年末調整のプロセス
「扶養控除等申告書などの配布と回収」「年間給与と源泉所得税の集計」「最終税額の算出」「最終税額と徴収税額の精算」「源泉徴収票の交付」「源泉所得税の納付」「給与支払報告書の提出」「法定調書合計表の提出」という年末調整一巡の手続の流れを理解しましょう。
年末調整は、給与所得者(サラリーマン)の1年間の税額を確定・精算するという、給与所得者にとっての「確定申告」であるとともに、給与所得者の「公的な所得証明」の発行手続でもあります。給与所得者は1ヶ所からの給与所得しかなく、ほかに所得がない場合には、年末調整だけで税額が確定することから自ら確定申告をする必要はありません。
給与(毎月の給料、賞与)から天引きされている(源泉徴収されている)所得税は「仮の税額」です。仮の税額といっても法律で定められた「源泉徴収税額表」(国税庁のサイトをご覧ください)という一定のルールで計算しています。「源泉徴収税額表」は、年間を通して毎月の給料が一定で賞与は給料の5か月分であることを前提に計算した年間の見込税額を各給料や賞与に配分する計算となっていることから、どうしても最終的な税額とは異なってしまいます。また、その人の年度途中の状況(配偶者や扶養親族など)の変化によっては大幅に最終的な税額と異なる場合もあります。
そんなことから、給与所得者の税額は毎月の給料、賞与からの源泉徴収で済ますことはできず、年末調整という精算手続が必要となるのです。
1 年末調整の対象となる従業員と必要なデータ
年末調整は、各従業員(役員・アルバイト・パートを含む。以下同じ)の年間給料・賞与総額に対しての所得税額(国税)を計算し、給料・賞与支払時に徴収した源泉所得税の年間合計額(仮の税額)との精算を行う手続です。なお、年末調整の事務手続を行うのは、源泉徴収義務者として従業員から源泉所得税を徴収した会社などの勤務先です。また、年末調整は年内の最終給与を支払う時に行います。
(1)年末調整の対象となる従業員
扶養控除等申告書を提出しており、年間給与総額が2000万円以下で、年末に在籍する従業員が対象となります。なお、年度途中で採用され年末に在籍する従業員も対象となります。「少額な給与は年末調整しなくてよい」との迷信があるようですが、法的にそのような扱いは一切認められていないのです。
(2)年末調整の基礎データ
各従業員の最終的な年間の所得税額を計算するには、次のデータが必要となります。なお、下記には年末調整でしか考慮しない要素も含まれています。生命保険料や地震保険料などがそれです。
●給与台帳(給与明細控え)=給料・賞与総額(年間)、源泉徴収した所得税額(年間)、天引きした社会保険料など(健康保険、年金保険料、介護保険料、雇用保険料)
●扶養控除等申告書=住所、生年月日、配偶者、扶養親族(毎年、年度初めに提出してもらいます。年末までに変動があれば再度提出してもらってください)
●保険料控除申告書=生命保険料、地震(損害)保険料、社会保険料(個人的に支払った国民健康保険・国民年金保険料など)
●配偶者特別控除申告書=配偶者の所得(保険料控除申告書と同一の用紙)
2 源泉徴収した所得税の還付
上記1の結果計算された年間税額と毎月の源泉徴収税額の合計に差額がある場合には、各従業員に「還付(超過税額)」あるいは各従業員から「追加徴収(不足税額)」しなければなりません。
(1)還付となる例(年間税額<毎月の源泉徴収税額の合計)
●一年間を通して毎月の給料が同額であり年度途中で扶養親族が増えた場合
途中の給料まで年度末より少ない扶養親族数を前提に源泉徴収していたけれども、年末調整においては控除が増えることから還付となります。(扶養親族数は年度末で判定します。なお、死亡した親族については死亡の時点で判定します。)
●年度途中で給料が減った場合
給料が減る前は年末までその給料が続くことを前提に毎月の源泉徴収をしていますが、年末調整においては減った給料によって年間の最終的な税額を計算し直すことから還付となります。
●生命保険料や地震保険料を支払っている場合
毎月の源泉徴収においては一切考慮されていませんので、年末調整でこの分の控除を考慮した結果還付となります。
●住宅ローンがある場合(住宅購入後2年目以降)
生命保険料や地震保険料の場合と同じです。
(2)追加徴収となる例(年間税額>毎月の源泉徴収税額の合計)
●一年間を通して毎月の給料が同額であり年度途中で扶養親族が減った場合
途中の給料まで年度末より多い扶養親族数を前提に源泉徴収していたけれども、年末調整においては控除が減ることから追加徴収となります。(扶養親族数は年度末で判定します。なお、死亡した親族については死亡の時点で判定します)。
●年度途中で給料が増えた場合
給料が増える前は年末までその給料が続くことを前提に毎月の源泉徴収をしていますが、年末調整においては増えた給料によって年間の最終的な税額を計算し直すことから追加徴収となります。
3 源泉徴収票(所得証明)
各従業員に対して一年間に「支給した給料・賞与」と「徴収した源泉所得税(年末調整後)」の結果要約表です(社会保険料などの所得控除の額や扶養親族の人数も明らかにされています)。平成27年まではA4の1/4サイズの用紙でしたが、平成28年分からマイナンバー制度が始まったことにより様式もサイズも大幅に変わりました。年末調整が終了したならば、翌年の1月末までに各従業員に交付しなければなりません。源泉徴収票は、各従業員の融資や賃貸住宅への入居申込みなどの際に、必ず提出が求められます。大切に保管しておくよう告げておかなければなりません。
4 年末調整の結果報告(各従業員の住所地の市区町村への報告)
年末調整はあくまでも「国税」である「所得税」についての手続です。「地方税」である「住民税(都道府県民税と市町村民税)」については、上記3の源泉徴収票(給与支払報告書)を各従業員の住所地の市区町村に提出し、各市区町村が計算し会社あるいは各従業員にその税額を通知します。
