利益と法人税3/11

収入が増えると法人税も増える?

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪益金≫

 

法人税法における益金は基本的には企業会計における収益(売上高など)に一致します。

しかし、法人税法があらゆる企業に適用されることから、

法人税の立場から益金についてのルールや指針を数多く示しています。

(中小零細企業の場合には法人税法の立場から決算書を作成しているのが実情です。)

 

 

1 益金とは(収益との違い)

 

法人税法における「益金の額」は、「別段の定めがあるものを除き」「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されます。つまり、益金の額とは、基本的には企業会計(決算書)における収益の額(売上高、受取利息など)であるけれども、この収益の額に必要に応じて(法人税法の目的に応じて)変更を加えるということです。

 

以上を前提として、法人税法においては益金の額(別段の定めを除く)を次のとおりに定義しています。

 

(1)資産の販売による収益の額

商品や製品の販売による収益のことです。損益計算書では売上高がこれに該当します。

 

(2)有償または無償による資産の譲渡による収益の額

固定資産(土地、建物、機械など)や有価証券の譲渡による収益ことです。損益計算書では、営業外収益や特別利益にこれらは含まれています。

 

(3)有償または無償による役務の提供による収益の額

請負(建設業やソフト制作業など)、金銭や不動産の貸付けによる収益のことです。損益計算書では、売上高、営業外収益に含まれます。

 

(4)無償による資産の譲受けによる収益の額

 資産を無償で取得した(たとえば、小売業者がメーカーの負担で陳列販売コーナーを設置してもらう)場合の収益のことです。なお、債務免除(いわゆる借金の棒引き)も経済的価値が流入するのでこの類型に含まれることになります。

 

(5)その他の取引で資本等取引以外のものによる収益の額

(1)から(4)以外の取引から生じる収益のことです。資本等取引とは、「会社の資本(株主などからの出資)の増減」や「利益(収益と費用の差引金額)の分配(いわゆる配当)」のことですが、この資本等取引は益金とは無関係です。

 

《販売と譲渡の違い》

(1)の資産の販売と(2)の資産の譲渡は、一般的には同じ意味かもしれません((2)の規定があれば(1)は不要かもしれません)。しかし、法人税法においては(1)を本業の収益として特に掲げていると解釈されています。また、(1)を「棚卸資産の販売」としていないのは、法人税法においての棚卸資産には証券会社の商品有価証券が含まれないことから、あえて「資産」としたと解釈されています(法人税法では有価証券について棚卸資産とは別に定義しています)。

 

《無償による資産の譲渡や役務の提供がなぜ益金となるのか?》

法人税法独特の考え方で、常識的には益金とは考えられません。しかし、いったん譲渡した資産を売却し、その譲渡代金を相手に手渡したと考えれば難なく理解でします。つまり、いったん収益が実現してすぐさま費用あるいは損失が発生したと考えるのです。当然、帳簿にはこのような記入をする必要はありません(収益と費用が同額であるからです)。

それでは、なぜ、法人税法にこのようなルールがあるのでしょうか。それは、益金と損金の法人税法としての性格を別々に考えなければならないからです。例えば、会社がその土地を役員に贈与した場合、その正当な代金は実現した収益(益金)としそれを役員に賞与(損金)として支給したと考えるわけです(役員に対する賞与は損金不算入です)。また、このように考えることにより、実際に売却しその代金を賞与として支給した場合との課税の公平性を保てるからです。損益計算書には、土地の簿価が何らかの費用あるいは損失として表れますが、法人税の申告書では正当な売却代金と簿価の差額を当期利益に所得として加算しなければなりません。

 

《受取配当等》

会社からの配当金は、法人税を差引いた利益の処分として株主などに支払われます。つまり、会社が株主などの集合体であると考えるならば、受け取る配当金には税金(法人税)が課税済みということになります。そこで、配当金を受け取った会社については配当金の一定金額が益金不算入とされます。

 

《資産の評価益》

会社が保有する資産の評価益(含み益)については、特定の場合を除いて益金の額に算入されません。含み益は会社の対外的な活動とは無関係に生じることからです(収益として実現していないので課税することは適切ではない)。

