試算表(その仕組み)1/8

2002年8月26日公開、第1回更新2004年1月14日

第2回更新2007年7月7日

 

築山公認会計士事務所

作成者 公認会計士 築山 哲

 

 

■目次■

 

1/8(このページ)≪試算表を理解する前提≫≪取引と勘定科目≫≪勘定科目への集計≫

2/8≪仕訳と借方・貸方≫

3/8≪総勘定元帳≫

4/8≪試算表≫

5/8≪月次試算表≫

6/8≪試算表と資金繰り≫

7/8≪試算表のどこを見ればよいのか?≫≪最後に≫

8/8≪追加説明≫

純資産?

 

 

このページとともにご覧ください。

試算表(業績の把握)

試算表(財政状態とは)

 

 

≪試算表を理解する前提≫

 

企業会計は複式簿記という記帳技術の上に成り立っています。すなわち、企業会計の骨格である貸借対照表と損益計算書は複式簿記の原理に基づき作成しなければなりません。複式簿記の特徴は個々の取引を両面からとらえることです。個々の取引は「仕訳」と呼ばれ「借方勘定科目」「貸方勘定科目」に分類します。

個々の取引の借方と貸方の金額は一致しなければなりません。試算表はこの複式簿記の根本原則である貸借(借方と貸方)の一致を確認するために作成されます。さらには、試算表を貸借対照表勘定科目(資産、負債、資本)と損益計算書勘定科目(収益、費用)とに分類し、そこから貸借対照表と損益計算書(以下両者を総称して決算書とします)を作成します。

 

昨今の会計ブーム(経済のグローバル化から、わが国の会計基準が抜本的に見直されたことに端を発する企業会計への関心の高まり)と財務会計ソフトの普及から従来は会計事務所に作成を任せていた試算表を、自社で作成しようと考える中小零細企業経営者が増加してきました。これは大変好ましいことです。経営者には株主や債権者などの利害関係者に業績や財産の状態を報告する(以下決算報告とします)責任があり、その責任を経営者自らが先頭に立って果たそうとすることは当然だからです。

 

一方で、企業会計、複式簿記、財務会計ソフトに対する誤った認識を抱いたまま前進し、考えていたような成果が上がらない、最悪の場合は取り返しのつかないミスをする例も数多くあります。経営者の会計知識は千差万別です。しかし、以下の点は経営者として最低限理解しておく必要があるのではないでしょうか。

 

1 企業会計は外部報告を目的としている

 

一般的に会計は次のとおりに分類されます。

 

(1)企業会計(制度会計、財務会計などともいいます)

法的な要請、すなわち会社法(すべての会社)と金融商品取引法(株式公開企業)による決算報告です。決算報告は事業年度(通常は一年)ごとに行われ、複式簿記による記帳の結果作成された貸借対照表は事業年度末の財政状態を、損益計算書は事業年度を通しての経営成績を表します。当然ですが、企業会計に法的な要請がある以上、事細かな諸基準が存在し企業はこれを遵守しなければなりません。

なお、税務申告(法人税)は企業会計の諸基準に準拠して作成された決算書に基づき行わなければなりません(確定決算主義)。

 

(2)管理会計(経営会計、未来会計などともいいます)

企業がその自由な意思に基づき行う管理や経営のための会計です。その範囲は広範で、利益計画、資金計画、予算管理、投資の効率性計算など企業の現在、過去、未来を様々な角度から計数を用いて検討や予測します。

 

2 経営者は企業会計に無知でもかまわない

 

ある意味で時流に反する(?)ことかもしれません。ただし、経営者は具体的な会計知識はともかくとして、決算書が自社の過去の行動や未来予想を映し出す鏡であることと、企業の過去の行動についての説明と未来についての方針の決定は経営者の任務であることを忘れてはなりません。決算書には、自社あるいは自身に不都合なことも表れます。「不都合は会計事務所や経理担当者が適当に隠してくれるだろう」は甘すぎます。

経営者は外部者への報告に先立って会計事務所や経理担当者から決算書の内容についての説明を受け、外部者の説明要求に対して十分な回答ができるように備えておく必要があります。なお、この外部者への説明は必ずしも経営者自身で行う必要はありませんが、回答者(会計事務所や経理担当者)の回答が「会社の見解」である必要があります。

 

3 市販の財務会計ソフトに過大な期待は抱かない

 

結論からいえば、財務会計ソフトで管理会計はできないということです。なぜならば、財務会計ソフトは外部報告を目的とする企業会計を主目的としているからです。上記1のように企業会計と管理会計に明確な境界がないこともあります。企業会計と管理会計が連動し、相互に情報を提供しあっていることも数多くあります。たとえば、営業所や物流センターからのタイムリーな管理データを基にリアルタイムに試算表を作成している会社も存在します。しかし、そのような会社のほとんどが自社独自のシステムを構築しており、膨大なコスト(システム構築と運用のコスト)を投下していることが通常です。

市販の財務会計ソフトでは、そこまではできないと考えなければなりません。

 

4 公私の区別とともに企業会計をルールとして受け入れる

 

