用も必要です。補助簿とは、試算表や決算書とは直結していないけれども、ある取引を詳細に記録した帳簿です。金融機関・支店・預金種類別の「預金出納帳」、個々の得意先ごとの「売掛帳」などがこれです。会計ソフトと同じメーカーの販売管理ソフト(売上と仕入を管理する)や給与計算ソフトが会計ソフトと連動していることがあります。何もかもを会計ソフトで処理するのではなく必要に応じてそのソフトを補助簿として活用すべきです。

勘定科目の相互関連性

勘定科目は必ず他の勘定科目と同時に変動します。なぜならば、仕訳は複数の勘定科目の組み合わせで行うからです。電車賃(旅費交通費)を現金で支払えば、旅費交通費は増えて現金は減ります。商品を掛売りすれば(代金の回収は後日)、売上が増えると同時に売掛金が増えます。相互に関連する勘定科目を知り定期的にその関連性をチェックしていれば、異常な金額となっている場合は早期に勘定科目の間違いを発見することができます。

勘定科目をほかの期間や時点と比較する

勘定科目をほかの期間や時点と比較すると思いもよらない発見をすることがあります。損益計算書勘定科目は前期や月ごとの数値と比較してみます。前期比較をすれば前期と当期の事情の違いが浮き彫りになります。月ごとの比較をすれば、季節の特性が分かります。貸借対照表勘定科目は前期末や月末ごとに比較してみます。事業規模が不変であれば、売掛金や買掛金はあまり変動しません。多額の設備投資や借入金をしていれば、状況は様変わりしています。

勘定科目の修正(過去の事業年度の決算書は修正できない)

勘定科目を間違っていた場合には修正しなければなりません。間違った勘定科目の金額を減少させ、正しい勘定科目の金額を増加させます。この処理は、間違いを発見した時点の日付で行います。

なお、過去の事業年度の勘定科目に間違いがあっても修正することはできません。もう、過去の事業年度の決算は「株主総会の承認を経て確定し」、税務署や金融機関へも報告しているからです。ただし、貸借対照表勘定科目で間違った勘定科目のまま繰り越されてきたものは、当事業年度(現在進行中の事業年度)の日付で修正しなければなりません。

勘定科目についての法律

勘定科目に関してのルールは、法律としては全ての会社に適用される「会社法」、株式を公開している(その株式が証券取引所で売買できる)会社に適用される「金融商品取引法」があります。しかし、無数に存在し、しかも日々変化する経済取引の結果が勘定科目であることから、その全てを法律で定めることはできないので各会社の判断で決めなければならない局面は避けられません。つまり、唯一絶対的に正しい「既存の勘定科目」がないこともあるのです。その場合は会計理論、慣習、常識で決めるしかないのです。