法人税法においては、上記(1)から(5)のとおり取引により実現した収益のみを益金としています。しかし、最近では売買目的有価証券などについては、取引により実現していないいわゆる未実現収益(いわゆる評価益あるいは含み益)を益金の額に算入することとしています。これは、企業会計が時価会計へと移行したことに対応しています。

 

《還付金等》

 会社が納付した一定の租税公課(法人税など)の還付を受けた場合は、益金の額に算入されません。当初納付した際に損金の額に算入されないからです。

 

収入(会社に現金が流入すること)と収益(益金)

 

収入(会社に現金が流入すること)のすべてが収益(益金)となるわけではありません。収入のうち収益となる主なものは次のとおりです。

●本業の対価(販売代金)

●保有資産(株や不動産)の売却代金

●資産の運用益(利子や配当)

収益は収入のうち、会社が「何らかの価値を生み出した部分」と「価値を得た部分」に限定されます。

 

たとえ収入であっても次のようなものは収益とはなりません。

●株主からの出資

●金融機関からの資金調達(借入金)

これらは、今後価値を生み出すための「元手」にほかなりません。

 

収入と収益には時間的なずれがあります。

収益は発生主義により計上します。つまり、収入となることが確定した時点(商品の販売の場合には引き渡した時点)で収益を計上します。つまり、収益は収入に先行するのです(収入が収益に先行する場合もあります)。

 

以上のことは、会計や税務関係者(公認会計士、税理士、税務署など)にとっては常識です。そんなことから、会計や税の書物でもこの件については詳細に説明されていません。しかし、一般の人は戸惑うと思います。

「こんなに現金や預金をたくさん持っていると税務署ににらまれる」と心配する人は数多くいます。

たしかに、収益は最終的には収入につながりますので、現金や預金を多額に保有している会社は収益も多く、一般には収益と費用の差額である利益(所得)が多いと考えることができます。しかし、収入であっても、上記の「株主からの出資」や「金融機関からの資金調達(借入金)」は収益ではありませんので、「これらの結果のみ」で現金や預金を多額に保有していても(株式公開を果たした直後の会社などはこのような状態です)、収益(最終的には利益)には影響しないということです。

法人税は、一定期間の所得(利益)というフローに課税される税金です。一定時点のストックである資産に課税するのではありません。

 

 

法人税法は別段の定めがある場合を除いて、益金の額は収益の額に一致するということを明らかにしています。つまり、益金の額については公正妥当な会計基準にその決定を委ねているわけです。しかし、公正妥当な会計基準といっても、そのすべてが明文化されているわけではないことから、法人税法の立場から収益についての考えを明らかにしています(主に通達によっています)。

 

 

2 棚卸資産(商品、製品など)の販売による収益

 

(1)収益の帰属の時期(何月何日の売上とするのか)

引渡しのあった日の属する事業年度の益金の額に算入します(販売基準)。企業会計同様に実現主義の原則を採用しており、入金を待たなくとも実現(引渡し)の時点で売上高を計上しなければならないということです。

 

(2)引渡しの日とは

出荷した日(出荷基準)、相手方が検収した日(検収基準)、相手方において使用収益できることとなった日(使用収益基準)、検針などにより販売数量を確認した日(検針日基準)などその棚卸資産の種類や性質、その販売についての契約などの内容に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち会社が継続して採用している日とされます。

事業の種類は無数にあることから、引渡しの日の判定方法も無数に考えられます。そんなことから、引渡しの日の判断に合理性があり、かつその処理を継続適用することを要件として会社の自主的判断を尊重しているのです。

 

《いわゆる委託販売》

受託者が委託品を販売した日の属する事業年度の益金の額に算入します。ただし、委託品についての売上計算書が売上の都度に作成され送付されている場合には、継続適用を要件に売上計算書の到達した日の属する事業年度の益金の額に算入することもできます。

委託販売の受託者は商品を買い取る義務が無いことから、受託者が販売した時点を引渡しの日と考えるのが原則です。しかし、事務処理の便宜上、売上計算書の到着時点で計上するという簡便的方法も、継続適用を条件に認められています。

 

《引き渡したのに代金が確定していない》

引渡しの日の属する事業年度終了の日までにその販売代金の額が確定していないときは、同日の現況によりその金額を適正に見積もらなければならません。そして、その後確定した販売代金の金額が見積額と異なるときは、その差額は、その確定した日の属する事業年度の益金の額または損金の額に算入します。

