起業トラブル集
大阪市北区与力町1−5
2014年7月5日現在
起業全般につきましては、当事務所ホームページ
「よくある質問」の「起業したい(会社の設立)」をご参照ください。
起業当初は本業で精一杯です。また、サラリーマン社会からの開放感でつい羽目を外してしまいます。
下記は、起業時によくあるトラブルの一例です。いずれのトラブルも、何らかの金銭的打撃を受けます。思いもよらぬ出費は、番狂わせ、意欲喪失、最悪の場合には倒産や廃業にいたります。
「そんな硬いこというなよ」、「税理士なんて所詮は税務署の下請けだから」とお考えかもしれませんが、細心の注意が必要ではないでしょうか。
無申告(特に個人事業者の場合に多い)
個人事業者の場合は事業を開始したからといって、役所(法務局、税務署、市町村役所など)への届出は特に必要ありません。そんなことから、所得税の確定申告の時期になっても税務署から申告書の用紙が送られて来ず、申告は不要と考えてしまい無申告でいる人がいます。「払わないで済むのなら」、「どうせ儲かっていないから」と考え、場合によっては数年間無申告でいる人も珍しくありません。
しかし、税務署は様々な方法で所得を把握しています。最も一般的なのは取引先です。取引先は申告しているでしょうから、そこへの税務調査の際にいわゆる反面調査(取引先への照会)が行われ「御用」となってしまいます。
また、無申告は様々な弊害を生みます。所得税の確定申告は、「社会人のためのパスポート発行手続」です。確定申告を基に健康保険料、各種公的補助、さらにはその人の「社会的価値」が決定されます。無申告ということは所得がゼロということです。これは、融資で資金調達する場合に致命傷となります。所得ゼロでは返済能力がないわけですから融資をしてくれるはずがありません。
よくあるのは、長期間無申告の人が急に融資の申し込みが必要となり、慌てて数年分を申告するというケースです。何とか融資は受けられても、後の税務調査が大変です。一般的に、長期間無申告で期限後に申告した人の申告内容は大変不正確で、過少申告していることも多く、ほとんどの場合税務調査の対象となります。
とにかく、無申告ほど怖いものはないと肝に銘じなければなりません。起業時の無申告が、「税務署嫌い」、「経理アレルギー」を引き起こし、あえなく倒産や廃業に追い込まれる企業が数多くあります。
【なぜ、税務署はもっと親切に指導してくれないのか?】
甘いです!わが国は申告納税制度です。納税者は自ら申告納税義務があることを認識し、自らこの義務を果たすための手続をしなければなりません。「税務署が知らせてくれなかった!」は一切通用しないのです。
【なぜ、もっと早く指摘してくれなかったのか?】
税務署が無申告者に申告納税義務があることを告げてくるのが申告納税期限を数年経過してからということも珍しくはありません。これは、申告納税義務が期限から7年間消滅しないことから、複数の年度分をまとめて指摘するほうが効率的であるからです。また、無申告者に相当の所得があることを把握するための事前調査の期間も必要だからです。
【あいつは、申告などしていない!】
そのようなこともあるかもしれません。しかし、これを正当化する理由などネット上をさまよっても、何冊本を読んでも絶対に見つかりません。どうしてもそうしたいのならば、自分だけを信じてそのようにするしかありません。
【会社でも無申告】
このような大胆な会社もあります。会社の場合には登記が必要であることから、税務署に開業届を提出しなくても、税務署に会社を設立したことを知られてしまいます。税務署は開業届を提出しない会社には、開業届を提出するように何度も促します。
にもかかわらず無申告でいる会社は、これらを無視しているということです。いずれ税務署は強行な手段に出てきます
過度の節税
