通帳と領収書


2020/9/29

事業所得、不動産所得がある人は、確定申告の作業をするにあたって「預金通帳」と「領収書」が重要な要素となります。

預金通帳の紛失と未記帳

事業所得と不動産所得の記帳においては預金通帳がベースとなります。しかし、いざ記帳をしようとしたら預金通帳が見当たらないということがあります。また、長期間記帳をしていないということもあります。

◆通帳の再発行(再発行日からのスタート)

通帳を紛失している場合には再発行をしてもらうしかありません。再発行の手続は金融機関によって異なりますが、ほとんどの場合、本人確認書類が必要で手数料も取られるようです。再発行してもらった預金通帳のスタートは再発行日の残高からですので、紛失した通帳の取引内容は、もうわからないということです。

◆長期間の未記帳(合計表示される)

通帳が未記帳になっている場合には記帳に行かなければなりません。ほとんどの金融機関では、一定期間を経過すると未記帳部分を「合計表示」することになっています。合計表示されるということは、その部分の通帳を紛失したのと同じです。

◆取引明細(通帳と同一内容)の発行

通帳を紛失した、未記帳部分を合計表示された場合には、その部分の明細(通帳の取引と同一内容)を発行してもらう必要があります。この明細については、発行できる期間が制限されていることがありますので注意が必要です。また、発行手数料が必要となることがほとんどです。

◆ネット銀行の場合

ネット銀行の場合には、取引記録をファイル(PDF形式など)でダウンロードしなければなりません。このダウンロードできる期間については制限があることがほとんどですので、こまめにダウンロードしておく必要があります。

◆通帳を再現する

通帳の紛失、未記帳による合計表示で失われてしまった預金の取引記録(取引明細の発行も受けられない)は、あらゆる手段で再現するしかありません。帳簿作成(会計ソフトへの入力)をタイムリーにしていれば問題はありませんが、これも一定期間していない場合には、「売上代金の入金」「仕入代金の振込み」「自動引落し」を手掛かりに通帳の取引を再現するしかありません。

◆確定申告をした後に通帳を紛失した

帳簿を作成する前に通帳を紛失するよりも事態は軽いですが、税務調査では預金通帳は必ず調べられますので、取引明細の発行は受けておく必要があります。

◆税務署は調査対象者の預金取引を調べることができる

「通帳を紛失してしまったら、もう税務署も調べることはできない」は甘いです。税務署は、金融機関に問い合わせれば、調査対象者の預金取引を調べることができます。銀行預金を通してしまった取引については税務署に隠すことができませんので、預金通帳は厳重に管理し正確な経理処理をしておく必要があるのです。

何に使ったか記憶がない領収書

たとえ領収書があったとしても、それを何に使ったかが明らかでなければ、それを必要経費にすることができません。勘定科目や摘要が決まらないので、仕訳ができず、会計ソフトへの入力もできないからです。

◆事業と関係する業者が発行した領収書

何に使ったかの記憶がなかったとしても、事業に関係する業者が発行した領収書であれば必要経費にすることに問題はありません。領収書には日付と領収金額しか記載されていないことが通常ですので、その領収に関連する請求書や納品書をたどれば何に使ったかが判明します。請求書も納品書もない場合には、その業者に聞けば教えてくれます。

◆事業と私用の両方で購入する業者の領収書

「コンビニ」「スーパー」「ホームセンター」などのレシートはこれです。業者の名称や所在地からして事業用であることが明らかであれば問題はありません。問題は、常に事業でも私用でも購入している業者です。この場合は、レシートに表示された商品名で判断するしかありません。

◆飲食店の領収書

「判定不能!」というケースが多発するのは飲食関係の領収書です。

誰と飲食をしたかが明らかでないまま必要経費として処理すれば、税務調査では間違いなくアウトです。領収書の日付と手帳などの「行動記録」から、誰と飲食したかは相当程度まで明らかになると思います。根気よく調べなければなりません。

◆「何に使ったか」を調べるのは税務署の仕事なのでは?

このように考えている人が非常に多いです。とにかく領収書をかき集めて、それを足し算して必要経費として申告し、あとは税務署の判断を仰ぐという考えです。

「何に使った」「誰と飲食をした」が一切明らかにされていない場合には、税務署の心証が相当悪くなります。全部の領収書がアウトにはならなくても、一部をアウトにするとともに、領収書以外の部分(売上など)を相当厳しく調べられます。また数年後、再び税務調査の対象とされてしまいます。

◆税理士なら知っているんでしょ?

