試算表(業績の把握)1/7
2002年9月30日公開、第1回更新2004年8月31日
第2回更新2007年7月11日
作成者 公認会計士 築山 哲
■目次■
1/7(このページ)≪業績とは≫≪損益計算書の前提≫≪損益計算書の様式≫
2/7≪販売実績の把握≫(売上高)
3/7≪購買実績の把握≫(仕入高)
4/7≪売上原価≫≪諸経費≫≪金利≫≪法人税≫≪消費税≫
5/7≪部門別損益計算≫≪原価計算≫
6/7≪業績の予測≫≪業績と資金繰り≫≪業績と貸借対照表≫
7/7≪現金主義の欠点≫≪業績に関する指標≫≪業種による損益計算書の様式の違い≫≪組織的問題≫
このページとともにご覧ください。
≪業績とは≫
「業績の向上」、「業績の悪化」とか、広く世間一般でいわれることです。しかし、その割には「業績とは」との問いかけに対して明瞭な説明はできません。「売上高の拡大」、「利益率の向上」、「コスト削減」などはいずれも業績に関する言葉です。どうやら、業績という言葉の意味や、それを表す具体的数値が何なのかは状況によって変わってくるようです。
会計の世界において業績を表すのは「損益計算書」です。会計用語において業績は「経営成績(利益)」と呼ばれ、それは複式簿記という記録技術と会計基準というルールにより算出されます。業績という言葉は多様な意味で使われます。したがって、それを明らかにするためには多様な検討が必要です。そこで、どの企業も作成しなければならない、会計の主産物である損益計算書を活用することは一つの手段ではないでしょうか。
≪損益計算書の前提≫
損益計算書により表示される業績は、下記のとおりの前提(仮説、仮定、ルール)に基づいて算出されます。素人には大変理解しづらいかもしれません。
1 発生主義会計
費用と収益を入出金(収入と支出)にかかわらず計上し、その差額としての利益を算出します。しかし、費用に前後して支出(現金の流出)が、収益に前後して収入(現金の流入)が必ずありますので、時間的なずれはあるというものの、費用は支出に収益は収入に一致することになります。(いったん計上した費用と収益に、後日入出金の裏づけがないことが判明すれば、費用と収益を取り消さなければなりません。)
2 会計期間
企業活動の継続性(企業は永久に続くこと)を前提とすることから、人為的に会計期間(事業年度と同一で通常は1年)を設けます。(企業の活動期間が有限でしかも短期間であるならば、会計期間は活動開始から活動停止までとなります。)
3 信用取引
信用取引(商品やサービスの代金決済を事後的に行う)の発展が、上記1の発生主義会計を生成させる時代的背景のひとつです。(入出金で費用と収益の計上をしていたら正確な利益を計算できません。)
4 費用と収益の数会計期間への配分
特定の費用と収益は数会計期間へ配分します。このことは、上記2の会計期間を設けること(企業活動が継続すること)から当然のことです。たとえば、ある費用(支出)が数期間に計上されるべきものである場合には、特定の会計期間の費用とするのではなく数会計期間へ配分します(設備投資の費用を減価償却により数会計期間にわたって費用配分するなど)。
5 費用と収益の対応
費用は収益という成果を生むための犠牲です。一会計期間における費用と収益は対応関係になければなりません。これは、合理的な期間損益計算、つまり一会計期間の成果である収益から犠牲としての費用を差し引いた利益を算出するためには当然のことです。
6 相対的真実と会計処理の継続
発生主義会計においては数多くの仮定や見積りが介入します(利益は入出金という客観的事実から導かれるのではない)。その意味で、発生主義により計算される利益は唯一絶対的な金額ではなく、「妥当とされる会計処理」を選択しそれを「継続適用」することによって始めて一定の尺度になるということです(このことを学問上は「相対的真実」と呼んでいます)。(同一の事象の処理が各企業によって異なっていれば企業間の比較はできません。また、会計期間によって異なっていれば期間比較が行えません。)
7 費用と収益の計上基準の多様性
費用と収益をいつどのような金額で計上するかについての基準は、その費用と収益を発生させるにいたった事象の内容によって異なってきます。商品の販売(収益)、利息の受け取り(収益)、人件費の支払い(費用)、設備の購入(費用)などまったく性質の異なる事象ですので、計上基準も異なってきます。
《会計の書物》
「費用と収益を発生主義により計上しなければならないこと」、「会計処理は継続適用しなければならないこと」、「費用と収益は対応関係になければならないこと」などの「原理や原則」はどの書物にも書かれています。しかし、その原理や原則に至るまでの説明は十人十色です(ときには意固地な説明がされていることもあります)。そんなことから、一冊の書物で理解できない場合には(筆者との相性が悪い?)他の書物を読んでみることも必要です。
《収入と収益》
収入(入金)のすべてが収益となるわけではありません。収入のうち収益となる主なものは次のとおりです。
●本業の対価(販売代金)
●保有資産(株や不動産)の売却代金
●資産の運用益(利子や配当)