 

《・・・日の属する事業年度》

経理実務においては特定の仕訳を何月何日でするかが極めて大事なことです。しかし、法人税法や通達においては「・・・日の属する事業年度」としています。これは、法人税が事業年度単位に課税されることによります。つまり、同じ事業年度内であればどの日付であろうが法人税には影響しないということです。

 

《継続適用》

上記から、引渡しの日として唯一絶対的に正しいものがないことをご理解いただけたと思います。そこで、大切になるのがその選択した「引渡しの日」を継続適用することです。継続適用しなければ利益操作を行えるからです。

 

3 請負(建築、造船、運送、設計など)による収益

 

(1)収益の帰属の時期(何月何日の売上とするのか)

物の引渡しを要する請負契約にあっては目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入します。

物の引渡しを要する請負契約とは建設や造船などをいい、これらの場合には完成引渡しが実現の要件となります。物の引渡しを要しない請負とは運送や設計などをいい、この場合には役務の全部の完了が実現の要件となります。

 

(2)建設工事等(建設、造船など)の引渡しの日の判定

作業を結了した日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を完了した日、相手方において使用収益できることとなった日などその建設工事等の種類や性質、契約の内容などに応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち会社が継続して採用している日とされます。

合理性と継続適用を要件として会社の自主的判断を尊重していることは、上記1「棚卸資産(商品、製品など)の販売による収益」と同様です。

 

(3)技術役務の提供(設計、作業の指揮監督など)による報酬の帰属の時期

その約した役務の全部の提供を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入します。

ただし、次のような場合には、その支払いを受けるべき報酬の額が確定する都度その確定した金額をその確定した日の属する事業年度の益金の額に算入します。

●報酬の額が現地に派遣する技術者などの数や滞在日数などによって算定され、かつ、一定期間ごとにその金額を確定させて支払いを受けることになっている場合

●例えば基本設計についての報酬の額と部分設計についての報酬の額が区分されている場合のように、報酬の額が作業の段階ごとに区分され、かつ、それぞれの段階の作業が完了する都度その金額を確定させて支払いを受けることになっている場合

 

《建設工事等の工事の代金が確定していない場合》

上記1「棚卸資産(商品、製品など)の販売による収益」の《引き渡したのに代金が確定していない》と同様に処理しなければなりません。

 

《建設工事等における値益金》

資材の値上がりなどに応じて一定の「値益金」を収入することが契約において定められている場合には、その収入すべき値益金の額はその建設工事等の引渡しの日の属する事業年度の益金の額に算入します。ただし、相手方との協議によりその収入とすべきことが確定する値益金については、その収入とすべき金額が確定した日の属する事業年度の益金の額に算入します。

 

《部分ごとの建設工事等》

●一つの契約により同種の建設工事等を多量に請け負った場合で、その引渡量に従い工事代金を収入する旨の特約または慣習がある場合

●1個の建設工事等であっても、その建設工事等の一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金を収入する旨の特約または慣習がある場合

以上の場合には、建設工事等の全部が完成しないときにおいても、その事業年度において引き渡した建設工事等の量または完成した部分に対応する工事収入をその事業年度の益金の額に算入します(部分完成基準)。

 

4 固定資産の譲渡による収益

 

固定資産の譲渡による収益の額は、別に定めがあるものを除き、その引渡しのあった日の属する事業年度の益金の額に算入します。これは、上記「1棚卸資産(商品、製品など)の販売による収益」と同様の考えです。しかし、固定資産のうち、土地、建物、これらに類する資産については、その引渡しの事実関係が外形上明らかでないことが多いので、譲渡に関する契約の効力発生の日の属する事業年度の益金の額に算入することもできます。

 

《登記と譲渡》

「土地を売ったことを税務署に知られたくないので」という理由から所有権移転の登記をしないことがあります。しかし、上記から法人税法は登記の有無を引渡しの要件とはしていないことがわかります。なぜならば、登記は第三者に対する対抗要件であるからです。

 

5 利子、配当、使用料などの収益

 

