築山公認会計士事務所(大阪市北区与力町1−5与力町パークビル7F)
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損益計算書
(内容)2014年8月19日現在
1.損益計算書とは
比較的理解しやすいかもしれません。しかし、損益計算書で大切なのは当期利益を導き出すための以下のプロセスです。
(1)本業(商品の販売)そのものでどれだけの利益を生み出せたのか(売上総利益)
(2)それで給料、家賃、リース料などの販売費及び一般管理費(経費)を負担すればいくらの利益が出るのか(営業利益)
(3)本業以外(いわゆる財テクなど)の収益と費用を加減算すればどうか(経常利益)
(4)本来は売却を予定していなかった資産(株や不動産)を売却して埋め合わせる必要はなかったのか(当期利益)
本業の儲けを示す営業利益が大幅なマイナスで、資産の売却益で当期利益を捻出している会社が健全といえるでしょうか。(なお、損益計算書の当期利益算出プロセスの区分も、
貸借対照表の流動と固定の区分同様、実務上困難な場合があります。)
《経営成績》
損益計算書は収益と費用を対比させ、差し引きとしての利益を算出します。これを経営成績と呼び企業の収益力の尺度とします。損益計算書の最終利益(当期利益)は、課税所得
や株主への配当金の算出にも用いられます。損益計算書は企業の収益力のみでなく成果分配(納税は国への分配です)の財源が生み出される過程を表していると考えることもで
きます。
2.売上総利益(損失)
算式としては次のとおりです。
売上高−売上原価=売上総利益
売上原価=期首商品+当期商品仕入−期末商品
算式を見れば、期末商品(在庫)の計算次第で売上原価の金額が大幅に変動することがわかります(期首商品、当期商品仕入は確定しているとして)。
《在庫が増えれば利益が増える?》
「在庫は必要最小限に抑える」は経営の鉄則です。在庫は資金の投下であり販売されるまで資金とならないからです。会計における在庫の大小は、年度末における「検数方法」と
「各単価」の計算で決まります。年度末の在庫という事実関係は一つです。しかし、検数方法(検数に含める範囲)と各単価の算出(どの時点の仕入れ値にするか)により金額が変
わってきます。不良在庫は検数から除外し、単価については年度末の金額が少なくなる方法(先入先出法、移動平均法など)を採用すれば、在庫金額は少なくなります。
3.製造原価
製造業の場合、売上原価の算式は次のとおりです。
期首製品+当期製造原価−期末製品=売上原価
期首材料+(当期材料仕入、外注工賃、工場の諸経費など)−期末材料=当期製造原価
期末製品や期末材料の金額が多大な影響を与えるのは、2同様です。
製造原価の把握は極めて精密な帳簿体系の構築と運用が必要となります。材料仕入や機械の減価償却費など明らかに製造に要した費用はともかくとして、工場と営業所が同一
地にある会社の家賃、建物の減価償却費など営業活動と製造活動で共用されているものを「製造活動=製造原価」、「販売活動=販売費及び一般管理費」に区分することが困難
だからです。特に中小零細企業においてこの傾向が顕著で、製造業でありながら製造原価報告書がない会社も珍しくありません。「期首製品・材料+当期材料仕入・外注工賃−期
末製品・材料=当期製造原価(売上原価)」程度の計算がなされているのが実情です。
《経済のソフト化》
工場の海外移転が進み経済のソフト化と叫ばれるようになって久しいですが、これは決して製造原価の重要性がなくなったということではありません。原価という概念は製造業だけ
でなくサービス業においても重要です。原価とは物理的な概念(目に見える製品の製造原価)ではなく、一定の収益を生み出すための支出であるからです。従来は支出の多くを材
料費が占めていましたが、現在は人件費が主流です。そこでは、目に見えない原価をいかにして収益に対応させて把握させるかが重要となります。
4.営業利益(損失)
財務活動(資金調達・余裕資金運用)を除く企業の日常活動の結果としての利益です。大小を問わず企業経営者、融資する立場の金融機関、株式投資家はこの数字に固執しま
す。当然プラスでないとなりません。数期間マイナスが続いている企業は、衰退産業、放漫経営、高コスト体質などが考えられます。
5.経常利益(損失)
営業利益に、財務活動(資金調達・余裕資金運用)や副業による「営業外利益」と「営業外費用」を加減算した結果としての利益です。この数字も営業利益同様、企業経営者、融資
