利益と法人税4/11
支出が増えると法人税が減る?
築山公認会計士事務所
≪損金≫
法人税法における損金は基本的には企業会計における費用(仕入高など)に一致します。
しかし、法人税法があらゆる企業に適用されることから、
法人税法の立場から損金についてのルールや指針を数多く示しています。
(中小零細企業の場合には法人税法の立場から決算書を作成しているのが実情です。)
1 損金とは(原価、費用、損失との違い)
法人税法における「損金の額」は、「別段の定めがあるものを除き」「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されます。つまり、損金の額とは、基本的には企業会計(決算書)における原価、費用、損失の額(売上原価、給与、支払利息など)であるけれども、この費用の額に必要に応じた(法人税法の目的に応じて)変更を加えるということです。
以上を前提として、法人税法においては損金の額(別段の定めを除く)を次のとおりに定義しています。
(1)収益に対応する売上原価、完成工事原価などの原価の額
棚卸資産の販売、請負などの益金の額に対応する原価を損金の額に算入することができます。法人税法も、企業会計におけるいわゆる収益費用対応の原則を求めているということです。
(2)販売費、一般管理費その他の費用の額(償却費以外の費用でその事業年度末日までに債務の確定していないものを除く)
法人税法においても、企業会計同様に発生主義により計上した(支出の時点にとらわれず計上した)費用を損金の額に算入することとしています。しかし、償却費(固定資産の費用化)を除いて債務の確定したものに限るという条件を付け加えています。これは、法人税法においては企業会計におけるいわゆる引当金の計上(将来の費用と損失の見越し計上)を制限するという趣旨であります。
(3)損失の額で資本等取引以外の取引によるもの
上記(1)(2)以外の損失で資本等取引以外のものを損金の額に含めることができます。資本等取引とは、「会社の資本(株主などからの出資)の増減」や「利益(収益と費用の差引金額)の分配(いわゆる配当)」のことですが、これは損金とは無関係です。
《原価、費用、損失》
いずれも企業会計上の概念であり論者によって定義は異なりますが、おおむね次のとおりに要約されると思います。
●原価・・・売上高(収益)と明確な対応関係にある商品や製品の購入あるいは製造に直接要した支出(費用のうち収益と明確な対応関係があるもののみが原価となる)
●費用・・・原価のように収益との対応関係は明確ではないけれども事業活動に必要不可欠な支出(広告宣伝費、事務所の家賃など)
●損失・・・原価、費用以外のどちらかといえば予期しなかった(事業活動に役立たない)支出
《総額表示と純額表示》
損益計算書において原価と費用は収益と対応させて表示します。まずは、売上高を表示し、次にそれに対応する売上原価(この差引計算の結果を売上総利益といいます)、その次にそれらと同一期間の販売費及び一般管理費を表示します(この差引計算の結果を営業利益といいます)。企業会計においては収益と費用の対応関係を求めますので、損益計算書がこのようないわゆる総額表示になることは当然です。しかし、この総額表示が必ず貫かれているわけではありません。例えば、有価証券を売却した際には、売却収益と売却原価(有価証券の簿価)の差額(純額)を有価証券売却益として営業外収益(営業利益の次の段階)に計上します(いわゆる純額表示)。
支出(会社から現金が流出すること)と費用(損金)
支出(会社から現金が流出すること)のすべてが費用(損金)となるわけではありません。支出のうち費用となる主なものは次のとおりです。(ここでの費用には上記の原価と損失も含みます。)
●収入を獲得するための直接的な支出(仕入代金、製造費用)
●収入を獲得するための間接的な支出(事務所家賃、電話代、事務員給与、広告宣伝費など)
●会社運営のための(収入を得うるための)資金を調達するための支出(借入金の利息)(注)
(注)少し難しいかもしれませんが、株主から調達するための支出(配当)は費用とはなりません。これは、収益マイナス費用である利益の分配だからです。
次のようなものは、支出であっても費用とはなりません。
●他の会社や役員・従業員に貸したことによる支出
●会社運営とは無関係な支出(処理上は上記と同じになります)
●借入金の返済(利息部分は費用となります)
