平成28年分(2017年3月申告)
所得税確定申告情報(5/9)
≪源泉徴収(年末調整)と確定申告≫
1 給与所得者=サラリーマン(会社の役員含む)と確定申告
多くの場合、給与所得者=サラリーマンは1ヶ所からの給与所得(給料や賞与など勤務先から得る所得)しかなく、勤務先で行われる給与支払時の「所得税の源泉徴収(天引き)」と「年末調整」で課税関係が終了し、自らは確定申告を行う必要はありません。所得税の源泉徴収(年末調整)は、税収の平準化や給与所得者の便宜のために行われるとされています。
しかし、年末調整は「給与所得についてのみ」、さらには「給与所得者が選択した1ヶ所からの給与」についてしか行うことができません。ですから、給与所得以外の他の種類の所得(事業所得や不動産所得など)がある人、あるいは複数から給与をもらっている人は、給与と他の所得、複数からの給与を合算して改めて確定申告をしなければなりません。年末調整では、選択した1ヶ所からの給与がすべての所得であるとの前提で所得税を計算するので、その人のすべての所得についての所得税を計算できないのです。このように所得を合算すれば、年末調整の際よりも税額が増加することが普通です。しかし、給与所得以外の所得がマイナスの場合には減少します。なお、すでに源泉徴収されている所得税は、確定申告によって計算した税額(その人の最終的なすべて所得についての所得税額)から差し引くことができます。要するに、二重に課税されないということです。
なぜ、このようになるかというと、わが国の所得税は、1年間の「すべての所得に対して課税すること」になっているからです。要するに、給与所得以外に所得(不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得など)がある人、複数から給与をもらっている人にとって年末調整は一部分の所得についての仮の税額計算にすぎないのです。
「それならば、年末調整はしない」とおっしゃるかもしれません。しかし、年末調整をしない場合(勤務先に扶養控除等申告書を提出しない場合)には、毎月の源泉徴収税額が源泉徴収税額表の「乙欄」という高い税率で行われますので毎月の手取りが減ります(結果的には確定申告で精算されますが)。
上記のとおり、「所得が給与所得だけ」で、「しかも1ヶ所からしか給与の支払いを受けていない」場合は、毎月の源泉徴収と年末調整で所得税は確定し確定申告は不要です。これが高じて「サラリーマン(会社の役員含む)は確定申告しなくてよい」と思いがちですが、次のような場合には確定申告することにより納税が必要、あるいは源泉徴収された税金が還付となることがありますので注意が必要です。
(1)同時に複数から給与所得がある場合
上記のとおりです。複数の会社などから給与を受け取っている場合、そのうちの一つでしか年末調整をすることができません(いわゆる「主たる給与」)。そこで、すべての給与所得を合計し確定申告しなければならないのです。
(2)昨年中に転職し、年末に在籍する会社などで前職分の給与を加算せずに年末調整している場合(あるいは年末調整していない場合)
本来ならば、年度途中で転職した場合には、年末に在籍する会社などに前職分の源泉徴収票を提出し合算して年末調整をします(昨年退職するまでの給与金額とその源泉徴収税額などを記載した源泉徴収票を前職場から交付してもらいます)。しかし、これが本人の意思(現職場に前職場の給与を知られたくない)や会社などのミスからできていない場合があります。その場合には、自身ですべての給与を合計し確定申告しなければなりません。
(3)年末調整時には未確定であった事項が確定した場合
配偶者控除や扶養控除した親族の昨年中の所得が年末調整時点では確定せず、見込み金額で年末調整する(配偶者控除や扶養控除する)ことがあります。確定申告の時期にはその親族の所得も判明しているでしょうから、確定した所得金額で確定申告する必要があります。なお、翌年の1月までに確定した場合には、年末調整の再調整を行いますが、2月以降は自身で確定申告するしかありません。
(4)年末調整が間違っていた場合
上記(2)や(3)もこれに該当するでしょうが、次のような場合が目立ちます。なお、翌年の1月までに判明した場合には、年末調整の再調整を行いますが、2月以降は自身で確定申告するしかありません。
●社会保険料控除を忘れていた(扶養親族分を負担した場合など)
●生命(地震)保険料控除を忘れていた
●勤務先の計算ミス
(5)医療費控除、住宅借入金等特別控除(初年度のみ)など確定申告でしか認められない控除がある場合
一見、年末調整で行えそうに思えるかもしれませんが、確定申告しなければなりません。
(6)年度の途中で退職しその後就職していない(年末調整が済んでいない)場合