する立場の金融機関、株式投資家は固執します。理由は営業利益と同様です。
余裕資金を株式で運用した「株式売却益」、高金利を享受した「受取利息」、さらには遊休土地の活用(ゴルフ場や賃貸ビルなど)による「賃貸収入」など、膨大な営業外収益を計上
し営業利益(本業)のマイナスを穴埋めしている会社も珍しくありません。
6.特別利益と損失
特別利益の内容としては遊休土地や長期保有を目的とした株の売却益、特別損失としては人員整理費用(おもに退職金)、設備廃棄費用などがあります。いずれも、会計上の「営
業」や「経常」という概念からははずれます。
上場企業の場合特別利益は、配当可能利益の捻出や特別損失の補填のため行われるのが通常です。これは、決算数値が一定水準をクリアーしないと配当ができず、最悪の場合
上場廃止となるからです。
常時、経営の無駄を排除していればこのような特別損失も利益もあまり生じないはずです。遊休資産も人員も発生しないからです。特別損失や利益は、問題を先送りした結果にほ
かなりません。
7.当期利益(損失)
最終利益のことです。当期利益は損益計算書を区分表示しなくとも算出できます。この金額が配当可能利益の源泉となります。課税所得はこれを基に税法独自の調整を行って算
出します。
8.減価償却費
発生主義ならではの費用項目です。資金の流出は過去に行われており、支出を伴なわない費用です。しかし、減価償却の対象となる資産の購入が借入金で行われている場合は
事情が変わってきます。特に、資産の耐用年数より借入金の返済期限が短い場合は、実際の資金繰りは損益以上に苦しくなります。借入金の返済期限が短い中小零細企業では
この傾向にあります(中小零細企業の場合は返済期限は長くても7年程度です)。
9.評価損益
主に株式、社債、投資信託などの金融商品の取得原価と時価との差額です。目先のわずかな上がり下がりは大勢に影響しないかもしれません。しかし、大幅な評価損が発生し当
分回復の見込みがない場合は大打撃を受けます。余裕資金で運用をしているならまだしも、借入金で得た資金で運用している場合は大変なことになるのはいうまでもありません。
10.除却損
固定資産、棚卸資産などで物理的、機能的に資産としての価値を失ってしまったものは、貸借対照表から消滅させなければなりません。経営に役立たない資産が発生したのです
から、今後は多額の除却損が発生しないように努めなければなりません。
11.消費税の処理
消費税の主旨からして税抜処理が正しい処理です。消費税は顧客から預かった税で、そこから自社が支払った消費税を差し引いて納税します。前者は仮受消費税、後者は仮払消
費税で処理します。
しかし、中小零細企業にとって消費税は極めて直接税的な性格で、販売価格への転嫁がなかなかできません。その意味からは、税込処理が理論的かもしれません。また、税抜処
理は相当事務能力が高い会社でなければ行えません。そこで、税込処理も認められます。なお、ここでの消費税の処理は簿記の仕訳での処理です。簿記で税込を採用している場
合でも、発行する請求書や店頭表示が税抜(税別)となっていることはあります。
12.税務申告書との関係
税務(法人税)申告書は「確定した決算」に基づかなければなりません(確定決算主義あるいは基準)。経常利益に特別利益を加減算した当期利益、厳密にいえばここからさらに法
人税や住民税を差し引いた税引後当期利益から税法独自の調整計算をして「課税所得」を算出します。
13.費用収益対応の原則
発生主義会計における基本原則です。損益計算書において費用と収益は対応していなければなりません。売上高と売上原価の関係はこれにほかなりません。しかし、費用と収益
の対応関係を完璧に求めることはできません。本社社屋の減価償却費、家賃、交際費、福利厚生費などの費用は収益と明確な対応関係がありません。これらは、一定のルールを
前提に処理することで売上高との対応関係を維持するしかありません。なお、実務上、年度途中は発生主義や費用収益対応への厳密な処理はしないで、その修正処理を年度末
に行うこともあります。その場合、年度末に検討しなければならないのは次のような処理です。
(1)期末在庫の棚卸
未販売品(売上未計上)のカウント漏れは、売上原価を過大にしてしまいます。
(2)年度末間近の売上と仕入の集計
当期中に販売した商品とそれに対応する仕入を正確に把握しなければなりません。特に締日と決算日が異なる場合は、締日から決算日までの集計を決算期に限っては特別に行う