中小零細企業では経営者の個人出費が行われやすい傾向にあります。決算書を「汚してしまう」原因の多くが経営者の個人出費あるいは独善にあります。個人出費は役員報酬の中から行い、会社の帳簿には表れないようにしなければなりません。

 

5 決算書(年度だけでなく試算表による月次決算)から経営のヒントが見つかることもある

 

上記1〜3と矛盾するかもしれません。しかし、複式簿記による決算書のメリットのひとつはその網羅性です。複式簿記は企業の全体像を把握することに関して大変優れた技法です。複式簿記が理解できなくても、会計事務所や経理担当者から決算の結果、自社がどのような状況にあるのかを説明してもらうことは有意義なことです。

 

6 中小零細企業でも企業会計の重要性は高まる一方

 

昨今、金融機関が融資審査を厳格化していることは決して一過性のものとは思えません。金融機関が正確な決算書から正確に企業内容を把握した後に、融資すべきかどうかを決定することはある意味で当然のことです。

 

7 会計は万能ではない

 

会計を正確に行っていても企業が倒産することはあります。たとえ正確な決算書であっても、倒産寸前であれば金融機関は支援を打ち切ります。また、各種の意思決定を合理的計数に基づいて行っていても、業界全体の斜陽化や予測不能な出来事により企業が倒産することはあります。残念ながら会計は万能ではありません。しかし、外部者の理解と協力を得るためには正確な決算報告が欠かせませんし、企業の意思を決定するのに合理的な計数が重大な羅針盤となることはいうまでもありません。法律、規模、業態など、さらに経済性(費用対効果)を総合的に考慮して、自社がどのように会計を行うかを決定する必要があります。

 

 

≪取引と勘定科目≫

 

1 取引

 

複式簿記の最終目的(最終的な成果物)は、企業会計(以下特別な場合を除き会計とします)における主要な報告書である貸借対照表と損益計算書を作成することです。貸借対照表と損益計算書は、一定期間(通常は一事業年度)の企業活動の結果として作成されなければなりません。つまり、一定期間の成果と犠牲、結果としての財産を一定の秩序で、網羅的、客観的に導かなければなりません。この貸借対照表と損益計算書の作成作業の出発点が「取引」の「認識」と「記録」にほかなりません。

会計における取引とは、企業の資産、負債、資本、収益、費用の増加と減少を引き起こす経済事象をいいます。会計における取引(以下において取引とします)は世間一般の取引とは異なりますが、その理由は次のとおりです。

 

(1)取引とは貨幣価値で測定できる経済事象のすべてあること

「商品を100円で販売し代金を現金で受け取った(仕入代金80円は現金で支払っている)」。これを会計的に考えると、「売上100円という収益」の発生、「現金100円という資産」の増加、「仕入(売上原価)80円という費用」の発生、「現金80円という資産」の減少という4つの要素に分解できます。この事例ならば、用語の特殊さはともかくとして、一般にも受け入れられる考えであると思います。

「現金や商品を盗まれる」、「災害で建物が潰れる」は、世間一般では取引として認識されません。しかし、会計においては資産の減少とともに費用(盗難・災害損失)が発生しますので、取引として認識する必要があります。

 

(2)取引を認識するタイミングの特殊性

(イ)信用経済

会計においては、収益や費用を入出金に先立って認識します。売上代金が未回収であっても売上(収益)として、仕入代金が未払いであっても仕入(費用)として認識します。これは、経済が信用取引(即時の現金による決済を求められない)を前提に成り立っていることから、入出金を待たずして収益や費用を認識しても支障がないことによります。

(ロ)期間損益計算(企業の継続性)

有価証券の評価損益や売上債権の回収不能額は、その金額が最終確定していなくとも合理的な見積もりが可能な以上は、収益や費用として(取引として)認識する必要があります。長期間にわたり使用される工場設備や車両などは、購入年度に費用として認識するのではなく、複数の事業年度にわたって徐々に費用として認識していく必要があります。これは、現行会計が企業の継続性を前提とする合理的な期間損益計算(人為的な会計期間(会社の場合は事業年度)の損益計算)を重要な目的とすることから、ある期間に発生している収益や費用は入出金にかかわらず認識するという「発生主義」を原則としていることによります。

 

(3)資産、負債概念の特殊性

資産の原始的形態は「現金」です。負債の典型は「借入金(いわゆる他人資本と呼ばれる金融機関などからの将来返済が必要な資金調達)」です。しかし、会計が上記(1)と(2)を前提とすることから、資産には「現金を減少させて投資しいまだ費用となっていない部分」や「販売代金で現金として回収予定の部分」、負債には「発生した費用の対価で現金による支払予定金額」も含まれることになります。

 

2 勘定科目

 

取引は、個々に発生した都度、一定のルールに従って記録してゆきます。この一定のルールのひとつが取引を勘定科目ごとに分類するということです。勘定科目は無数にありますが、その一例を示せば次のとおりです。

 

(1)貸借対照表勘定科目(一定時点の財政状態)