年末調整は、年度末にその会社などに在籍する人のみを対象としています。年度の途中で退職しその後就職していない人は対象にはならないのです。ただし、例外として、死亡により退職した人、明らかに退職後再就職していない人(障害を背負って退職した、退職後長期の療養生活をしているなど)については退職時点で年末調整することができます。
《源泉徴収票の見方》
支払金額=給与総額(収入)から給与所得控除額を差し引いた金額が給与所得控除後の金額=給与所得金額です。そこから、おなじみの所得控除(配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除など)を差し引き、それに累進税率を乗じた金額が源泉徴収税額=所得税額となっているはずです。
なお、転職した場合には、年末に在籍する会社などからの源泉徴収票は前職分を含む金額となっていると思います(前職分を含めて年末調整した場合)。また、従たる給与や途中退職した会社からもらう源泉徴収票の場合は、給与所得控除や所得控除は記入されていません(年末調整はされていません)。
《源泉徴収票の合算》
同時に複数から給与を受け取っている場合は、その源泉徴収票を合算しなければなりません。給与所得控除は合算後の給与金額に応じて決まります。また、源泉徴収税額を合算するのはいうまでありません。
《確定申告書における源泉徴収税額の位置付け》
すべての所得を合算してそれに対する所得税額を計算し(源泉徴収票とは別途計算する)、そこから源泉徴収税額(源泉徴収票の金額)を差し引きます。源泉徴収税額は先取りされた税金ですから当然の扱いです。
《源泉徴収票から転用できる申告書記載事項》
生命(地震)保険料控除が源泉徴収票の内容と同じ場合には、「源泉徴収票参照」と確定申告書に記入しておけば、あらたまって保険料の証明書を提出する必要はありません。年末調整した会社などの責任で確認済みだからです。また、扶養親族や社会保険料についても勤務先が確認済みですので金額のみを記入し、「源泉徴収票参照」と確定申告書に記入しておけば足ります。
《確定申告書への源泉徴収票の添付》
すべての源泉徴収票を確定申告書に添付する必要があります。なお、勤務先が倒産などで消滅し、源泉徴収票の交付を受けていない場合は税務署に相談してください。
《勤務先に副収入の存在を知られたくない》
給与所得以外でしたら知られずに済む方法があります。確定申告をする際に副収入分(給与以外)の住民税の納付を自身でするように手続をしておくことです。確定申告書上でその旨の意思表示をする欄があります。こうしておけば、会社に通知される住民税(特別徴収)はその会社の給与の分だけになりますので副収入の存在を会社に知られることはありません。
年末調整の間違いを放置しておいた場合はどうなる?
(1)年末調整で計算した税額が正しい税額よりも多い場合
1月末まででしたら勤務先に年末調整の「再調整」をしてもらえますが、それを過ぎた場合には自ら確定申告して余分な税金を取り戻す必要があります。黙っていても税金は戻ってきません!
(2)年末調整で計算した税額が正しい税額よりも少ない場合
上記(1)同様に、1月末まででしたら勤務先に年末調整の「再調整」をしてもらえますが、それを過ぎた場合には自ら確定申告して不足する税金を納税する必要があります。これを放置しておくと、次のような扱いになります。
●税務署が税務署内の諸資料から誤りを発見する
扶養控除の誤りは税務署内の諸資料から容易に発見できます。扶養親族やその所得を税務署は把握しているからです。そのような誤りを税務署が発見した場合には、まずは勤務先に誤り(扶養控除額が過大で税額が不足していること)を伝えその不足税額を徴収し、その後に勤務先が給与を受け取った従業員にその税額を請求してきます。
●税務署が税務調査(会社などへ直接赴く)の際に誤りを発見する
税額の計算ミス、給与額そのもの、社会保険料などの誤りは、税務調査の際に発見されます。不足額の扱いは上記と同じです。
「乙欄」での源泉徴収
同時に複数から給与をもらっている場合
2ヶ所目からの給与については、源泉徴収税額表(給与金額と扶養親族数に応じた税額の一覧表)の「乙欄」という、通常の場合(甲欄)よりも高い税額で源泉徴収されます。
「月額88,000円未満は課税されないはずなのに?」と思われる方が多いと思います。
しかし、次のような例を考えていただければご理解いただけると思います。
2ヶ所から8万円ずつの給与をもらっている人の場合、この合計額である16万円を1ヶ所からもらえば課税されるはずです(扶養親族がゼロであることなどを前提として)。つまり、2ヶ所以上から給与をもらっている人の場合には、おそらく最終的には課税されることから、2ヶ所目の給与はそれを前提に高い税率で源泉徴収するのです。最終的な税額については確定申告で精算します。
2 源泉徴収される収入(デザイナー、講師など)
職業(サラリーマン以外)によっては、その報酬が支払われる際に一定割合を源泉徴収されることがあります。源泉徴収された税金は「仮の税額」にすぎません。「支払いの時に税金を引かれているので確定申告は不要」と考えがちですが、「多くの場合」は還付でしょうから(注)、権利としての(還付を受ける)確定申告を必ずしておく必要があります。