必要があります。
(3)仮払金の長期未清算
当期中に財貨・用役を消費している以上は費用処理が必要です。
(4)時の経過に基づく費用収益の計上
家賃、利息、保険料などで必要性です。
14.損益と収支との関係
ここでの収支とは「期末現金預金−期首現金預金」のことです。企業の活動期間が有限な場合は損益と収支は一致します。しかし、企業活動が永続し会計期間を設ける場合は次
の事象などが両者に違いを生じさせます。
「損益と収支に違いが出るのは宿命」といってしまえばそれまでですが、特に(3)(7)(8)(9)などは熟慮の後に行う必要があると思います。そうでないと資金もないのに多額の納
税をする(利益が出る)羽目になってしまいます。
(1)減価償却
支出は過去に行われていますので収支に影響しません。
(2)増資や銀行融資で資金調達し年度末までに運転・設備資金として投下していない場合
資金調達しても収益とはなりません。
(3)土地の購入
減価償却の対象ではありませんので費用とはなりません。
(4)銀行融資の返済
調達資金で支払った財貨・用役の対価は費用となりますが、返済は費用とはなりません。
(5)売上代金の長期未収
収益計上はしなければなりませんが資金の裏づけがありません。
(6)在庫の囲い込み
かなり先の在庫を囲い込んだ場合は当分の間は売上原価とはなりません。
(7)役員やグループ会社への貸付け
支出ですが費用処理はできません。将来、回収するものだからです。
(8)積立預金
金融機関に半強制的に求められ、そして事実上拘束されます。資産勘定の振替であって費用ではありません。
(9)貯蓄性保険の保険料
これも(8)の積立預金に似ています。
(10)過大な役員給与
中小零細企業の社長さんで、将来の公的年金の受給を意識して「取れてもいない役員給与」を計上している場合があります。当然、役員給与の一部分が「未払給与」となっていま
す。
15.借入金の扱い
「こんなに借金を返しているのに、損益計算書が黒字とは」、よく聞きます。
会計においては、企業を次のようにとらえます。
(1)資金調達→(2)財貨・用役を生み出すための資金投下(調達資金の流出)→(3)財貨・用役の販売→(4)投下資金の回収→(5)資金の再投下((2)へ)
損益計算書は(2)と(3)の関係です(厳密には(2)と(3)の一部)。借入金による資金調達は(1)であり、返済は(4)の後に行われます。(3)と(2)の差額、つまり収益と費用の差
額である利益が十分であれば返済は負担になりません。借入金の元金相当の利益を生むには、上記(1)〜(5)サイクルを何度か繰り返す必要があります。また、借入金を完済す
るまでは貸主への対価としての利息を支払わなければなりません((2)に含まれます)。
返済負担が大変なのは、借入により調達した資金(1)を投下したけれども(2)、販売(3)や回収(4)ができていないことによります。前者の場合は資金投下が費用とならない、後者
の場合は入金のない収益であるために、損益計算書では利益が計上されていても借入金の返済負担が重くのしかかります。
現在の会計理論は、大企業つまり安定株主とメインバンクの存在を前提に構築されています。大企業は調達資金を早期に返済する必要はなく、長期間運用することができます。し
かし、中小零細企業は調達後直ちに分割返済を開始しなければなりません。「どうせ損益計算書なんて」は、ごもっともだと思います。
《財テク》
上記(1)〜(5)のプロセスは、通常の企業活動(仕入れて販売する)以外の財テクにも当てはまります。
16.資産と費用
上記15の(1)〜(5)のサイクルからお気づきでしょうが、資金を投下しても直ちに費用とはなりません。費用となるのは販売のために消費した時点です。投下資金が未消費の場合
は資産として貸借対照表にプールしておく必要があります。
この資産と費用との区分は、会計理論における重要なテーマのひとつです。資金の投下によっては直ちに費用となることもあります。給与や交通費などはその典型です。また、簿
記処理上は支出時に費用処理して、月末や年度末に未消費部分を資産計上する方法によることもあります(在庫や前払費用など)。
経済のソフト化にともない目に見えないものに対しての資金投下もかなりのウエイトを占めるようになってきました。ソフト開発会社の開発人員の人件費などはその典型です。これら
の人件費に対する投下資金が収益化していない場合は、人件費相当額を資産として繰越す必要があります(在庫として)。
