利益と法人税9/11
税務署は訳のわからないことばかりいう?
築山公認会計士事務所
≪繰延資産≫
1 繰延資産とは
繰延資産とは支出した費用のうちその支出の効果が支出の日以後1年以上(翌期以降)に及ぶものをいいます。ただし、資産(固定資産など)の取得に要した支出や前払費用は除きます。繰延資産とされるのは「創立費(会社設立までの費用)」「開業費(会社成立後営業開始までの費用)」「開発費(研究開発や市場開拓のためなどの費用)」「株式交付費」「社債等発行費」です。
繰延資産はその支出の効果が複数事業年度に及びますが、その効果がどの程度であるかが未知数であり会計処理に恣意性が介入してしまいます(合理的な費用配分の方法がない)。そこで、近時は繰延資産を計上しないことが一般的で、法人税法においても支出のあった事業年度の損金の額に全額算入することを認めています。
《前払費用との違い》
前払費用も繰延資産もともに支出が行われていることは同じですが、前払費用がいまだ提供を受けていない役務(労働やサービス)に対する支出であるのに対して繰延資産はすでに提供を受けている役務に対する支出です。
2 法人税法における繰延資産
法人税法においては上記1のほか、次のような支出でその効果が支出の日以後1年以上に及ぶものも繰延資産とし一定の方法で償却する(損金算入する)こととしています。
(1)公共的施設の設置または改良のために支出した費用
専用の場合はその耐用年数の7/10、その他の場合は4/10で償却します。
(2)共同的施設の設置または改良のために支出した費用
共同的なものはその耐用年数の7/10、共用的なものは5年で償却します。
(3)建物を賃借するために支出した権利金など
賃借する建物が新築の場合はその耐用年数の7/10、借家権として転売できる場合はその耐用年数の7/10、その他の場合は5年(賃借期間が5年未満の場合にはその期間)で償却します。
(4)ノウハウの設定契約に際して支出した頭金の額
5年(有効期間が5年未満の場合にはその期間)で償却します。
(5)同業者団体などの加入金
5年で償却します。
≪その他の損金≫
1 修繕費
固定資産を保有し活用・維持してゆくためには様々な支出が発生します。その支出は「固定資産の価値(用途、性能)を増加させる支出=固定資産の増加」と「維持、管理、修復のための支出=費用」の二つに分類されますが、支出によってはその分類が容易でないものもあります。そこで、法人税法においては両者の分類を公平に行うために様々なルールを明示しています。両者の区分が正確でないと、所得金額(利益)が正確に計算されないことはいうまでもありません(特定の支出が資産となるか費用となるかがはっきりしない)。
(1)資本的支出
修理、改良など名義を問わず、固定資産について支出した金額が資本的支出に該当する場合には、その全額を支出した事業年度の損金の額には算入することができません(減価償却しなければなりません)。なお、資本的支出とは次の部分の金額をいいます。
●固定資産の使用可能期間を延長させる部分
支出金額×(支出後の使用可能年数−支出しなかった場合の使用可能年数)÷支出後の使用可能年数
●固定資産の価額を増加させる部分
支出直後の価額−取得後から通常の管理・修理をした場合の支出時の予想価額
(2)資本的支出についての減価償却
資本的支出部分の金額については、その資本的支出のあった固定資産の耐用年数を適用して減価償却を行います。たとえば、耐用年数30年の資産について、耐用年数が10年経過した後に資本的支出があった場合には、資本的支出部分については30年として減価償却を行います。
(3)資本的支出と修繕費の具体例
●被災資産の復旧費
原状回復費は修繕費となります。資本的支出と修繕費の区分が明らかでない場合は支出の30%を修繕費とし残額を資本的支出とすることができます。
●建物への避難階段など付加機能を取り付けた場合の費用
資産の価値が高まりますので資本的支出となります。
●用途変更のため(改造、改装)の費用
資産の価値が高まりますので資本的支出となります。
●機械の部品を性能の高いものに取替えた場合の費用
資産の価値が高まりますので資本的支出となります。
(4)資本的支出と修繕費を区分するための画一的な基準
●少額な費用
20万円に満たない場合には修繕費とできます。
●周期の短い修理や改良の費用
おおむね3年以内の周期で繰り返されるならば修繕費とできます。
●資本的支出と修繕費の区分が不能で60万円に満たない費用
修繕費とできます。
●資本的支出と修繕費の区分が不能で前期末取得価額のおおむね10%以下の費用
修繕費とできます。
●資本的支出と修繕費の区分が不能な費用(上記を除く)
費用の30%相当額と前期末取得価額の10%のいずれかを修繕費として、残額を資本的支出とすることができます。
2 租税公課
法人税法においては、会社が納付する租税公課のうち損金算入できないもの、損金算入できる場合にはその損金算入ができる時期を定めています。(法人税法において損金不算入とされている租税公課以外は損金算入できるということです。)
(1)損金算入できない租税公課の一例
●法人税
法人税は利益に対して課税されますので、法人税を損金算入すると所得(利益)の額が確定しません。
●都道府県民税、市町村民税
損金算入を認めない理由は法人税と同様です。
●加算税、延滞税、延滞金
このような罰則的な税金を損金算入することが好ましくないのは当然です。
●罰金、科料、過料
これを損金算入できるのならば国が一部肩代わりすること(法人税を減少させることによって)になります。