(注)「多くの」場合は還付となる理由
ほとんどの場合は、源泉徴収されるのは「収入(受け取る額)の10%」です(1回の支払が100万円以上の場合は、100万円を超える部分は20%となります)。所得は収入から必要経費を差し引いたものであり、さらにそこから所得控除を差し引けますので、累進税率が10%(国民の多くがこの税率でしょう)とすれば当然還付となります。しかし、源泉徴収される職業(収入)によっては(プロスポーツ選手やフリーの芸能人などの高額所得者)普段源泉徴収され、確定申告の際にさらに納税しなければならないこともあります。
【復興特別所得税】
平成25年からは所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が課税されるようになりました。10%の所得税が源泉徴収される場合には、10%に対して2.1%上乗せされるということですから、所得税と復興特別所得税を合わせて10.21%になります。
(1)収入の集計
収入は源泉徴収される前の金額によります(源泉徴収された金額は最終的に申告書で差し引きできます)。
(2)確定申告書への源泉徴収税額の記入
これの記入がない場合は、源泉徴収されなかったということになりますので入念に確認してください。
(3)「支払調書」の申告書への添付
支払調書は相手先が発行してくれます。源泉徴収された証拠書類ですので必ず添付してください。
(4)「所得の内訳書」の添付
報酬をくれる相手先が多く申告書に書ききれない場合には、所得の内訳書を作成しなければなりません。税務署に所定の様式がありますので交付を受けてください。ただし、表計算ソフトなどで独自に作成してもかまいません。
《手取り払い》
報酬をくれる相手先によっては、「半端な金額で渡すのは失礼(気の毒)」などの理由で、「きれいな数字」(たとえば10万円)で報酬をくれる場合があります。その場合の収入金額は、手取り金額を「1−0.1021(源泉徴収する所得税の率に復興特別所得税率を上乗せ)=0.8979」で割り戻した金額となります。
(例)手取りで10万円の場合は、収入金額は10万円÷0.8979の111,370円となります。(111,370円に0.8979を乗じれば10万円になります、源泉徴収された税額は11,370円です。)
《消費税を含めている場合の源泉徴収》
いわゆる「本体価格」について源泉徴収されます。例えば、540,000円(内消費税40,000円)の場合には、源泉徴収されるのは51,050円(500,000円×10.21%)となります。ただし、本体価格と消費税部分の区分がされていない場合には、総支払金額に対して源泉徴収します。
《源泉徴収されなかった》
本来は源泉徴収すべきところ、その義務を果さない支払者がいます。その際は、源泉徴収されなかったとして確定申告するしかありません。ただし、後日その支払者に税務調査が行われた場合、支払者は源泉徴収漏れを指摘されます。そして、その支払者は支払先に源泉徴収税額相当金額の返金を要求してくるでしょう(この要求は合法的です)。その際はそれに従うしかありませんが、支払先は所轄の税務署に相談すれば還付してもらえます(支払先は源泉徴収されていないため、確定申告により直接納税しているのですから当然です。)
馬鹿げているようですが、これが源泉徴収制度なのです。
《支払調書を交付してくれない》
まれに、源泉徴収しておきながらこのような支払者がいます。単なる怠慢ならば交付を依頼すればすみます。しかし、「源泉徴収したがその税金を納付していないので、表面化を恐れて逃げている」「倒産などで消滅した」「源泉徴収相当額を『値引き?』と考えている」場合は処理に窮します。確かに源泉徴収されているのであるならば、支払調書はなくてもその支払者の名称(氏名)、受取り総額、源泉徴収された金額を申告書に記入して提出するしかありません(必ず所轄の税務署に相談してください)。
「源泉徴収制度に理解のない会社や人とは関わらないこと」が「ビジネスの鉄則」です!!
上記のとおり、源泉徴収は特定の所得や職業の者からのみ行うという、大変腑に落ちない制度かもしれません。また、にサラリーマンにとっては納税=税負担を意識させないという弊害があります。しかし、法律ですので受け入れるしかありません。
源泉徴収をしていなかった場合の後処理ほど大変なことはありません。「源泉徴収制度に理解のない会社や人とは関わらないこと」が「ビジネスの鉄則」であると考えておく必要があります。源泉徴収制度を理解しない人(無視する人)のほとんどは、後でトラブルが起きたときに、もう、貴方の前から姿を消しているでしょう。結局、貴方が「泣き寝入り」することになるのです!
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