「社用車」「応接セット」「交際費」、起業する人の夢でしょう。「節税」は大切なことです。認められる方法の中から、少しでも税金が少なくなる方法を取ることは当然のことです。
わが国の事業に関わる税金(所得税と法人税)は申告納税制度を採用しています。まずは本人が申告書を作成提出し、後日税務署がそれをチェックし、その結果「疑義」が生じた場合「税務調査」が行われます。
税務調査は遅れてやってきます。
「税務署なんてあんな程度か」と侮り、ついついエスカレートしてしまうものです。何よりも悲惨なのは、業績下降期に全盛期の調査が行われることです。「無いから払えない」は通用しません。払うべきものを使ってまったのですから。
他人名義の利用
在職中から起業の準備をし、場合によっては営業を開始していることも珍しくありません。しかし、大半の企業が「副業」を認めていません。そこで、在職中は「他人名義」で事業を行い、退職後に名義変更することがあります。この方法は、決して間違いではありません。
しかし、次の点が問題となります。
(1)名義人は所得として認識しているか
「私は名前を貸しただけ」は典型的な逃げ口上です。名義人には自覚を促しておく必要があります。また、在職中に名義人から一定の分配を受ける場合は、事業所得あるいは雑所得として申告が必要です(これを勤務先に知られずに申告する方法はあります)。
(2)名義人は名義変更に応じてくれるか
たとえ名義人といえども「責任」が生じます。また、「欲」も出てくるでしょう。十分な取り決め、特に名義人の「対価」についての取り決めが必要です。
(3)取引先は名義変更を認めるか
すでに取引関係は「名義人」をもとに動いています。この変更が容易でない場合があります。
(4)(1)〜(3)のトラブルが原因で勤務先や取引先ともめないか
慎重な起業準備のつもりが命取りとなってはどうにもなりません。最悪、起業もできず、勤務先での評価ダウン(場合によっては解雇)も覚悟しなければなりません。
「他人名義」の活用(ともすれば悪用)は、どの世界でもあります。しかし、世の中は「名義」という「外見」を前提に動いています。在職中は勤務に専念し、退職後、起業するのが基本ではないでしょうか。
失業保険
起業し事業から収入を得ている以上、もう失業保険はもらえません。事業からの収入を他人名義で申告、あるいは無申告にしておき、失業保険を限度いっぱいもらうケースがありますが、ばれた場合は大変です。「失業保険の返金」と「納税」というダブルパンチをくらってしまいます。
出資金の返金
会社組織の場合は出資が必要です。この出資は、目先の資金の融通ではなく会社の長期的資金です。出資者にはこの点を十分に説明し、出資の見返りは「配当」であることを認識してもらう必要があります。そして、出資を回収する場合は「他の出資者」を新たに見つけ、その者へ「出資という財産を譲渡」する方法によらなければなりません。
しかし、現実には「会社の器」欲しさに出資者に十分な説明をせず、会社設立後直ちに返金する「見せ金」が行われます。ほとんどの場合、「見せ金」は決算書に明確にその形跡が残り後々まで「十字架」を背負います。
なお、融資を受けた資金で出資金を返金するのは最悪です。「出資を返済する目的」の融資など存在しないからです。特に、日本政策金融公庫や信用保証協会のいわゆる「公的融資」で出資の返金をした場合、「永久追放(今後一切の融資打ち切り)」も覚悟しなければなりません。
【最低資本金制度?】
以前は株式会社の場合には1000万円、有限会社(現在は設立できない)の場合には300万円という資本金の最低金額が法定されていましたが、現在ではそのような規制はありません。ですから、以前のように資本金の用意に四苦八苦することが減ってきました。しかし、世間は今も資本金の金額の大小を会社の評価基準としていることも多く、そのような場合には相応の資本金を確保しておかなければなりません。
