消費税の負担(4/4)
築山公認会計士事務所
≪消費税の申告書の添付書類≫
法人税や所得税の申告書には数多くの添付書類が必要ですが、消費税の申告書にはこれといった添付書類は必要ありません。ここでの添付書類とは、税務署があらかじめ用意している申告書などの用紙以外に提出が必要な書類のことで、法人税の場合には決算書など、所得税の場合には源泉徴収票や生命保険料の控除証明書などが添付書類として必要になります。
1 簡易課税を選択していない(一般の)場合の提出書類
消費税及び地方消費税確定申告書(一般用)→税務署所定の様式
付表2 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表→同上
仕入控除税額に関する明細書(還付申告をする場合のみ)→同上
2 簡易課税を選択している場合の提出書類
消費税及び地方消費税確定申告書(簡易課税用)→税務署所定の様式
付表5 控除対象仕入税額の計算表→同上
3 税務署はどのようにして申告された消費税額の妥当性を検討するのか?
ほとんどの場合、消費税の申告書を提出する納税者は法人税あるいは所得税の申告書も提出します。ですから、会社(法人税が課税される)の場合には法人税申告書の添付書類である決算書や勘定科目内訳書(明細書)などから、個人事業者(所得税が課税される)の場合には所得税申告書の添付書類である青色申告決算書・収支内訳書などから消費税額の妥当性が判明します。ただし、最終的には税務調査で納税者の元に保管されている帳簿、請求書、領収書などを調べなければ判らないことも数多くあります。
≪税務調査の結果として消費税の課税事業者になる場合≫
法人税や所得税の税務調査で、売上などの収入の漏れを指摘され修正申告に応じ、その結果として消費税の課税事業者になってしまう場合があります。
【設例】資本金100万円の株式会社、各事業年度がいずれも12ヶ月、税務調査は第1期から第3期までについて行われたとします。
●法人税の修正申告前の売上高(消費税込で課税売上高に等しいとします)
第1期950万円(免税事業者)
第2期980万円(同上)
第3期900万円(同上)
●法人税の修正申告後の売上高(同上)
第1期1030万円(免税事業者)
第2期1090万円(同上)
第3期900万円→課税事業者
基準期間は第1期で課税売上高が1000万円(免税事業者の場合は税込で判定する)を超えています。税務署は、消費税が無申告となっている第3期について、至急、申告書を提出するように促します。
年間売上高が900万円台で推移している場合には税務調査の対象とされやすい傾向にあります。要注意です!
≪消費税の課税事業者でもないのに申告納税をしてしまった場合≫
まれにこのようなミスがあります(税理士でもミスをする場合があります)。
●今まで毎年申告してきたので惰性で申告してしまった
●基準期間という考えが理解できなかった
●基準期間を間違った
●基準期間の課税売上高の計算を間違った
消費税の課税事業者でもないのに申告納税をしてしまった場合には、税務署から電話があります。
「貴社(貴方)は消費税の申告納税義務がありませんので、納付された税金をお返しいたします。銀行と口座番号を教えてください(笑)」
このようなケースを「誤納金」といい、国にとって最初から法律上の原因を欠いた利得であることから、誤って納めた者は直ちに不当利得としてその還付を請求することができます。(税務署から電話がない場合には、自分から電話をしてください!)