会社が作成する源泉徴収票は、会社の「内部資料」にすぎません(都合のよいように作成できる)。源泉徴収票は、各市区町村に提出されてはじめて「公的証明力」を有することになります。融資や賃貸住宅への入居申込みの際には、会社が作成した源泉徴収票ではなく市区町村発行の所得証明の提出を求められることがあります。
■控除(こうじょ)=差し引く
税金の計算においてはいたるところにこの言葉が出てきて戸惑います。控除とは「差し引く」ということです。税金の計算における「控除」は様々なケースがありますが、年末調整に関しては「給与という収入から差し引ける」と理解しておけばよいです。要するに、給与についての税金は給与の総額に税率を乗じるのではなく、そこからさまざまな控除(給与所得控除、配偶者控除、扶養控除など)がありその後に税率を乗じるということです。
■所得(収入との違い)
所得という言葉も大変難解です。とりあえず、所得とは収入から一定の控除をしたものであると理解しておいてください。
■非課税所得
非課税となる所得、つまり年末調整においては一切考慮しなくてもよい所得もあります。通勤手当の一定額、会社から受け取った相応な慶弔金などがそれです。
■年末調整の結果、最終的な税額がゼロになる場合もある
このようなこともありえます。毎月の源泉徴収は、扶養親族数がゼロであるならば給料の額が88,000円を超えればしなければなりません。一方、一年間の給料と賞与の総額が103万円以下の場合には所得税は課税されません。パートやアルバイトの場合にはこのようなケースが多発します。また、住宅借入金等特別控除がある場合や年度途中で扶養親族が増えた場合もこのようになることがあります。
■退職金
退職金は給与所得ではなく、退職所得として計算します。ですから、年末調整の対象外となります。
■サラリーマン以外で源泉徴収される職業
弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、デザイナー、ライターなどの報酬や代金を支払う際には源泉徴収をしなければなりません(ただし、弁護士などが法人で営業している場合には不要)。しかし、これらの職業の人については年末調整をする必要がありません。事業所得者ですのでそれぞれで確定申告をしなければならないからです。
■なぜ、サラリーマンだけ年末調整するのか?
多くの場合、サラリーマンは1ヶ所からの給与所得しかなく、勤務先で行われる月ごとなどの給与支払時の「所得税の源泉徴収(天引き)」と「年末調整」で課税関係を終了させたほうが本人にとっても便宜であり、国にとっても税収が平準化されるからです。
■給与計算ソフトはバージョンアップしましたか?
給与計算ソフトを使えば給与の集計や控除の計算と給与からの差し引きは自動的にできます。しかし、バージョンアップをしていない場合には最新の税制に基づく計算が行われません(税率、所得控除などが昨年と変わっている場合があります)。
【税務署から年末調整に必要な書類が送られてこない】
毎年11月下旬に税務署は年末調整に必要な資料(扶養控除等申告書の用紙や解説書など)を送付してきます(大阪国税局管内の税務署)。しかし、これが送付されてこない場合があり、その原因としては次のようなことが考えられます。
●開業届を提出していない
法人(会社)であれ個人事業者であれ、税務署に開業届を提出しなければデータ登録されないことから税務署から資料が送られてきません(開業届の提出を促す書面は送付されてきます)。
●年末近くに開業した
税務署が年末調整に必要な資料を送付する直前あるいは送付後に開業届を提出した場合には資料は送られてこないでしょう。
●給与支払事務所開設の届を提出していない
開業届を提出していても給与支払事務所開設の届を提出していなければ資料は送られてきません。
●異動届(所在地や住所)を提出していない
税務署からの郵便物の送付先である所在地や住所に変更(異動)があってもその届を提出していない場合には資料は送られてきません(当然です!)。
●休眠会社が活動を再開したがその旨の異動届をしていない
活動をしていないいわゆる休眠会社には税務署も資料を送りません。
●長らく給与を支払っていなかった(個人事業者の場合)
給与の支払いがなく源泉所得税の納付もしていない状態が数年続くと資料が送られてこなくなります。
●郵便事情など
これは多くの税に共通することなのですが、税務署などから連絡がないからといって申告や納付の義務がないということではありません。実際に給料や賞与を支払っている場合には必ず源泉徴収と年末調整をしなければなりませんので、税務署から資料の送付がない場合には至急所轄の税務署まで取りに行かなければなりません(同時に忘れている届をしておく必要があります)。
■従業員はいないし役員報酬も支払っていない(会社の場合)
創業初年度や業績不振で役員報酬を支払っていない場合もあります。このような場合には源泉徴収の必要もありませんし年末調整も不要です。ただし、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」と「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」(源泉所得税の納付書)は提出しなければなりません。
■専従者への給与
給与の支払額が一定額を超えている場合には源泉徴収と年末調整が必要です。
【給与所得控除の計算】
給与所得を計算するに当たっては年間の給与収入から給与所得控除を差し引きします。給与という収入にそのまま所得税が課税されるのではないのです。給与所得控除が認められる根拠は様々ですが一般的には次のように説明されています。