融資
全額自己資金で起業するのが理想です。しかし、現実はそうはいきません。そこで、各種の融資を利用しなければなりません。一般的に利用されているのが、「日本政策金融公庫」や「信用保証協会」などのいわゆる「公的融資(あるいは制度融資)」です。これらは、かなりの低利で無担保無保証の場合もあるからです。
通常、過去に金融トラブル(クレジットカードの事故や破産者の保証人になっていたなど)がない限り、起業当初であってもスムーズに融資を受けることができます。そこで、「こんなものか」と甘く考えてしまうのが落し穴です。起業当初に受けられる融資は5百〜1千万円程度です。この金額は、平均的サラリーマンの約2年分の年収で、この程度の借金ならば健康で就業可能な人であれば誰でも返すことはできます(返済するには生活を切り詰めなければなりませんが)。何も、事業プランや事業者の能力を評価して、融資をしてくれたのではありません。
問題はこれ以降の資金調達です。「雨が降ったときに傘を貸してくれない」は、あまりにも有名な言葉です。また、融資の条件に「3期間連続して経常利益が黒字」とあるのが通常です。「うまく決算書を作れば」は甘すぎます。身の丈に応じた事業プランと、それに応じた借金が大切ではないでしょうか。
借りたい金額>貸してくれる金額>返せる金額、であることを忘れてはいけません。
ニセ税理士
税金の仕事をするには税理士の資格が必要です。「ニセ税理士」とは、税理士資格がないのに税金に関する仕事をする者のことです。口を開けば、「領収書」「帳簿」「申告期日」としかいわない「税理士」に比べ、融通の利く「ニセ税理士」は頼もしいかもしれません。しかし、税金の仕事は「申告書への署名押印」という「ケジメ」なくして果たすことはできません。「申告書への署名押印」ができない「ニセ税理士」がまともな仕事をするはずがありません。
特に起業当初は税金のことを甘く考えてしまいます。正面からよりも、裏技や抜け道を利用するのが当然と考え、とんでもない話を信じてしまうことがあります。なお、一般には、起業後直ちに税務調査が行われることはありません。ここが、「ニセ税理士」の狙いどころです。依頼者の望みどおり(?)の申告をし、それなりの報酬を得てさっさと逃げてしまうのです。後日、「強烈な税務調査」が行われるのは当然です。
そのとき、ニセ税理士はいうでしょう。
「税務署の対応は税理士さんに頼んでください」
「私は、あなたのお望みどおりに申告書を書いただけです」
悪徳税理士(実はいるんです。税理士にも悪い奴が・・・)
その是非はともかくとして、脱税相談に対して次のような対応をする税理士がいます。
「申告するのは貴方です。私は、貴方にいわれるとおりの申告書を作成するだけです」
その税理士が、後の税務調査の際にどのような対応をしているかは、容易にご理解いただけるかと思います。(無下に依頼を断ると商売にならないので、適当なところまで報酬を取って、悪事が発覚した時点で逃げてしまいます。)
このような場合に、税理士の責任がどうなるかは大変難しい問題だと思います。税理士には刑事責任と民事責任が発生するでしょうが、刑事責任はともかくとして、違法な行為をするための契約(?)に違反した場合の民事責任の追及は極めて困難らしいです。つまり、納税者が「税理士が首を縦に振ったので」と税務署に主張しても、追徴課税分を納付するのは納税者です。また、税理士に「先生(税理士)がよいといったから」と責任追及しても、税理士は「税務調査で是認されることを、約束した覚えはない(そんな約束は違法なので無効だ)」と返してくるでしょう。
悪徳税理士の根本的思想とテクニックはいたってシンプルです!
(1)依頼者はバカだ!
