利益と法人税1/11

法人税を納めなければならないのか?

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪法人税とはどのような税金か≫

 

「当期は黒字なので法人税を納めなければならない」

「事業を永続させるために利益は出さなければならない。でも、法人税の納税がつらい」

「取引銀行との関係上、赤字では都合が悪い。苦しいけど法人税を納めよう」

 

大変よく聞く言葉です。法人税は、株式会社、有限会社などの普通法人や学校などの公益法人の「所得」に対して課税される税金です。法人税はいわゆる国税であり、申告・納税などをする窓口の役所は税務署です。一般論としての「所得」とは、ある者が一定期間に得た収入からそれを得るための支出を差し引きしたもの(正味の成果)であり、会社においては損益計算書から導き出される「利益」にほかなりません。

 

【ご注意】

法人税はあらゆる種類の法人に課税されますが、

このページでは会社(株式、有限、合名、合資)を前提に説明させていただきます。

 

 

1 企業会計と法人税法

 

法人税法(法人税の納税義務者、計算方法その他を定めた法律)における「所得」は、必ずしも、というよりも多くの場合に企業会計における損益計算書の「利益」とは一致しません。それは、両者の用いられる目的、法的な根拠が異なるからです。

「特定の産業を育成するために税制上の優遇をすべきだ」「景気浮上策として・・・」など、税制が経済政策の手段に用いられることは誰もが知ることです。それに対して企業会計(会社の計数を中心とした情報を報告する技術、理論、法制、慣習など幅広い意味があります)の目的は「真実の報告」であります。企業会計と法人税法は密接不可分の関係(利益から所得が導かれる)にありながら、最終的には利益と所得が異なってしまうことは宿命と考えなければなりません。企業会計が民間の私的な関係における情報提供や利害調整の手段であるのに対して、法人税法は国家が民間企業に明瞭かつ公平に課税する手段であることから両者が異なるのは当然です。

 

(1)企業会計における利益

時代の流れや社会経済情勢によって異なってきます。現在、企業会計の利益は「株主への配当可能利益の算出(株主の権利と債権者保護の調整)」「利害関係者(株主、投資家、債権者など)の意思決定のための報告」を主目的としています。そこでの利益は、信用経済と企業の継続性を前提としていることから、単なる現金の収支ではなく、発生主義、費用収益対応などの諸原則に基づき一定期間(事業年度)ごとの利益を、営業損益、経常損益、純損益の区分計算の結果として計算されます。(法人税法の所得が益金マイナス損金であるのと対照的です。)

 

(2)法人税法における所得

法人税法においては次のように定められています。

●各事業年度の所得の金額は、その事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする。

益金の額に算入する金額は、別段の定めのあるものを除いて、資産の販売、有償または無償による資産の譲渡または役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものについての収益の額とする。

損金の額に算入する金額は、別段の定めのあるものを除いて次に掲げる金額とする。

収益についての売上原価完成工事原価その他これに準ずる原価の額

販売費一般管理費、その他の費用(償却費以外の費用で債務の確定しないものは除く)の額

損失の額で資本等取引以外の取引によるもの

収益の額、原価の額、費用の額、損失の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。

「収益」「原価」「費用」「損失」はいずれも、企業会計における概念であります。以上から、法人税法の「所得金額=益金の額−損金の額」は、「別段の定め」がある場合を除いて企業会計の利益の額から導かれることを理解できます(法人税法独自の目的がある場合には企業会計上の利益の額に調整を加えるということです)。

 

2 確定決算基準

 

法人税法における所得金額が企業会計の利益の額から導かれる以上は、法人税の計算は会社の決算が確定しなければ行うことができません。

企業は株主や債権者などの利害関係者が存在する限り、法的な要請によらなくとも決算報告を行う必要があります。しかし、企業の決算報告の重要性からして、企業会計については会社法(すべての会社)と金融商品取引法(株式公開企業)という法律が存在します。

法人税法の計算は、決算報告という企業としての当然の行為が、所定の法的手続(会社法)に則って行われていることを要件としています。

 