知っているといえばそうかもしれません。税理士の勘と経験がネットの情報に勝ることもあります。しかし、税理士としては、税務調査でもめるようなことはおすすめできません。あくまでのお客様の自己責任で判断してください。

「税理士に任せてあるので、私は知らない」

税理士にはそこまでの力量も権威もありません。税務調査で、このような状況になれば税理士は退場するしかありません。あとは納税者自身が税務署という国家権力と直接対決するしかありません。そして、最終的には裁判で争います。

◆AIが普及すれば判定はもっと厳しくなります

AIが普及すれば確定申告なんて簡単に済ませることができるようになります。しかし、AIは画一的な処理をしますので、「何に使ったか」を入力しなければ受け付けてくれません。また、その入力内容の真偽を判定する能力をAIは備えています。

「下手にAIで」確定申告をするよりも、闇雲に領収書を足し算するほうが経費も増えて税金も減るかもしれません(笑)。

領収書を紛失した

領収書を紛失してしまうことがあります。紛失といっても、そのパターンや申告数値に与える影響は様々です。

◆領収書がなくても支出金額や内容などはわかる

領収書を紛失していても「日付」「相手先」「支出金額」「購入した商品」などがわかる場合には、その内容で記帳をすることができます。このようなものは少ないですが、「家賃」「給与」「保険料」などがこれです。

預金口座から引き落とされるものについても領収書がなくても大丈夫です(領収書の発行が省略されている場合もあります)。

◆再発行してもらえる

領収書を再発行してもらえる場合も問題はありません。ただし、発行してくれる業者は限られてきます。コンビニや飲食店(特に大手チェーン)は不可能です。大手企業も再発行には応じないでしょう。

領収書というのは、代金の受領と引き換えに代金受領の事実を明らかにするために発行されるものです。ですから、紛失したからといって、税務申告を目的に再発行するものではありません。領収書は「経費の証明書」ではないのです。

◆記帳した後に紛失した

記帳(会計ソフトへの入力)をした後に領収書を紛失することがあります。この場合には、記帳への影響はありませんが税務調査の際に問題となりますので、できる限り再発行をしてもらうことです。

◆どの領収書を紛失したのかかわらない

どの領収書を紛失したのかがわからない、しかも記帳をしていないというのも大変です。残念ですが、「あきらめる」しかありません。記帳をしている過程で、気がついた分について再発行をしてもらうなどして「再現」することです。

◆ネット取引の領収書の保存(保存)を忘れた

ネット取引の領収書の保存や印刷は、つい忘れがちです。「いつでも閲覧できる」という気持ちがあり、そうしているうちに閲覧できる期限を経過してしまうのです。ネット取引の場合には領収書以外にも様々な記録、例えば「取引明細」「注文や出荷のメール」がありますので、これを手がかりに記帳をします。

◆領収書さえあれば、領収書がなくても

領収書さえあれば何でも経費になるわけではありません。

領収書がなくても経費として認められることもあります。しかし、かといって「領収書などどうでもいい」という訳ではありません。

領収書では支払いの事実しか説明できません。経費にするには、「支払いの事実」と「事業に必要であること」を説明しなければなりません。ですから、領収書だけではだめなのです。事業に必要であることが明らかで、領収書の有無にかかわらず支出の事実が認められれば経費になるのです。

領収書が発行されない取引

支払いをしても領収書が発行されないことがあります。このような場合には、別の方法で支払いの事実と内容を明らかにしなければなりません。

◆銀行口座振替

支払いが銀行口座振替になっている場合には領収書の発行が省略されることが多いです。「保険料」「リース料」「借入金の返済(利息の支払い)」などがそうです。これらは契約で支払日と支払金額があらかじめ定められているからです。契約書と預金通帳を残しておけばいいです。

◆銀行振込

銀行振込により支払う場合も領収書の発行は省略されることがほとんどです。この場合は、銀行が発行する振込金の「受領書」が領収書の代わりです。

◆自動販売機での購入

自動販売機で飲料などを現金で購入する場合には領収書は発行されません。帳簿に、「何時」「どこで」「いくら」「誰に」と金額を記入しておきます。

◆交通機関の運賃

交通機関の運賃も、券売機で現金により購入する場合には領収書が発行されません。帳簿に、「何時」「どの交通機関で」「いくら」「どこへ行ったか」を記入しておきます。

◆信頼関係があるので・・・

中小零細企業同士では、信頼関係があるので「払った、払っていない」でもめることはないからと、領収書の発行が省略されることがあります。これは、「発行できるのに発行していない」のですからアウトです。税務調査では厳しく指摘されます。至急、領収書を発行してもらってください。

◆出金伝票

領収書が発行されない支払に関して、「出金伝票」で代替されることがあります。出金伝票は市販もされています。「支払先」「支払日」「金額」「内容」を記載する「帳票」です。領収書のない支出(預金通帳にも表示されない)については、この出金伝票などに支出があればできるだけ早く記録を残すことです。そうしておかなければ、その支出は埋没して記録には残りません。

◆領収書は「経費の証明書」ではない

領収書が発行される本来の目的は「代金の受領記録」を残すためです。領収書は「経費の証明書」ではありませんので、領収書がなくても経費になるのです。領収書があるからといって経費になるわけではないのです。