《過納金》
納め過ぎた税金のことをいいます。例えば、本来は10万円納付すべきところを15万円納付してしまった場合、5万円が過納金ということです。この場合、更正の請求などの一定の手続が必要となります。
《還付金》
当初は納付の必要があったけれども、後に納付の必要がなくなった場合をいいます。法人税、所得税、消費税の予定納税額が確定申告により戻ってくる場合がこれです。
≪賃貸住宅の家賃と消費税≫
賃貸住宅の家賃は消費税が非課税です。常識です。
しかし、現実の価格交渉においては、家主が「消費税相当額」を上乗せすることがあります。これも常識です。なぜならば、家主は賃貸物件の購入や維持にあたって消費税を支払っているので、これを家賃として回収しなければならないからです。
ここで問題となるのは、家主の請求書で「消費税を明示する」ということです。
これは「非常識な」請求書の書き方です。しかし、違法とまではいえません。
消費税法という法律では賃貸住宅の家賃を消費税が非課税になる取引として明示しています。しかし、非課税となる事業をしている事業者が負担した消費税相当額が、消費者に転嫁されること自体を防ぐための規定は存在しません。
消費税が明示された請求書は書き替えてもらってもよいですが、総額自体を家主に書き替えてもらう、つまり消費税の転嫁を止めてもらうことはできません。
≪消費税の専門用語≫
下記はいずれも、前述の説明で用いた消費税の専門用語です(消費税法の条文や解説書などでの用語です)。消費税は非常にシンプルな税で、直感(算数的ひらめき)や経験による理解でも通り一遍の事務作業はできます。しかし、いざ、イレギュラーな事項を処理しようとすると、専門の解説書が必要となり、それを読みこなすには専門用語の正確な理解なくして有効な答えを導けないのが実情です。
そこで、今一度、下記の用語について角度を変えて説明させていただきます。
《国内取引と輸入取引》
消費税が国内取引と輸入取引に課税されることから、消費税法の諸規定においては両者を区分けしています。そんなことから、解説書においても「国内・・・」「輸入・・・」といった説明が数多くあります。
国内取引においては、事業者が消費者から預かった消費税を「税務署」に納税します。それに対して、輸入取引においては輸入をする者(事業者だけでなく一般人も含まれます)が「税関」に消費税を納税します(国内取引のように事業者が預かることはありません)。
事業者が消費税の納税額を計算する際には、輸入取引についての消費税は「支払う」という要素でしかなく、実務上は仕入税額控除の一要素にしか過ぎません。そんなことから、このページにおいても「国内・・・」のみについて説明している箇所が多々あります。
《資産の譲渡等》
「資産の譲渡」「資産の貸付け」「役務の提供」をいいます。消費税の解説書では、最初にこの3要素を説明した後は、「資産の譲渡等」との用語を用いています。資産の譲渡等の「等」には貸付けと役務の提供が含まれるということであり、事業者のすべてが資産の譲渡等をしているのです。
《非課税取引》
資産の譲渡等でありながら、消費税を課税しない取引をいいます。消費税の性格からして(消費ではないから)課税対象とならないもの(土地の譲渡・貸付け、有価証券の譲渡、商品券・プリペイドカードの譲渡など)、特別の政策的配慮に基づくもの(社会保険医療、介護保険サービス、学校教育、住宅の貸付けなど)があります。
《不課税取引》
資産の譲渡等に該当しない取引、国外で行われる取引(日本企業が海外で行う取引など)をいいます。当然、消費税は課税されません。資産の譲渡等でありながら非課税となる非課税取引とは異なります。
《輸出免税》
輸出取引も国内における資産の譲渡等(国内から輸出する)ですが、わが国の消費税が国内の消費に課税するという立場であることから消費税を免除しています。この場合の輸出取引には、商品の輸出は当然として、国際輸送、国際電話、国際郵便などの役務の提供も含まれます。
《納税義務者》
国内取引における消費税においては、財貨やサービスを購入するときに消費税を支払う者(税の負担者)と、それを受け取って税務署に納付する事業者(納税義務者)が存在します。輸入取引においては、課税貨物を保税地域から引き取る者(事業者に限らない)が納税義務者となります(税金の納付は税関にします)。
《免税事業者》
事業規模が一定基準(基準期間における課税売上高による判断)以下である小規模事業者については、納税事務の負担を考慮して国内取引についての消費税の納税義務を免除しています。(輸入取引についての納税義務は免除されません。)
《課税資産の譲渡等》
資産の譲渡等の内、消費税が非課税とされているもの以外をいいます。「資産の譲渡等=課税資産の譲渡等+非課税となる資産の譲渡等」ということです。
《課税期間》
国内取引に対する消費税は資産の譲渡等が行われる都度課税されますが、納税義務者は一定期間つまり一課税期間の消費税を「まとめて申告し納税」します。この課税期間は、個人事業者の場合には暦年(1月から12月)、会社など法人の場合には事業年度です。
《基準期間》