17.収益と資産
収益である以上、資産(現金=キャッシュ)の獲得がなければなりません。会計においてもその考えは受け入れられています。しかし、会計においては入金の確実性とその金額の
客観性をもって収益としています。つまり、入金の確実性と金額の確実性が明らかになった時点で、収益を計上するとともに資産を認識します(いわゆる売掛金や未収入金)。収益
の認識基準は、業種、業態、取引内容により異なります。これも会計理論における重要なテーマのひとつです。
18.負債と費用
負債はいずれ返済しなければならず企業にとっては大変な負担です。しかし、負債といっても様々な性質のものがあります。仕入債務(買掛金・支払手形)は負債の発生があれば
費用も発生します。借入金(金融機関などからの資金調達)は直ちには費用となりません。調達した資金を投下していないからです。
19.総額主義
損益計算書は総額で表示しなければなりません。売上高−売上原価=売上総利益といった具合に、差し引きのプロセスを表示しなければなりません。
《純額表示》
株式の売却益や土地の売却益など、本業とは無関係な損益は純額表示することが一般的です。
株式売却損(益)=株の売却収入−株の取得原価(買値)
土地売却損(益)=土地の売却収入−土地の取得原価(買値)
20.現金主義会計の欠陥(発生主義会計の長所)
発生主義会計においては会計期間を設けます。会計期間は事業年度であり、どの企業にもこれは存在します。次のケースを考えてみてください。
(1)自動車販売会社の営業マンAさんは、本事業年度に大量の契約を獲得し全て納品もしたけれども、代金の集金は顧客(支払能力は十分)との約束(会社も認めている)で全額
翌事業年度となる。
(2)住宅メーカーのB社は、当事業年度大量の受注を獲得し代金も入金済みであるけれども、工事材料や外注費用の支払は業者との約束で全額翌事業年度となる。
現金主義ならば、Aさんは超無能な営業マン、B社は超優良企業で多額の納税をしなければなりません。
発生主義はごく自然な考えではないでしょうか。発生主義会計は経済の発展に伴って徐々に形成され、今後も変化していきます。会計数値には様々な利害が関係してきます。会計
理論は無数に存在する利害関係を調整しながら発展していくものなのです。初めて会計を学ぶ人が理解に苦しむことや、専門家でも簡潔明瞭に説明できないのは当然のことです。
21.キャッシュ・フロー
まさに現金主義です。キャッシュ・フロー計算書は特定期間のキャッシュの獲得状況(現金預金の純増減)を、営業活動(本業)、投資活動(設備投資)、財務活動(資金調達と運用)
に区分して表示する決算書の一部です。
キャッシュ・フロー計算書からは、貸借対照表や損益計算書では得られない情報を得ることができます。損益計算書の利益は収支と一致しません。貸借対照表に現金と預金の残
高が表示されていますが、これは一定時点の残高に過ぎません。
上場企業ではキャッシュ・フロー計算書の作成と公表が義務付けられていますが、非公開企業ではその必要はありません。しかし、作成し公表することが望ましいのはいうまでもあ
りません。キャッシュ・フロー計算書が注目されるようになった理由は様々です。会計基準により左右される利益と異なり、キャッシュ・フローはただひとつであるため客観性のある数
値であることは確かです。しかし、キャッシュ・フローで企業内容のすべてを判断できるわけではありません。
22.貸借対照表はメモ帳
会計に不慣れな人にとって貸借対照表は難解です。しかし、上記の説明で貸借対照表には一定時点の現金預金や借入金だけでなく、未販売在庫や未回収・未払代金も含まれる
ことをご理解いただけたかと思います。つまり、貸借対照表は重要なメモ帳と考えることができます。
貸借対照表で特に難しいのは純資産(資本)という概念と損益計算書との関係です。これについて、簡潔明瞭な説明はなかなかできません。専門家やベテラン経理担当者にすれ
ば常識ですが、世間一般からすれば特殊です。すぐさま理解できないからといって悲観する必要はありません。徐々に慣れてきて、やがては常識として理解できます。まずは、発生
主義による正確な損益計算書を作成することです。
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公認会計士 築山 哲(日本公認会計士協会 登録番号10160番)
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