相続税の概略(4/4)

相続税の申告と納税

 

目次

 

 

11 相続税の申告

 

納める相続税がない場合にも申告をしなければならないことがあります!遺産分割の進み具合と相続税の申告期限は無関係です!

 

相続税の課税価格の合計額(遺産総額)が遺産に係る基礎控除額を超え、配偶者の税額軽減の適用がないものとして相続税額の計算を行い納める税額が算出された場合は、相続税の申告書を提出しなければなりません。

なお、「小規模宅地等の特例」を適用した結果、税額がゼロになった場合も申告は必要ですのでご注意ください。

 

(1)相続税申告書の提出期限

相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に提出しなければなりません

 

(2)相続税申告書の提出先

被相続人の死亡の時における被相続人の住所地を所轄する税務署に提出します。(被相続人の住所が国内にない場合には相続人の住所地を所轄する税務署、被相続人と相続人共に住所が国内にない場合には納税地を定めてそこを所轄する税務署に提出します。)

 

《複数の相続人で申告書を共同して提出》

同一の被相続人から相続や遺贈によって財産を取得した人のうち、相続税の申告書を提出しなければならない人が2人以上ある場合は、相続税の申告書を共同して提出することができます。

 

《申告期限内に遺産分割ができてない場合》

分割されていない財産(全財産が分割されていない場合には全財産)を、民法で規定する法定相続分または包括遺贈の割合に従って取得したものとして、各人の課税価格を計算した税額により申告します。その後、遺産が分割されたならば、修正申告(税額の増加)あるいは更正の請求(税額の減少)により、遺産分割の結果としての税額に訂正します。

 

《納税額があるのに申告しなかった場合》

税務署から、電話や書面で申告するように促されます。それでも申告に応じない場合には税務調査が行われ、その結果に基づいて相続税額の「決定」が行われます。なお、この場合の税額は、本来の相続税額のほかに無申告加算税や延滞税なども課されることとなります(期限内に自主的に申告した場合よりも税額が多くなります)。

 

《申告した税額が少なかった場合》

 納税者自らが修正申告書を提出し不足額を納税しなければなりません(不足税額のほか過少申告加算税や延滞税などが課されます)。納税者が修正申告書を提出しない場合には、税務署長が「更正」を行います(不足税額のほか過少申告加算税や延滞税などが課されます)。

 

《申告した税額が多かった場合》

 法定申告期限から5年以内ならば、その課税価格や税額を正当な額に訂正(減額)するための「更正の請求」をすることができます(申告書上で計算誤りがあった、相続財産を重複して計算していた、相続財産の評価が間違っていたなど)。しかし、法定申告期限から5年を過ぎていても、次のような理由により税額を計算し直した結果、税額が減少する場合には更正の請求ができます。(平成23年12月2日以前が法定申告期限である申告については「5年」が「1年」となります。)

●申告の基礎となる事実に関する訴えについての判決があった

●申告に含めていた相続財産が他の人に帰属することになった

●遺産分割が行われた(申告時は法定相続分によっていた)

●認知などによって相続人に異動が生じた

●遺留分の減殺請求による返還・弁償が行われた

●遺言書が発見された

 

《遺産分割のやり直し》

 いったん遺産分割が整いそれにしたがって相続税の申告した以上は、遺産分割をやり直して再度相続税額を計算すること(修正申告、更正の請求など)はできません。ただし、その遺産分割が無効である場合(特定の相続人を騙して遺産分割をするなど)には、遺産分割をやり直して再度相続税額を計算することができます。このような特定の場合を除いて、遺産分割後の相続人間での財産の移転は贈与税が課税される対象となります。

 

《実際の遺産分割とは異なる相続税の申告》

当然このようなことは認められません。相続税の修正申告や贈与税の課税など計り知れないトラブルが発生しますので、絶対にこのようなことはしないことです。

 

 

12 相続税の納税

 

相続税は申告書の提出期限までに納付しなければなりません。相続税を納付する資金がない(相続で取得した財産に現金がない)場合には方法があります。

 

申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに納付しなければなりません。納付は税務署所定の納付書を用いて、税務署、金融機関、郵便局で行います。なお、期限内に納付できない場合は、相続税に加え延滞税を納付しなければなりません。

 

《延納》

相続税は一時期に納付するのが原則です。しかし、相続税は財産課税であることから、一時に納付することが困難な場合もあります(財産の名義が変わるのみで現金収入を伴わず、換金性のある資産を有しない納税者も存在する)。このような場合は、一定の手続と条件のもとに年賦延納が認められます。

●延納ができる場合

税額が10万円を超え、担保を提供し(延納税額が50万円未満で延納期間が3年以下である場合には不要)、所定の申請書を相続税の納期限までに提出した場合に延納が認められます。

●延納の期間

原則は5年以内の年賦となりますが、相続によって取得した財産の半分以上が不動産の場合には、その不動産に対応する税額については15年以内(財産の75%以上が不動産の場合には20年以内)、動産に対応する税額については10年以内とすることができます。

●延納税額に対する利子税

相続税に加えて年率6%の利子税が課税されますが、相続によって取得した財産の半分以上が不動産の場合にはその不動産に対応する税額については3.6%となります(それ以外の部分については5.4%あるいは3.6%となります)。

 

《物納》

延納によっても納付が困難な場合は、一定の手続と条件のもとに物納が認められます。物納とは、有価証券や不動産で相続税を納税する方法です。

●物納できる財産

物納できる財産は、国が管理処分するに適したものでなければなりませんので、「質権、抵当権その他の担保権の目的となっている財産」、「所有権の帰属などについて係争中の財産」、「共有財産(全共有者が物納する場合は除く)」、「譲渡に関して法令に特別の定めがある財産」での物納は認められません。

●物納する財産の収納価額

 物納財産を国が収納するときの価額は、原則として課税価格の計算の基礎となった金額によります(小規模宅地等の特例を適用した宅地等については特例適用後の価額となります)。

●物納の撤回

物納の手続後、一定期間内に限り物納を撤回し本来の金銭による納付に戻ることができます(物納に充てるとしていた財産の売却のめどが立った)。

 

《相続税の連帯納付義務》

同一の被相続人から相続または遺贈によって財産を取得したすべての者は、すべての者の相続税の合計額について、自身が取得した財産の価額を限度として、お互いに連帯納付する義務があります。要するに、自身の相続税は全額納付したとしても、他の相続人がその者の相続税を納付していない場合には、代わりに納付させられるということです。(ただし、自身の相続税を納付していない他の相続人に十分な資力がある場合には、税務署はその者から徴収しなければならないとされています。)

「みんなで相続したのだから」、「もともとは父(母)のものだったのだから」などと、道徳的には考えることができるかもしれません。しかし、相続開始から年数が経過している、相続で取得した財産を消費している場合は、たまったものではありません。他の相続人に相続税を納付する資力や意識がない場合には注意が必要です。

 

《借金して相続税を納付する》

借入れの条件によっては、延納よりも有利かもしれません。借入れの期間や利率が延納の期間や利子税よりも有利であるならば借入れによって納付すべきです。なお、残念ながら相続税を納付するための借入金は「債務控除」の対象とはなりません。