■給与所得者にも必要経費を認めるべき
所得税の計算においては所得を10種類に分類しますが、それらの所得の多くで収入という成果を得るために一定の犠牲が生じていることに着目して、収入から一定額を差し引いた金額を所得としています。事業所得(自営業者の所得)の計算が「収入−必要経費」となっているのがその典型です。給与所得控除は、給与収入を得るため一定の犠牲(コストや投資)を収入から差し引くことを認めているのです。 給与所得控除が「サラリーマンの必要経費」であるといわれるのはこのためです。
■担税力の調整
給与所得は勤労所得であり他の所得よりも担税力が低いと考えられますので、実際には事業所得の計算における必要経費のようなものが生じていなくても、収入から一定額を差し引くことに合理性があるといえるかもしれません。
■捕捉率の是正
給与所得は他の所得に比べて税務署から正確に把握されているのが通常で、「正直者が馬鹿を見る」とならないための調整であると考えることもできます。しかし、問題の本質は他の所得が正確に把握されていないことであるのはいうまでもありません。
■金利の調整
ほとんどの所得は1年が終わってから翌年の3月15日までに申告と納税をします。それに対して給与所得は、勤務先での源泉徴収による早期納税を強いられていますので、早期納税により失った金利部分を調整しなければなりません。
★給与所得控除の計算
給与収入が1,800,000円以下 →収入金額×40%(650,000円に満たない場合には650,000円 )
給与収入が1,800,000円超3,600,000円以下 →収入金額×30%+180,000円
給与収入が3,600,000円超6,600,000円以下→収入金額×20%+540,000円
給与収入が6,600,000円超10,000,000円以下→収入金額×10%+1,200,000円
給与収入が10,000,000円超12,000,000円以下→収入金額×5%+1,700,000円
給与収入が12,000,000円超→2,300,000円(上限)
源泉徴収票の「支払金額」と「給与所得控除後の金額」の差額は上記で計算した数値になります。ただし、収入が660万円未満の場合には、「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」により給与収入に対しての給与所得控除後の金額を求めることから、上記の算式による結果とは若干は異なります。
【給与所得控除には上限があります】
給与所得の必要経費である給与所得控除は収入に応じて必ずしも増加するとは考えられないこと、また、主要国においても定額であるまたは上限があることから、平成25年から245万円という上限が設定されました。上限はその後順次引き下げられ平成29年には220万円まで下がります。
★給与所得控除は概算で計算されている
上記の給与所得控除が認められる根拠としての説明はいずれも一理あると思います。しかし、問題は現行の給与所得控除が概算値 によっていることです。給与所得に限らず税金の計算過程の多くで概算値が用いられますが、それを用いるのは「実績値を計算するのはあまりにも手間がかかる」あるいは「不可能に近い」場合に限られなければなりません。給与所得控除の実額計算は決して不可能ではありません。現行の給与所得控除の計算では、「概算値ほど(必要経費を)使っていない」「概算値以上に使っている」というケースが多発しているでしょう。
★特定支出控除(給与所得控除を実額に近づける)
給与所得者が下記の「特定支出」をした場合、その年の特定支出の合計額が給与所得控除の2分の1を超えるときは確定申告によりその超える金額を給与所得控除後の金額から差し引くことができます。
この特定支出とは、給与所得者が支出する次に掲げる支出のうち一定のものです。
・一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)
・転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)
・職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)
・職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)→弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象
・単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)
・次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの (勤務必要経費)
書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)
制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)
交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)
なお、これらの特定支出は、いずれも給与の支払者が証明したものに限られます。また、給与の支払者から補填される部分があり、かつ、その補填される部分に所得税が課税されていないときは、その補填される部分は特定支出から除かれます。この特定支出控除を受けるためには、確定申告を行う必要があります。その際、特定支出に関する明細書及び、給与の支払者の証明書を申告書に添付するとともに、搭乗・乗車・乗船に関する証明書や支出した金額を証する書類を申告書に添付又は申告書を提出する際に提示しなければなりません。
ご依頼は下記へ
大阪市北区与力町1−5