《決算の確定》

株式会社においては株主総会、有限会社においては社員総会、合名・合資会社については総社員の同意を受けることによって決算は確定します。なお、中小零細企業においては改まった形式の株主総会などが開催されていないことがありますが、そのような場合でも、暗黙の了解がなされているのが通常であることから決算が確定していることになります。

 

《会社法と金融商品取引法》

会社法はわが国のすべての会社に適用され、金融商品取引法は株式を公開している会社(株式を証券取引所などで売買できる会社)に適用されます。両者とも決算報告について規定していますが、両者ともに適用される会社であっても利益の額は同一となります。会社法が債権者保護と株主への配当可能利益の算出のために会計についての定めを設けているのに対して、金融商品取引法は投資者(現在株主と投資の意思決定をしようとする者)への情報提供を目的としています。つまり、決算書の利益の額は同じであっても、決算報告の様式、内容、範囲、タイミングが異なってくるということです。

 

《会計や簿記の教科書》

市販されている会計や簿記の教科書の多くは、基本的には会計理論を説明しつつ会社法や金融商品取引法についても触れています。つまり、企業が会計を行う必要性やその方法を説明し、それを前提に会社法や金融商品取引法の制度についての説明をしています(法人税法については触れていないことが通常です)。

 

3 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(会計基準の尊重)

 

法人税法における所得金額は益金の額から損金の額を差し引いて計算します。益金は企業会計における収益、損金は企業会計における原価、費用、損失である以上、法人税の計算においても会計基準が尊重されるのは当然です。

 

4 法人税法における別段の定め

 

法人税法における所得金額の計算が公正な会計基準に基づくといっても、両者の目的が異なる以上は法人税法の立場から何らかの修正を行う必要があります。そこで、法人税法においては「別段の定め」を設けて、企業会計上の利益の額を法人税法の目的にかなうように調整しています。ある意味で、法人税法は税の理論、目的、精神を企業会計上の利益に反映するための法律であると考えることができます。また、税においては、公平性(異なる納税者の条件が同一ならば、税額は同額とならなければならない)を確保しなければならないことから、企業会計においては企業の自主的判断や選択に委ねている事項についてまで、敢えて規定を設けていることもあります。

 

《「別段の定め」の性質》

「別段の定め」は次のとおりに分類されます。

●会計処理の基準を確認するもの

●会計処理の基準を前提としながら画一的処理の必要性から統一的な基準を設定しているもの

●租税政策または経済政策の観点から会計処理の基準の例外を認めているもの

 

《法人税法の逆基準性》

法人税法の本来の姿からすれば、法人税法は租税政策または経済政策の観点から会計処理の基準の例外のみ定めれば足ります。しかし、現実には、本来は会計基準において定められるべきものまでが法人税法において定められています。これは、会計基準が総括的、観念的であり、さらには大企業を前提としていることから、すべての会計処理について網羅していないことによります。つまり、会計基準の一部は法人税法によって補完されていることもあるのです。

 

《税務調整》

企業会計における利益を法人税法における所得に調整することを税務調整と呼んでおり、その方法は次の二種類に分類されます。

●決算調整(例)減価償却費の損金算入

決算(利益の計算)の段階において処理を要する調整をいいます。

●申告調整(例)寄附金、交際費、過大役員給与の損金不算入

申告書において調整することをいいます(決算=利益が確定した後に調整する)。

 

5 損金経理

 

これが企業会計と法人税法の関係を複雑にしています。損金経理とは、特定の損金については、確定した決算(上記2)において原価、費用、損失として処理することを要件に、法人税法が損金として認めるということです。つまり、決算書においては原価、費用、損失として処理はせず、申告書における所得金額の計算においてのみ損金として減額することができないということです。

「決算書は税務署のために作る」「この費用は税務署が認めてくれるのか」「金融機関との関係上費用を減らしておこう(利益を増やすことに対して税務署は文句をいわない)」などの考えが経理作業を支配することの原因は、この損金経理にあります。

しかし、税務署は「決算書を書き直してください」という権限はありません。「この決算書(帳簿)からすれば、申告書はこのように書いてください」という権限しかないのです。

 

6 法人税の申告書

 