(1)利子

貸付金、預金、貯金または有価証券から生ずる利子の額は、その利子の計算期間の経過に応じてその事業年度についての金額をその事業年度の益金の額に算入します。いわゆる発生主義によって収益を計上するということです。しかし、金融業や保険業以外の会社については、支払期日が1年以内の一定期間ごとに到来するものの額につき、継続適用を要件として、その支払期日の属する事業年度の益金の額に算入することもできます。いわゆる重要性を考慮して、収益の額に占める利子の比率が低い会社については厳密な処理を求めていません。

なお、貸付金の利子について一定の事情により相当の期間未収となった場合には上記に基づく処理を要しません(相手先が債務超過に陥っている、会社更生法の手続を開始したなど)。

 

(2)配当

剰余金の配当(株式または出資)は配当の効力の生ずる日、投資信託の収益の分配は計算期間の末日といった具合に支払いを受ける前に益金としなければなりません。ただし、継続適用を条件に、支払を受けた日の属する事業年度の収益の額とすることもできます(支払を受けた日が支払に通常要する期間であることが必要です)。

 

(3)使用料(家賃など)

契約または慣習によりその支払を受けるべき日の属する事業年度の益金の額に算入します。ただし、契約についての係争があり(使用料の額の増減についての係争は除きます)使用料の額が確定せず、支払を受けていないときにはこの限りではありません。

 

(4)保証金のうち返還しない部分

賃貸借契約において保証金や敷金として受け取った金額のうち、期間の経過や契約終了前の一定の事由の発生により返還しないこととなる部分の金額は、その返還しないこととなった日の属する事業年度の収益の額とします。

 

6 延払基準

 

上記のとおり、棚卸資産の販売、請負、固定資産の譲渡などの収益については、たとえその代金が未入金であっても、その引渡しなどがあった日の属する事業年度に収益として計上しなければなりません。しかし、代金の支払が長期分割である長期割賦販売等である場合には、代金の回収に見合って収益を計上する「延払基準」の採用が認められています。

 

(1)長期割賦販売等とは

●月賦、年賦その他賦払いの方法により、3回以上に分割して対価の支払を受けること

●引渡し期日の翌日から最後の賦払金の支払期日までの期間が2年以上あること

●いわゆる頭金の合計金額が、対価の2/3以下となっていること

 

(2)適用するための要件

●ひとたび延払基準を適用した長期割賦販売等については、毎期継続適用すること

●確定した決算において延払基準の方法によって経理すること

 

(3)計算方法

●当期の収益とすべき対価の額=長期割賦販売等の対価の額×当期の賦払金割合

賦払金割合とは、「長期割賦販売等の対価の額」に対する「当期に支払期日が到来する賦払金の合計額(前期までの分は除き、翌期分の前受けは含みます)」の割合です。

 

7 長期大規模工事の請負についての工事進行基準

 

工事(請負)については完成引渡しのときに収益を計上するのが原則です。しかし、工事のうち長期大規模工事の請負に該当するものについては、工事の進行割合に応じて収益を計上しなければなりません。

 

(1)長期大規模工事とは

●着手の日から契約において定められている目的物の引渡しの期日の日までの期間が1年以上あること

●請負の対価の額が10億円以上であること

●対価の額の1/2以上が引渡しの期日から1年経過後に支払われることとはなっていないこと

 

(2)計算方法

●当期の収益とすべき請負の対価の額=工事の請負の対価の額×工事進行割合−前期までに収益に計上した金額

工事進行割合とは、工事原価の額のうちのすでに投入した原価の割合など工事の進行度合として合理性のあるものをいいます。

 

(3)一般工事についての選択適用

工事完成基準との選択が認められます。

 

 

《次のような場合の収益はどうなるのか?》

 

●仕入先から得意先へ直送される商品

●外部倉庫にある商品を移動することなく販売した

●代金も全額受け取っているが預っている商品

●完成後に追加工事の依頼があった

 

上記については、通達上も明確な見解はありません。収益の内容は無数にあり、しかも日進月歩であることから、すべてのルールを明文化するのは不可能です。そんなことから、明文化された具体的なルールがない場合には、企業会計や法人税法の抽象的ルール(精神や法的趣旨など)を基に各納税者が自主的に判断するしかないのです。

ここに企業会計や法人税法の難しさがありますが、それは同時に各人の自主性が尊重されるという素晴らしい制度でもあります(自主性に甘えてはいけないのは当然です)。

 

 

目次