納税義務免除の有無、簡易課税適用の可否を判定するにあたって、その基準である課税売上高を算出する特定の期間をいいます。個人事業者の場合には前々年、会社などの法人の場合には前々事業年度です。
《課税売上高》
「課税資産の譲渡等の対価の額(税抜き)の合計額(輸出取引等で免税となるものを含む)」−「売上対価の返還等の金額(税抜き)の合計額」です。課税売上高は、納税義務の有無、簡易課税適用の可否、課税売上割合の計算において用いる数値です(課税売上割合の課税売上高は他のものを若干修正します)。
《売上対価の返還等》
消費税法においては、課税資産の譲渡等の後に、返品や値引きなどがある場合を売上対価の返還等として規定しています。つまり、販売後に返品や値引きなどが行われ、それが消費税の計算に影響することを考慮しているわけです。
《課税標準》
国内取引の場合には、個々の取引つまり課税資産の譲渡等が行われる都度の対価です。輸入取引の場合には、関税課税価格(通常はCFI価格)に消費税以外の個別消費税額と関税額を加算した金額です。課税貨物を保税地域から引き取る者は、その引取りの時までに申告書を所轄税関長に提出し引取りに係る消費税額を納付しなければなりません。
《課税標準額》
課税期間における課税標準を合計したものをいいます。輸出売上げの金額は含まず、売上対価の返還等を含んでいますので、課税売上高とは異なる数値となります。
《売上げに係る消費税額》
課税標準額に対する消費税額です。
《売上対価の返還等の金額に係る消費税額》
課税期間において、返品や値引きなどにより「返した消費税」の合計額をいいます。消費税の納税額を計算するにあたっては、売上に係る消費税額から差し引くことができます。
《仕入税額控除》
事業者が消費税を納税するにあたっては、課税標準額に対する消費税額から課税仕入れ等(課税仕入れと課税貨物の引取り)に係る消費税を差し引くことができます。これは事業者が税務署に納付する消費税の計算において、税の累積を防止するために行われるものです(前段階税額控除方式)。
《課税仕入れ》
事業者は、課税資産の譲渡等を行うと同時に、他の事業者などから課税資産を譲り受け、借り受け、役務の提供を受けます。課税仕入れとは、この譲り受けなどをいいます。この課税仕入れについての消費税を、申告にあたっては仕入税額控除として差し引くことができますが、差し引ける額は課税売上割合によって異なります。
《課税仕入れ等》
「課税仕入れ」と「課税貨物」をいいます。
《課税仕入れ等に係る消費税額》
課税仕入れと課税貨物に対する消費税額を合計した金額をいいます。
《貸倒れに係る消費税額》
資産の譲渡等の対価のうち、回収不能となった部分に対する消費税額をいい、課税標準額に対する消費税額から差し引くことができます。
≪まとめ≫
習うよりも慣れよ!!
「受け取った消費税−支払った消費税=納税する消費税」
消費税の仕組みなんて単純です。しかし、消費者にとっても事業者にとっても大変つらい税です。
●消費税は、広く公平に消費(財貨やサービスの購入)に課税される間接税で、理論上は負担者と納税義務者が異なります。
●実際の取引においては、消費税が明示されていないこと、消費者に転嫁されていないことがあります。
●個々の取引に、取引が行われた都度課税されます。
●国内における消費に課税されるため、国外で消費される輸出取引は免税となります。
●国内における消費であっても、非課税となるものもあります。
●納税義務者(税務署に納税する者)は、消費税を受け取る事業者です。
●小規模な事業者は、納税義務が免除されます。
●ある事業者が消費税の課税事業者であるかは第三者には判りません。
●消費税の免税事業者であっても消費税を受け取ることはできます。
●納税義務者は、一課税期間に受け取った消費税を合計して納付します。
●納税義務者は、一課税期間に受け取った消費税から一課税期間に支払った消費税を差し引いて納税します。
●受け取った消費税も、支払った消費税も、「課税期間における本体価額総額(消費税を含む価額)」から、「課税期間における消費税総額」として計算します。
●小規模な事業者は、支払った消費税についての簡易な計算(簡易課税)が認められます。
●消費税を理解するには、解説書(条文)を読むよりも、申告書の仕組みを理解するのが近道です。
●消費税の申告と納付の期限は、課税期間の末日の翌日から2か月以内(個人事業者の場合には3か月以内)です。
●消費税の会計処理には税抜処理と税込処理ありますが、両者で納税額と利益に違いはありません。
●消費税の会計処理と、実際の取引における表示は無関係です。
●実務上、消費税の計算は損益計算書をベースに行います。(収益は受け取った消費税、費用は支払った消費税と関連しているからです。)
●消費税の納税額を正確に計算するには、日頃の処理(請求書や領収書の整理、仕訳)が大切です。
●市販されているほとんどの財務会計ソフトには、消費税の計算機能(申告書作成機能)があります。
●個々の取引について複式簿記の仕訳を覚えなければならないように、個々の取引についての消費税の扱いを覚える必要があります。
●イレギュラーな事項の処理は、税務署や税理士に相談するに限ります。
●専門的な解説書など(当然このページも含みます)を読むのは時間の浪費です。