【資産】現金、(当座・普通・定期)預金、有価証券、受取手形、売掛金、貸付金、商品、土地、建物、備品など

【負債】支払手形、買掛金、借入金、預り金など

【資本】資本金、資本準備金、利益準備金など

上記三項目の間には、「総資産=総負債+資本」、「総資産−総負債=資本」という関係が成り立ちます。これは、おなじみの貸借対照表にほかなりません。

 

(2)損益計算書勘定科目(一定期間の経営成績)

【収益】売上、受取利息、受取配当金など

【費用】仕入、給料、交通費、通信費、支払利息など

上記二項目の間には、「収益総額−費用総額=純利益」、「収益総額=費用総額+純利益」という関係が成り立ちます。これは、おなじみの損益計算書です。

 

3 各勘定科目金額の増加、減少、発生

 

一定期間の取引は相当数になることが通常です。たとえば、現金や預金の増加減少(出入り)、仕入や売上の発生(入荷と出荷)は頻繁にあるはずです。そこで、貸借対照表勘定科目については個々の取引の増加減少の結果(一定時点)として「残高」を、損益計算書勘定科目については個々の取引の発生の結果(一定期間)として「累計」を算出しなければなりません。そして、貸借対照表勘定科目の「残高」を集めたものが貸借対照表、損益計算書勘定科目の「累計」を集めたものが損益計算書となります。

 

4 取引の二面性

 

取引には必ず二面性があります。たとえば、現金で商品を仕入れた場合、現金の減少(現金勘定)と仕入の発生(仕入勘定)が同時に起きます。この取引の二面性に着目することが複式簿記の特徴であるとともに、複式簿記による記帳が正確であるといわれる理由です。

 

5 取引の複合性

 

取引は複合的に起こることがあります。たとえば、郵便局で切手と印紙を現金払いで購入した場合、現金の減少という取引としては一つかもしれませんが、切手は通信費の発生、印紙は租税公課の発生となり費用勘定科目は複数となります。

 

 

≪勘定科目への集計≫

 

今までの説明で、取引や勘定科目の意味、取引を勘定科目ごとに集計し(加算と減算し)それぞれを割り振れば貸借対照表と損益計算書が作成できることをご理解いただけたかと思います。また、賢明な人(ある意味でずるい人)ならば、損益計算書は集計が必要であるけれども、貸借対照表は一定時点(月末や年度末)の実際の残高(現金ならば手持ち分、預金ならば通帳の残高)から作成可能であることをご理解いただけるかと思います。

もし、預金取引がなく仕入や諸経費もその場で支払い、売上代金も販売時に集金できる事業であるならば、勘定科目への集計は簡単です。以下のような表を作成していればよほど数字嫌いの人を除いて、利益の計算が勘定科目ごとにその発生源が明らかになるように行えます。

 

日付

売上

仕入

諸経費

利益

1/5

 

 -20,000

 

 -20,000

1/8

  30,000

 

 

  30,000

1/10

 

 

   -500

    -500

1/13

  30,000

 -15,000

 

  15,000

1/19

 

 

 -1,000

  -1,000

1/20

 

 

 -1,000

  -1,000

1/25

 

 -40,000

 

 -40,000

1/31

  60,000

 

 

  60,000

合計

120,000

-75,000

-2,500

  42,500

(注)諸経費とは交通費、通信費、家賃などの複数の費用勘定科目を総括した意味で用いています。

 

1月の利益合計は、売上120,000−仕入75,000−諸経費2,50042,500と容易に計算できます。また、これらのもう一面はすべて現金ですので、現金の増加は収益合計の120,000(売上)、減少は費用合計77,500(仕入と諸経費の合計)となります。月初めに現金を100,000持っていたならば、月末には利益相当の42,500を加算した142,500となります。なお、月末の貸借対照表は、資産として現金142,500、負債はなし、資本は現金と同額の142,500(内42,500は当月の増加分)となります。

 

しかし、現実の事業はこんなに単純ではありません。銀行預金口座のない事業などありえないでしょうし、売上代金の後日入金や支払代金の後日支払はごく普通のことです(いわゆる信用取引)。

銀行口座があるならば上記と同じような表をもう一つ作成すればよいかもしれません。表計算ソフトを使える人ならばそんなに難しいことはありません。しかし、現金と銀行預金間の移動という新たな項目が必要となります。なぜならば、現金と預金(ともに貸借対照表勘定科目)で勘定科目が異なり、両者間の移動で勘定科目に増減が生じるからです。また、売上や仕入などは入出金の時点ではなく、販売(相手に引き渡した)や引取り(入荷した)の時点で取引として認識しなければなりません。となれば、これをとらえるための方法を考えなければなりません。

 

会計の世界では計算結果を検証できるということが非常に大切です。上記の表であれば、収益と費用の差し引きとしての利益が現金の正味増減と一致することにより利益の計算が正しいことを検証できます。しかし、取引が複雑になるにつれて検証しなければならない項目が増加します。

取引を勘定科目に分類集計し貸借対照表と損益計算書を作成する方法は、人それぞれの方法でよいのかもしれません。しかし、一般的には複式簿記という世界共通の技術が用いられています。

 

 

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