築山公認会計士事務所(大阪市北区与力町1−5与力町パークビル7F)
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決算書の実際
(内容)2014年8月22日現在
1.中小零細企業の実情
(1)記帳・会計水準の低さ
中小零細企業に経理専任者がいることはまれで、社長さんやその親族などの極めて記帳・会計知識の乏しい人が経理業務を行っているのが通常です。不備の多い帳簿を会計事務所が事後的にフォローし、諸法
規特に税法を大幅に逸脱しないようかろうじて食い止めているのが現状です。
(2)役員(社長)一族の個人財産との混同
たとえ、株式会社や有限会社が「有限責任」といっても、資金不足が生じると、結局は役員一族が個人財産から補填しなければなりません。また、役員一族が会社の資金管理を全面的に握っており、役員一族の
私的出費が会社の資金から行われやすい体質です。そんなことから、役員(社長)借入金、役員(社長)貸付金などが多額に発生すること多く、会社の決算書のみで会社を論じることができないことがあります。そこ
では、役員一族の個人財産や資質が重要な要素となります。
(3)金融機関の担保主義
金融機関は担保主義を貫いています。担保主義の欠陥が随分と指摘されていますが、いまだそれに代わる普遍的方法が見つからないのが実情です。金融機関も決算書を参考程度にしか考えていません。
2.税法の影響
一般に公正妥当と認められる会計原則としては、「企業会計原則」「会社法の計算についての規定」などがありますが、非常に漠然としています。一方、税法と国税庁通達は、税制の頻繁な改正と税務行政処理の
必要性に応じて事細かな規定をし、企業もこれを重視してきました。特に、中小零細企業は「節税志向」が強く、税法と通達をより税金が少なくなるように適用してきました。
3.わが国の会計の特徴
会計がもっとも発達しているのは、多民族が同一の国土に暮らし人間関係が希薄な米国です。事業を起こす際は、詳細なプランを立て出資者に提案しないと資金集めはできません。また、事後報告も会計数値の
厳格さが要求されています。「疑う」ことがなければ会計は発達しません。財閥、学閥、地縁、血縁などが重視されてきたわが国では、会計はさほど重要視されてきませんでした。
4.決算書の限界
(1)発生主義
発生主義会計の発生という概念は非常に曖昧です(決算書の作成者の主観が介入してしまいます)。また、資金の動きを直接は読み取れません。黒字倒産が発生することも珍しくなく、含み損失も表面化しませ
ん。
(注)現行の上場企業向けの会計制度では、含み損益の発生を認識する時価会計が導入され、資金の動きを示すキャッシュ・フロー計算書の作成が義務付けられています。
(2)グループ会社
中小零細企業でも複数会社を運営している場合があります。特に、それらが同一地に存在し各会社の区分が曖昧な場合や名目上の経営者が異なる場合は、その実態を決算書から把握することは容易ではありま
せん。それでも、決算書は法的な会社単位で作成すれば足ります。(注)現行の上場企業向けの会計制度では、法的存在が別であってもグループ会社を一体とみなして決算を行う連結決算が導入され個別決算以
上に重視されています。
(3)事後的情報
決算書が外部に公表されるのは年一度、それも決算終了から二ヶ月経過後です。その間に状況が急変していることもありえます。
(注)上場企業の場合、四半期(3か月ごと)決算や重要事実の開示が義務付けられています。中小零細企業の場合も、金融機関は月次決算書(試算表)の提出を求める場合があります。
5.節税と決算対策
「税金は少しでも少なく」「会社の内容はよく思われるように」。社長さんなら、誰しも抱く願望です。また、「俺の会社の金なので自由にしたい」「できることなら記帳や決算・申告をしたくない」も当然のことでしょう。
中小零細企業においては、社長さんの強力な権力下で「行き過ぎた対策」が行われる傾向にあります。しかし、これらがあまりにもエスカレートしてしまうと、決算書にその痕跡が明瞭に残り税務署や金融機関など
の外部者はそれを見逃しません。外部者に厳しい指摘を受け、経理担当者や会計事務所に「激怒」する社長さんも珍しくありません。しかし、これは経理担当者や会計事務所の技能や知識の問題ではなく、あくま
でも経営上の問題であることを忘れてはなりません。経理担当者や会計事務所を替えたとしても結果は同じです。
