還付金の財源?
年末調整の結果、徴収しすぎた税金を還付(返金)しなければならない場合があります。この還付は税務署がするのではありません。源泉徴収をした(税金を預かっている)会社がしなければならないのです。「還付する資金がない!?」は通用しないのです。
1 超過税額の還付
毎月の源泉徴収で預ったお金は仮の税額にすぎず、年末調整の結果、超過税額(還付)が生じる従業員については、会社から従業員に還付しなければなりません。毎月の源泉徴収税額が10,000円(年間で120,000円を仮の税額として徴収)、超過税額(還付)が15,000円(最終的な年税額は105,000円)とした場合、還付の方法は次のとおりです。なお、いずれの方法も結果(その従業員の最終的な税額)は同じです。
(1)年内最終給与で徴収と還付を行う
給与明細の「控除欄」で、徴収10,000円(プラス記入。控除欄のプラス記入なので支給額からは差し引きとなる)と還付15,000円(マイナス記入。控除欄のマイナス記入なので支給額に加えることになる)の2段記入をします。この場合、毎月よりも手取りが5,000円増えることになります。
(2)年内最終給与で還付のみ行う
給与明細の「控除欄」で、還付5,000円(マイナス記入。徴収10,000円から還付15,000円を差し引いた金額)を記入します。この場合、毎月よりも手取りが5,000円増えることになります。
(3)別途還付する
年内最終給与では通常月と同様に10,000円の徴収を行い(毎月と手取りは同じ)、還付15,000円は別途手渡します。従業員にとっては還付されたという実感が湧く方法です。年内最終出勤日や年初の出勤日に還付するのがよいかもしれません。
2 還付金の財源?
源泉徴収税額は従業員からの「預り金」ですので、還付金は会社が用意しなければなりません(用意できるはずです)。しかし、預かった資金を別途保管しておらず、還付金の財源に窮することがあります。なお、強いて財源というならば、翌年1月10日までに源泉所得税の納付をする際に、12月(納期特例の場合は7月から12月)の徴収税額から「超過税額(還付税額)」を差し引いて納付できるということです。要するに、従業員に還付をした分を納付する分から差し引けるということは、預かった税額が減額され、税務署に納付する税額も少なくなるということです。会社は損をしないのです。
【預り金の保管方法】法律で定められた方法はありません。納付や還付の際に資金の用意に窮しないよう専用の預金口座を開設して、そこに源泉徴収した都度預け入れしておくのがよいと思います。特に納税準備預金でしたら納税以外に引き出すことができませんので、運転資金などへ流用してしまう「誘惑」に負けてしまうこともありません。また、納期特例をやめ、毎月の給与支払のときに(銀行に引き出しにいくときに)、その給与についての源泉所得税を納付するのもよいかもしれません。
3 年末調整の期限
実は、翌年の1月末まで猶予期間があります。かといって、年明けに年末調整をすることが「推奨」されているわけではありません。年末調整の諸要素(配偶者や扶養親族の所得など)によっては、年内は未確定のものもあります。そこで、年内は「暫定的数値」に基づき年末調整を行い、1月末までの修正可能期間を設けているのです(年末調整の再調整)。これでも間に合わない場合には、個々人が確定申告をします。
■中途採用した従業員にも還付をしなければならない?
中途採用した従業員については前職分の給与や源泉徴収税額も合計して年末調整をします。そこで、年末に在籍する会社で源泉徴収した分以上に還付をしなければならない、つまり前の職場で源泉徴収した分も還付しなければならないケースが生じます。「当社で源泉徴収した分(預かった)以上に還付するのはおかしい?」と思われるかもしれませんが、この分も税務署に納付する分から差し引けますので損をすることはありません。
■あいつにここまで還付する必要はないのでは?