「依頼者は何も知らないバカだから騙してやれ」、「バカは甘い話に乗ってくる」はあらゆる悪徳商法の共通点です。
(2)税務署にばれるまでには時間がある
税務署は申告書を提出するときに、その基となる帳簿や領収書などを調べるわけではありません。帳簿や領収書などは申告書提出からしばらく経ってからの税務調査で調べます。悪徳税理士は、それまでの間の「いい人」に過ぎないのです。
(3)「査察」でなければ大丈夫
「査察」とは脱税犯を摘発するための税務調査です。悪徳税理士は、「刑事事件にならない限りとことん税金をごまかしてやれ!」と考えます。そして、依頼者からの責任追及(民事責任?)は、「煙に巻いてやれ!」と考えます。
【不都合なことを隠して税理士に依頼する】
税理士に不都合なこと(例えば特定の収入を除外している)を隠して依頼をし、税務調査で問題が発覚したときには「先生(税理士)は何もいわなかった!」と主張する。よくあることです。
多くの税理士は気がつきます。ただし、税理士にはその真偽を確かめる権限はありません。それゆえに「それとなくたずねる」、「無難な方法で断る」のいずれかということにします。
しかし、こんなことも悪徳税理士にとっては「ごちそう」です。よだれをタラタラ垂らすことでしょう。骨の髄までしゃぶられますよ!さらに、悪徳税理士は依頼者の「あしもと」を見て高額な報酬を請求してくるかもしれません。「こいつ(依頼者)、ごまかそうとしているな・・・(笑)」
無償協力者
起業時に、無報酬(極めて低報酬を含む)で協力してくれる人が現れることがあります。無報酬なので「全く仕事をしない」のは当然として(この場合は無害)、下心をもって協力している場合は大変な目にあいます。
事業が営利目的である以上、あらゆるサービスは「直接的な対価」を支払って受けなければなりません。多少安かろうと支払が遅れようと、この鉄則を絶対に破ってはいけません。どうしても無償協力者を受け入れたい場合、「経営権の譲渡」を検討しなければなりません。無償協力者を意のままに操ることなどは絶対にできません。特に起業時は、心細いので誰かにすがりつきたくなるのは人情です。また、恩返しは将来することを条件として無償協力を依頼することもあるでしょうが、無償協力者に依存してはいけません。
なお、無償協力者の「変種」として、「完全出来高協力者」が現れることがあります。「自分で稼いだ分しかいらないので」といって接近し、会社の名前を散々利用して、トラブルが起こった場合には逃げてしまいます。完全出来高協力者の特徴は次のとおりです。
(1)出資はしない
(2)役員にはならない
(3)会社の記録上(帳簿や契約書など)名前は残さない
完全出来高協力者の特徴を一言でいうと、「人のフンドシで相撲をとる」です。無知で無防備な新設企業を渡り歩き、代表者以上の実権を握っていることがあります。くれぐれもご注意ください。
安易な会計事務所(専門家)離れ
年々、起業する人の高学歴化や能力向上が進んでいます。また、起業についての情報も入手しやすく、会社設立手続は当然として設立後の経理処理、社会保険や登記手続も自身で行うケースが増加しています。
大変好ましいことです(ご立派だと思います)。なぜならば、決算書作成、給与計算、登記などは経営者の義務でありこれを主体的に行うことは当然だからです。しかし、闇雲な経費削減、外部の第三者の干渉を嫌う(聞く耳を持たない)などから、安易に会計事務所(専門家)離れする傾向があることも否定できません。
会計事務所と自社で作業する場合の違いは次のとおりです。
(1)専門能力(ノウハウと時間を買う)
経営者にとっては一生に一度の手続でも、会計事務所は何度となく経験しそれについての専門的ノウハウを有しています。
(2)客観的な視点
経営者はつい自身に有利なように判断してしまい、それが致命傷となることも珍しくありません(従業員である経理担当者も経営者に盲従します)。しかし、会計事務所ならば客観的に判断できます(融通が利かないことが会計事務所離れの原因かもしれませんが、長期的に考えればためになると思います。トラブル処理ほど後ろ向きで時間を要し、経営を圧迫するものはないからです)。
当事務所の起業時のサポート内容について説明しております。
「どうせ、教えてくれないだろう」とか「こんなことを聞くのは恥ずかしい」など考える必要はありません。
そんな「決め付け」や「ためらい」が失敗につながることや成功の芽を摘み取ることになるのですよ。