支出と費用には時間的なずれがあります。
費用は発生主義により計上します。つまり、費用が発生した時点(物やサービスを消費した時点)で費用を計上します。つまり、費用が支出に先行する(代金は払っていないが消費している)、支出が費用に先行する(代金は払っているけれども消費していない)場合があるのです。
収益の意味については一般の人でも比較的理解しやすいのですが、費用については理解することが難しいかもしれません。なぜならば、収益の大部分が会社の本業からもたらされる収入(会社に現金が流入すること)であるのに対して、費用の内容は広範であるからです。上記の「収入を獲得するための直接的な支出(仕入代金、製造費用)」はまだしも、「収入を獲得するための間接的な支出(事務所家賃、電話代、事務員給与、広告宣伝費など)」は、個々の支出に関して非常に解釈に迷うことがあります。たとえば、社長が大変親密にしている得意先を接待した支出が、「収入を獲得するための間接的な支出」=「会社のための支出」であるのか、社長の個人的支出(得意先というよりも友人との遊興)であるのか(この場合には社長への貸付金となります)などはその典型です。
法人税法は別段の定めがある場合を除いて、損金の額は費用の額に一致するということを明らかにしています。つまり、損金の額については公正妥当な会計基準にその決定を委ねているわけです。しかし、公正妥当な会計基準といっても、そのすべてが明文化されているわけではないことから、法人税法の立場から費用と損失についての考えを明らかにしています(主に通達によっています)。
2 売上原価、完成工事原価などの額が確定していない場合の見積り
売上原価や完成工事原価などのいわゆる原価は、その収益に対応して計上します。その額が事業年度末までに確定している場合にはもちろんのこと、確定していない場合には事業年度末の現況によりその金額を適正に見積もることができます。つまり、事業年度末までに原価の額が確定していなくても、契約内容(販売する商品、請負の範囲)からしてすでに発生している(収益に対応している)原価の額は計上できるということです(建築工事における追加工事のような事後的に発生する原価は計上はできません)。
3 債務の確定している費用
法人税法においては、費用を計上するにあたっては原価のように収益との厳格な対応を求めていませんが、償却費以外の費用を債務の確定しているものに限定しています。ここで、債務の確定とは次の要件のすべてに該当することをいいます。
(1)期末までにその費用についての債務が確定していること
費用を計上する会社に「代金を支払うという債務」が確定していなければなりません。
(2)期末までにその債務に基づく具体的な給付をすべき原因となる事実が存在していること
代金を支払うという債務が生じるにいたった原因が存在しなければなりません。
(例)機械の修理代金を支払うという債務の前提として、実際に機械の修理をしてもらっている。
(3)期末までにその金額を合理的に算定できること
費用が貨幣価値で測定される限りは、その金額が算定できなければならないのは当然です。なお、金額が未確定の場合には合理的な見積りにより算定します。
上記のような費用を計上する基準は「債務確定基準」と呼ばれ、企業会計における費用の計上基準の「発生主義」と法人税法における費用の計上基準は別物であると考えられることもあります。企業会計においては保守主義の原則(予想される費用は早期の計上する)から、費用の見越計上や引当金の計上を積極的に行わなければなりません。一方、法人税法が債務確定基準を採用しているのは、企業会計におけるこれらの費用をより厳格に計上するという姿勢を示していると考えられます。しかし、債務確定基準はその趣旨に反しない限りいくぶん緩やかに解釈してもよいとされています。法人税法においては、企業会計における引当金の計上を極めて制限した範囲で認めているにすぎません。しかし、これは企業会計の費用計上基準としての発生主義を否定しているのではなく、課税ベースの拡大という租税政策上の措置であります。
《債務とは》
債権者に対して給付(一定の行為)を行う義務をいいます。費用計上における会社の債務は代金を支払うという債務ですが、その債務の裏側には様々な債権が存在します(債務者=納入業者などからの給付を受ける権利)。
《減価償却》
固定資産の取得価額を複数の事業年度にわたって費用化する手続である減価償却については、債務確定基準ではなく別途その費用計上の方法を定めています。