法人税の申告書をご覧ください。いずれの用紙も右肩に縦書きで「別表(漢数字)」と書かれています。別表四(所得の金額の計算に関する明細書)の上部に横書きで、「区分」「総額」「処分」と書かれています。「総額」のすぐ下に数字が書かれているはずです(その数字の左には「当期利益又は当期欠損の額」と書かれています)。これは、損益計算書の当期利益にほかなりません。別表四は、企業会計における利益と法人税法における所得をつなぐ役割を果たしています。

さらに別表四を読み進んでください。「当期利益」の下に「損金の額に算入した法人税」「損金の額に算入した都道府県民税・・・」などが並んでいます。その左に縦書きで「加算」と書かれています(「加」と「算」がかなり離れていますが)。「加算」の下には、同じく縦書きで「減算」と書かれています。さらに一番下には、今度は横書きで「所得金額又は欠損金額」と書かれています(計算結果がプラスの場合は所得、マイナスの場合は欠損です)。

別表四は、「当期利益+加算−減算=所得金額(益金−損金)」という、企業会計上の利益から法人税法上の所得を導くプロセスにほかならないことをご理解いただけるかと思います。さらに、別表四の所得金額は別表一に転記され法人税額の計算が行われています。

 

《申告書の実際》

多くの企業(特に中小の会社)において申告書での調整事項が少ないのが現実です。「税務署が認めてくれない費用ならば」と考え、企業会計の理論上は処理しなければならない費用を計上しないからです(加算される項目は税金と交際費以外ほとんどありません)。

 

《繰延税金資産》

繰延税金資産とは税金の前払いです。企業会計上の費用が法人税法上認められるのが翌年度以降になる場合(申告書では加算されます)、企業会計においてはその費用に対する税金を「前払いの税金」と考えます。法人税法では認められない貸倒損失を企業会計上は処理することがその典型です。

 

7 事業年度

 

利益、所得ともに一定期間のフローを表します。そんなことから、定款で定められた会社の事業年度が利益、所得を算出する期間とされています。

 

《税務調査で否認事項がなければ決算書は完璧!?》

 

「税務署は、収益は多く、費用は少なめにしておけば文句はいわない」。この考えには一理あります。確かに、税務署にとっては問題のない会社(過少な税額で申告していない会社)なので、調査対象には選定しないでしょう。しかし、税務署は、(収益を多く計上している会社に対して)「もっと(収益を)減らしてよいですよ」、(費用を少なめに計上している会社に)「もっと(費用を)増やしてよいですよ」、さらには「税金はこれで十分なのですが、この決算書の書き方では銀行が会社の内容を把握できませんよ」「今年は株主に○○円配当してあげてください」などのアドバイスをくれません。

 

税務署の顔色しかうかがっていない決算書には、次のとおりの致命的欠陥があります。

 

(1)勘定科目の名称や配列が不正確である

税務署に提出する決算書においても、勘定科目を正確に用いる必要があります。しかし、「売掛金と未収入金」「買掛金と未払金」などの類似する勘定科目の区分が不正確でもなんら問題とされないことがあります。売掛金も未収入金も共に収益の反対勘定であることから収益さえ正確に計上されていれば、買掛金と未払金も共に費用の反対勘定であることから費用さえ正確に計上されていればよいのです。

前述のとおり所得金額は「益金の額−損金の額」として総額で計算されます。しかし、企業会計においては「営業利益」「経常利益」「当期利益」といった具合の最終的な利益の算出プロセス(会社が稼ぐ仕組み)を重視します。この点についても、税務署はかなり寛容な計算を許してくれます。

 

(2)簡略な経理処理方法を多発している

法人税法は、わが国に星の数ほどあるすべての会社を対象としています。会社の規模や経理能力は千差万別です。法人税法においては、あらゆる会社にとって事務処理の負担が必要以上に重くならない方法を基準としているのが通常です。つまり、事務能力の高い会社にしかできない過重な方法、過重な方法に耐えうる会社にのみ税額計算が有利になることを排除しているのです。

 

(3)そのまま株主や債権者への報告資料として使えない

(1)と(2)から税務署の顔色のみをうかがって決算書を作成していても、株主や債権者(金融機関など)から決算内容についての疑問や不信感を抱かれることは大いにあるということをご理解いただけると思います。