「会計」とは、経営上の不都合を「もみ消す技術」ではなく、経営内容を明瞭かつ正確に表現するための手段であることを忘れてはなりません。会計基準にせよ税法にせよ、「行き過ぎた対策」を封じることを大きな
目的としているのです。倒産した上場企業でいわゆる「粉飾決算」が行われており、残念ながら経理担当者が自殺していることもあります。会計や税務には、「努力」や「押し」ではどうにもならないことがあることを肝
に銘じなければなりません。
6.外部者(税務署や金融機関)の着眼点
≪資産勘定≫
(1)仮払金や貸付金が異常に多い
社長さんが何気なく行った「個人出費」、社長さんの「黒字信奉」がある場合は、経理担当者や会計事務所が苦し紛れにこの勘定に諸費用を計上していることがあります。前者の場合は社長さんの個人財産からの
返金、後者の場合は費用処理をするしかありません。また、グループ企業がある場合に資金融通(貸し付け)の結果がこの勘定に残ることがあります。
仮払金や貸付金は大変「玉虫色」の勘定科目で、外部者は様々な憶測をします。税務署は、仮払金そのものや利息相当を役員賞与、交際費、寄付金として検討します。金融機関は、「暴力団に揺すられている」
「社長が投資に失敗した」などと考え返済能力に疑念を抱きます。
(2)売掛金が売上高と比較して異常
「黒字信奉」から、売上を先行して計上した、あるいは返品処理を未処理にしている場合などは売掛金が異常に多くなります。なお、反対の場合は売掛金が少なくなります。前者は金融機関が、後者は税務署が検
討事項とすることはいうまでもありません。
(3)在庫が異常
在庫の検数や評価は利益に多大な影響を与えます。業績下降期には、つい不良在庫の処理を先送りしてしまいます。中小零細企業では、在庫記録が不備なことがほとんどです。年度末には、正確な(誠実な)実
地棚卸を心がけたいものです。在庫が異常に多い場合は金融機関が、少ない場合は税務署が検討事項とすることはいうまでもありません。
(4)有形固定資産が異常に多い
(2)や(3)と同じく「黒字信奉」から、除却の会計処理や場合によっては償却を見送る(過少に計算する)ことがあります。有形固定資産の会計処理が、利益に与えるメカニズムは売掛金や在庫と同じです。
(5)保険積立金が異常
通常、保険契約は長期に及びその会計処理を一度誤るとミスが累積していきます。費用処理部分を資産計上していることや、満期時や契約見直し時に保険積立金勘定の取り崩しを忘れていることがよくあります。
≪負債勘定≫
(1)預り金が異常に多い
預り金の主な内容は、従業員の給与から天引きした「所得税や住民税」と「社会保険料」です。資金繰りの悪化でこれらを滞納している場合は、その事実が如実にこの勘定科目に現れます。
(2)役員やグループ会社からの借入金が異常に多い
これも、資産勘定の仮払金や貸付金同様、大変「玉虫色」の勘定科目です。どこからその資金を調達したかが問題です。隠し財源(所得)があるならば税務署は黙ってはいません。金融機関は、役員個人やグルー
プ会社は名目にすぎず「真の債権者」は誰であるのかを勘ぐります。
≪損益勘定≫
(1)各勘定科目を年度あるいは月次比較をしてみると変動が大きい
まずは、経理処理の正確性と迅速性に疑義を抱かれます。損益項目は発生主義に基づき計上しなければなりません。年度単位は当然として、月次でも発生主義に基づかなければなりません。
(2)売上総利益率、営業利益率など収益性の指標が同業他社と比較して異常
正確な同業他社数値を入手することは大変困難です。しかし、外部者はとりあえず同業他社と比較します。外部者から質問されたときは他社数値に惑わされることなく、自社の正確な経理数値に基づき回答するこ
とが必要です。外部者も、「同業他社比較」のみで判断することは大変危険なことは十分承知しています。なによりも彼らは貴社の実態を、正確に知りたがっていることを忘れてはなりません。
(3)役員および役員一族への出費が異常
役員報酬・役員への日当・役員への家賃は、「利益調整」に使われる傾向にあります。あくまでも、これらを適正な金額で計上した上での利益でなければなりません。
(4)費用勘定数が少ない
これでは明瞭性に欠けます。さらに、「支払遅延(簿外負債)」や「グループ会社への付替え」の疑念を抱かれます。
(5)怪しげな費用勘定科目が存在する