詳細は8/11≪固定資産(減価償却資産)≫をご参照ください。
4 請負(建設、設計など)収益に対応する原価の額
請負による収益に対応する原価の額は、その請負の目的となった物の完成または役務の履行に要した材料費だけでなく、労務費(人件費)、外注費、経費の額の合計のほか、その受注または引渡しをするために直接要したすべての費用の額が含まれます。
請負の典型である建設業を例にすると、建物の工事原価は、最終的な完成物として形が残る材料(コンクリート、鉄骨など)に関する費用だけではなく、完成物の製作に携わった人々への対価(人件費や外注費)、その他の諸費用(建設作業前の調査費用など)も含めて、収益との対応関係をたどらなければならないということです。
5 技術役務の提供(設計、作業の指揮監督など)についての報酬に対応する原価の額
技術役務の提供についても、その収益に対応する原価を計上しなければなりませんが、継続適用を要件に次のような簡便的な方法が認められます。
(1)固定費(作業量の増減にかかわらず変動しない費用)は支出の日の属する事業年度において損金の額に算入できる
たとえば、設計事務所が一定の従業員(設計やその他の事務作業をする)を雇用している場合には、その従業員達に支給した給与は、設計についての収益に対応させる必要はなく支出の日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。
(2)変動費(作業量の増減によって変動する費用)でその金額が多額でないものは支出の日の属する事業年度において損金の額に算入できる
たとえば、残業代や賞与は本来は収益に対応させるべきですが、金額も僅少なことから支出のあった事業年度の損金とすることができます。
6 短期の前払費用
前払費用とは、一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度の終了の時点においていまだ役務の提供を受けていない部分をいいます。
(例)3月決算の会社が、2月に向こう1年分(2月から翌年1月)の家賃を支払った場合は、4月から翌年1月分が前払費用となります。
前払費用は損金の額とはなりませんが、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務について支払った場合には、継続してその支払った事業年度の損金の額に算入しているときにはその処理が認められます。
【注意】支払った日から1年以内の分ですので、「3ヶ月先からの1年分」は認められません。また、継続適用を要件としていますので、利益の出た年度だけ1年分を前払いするというわけにはいきません。
7 消耗品
消耗品(事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝印刷物、見本品など)の購入費用は、「消費した」事業年度の損金の額に算入するのが原則です。(年度途中に消耗品費などの費用勘定で処理している場合には、決算時に未消費部分について貯蔵品などの資産勘定に振り替える必要があります。)しかし、消耗品のうち毎事業年度に一定数量を購入し、かつ、経常的に消費するものについては、継続してその購入した事業年度の損金の額に算入しているときにはその処理が認められます。
8 売上原価と棚卸資産の評価
企業会計において、売上原価の計算が利益の算定において極めて重要な要素であることはいうまでありません。なぜならば、企業の本源的な収益は本業からもたらされる売上高であり、売上原価はそれに対応する費用であるからです。利益の計算を企業会計に委ねている法人税法においても、このような売上原価の計算の重要性に鑑み、主に課税の公平性(課税について同一条件の納税者が複数いる場合には同一の計算結果となること)を確保するという観点から売上原価と棚卸資産の評価について様々な規定を設けています。
「期首棚卸高+当期仕入高(製造原価)−期末棚卸高」
売上原価の算定は上記のプロセスとなることから、法人税法においてもその各要素についての規定を設けています。
(1)棚卸資産の意義
●商品または製品(副産物と作業くずを含む)
●半製品
●仕掛品(半成工事を含む)
●主要原材料
●補助原材料
●貯蔵中の消耗品
●上記に準ずる資産