(2)損金算入時期の一例
●申告納税方式(納税者の申告により確定する)による租税(申告書を提出した事業年度)
●賦課決定方式(税務署などの通知により確定する)による租税(賦課決定のあった事業年度)
《消費税》
損金の額に算入できません。なぜならば、消費税を支払ったときは仮払消費税、受け取ったときは仮受消費税という損益計算に影響しない勘定科目で処理され、納付したときは仮受消費税と仮払消費税の差額が消滅するだけだからです。いわゆる税込処理をしている場合には納付税額が損金算入されます。しかし、この場合、収益には受け取った消費税が費用には支払った消費税が含まれていますので、これを調整するために納付税額を損金に額に含めているにすぎません。
《源泉所得税》
損金の額に算入できません。源泉所得税は預った税金で会社に一切の負担がないからです。
3 貸倒損失(貸倒れの処理)
企業会計は発生主義会計を採用しており、売上計上は代金の入金に先立ち出荷や請求の時点で計上しなければなりません。しかし、発生主義に基づき計上された売掛金(売上代金の未回収額)が回収不能となる場合があります。これを貸倒れと呼び、法人税法は以下の場合には貸倒れ処理し損金の額に算入することを認めています。
(1)法律などによる債権の切捨て
●会社更生法、民事再生法などによる切捨て
●債権者集会による切捨て
●書面による債務免除(債務者の債務超過が相当期間継続し弁済不能な場合に限る)
●その他
(2)一定の事実の発生による回収不能
●債務者の資産状況、支払能力などからして全額が回収できない場合(担保がある場合はその処分額を除く)
(3)売掛債権の特例
●債務者との取引停止あるいは最後の弁済のいずれか遅いときから一年が経過している場合
●同一地域の債務者について売掛債権の総額が取立費用より少なく催促しても弁済がない場合
貸倒れ処理の要件は大変厳しいです。単なる相手先の払い渋り(先方の機嫌に左右された)では貸倒れ処理できません。しかし、相手を選べない、無理な催促は機嫌を損ねる。本当に辛いことです。無理のない(客観的な)販売計画が必要ではないでしょうか。
4 使途不明金と使途秘匿金
企業会計においても法人税法においても、会社の支出について、その支出日、相手先、内容、目的などを明瞭に記録しなければならないのは当然のことです。しかし、残念なことに一部の支出について不透明な記録しか残っていないことがあります。そのような場合には、法人税法においては次のルールにより処理されます。
(1)使途不明金
帳簿や領収書では、その支出の内容、目的、相手先などが不明で、それが会社の費用であるかどうかが不明のものをいいます。使途不明金は損金の額に算入できませんが、会社の立証によって費用であることが認められた場合には損金の額に算入できます。
(2)使途秘匿金
会社が一切、その支出の内容、目的、相手先などを明かさないものをいいます。使途秘匿金は損金の額に算入できないばかりでなく、その支出額の40%の法人税が別途課税されてしまいます。
「何もかも透明」は理想論かもしれません。しかし、ミス、怠慢、無知、意地による使途不明金や使途秘匿金は避けたいものです。
5 引当金
企業会計においては、将来の特定の費用または損失で、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用または損失として引当金に繰り入れ、その引当金の残高を貸借対照表において負債あるいは資産の控除として計上しなければなりません。企業会計が、発生主義や費用収益の対応に基づく合理的な期間損益計算を目的としている以上は引当金を繰り入れることは当然です。
しかし、法人税法において損金算入が認められている引当金は、わずかに「貸倒引当金」と「返品調整引当金」のみです(それぞれ繰入限度額についての詳細な規定があります)。これは、引当金の設定には見積りが介入するので課税における統一的扱いをしなければならないのは当然として、損金算入できる項目を制限することにより課税ベースを拡大するという極めて租税政策的な理由でもあります。(従来は、法人税法においても認められていた「賞与引当金」や「退職給与引当金」は、平成14年度の連結納税制度の採用にともなう法人税収の減少を補うために廃止されました。)
6 繰越欠損金
欠損金とは、各事業年度の損金の額が益金の額を超える場合にその超える部分の金額です(ほとんどの場合、企業会計上の利益は赤字です)。法人税は一事業年度の所得に課されるのが原則ですが、会社の長期的な要因を法人税の計算に反映させるために、法人税法では欠損金の翌期への繰越しを認めています。
(1)繰越青色欠損金
青色申告の場合には、欠損金を翌事業年度以降9年間繰越し、翌事業年度以降の損金の額に算入することができます(平成24年3月31日以前に終了した事業年の分は7年間しか繰越せません)。なお、資本金が5億円を超える会社など「中小法人等」に該当しない会社は、欠損金の80%しか繰越せません。
(2)災害による繰越欠損金
白色申告の場合には、欠損金のうち棚卸資産や固定資産などについて災害によって生じた損失にかかわるものについてのみ繰越すことができます。
《欠損金の繰戻》
欠損金を繰越すのではなく、過去に所得のある事業年度から差引くこともできます。この場合には税金が還付されます。しかし、欠損金の繰戻は、資本金1億円以下の会社を除いて現在適用が停止されています。
「業績不振だから決算と申告は適当に」と達観せず、将来のために正確な決算と申告を心がけてください。現在の赤字は、将来の黒字から差引けるからです。