還付金額は従業員の「働き」によって決まるのではありません。年末調整の計算に誤りがない限りは還付するしかないのです。
■どうせ還付になるのだから・・・
パートやアルバイトについては途中では源泉徴収が必要でも(特定の月では88,000円を超えている)、最終的には税額がゼロ(年間の給与総額が103万円以下になる)になることがあります。「それならば、最初から源泉徴収しないほうが・・・」との考えもありますが、その従業員が年度途中で退職することや正社員に昇進することもありますので、やはり源泉徴収しておく必要があります。
■住宅ローン控除はそれぞれで確定申告してもらう(還付金を少しでも減らす)
多額の還付金が生じる原因のひとつが住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)です。初年度はともかくとして、2年目以降、サラリーマンとしては会社での控除を望みます。手続が楽であるし、早く還付が受けられるからです。還付をする会社にすれば「臨時の支出」は辛いので「それぞれで確定申告」といいたいでしょうが、それはやめておきましょう。会社の威信が無くなります。
≪年の途中で還付(年末調整)する場合≫
年末調整は、その年最後に給与の支払をする時(通常は12月)に行うことになっていますが、次の人は年の途中に年末調整を行います。
・年の中途で死亡退職した人
・著しい心身の障害のため年の中途で退職した人で、その退職の時期からみて、本年中に再就職ができないと見込まれる人
・12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人
・パートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後本年中に他から給与の支払を受けると見込まれる人を除きます。)
・年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人
★早く還付してほしい
雇用状況の悪化により「年の中途で行う年末調整の対象となる人」(パートやアルバイトなど)が年々増えていると思います。
≪賞与(ボーナス)が多い人は年末調整で「しっぺ返し」が!?≫
賞与から源泉徴収される所得税の額は次の要素によって決まります。
(1)配偶者控除と扶養控除の対象者数
まずはこれによって分類されます。なぜならば、配偶者や扶養親族の人数によって同一の収入(給与や賞与)であっても税率(税額)が異なってくるからです。
(2)前月の給与の額(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料は除く)
次に(1)の分類ごとに前月の給与に応じて2%から45%の税率に決まります(これに2.1%の復興特別所得税を上乗せして課税されます)。当然、前月の給与が増えるに従って税率は上がります。また、前月の給与の額が一定額に満たない場合には税率はゼロになります。
(3)賞与の額(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料は除く)に(2)の税率を乗じる
これが賞与から源泉徴収される(差し引かれる)所得税です。
●計算プロセスの詳細は下記の国税庁のサイトをご覧ください。
「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/gensen/zeigakuhyo2015/01.htm
扶養親族の数や所得の大小によって税率が異なることには納得できるとしても、「なぜ、前月の給与が?」とお感じになる方も多いと思います。その理由は、毎月の給料、賞与からの所得税の源泉徴収は、「1年間を通して毎月の給料は変動しない」、「賞与は毎月の給料の5か月分が支給される」という前提で計算されるからです(当然、1年間を通して勤務をしている)。この前提からすれば、賞与については上記のような税額の計算となるのです。もっとも、毎月の給料や賞与からの源泉徴収はそれを受け取る時点のその他の前提(配偶者や扶養親族など)も含めた仮の税額ですので、最終的な税額は年末調整で算出し毎月の給料や賞与から源泉徴収された分の合計額と精算をしなければなりません。
■「私の会社はボーナスでの成果分配を重視しているため毎月の給料の合計よりもボーナスのほうが多い!」
このような方もおられることでしょう。
このような場合に上記の前提で賞与からの源泉徴収をすると、年末調整での最終税額のほうが給与や賞与から源泉徴収された税額の合計よりも多くなり、年末調整で還付ではなく「追加徴収」ということになってしまいます。
■賞与が前月給与の10倍を超える場合
賞与の比重が大きい会社の場合には、上記のように年末調整での追加徴収という事態になってしまいますので、次のような計算で賞与から源泉徴収する税額を計算します。
イ 賞与の金額【注】×6分の1
ロ イ+前月の給与の金額【注】
ハ ロの金額を「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に当てはめて税額を求める
ニ ハ−(前月の給与に対する源泉徴収税額)
ホ ニ×6
【注】健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料は除く
要するに、毎月の給料の源泉徴収と「似たような方法」で賞与から源泉徴収する金額の計算をするということです。
■賞与がない人は年末調整での還付が多い?
毎月の給与からの源泉徴収は、「『必ず』5か月分の賞与が支給される」ということを前提としていないと思います。
ということは・・・
≪還付金を返さない場合≫
●税務署に還付するように命令されるのか?
そういうことはありません。というのは、還付金の返金は勤務先と従業員の関係であり、税務署はそのような「民事」に介入する権限はないからです。
●労働基準監督署?
従業員がこちらに密告すれば何らかの動きはあるかもしれません。
★還付金を返さずに会社が倒産した
どうなるのでしょうかね?
ご依頼は下記へ
大阪市北区与力町1−5