上記から、棚卸資産とは、他から仕入れる、自ら製造するなどして、最終的には消費や販売により消滅するものであることを理解できます。しかし、その具体的内容と金額は、有形物の直接的な購入費用(商品)だけでなく、有形物の製造費用(人件費や諸経費)も含まれるという大変複雑なものとなっています。
(2)棚卸資産の評価方法
企業会計においても合理的な棚卸資産の評価方法をいくつか認めていますが、法人税法においては次の方法について具体的に定めています。
●原価法(取得価額に基づき評価する方法)
個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法
●低価法(原価法による評価額と期末時価のいずれか低い価額に基づき評価する方法)
原価法のうちいずれかの方法を基礎とするもの
(3)評価の単位
個別法の場合を除き、棚卸資産を、種類、品質、型の異なるごとに区分し、同一区分のものを一単位として計算します。
(4)評価方法の選定と変更
事業の種類ごと、かつ、棚卸資産の区分ごと(上記(1))にいずれかの方法を選定しなければなりません。(事業所別、棚卸資産の種類、その他合理的な区分ごとに評価方法を選定することもできます。)
棚卸資産の評価方法については、一定の期限までに選定した評価方法を税務署長に届出なければなりません(設立時は第1期の確定申告書提出期限まで、新規事業の開始あるいは事業変更の場合にはそれらの事業年度開始前まで)。なお、評価方法の選定を届出なかった場合には、最終仕入原価法による原価法により評価することになります。
ひとたび選定した評価方法は継続して適用しなければなりませんが、合理的な理由により変更する場合には、変更しようとする事業年度の前日までに届出なければなりません。
(5)棚卸資産の取得価額(仕入高の算定)
期末棚卸資産の評価計算(事業年度末に残っている棚卸資産の金額)の前提として、棚卸資産の取得価額(事業年度中に購入した金額)を計算しておく必要があります。
●購入した棚卸資産
(購入代価+引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料など購入に要した費用の額)+消費しまたは販売の用に供するために直接要した費用の額
●製造など(製造、採掘、採取など)により取得した棚卸資産
製造原価(製造などのために要した原材料費、労務費、経費の額)+消費しまたは販売の用に供するために直接要した費用の額
●その他の方法(贈与、交換など)により取得した棚卸資産
時価(取得のために通常要する価額)+消費しまたは販売の用に供するために直接要した費用の額
9 前期損益修正
企業会計においては、当事業年度になって過去の事業年度の費用や損失の計上漏れを発見したならば、前期損益修正損として計上するのが通常ですが、法人税法においてはこれを認めないのが原則です。法人税法は一事業年度における益金の額から損金の額を差引して所得の金額を計算することになっているからです(決算書における前期損益修正損は法人税の申告書において所得に加算します)。また、欠損金の繰越控除が7年間であることから、損金算入をいたずらに引き延ばす(その典型例は不良在庫の計上や貸倒れの未計上です)のを防止する必要もあります。
《更正の請求》
前期損益修正損が生じた場合、「更正の請求(税務署に所得金額を減額してもらうこと)」により過去の事業年度の所得金額を減額できる場合があります。
《簡略で節税に有利な経理処理》
以上をお読みにいただき、法人税法において認められる費用の処理方法は、簿記や会計の教科書よりも簡略な方法であることをご理解いただけると思います。たとえば、「6短期の前払費用」「7消耗品」は、非常に寛大な(?)処理方法の典型です。法人税法は中小零細企業も含む数多くの企業に適用されることから、課税上支障のない限り簡略な方法(事務手数が軽減される方法)を認めているのです。そんなことから、わが国の多くの企業(特に中小零細企業は)は、会計理論上において正しい方法ではなく、法人税法が認める簡略な方法を採用しています。
また、前述した「6短期の前払費用」「7消耗品」は節税志向の会社にとっては喜ばしい経理処理方法です。しかし、節税上有利な経理処理方法は「継続適用」を要件としていることがほとんどであり「利益の出た年度だけ」が許されないのが実情です。
要するに、簡略といえども「継続適用」という歯止めをかけていますので、無条件に「お言葉に甘える」の は禁物です。
《重要性の原則》
企業会計においても金額的に重要性の低い事項については簡略な処理が認められています。