収益は収入のうち、企業が「何らかの価値を生み出した部分」と「価値を得た部分」に限定されます。
たとえ収入であっても次のようなものは収益とはなりません。
●株主からの出資
●金融機関からの資金調達(借入金)
これらは、今後価値を生み出すための「元手」にほかなりません。
収入と収益には時間的なずれがあります。
収益は発生主義により計上します。つまり、収入となることが確定した時点(商品の販売の場合には引き渡した時点)で収益を計上します。つまり、収益は収入に先行するのです(収入が収益に先行する場合もあります)。
以上のことは、専門家(公認会計士、税理士、税務署など)にとっては常識です。そんなことから、会計の書物でもこの件については詳細に説明されていません。しかし、一般の人は戸惑うと思います。
《支出と費用》
支出(出金)のすべてが費用となるわけではありません。支出のうち費用となる主なものは次のとおりです。
●収入を獲得するための直接的な支出(仕入代金、製造費用)
●収入を獲得するための間接的な支出(事務所家賃、電話代、事務員給与、広告費など)
●会社運営のための(収入を得うるための)資金を調達するための支出(借入金の利息)(注)
(注)少しむつかしいかもしれませんが、株主から資本金を調達するための対価(支出)である配当金は費用とはなりません。これは、収益マイナス費用である利益の分配だからです。
次のようなものは、支出であっても費用とはなりません。
●他の会社や経営者・従業員に貸したことによる支出
●会社運営とは無関係な支出(処理上は上記と同じになります)
●借入金の返済(利息部分は費用となります)
支出と費用には時間的なずれがあります。
費用は発生主義により計上します。つまり、費用が発生した時点(物やサービスを消費した時点)で費用を計上します。つまり、費用が支出に先行する(代金は払っていないが消費している)、支出が費用に先行する(代金は払っているけれども消費していない)場合があるのです。
収益の意味については一般の人でも比較的理解しやすいのですが、費用については理解することがむつかしいかもしれません。なぜならば、収益の大部分が会社の本業からもたらされる収入であるのに対して、費用の内容は広範であるからです。上記の「収入を獲得するための直接的な支出(仕入代金、製造費用)」はまだしも、「収入を獲得するための間接的な支出(事務所家賃、電話代、事務員給与、広告費など)」は、個々の支出に関して非常に解釈に迷うことがあります。たとえば、経営者が大変親密にしている得意先を接待した支出が、「収入を獲得するための間接的な支出」=「会社のための支出」であるのか、経営者の個人的支出(得意先との単なる遊興)であるのか(この場合には経営者への貸付金となります)などはその典型です。
《原価、費用、損失》
論者によって定義は異なりますが、おおむね次のとおりに要約されると思います。
●原価・・・売上高(収益)と明確な対応関係にある商品や製品の購入あるいは製造に直接要した支出(費用のうち収益と明確な対応関係があるもののみが原価となる)
●費用・・・原価のように収益との対応関係は明確ではないけれども事業活動に必要不可欠な支出
●損失・・・原価、費用以外のどちらかといえば予期しなかった(事業活動に役立たない)支出
上記のような区分ができるとはいうものの、一般的にはこれらを総括して費用と呼んでいます。
《収益と利益》
利益は収益から費用(または原価と損失)を差し引いたものであります。「増収増益」とは収益(その大部分は企業の根源的収入である売上高)が増えると共に、収益から費用を差し引いた利益も増えるということです。
収益と利益がこのような厳密な使い分け、つまり、収益=総額、利益=差引き額となっていない場合があります。たとえば、有価証券(株式や公社債など)の売却の処理は「売却代金という収益」から「購入代金という費用」を差し引くという取引に分解されますが、損益計算書においてはその差引き金額を収益として計上します。また、下記の≪損益計算書の様式≫の損益計算書の区分計算のとおり、本来は収益であるものが「特別『利益』」という名称で表示されています。
《利益と損失》
利益(収益−費用)がプラスである場合(いわゆる黒字)に対して、マイナスである場合を損失(いわゆる赤字)といいます。しかし、上記の《収益と利益》と同様に、本来は費用と呼ぶべきものが損失という名称で計上されている場合があります。
《計上する》
収益や費用など勘定科目としての記録が必要な出来事が生じ、帳簿に記録することをいいます(当然、最終的には損益計算書に集計され利益の計算に影響します)。実務上、収益の場合は「上げる(売上に上げる)」、費用の場合には「落とす(交際費で落とす)」といいます。
≪損益計算書の様式≫
このページでの損益計算書あるいは試算表は、多くの財務会計ソフトで採用されている次の様式を前提とします。一般に試算表(月次決算)という場合はこのような様式を指します。
勘定科目 |
前月繰越 |
当月借方 |
当月貸方 |
当月残高 |
売上高 |
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売上原価 |