交際費、寄付金、手数料、広告費、雑費などは、経験則からして「怪しげな出費」を含んでいることがあります。これらが多額な場合は、迅速かつ明瞭な回答ができなければなりません。なお、これらが多額に計上さ
れているからといって「問題あり」と即断することはできません。実際に、これらの出費が多額に必要であるならば何ら問題はありません。
(6)支払利息が異常に多い
高利による資金調達や、役員一族への利息の過大な支払を連想されます。
7.中小零細企業における決算書の今後(決算書の信頼性向上)
2000年前後の金融機関のいわゆる「貸し渋り」は目を見張るものがありました。てのひらを返したように融資の審査を厳格化させ、決算書の細部について厳しい質問を投げかけてきました。従来の系列やメイン
バンク、そして何よりも特定少数の仲間での信頼関係が完全に崩れ去りました。
「決算書さえあれば何とでもなる」ということはありません。
しかし、正しい決算書がなければ「新たな活路」を切り開く「可能性が限定されてくる」のではないでしょうか。新規の金融機関は当然として、得意先・仕入先との取引を開始するにも決算書の提示が当然となる日も
そう遠くはないように思います。
そこで、現状の設備、能力、人脈、財産などで乗り切れる自信をお持ちの社長さんはともかくとして、そうでない社長さんは、決算書の意味を理解し経営内容と経理業務の改善に努め、どこへ出しても恥ずかしくな
い、しかも的確な説明ができる決算書の作成に努めるべきではないでしょうか。
《公認会計士による会計監査》
わが国の場合、公認会計士による会計監査が義務付けられているのは、株式上場企業(金融商品取引法監査)と資本金5億円以上あるいは負債総額200億円以上の大規模な株式会社(会社法監査)のみで
す。いうまでもなく、決算書は適正に作成されてこそ有用な情報となります。また、「自己証明は証明にあらず」といわれるように、決算書の内容について独立した第三者のチェックが必要不可欠です。多くの諸外国
では、中小規模の企業にも公認会計士監査が義務付けられています。わが国でも、今後は公認会計士監査の対象が拡大していくことは確実です。
《税理士による税務監査?》
一部の税理士が「(税務)監査」と称して、税務関与先の帳簿や領収書を「監査」していることがあります。これは、いわゆる税金対策(「正確な申告の確保」と「合法的な節税方法の選択」)のための監査(?)であっ
て、法定されている公認会計士による会計監査とはまったく性質が異なります。ごく一部で、税理士の「(税務)監査」が将来は法定監査(金融商品取引法と会社法監査)に発展するとの誤った報道や主張がなされ
ているようですが、そのようなことはありえません。
(1)税理士への依頼は納税者の自由な意思に基づいていること(税理士関与は法的に強制されていない)
(2)税理士が行う税務申告業務は間接的に決算書を検討するにすぎない(決算書の利益と課税所得は別物)
(3)極めて公共性の強い法定監査業務は監査の専門家である公認会計士しか行えない(諸外国でもこれは鉄則です)
(4)決算書の目的は「経営者の報告責任の達成」「企業の情報開示」「企業に関わる者の利害調整」であること(税務申告とは目的が異なる)
以上からして、「(税務)監査」が法定監査に発展することは絶対にありえません。
《中小企業の会計に関する指針》
日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会の4団体が、法務省、金融庁、中小企業庁の協力のもと、中小企業が計算関係書類を作成するに当たって拠るべき「指針」
(当然、強制力はない)を明確化するために作成したものです。
この指針は大企業向けの会計基準を中小企業向けに簡略化していますが、それでもこの指針をクリアーするのは相当難しく、多くの中小企業はこの指針には程遠い決算書を作成しているのが実情です。
一部の金融機関がこの指針の遵守を条件に貸出条件を優遇しているようですが、指針の遵守は優遇条件の一部に過ぎないことから、指針を遵守する決定的な動機付けにはなっていません。
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公認会計士 築山 哲(日本公認会計士協会 登録番号10160番)
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