法人税法は租税計算に関する法律であり、税務署は法人税法に照らして会社の租税計算が正しく行われていることを確かめます。つまり、法人税法に企業会計の目的である「株主や債権者との利害調整」や「会社としての情報提供の方法」を求めること、税務署にこれらが正しく行われていることの「証明」をもらうことは的外れであるということです。

 

【決算書は何種類か作成しなければならない?】

敢えていうならば、「帳簿と利益(当期利益)はひとつ。決算書の様式は複数」ということです。

税務署に申告書の「添付書類」として提出する決算書は、ある意味で粗雑で、所得金額算出のスタートである利益の額さえ正確に計算されていれば問題ありません。また、決算書が多少不明瞭であっても、税務署は職権による質問や税務調査での追及が可能です。

一方、株主や債権者に対しては経営者としても「わからないことは勝手に調べろ!!」というわけにはいきません。また、株主や債権者としても「強制的に調べさせていただきます!!」というわけにはいかないのです。

以上から、株主や債権者への決算報告は税務署への決算書よりも詳細に行わなければなりません。金融機関が税務署に提出した決算書に対して、「この勘定科目のより詳細な内容を教えてください」などと質問してくるのは当然のことなのです。

 

【当社には監査役がいます・・・】

公認会計士による会計監査(経理内容のチェック)が義務付けられている大規模な会社(資本金5億円以上あるいは負債総額200億円以上)を除いて、監査役が会計監査を行わなければなりません。この会計監査は税務署のためではなく、株主や債権者の利害調整手段としての決算書が正しく作成されているかを確認するために行います。

しかし、多くの中小零細企業は、法形式を満たすための監査役を最低1名選任している(現行の会社法では監査役を設置しないこともできます)ことは誰もが知るところであり、会計監査は有効に機能しておらず正確な決算書作成のために役立っていません。

 

【税理士に経理を見てもらっている!!】

わが国のほとんどの中小零細企業(法人)には税理士が関与しています。そして、法人税の計算には決算書が必要であることから、申告書作成のみならず記帳までも税理士が行っていることがあります。税理士の第一義的な役割は、会社から提出を受けた決算書に基づいて申告書を作成することです。現状のような税理士の関与形態は、本来の税理士の役割からすれば異常なのです。当然、税理士が作成した決算書だからといって100%信用できるわけではありません(税理士に決算内容を証明する権限はありません)。

 

正確な決算書作成は経営者の義務です!!

 

有能な監査役がいる、あるいは公認会計士の監査が強制されている会社(資本金5億円以上あるいは負債総額200億円以上)であっても、正しい決算書を作成するのは経営者の責任であり、その決算書を承認するのは会社のオーナーである株主です(公認会計士の適法意見がある場合には株主総会では決算報告のみとなります)。法人税の計算は決算書作成の付録にすぎないのです。しかし、多くの中小零細企業が「決算書は税務署のために作成する(作成するのは税理士)」と考えているのがわが国の実情です。とんでもない誤解です。

 

《企業会計の基準!?》

 

わが国における会計基準としては、「企業会計原則(昭和24年に経済安定本部の企業会計制度対策調査会、現在の金融庁企業会計審議会)」「会社法」「財団法人財務会計基準機構・企業会計基準委員会の各種会計基準」が明文化されたものです。しかし、これらは、内容が古く現状に沿わなくたってしまっているもの、特定の大企業を前提とした特定の会計処理についてのものであるのが実情です。

昨今では、随分と企業会計に対する関心も高まり、会計用語も一般化しているとはいうものの、まだまだ特定の会計処理に窮することも多く、特に中小零細企業では、「決算書は税務署のために作成する(作成するのは税理士先生)」から抜け出したくとも抜け出せないのが実情です・・・。

ただし、法律により強制的に計算しなければならない法人税の計算に対して、企業会計には自主性と誠実性が必要とされます。経営者は「法律が無いから」「明文化された会計基準が無いから」ではなく、すすんで企業会計の目的や理論を受け入れ、正しい決算書を作成する姿勢が必要ではないでしょうか。それが、やがては「会計基準」となるのですから。

 

 

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