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売上総利益 |
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販売費及び一般管理費 |
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営業利益 |
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営業外収益 |
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営業外費用 |
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経常利益 |
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特別利益 |
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特別損失 |
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当期利益 |
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法人税等 |
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税引後当期利益 |
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(注)上記の勘定科目は各勘定科目の合計であり、実際は、販売費及び一般管理費は「給与手当、賞与、地代家賃、減価償却費・・」といった具合に細分化されています。また、売上総利益、営業利益などの差引計算の結果は勘定科目と呼ぶ性質のものではありません(詳細は下記をご覧ください)。
上記の試算表の当月残高において次のとおりの関係が成り立ちます。
●売上高(収益)−売上原価(費用)=売上総利益(利益)
●売上総利益(利益)−販売費及び一般管理費(費用)=営業利益(利益)
●営業利益(利益)+営業外収益(収益)−営業外費用(費用)=経常利益(利益)
●経常利益(利益)+特別利益(収益)−特別損失(費用)=当期利益(利益)
●当期利益(利益)−法人税等(費用)=税引後当期利益(利益)
【売上高】本業の収益です(商品販売業の場合にはその販売代金)。
【売上原価】本業の収益を得るため直接要した費用です(商品販売業の場合には販売した商品の仕入値)。
【売上総利益】俗に粗利益と呼ばれるもので本業の利益です。
【販売費及び一般管理費】会社を維持してゆくための費用です(人件費、事務所家賃など)
【営業利益】粗利益(売上総利益)から維持費用(販売費及び一般管理費)を差し引いた利益です。
【営業外収益】本業以外の収益のことです(余裕資金の運用益(預金利息、株式配当金)など)
【営業外費用】本業以外の費用のことです(借入金の利息がその典型です。会計において資金調達活動は企業の陰の活動と捉えその費用は営業外費用とします)。
【経常利益】営業利益(本業の儲けから)に本業外の収益と費用を加減算した利益です(経常とは常に発生する性質であるということです)。
【特別利益と特別損失】特別に発生した(経常ではない)収益と費用です。
【当期利益】常に発生するという性質の収益と費用の差引計算(経常利益)に突発的要素(特別利益と特別損失)を加減算した利益です。
【法人税等】法人税等(法人税、住民税、事業税)は当期利益の一定率を納税しなければなりませんので当期利益から差し引きします。
【税引後当期利益】会計期間の全ての収益から費用を差し引いた利益です(法人税等も費用にほかなりません)。
(利益がマイナスの場合)上記の売上総利益などがマイナスである場合には「・・・損失」として表示します。
●全ての収益(売上高(収益)+営業外収益(収益)+特別利益(収益))−全ての費用(売上原価(費用)−販売費及び一般管理費(費用)−営業外費用(費用)−特別損失(費用)−法人税等(費用))=税引後当期利益
●(収益の場合)前月繰越−当月借方+当月貸方=当月残高
●(費用の場合)前月繰越+当月借方−当月貸方=当月残高
●(利益の場合)前月繰越−当月借方+当月貸方=当月残高
当月残高は試算表作成月までの累計を意味します。3月決算(4月から翌年3月まで)の会社の6月分の試算表では、前月繰越は5月までの累計を表し、当月残高は6月までの累計を表します。6月だけの金額は勘定科目ごとに当月借方と当月貸方に表れます(勘定科目によっては貸借ともに表れます)。
ほとんどの財務会計ソフトが最終的な利益の算出だけでなく、その算出プロセスとしての「売上総利益」、「営業利益」、「経常利益」を表示しています。また、財務会計ソフトによっては最終決算と同様の様式で月次決算書を作成する機能があります。上記の様式よりも理解しやすいかと思いますので、是非とも利用してください。さらに、複数月の推移表(比較表)を作成する機能がついている財務会計ソフトもあります。