決算をする
2020/8/18
決算をする(会社法という法律)
会社は事業年度が終了したならば決算をしなければなりません。決算とは事業年度の業績(売上や利益)と事業年度末の財産(預貯金や設備、借入の状況)を報告することです。これは経営者(役員=取締役)の義務です。報告する相手は株主と債権者です。このことは、「会社法」という法律で定められています。会社法とは、会社を設立する際に決めなければならない「商号」「本店」「目的」「資本金」などを定めた「あの法律」です。
会社は株主の出資によって設立されます。株主が出資する目的は配当です。会社が配当をするには利益を出さなければなりません。株主がこれを確かめるには決算による報告が必要なのです。会社には債権者がいます。債権者とは会社に資金を貸している金融機関、会社から支払いを受けなければならない仕入先などです。債権者は会社の信用状況(支払能力)を知りたいのです。この手段が決算です。
決算の方法(決算書と複式簿記)
決算報告は決算書により行います。決算書は、「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」からなります。これらは複式簿記という方法により、個々の取引(主に入出金)を仕訳という形式にして記録し(分類し)、これを集計することにより作成します。
複式簿記は特殊な技術ですので、多くの会社はこれに精通した担当者を雇用するか、会計事務所(税理士)という専門業者に外注することにより決算書を作成しています。昨今では、会計ソフトで決算書を作成することが普通になっていますが、この会計ソフトを使うのにも複式簿記の知識は必要です。「適当に入力していれば・・・」は甘いです。恐ろしいことになります。
決算書の様式は会社法で定められている
決算書は会社法という法律で定められた様式で作成しなければなりません。「自己流の決算書」は、どれだけわかりやすく、役立つものであっても決算書とは認めらないのです。
決算のスケジュール(法人税の申告期限との関連)
決算は事業年度終了の翌日から「3か月以内」に開催しなければならない定時株主総会で承認された後に確定します。この定時株主総会で、株主に対する配当金の額も決定されます。
会社の利益(収益−費用という業績の指標)には法人税が課税されます。法人税の申告をするには、それに先立ち株主総会で決算書(利益)を確定させなければなりません。そして、法人税の申告書を税務署に提出する際には、確定した決算書も一緒に提出します。
ほとんどの会社は、法人税の申告期限が事業年度終了の翌日から「2か月以内」であることから、この期限に合わせて決算書を作成し株主総会で承認し確定しています。
決算公告(決算の公表)
会社は、定時株主総会終了後、決算の内容を「公告」しなければなりません。公告の方法は、官報、日刊新聞、HPへの掲載から選択し定款で定めます。定めていない場合は官報によります。公告方法は登記事項です。
この公告の義務を怠った場合には100万円以下の過料に処せられます。しかし、実際に過料を受けた事例がないことから、ほとんどの中小企業が決算公告をしていないのが現状です。つまり、株主はともかくとして、一般債権者が決算内容を知る方法は事実上絶たれているということです。
金融機関への決算報告
金融機関に融資を申し込む際には決算書を提出しなければなりません。融資を受けた後も、融資残高が残っている限りは事業年度ごとに決算書を提出するように金融機関から要求されることがあります。金融機関は決算書から会社の返済能力を判断します。返済能力に疑問がある場合には、融資の見送りや条件の変更ということになります。また、決算書が不正確あるいは不明瞭な場合、内容が疑わしい場合には融資は相当難航します。
融資を申し込む際に金融機関へ決算書を提出するということは、法律で決められているわけではありません。しかし、これを拒むと融資を受けることはできません。
決算は税務署のためにする?
すべての会社は事業年度が終了した翌日から2か月以内に法人税の申告書を税務署に提出し、法人税を納税しなければなりません(赤字の場合にも申告しなければなりません)。そして、法人税の申告書には決算書の添付が必要です。
株主はその会社の代表者1人だけで(いわゆるオーナー経営者がすべての株式を保有している)、金融機関からの借入れはないというような会社は、決算書を公表する相手は税務署だけになります。そのような会社にとっては、実質的に「決算は税務署のためにする」ということになります。
過去の決算書は訂正できない(重要!)
決算書はひとたび株主総会で承認され確定すると、もう訂正や変更ができません。小さな会社の場合、決算を広く一般に公表している(決算内容が新聞やニュースで報道される)上場企業のように決算に対する「緊張感」がありません。そんなことから、つい適当に決算書を作成して後から不都合が生じる場合があります。そのような場合でも決算書の訂正や変更はできないのです。
決算書を構成する要素によっては、長期間同じ内容がそのまま記載され続けるものがあります。それがミスや不注意から生じたことで、会社にとって不都合なものである場合には大変後悔することになります。
株主総会を開催していない
小さな会社の場合、あらたまった形式の株主総会を開催していないことがあります。しかし、事業年度の総括をし、決算を確定するという行為は必ずどこかで行われているはずです。ですから、株主総会がなかったということはありえません。決算も確定しているのです。
会社の種類による決算手続の違い
会社は、「株式」「有限」「合同」「合名」「合資」の5種類があり、それぞれで出資者や役員の役割や責任が異なります。ですから、決算手続にも違いはありますが、決算書に関しては同じであると考えて差し支えありません。
決算は会社と経営者のためにもなる
決算書を作成するには事業年度中のすべての入出金を把握しておかなければなりません。大変面倒なことですが、これは会社経営にとっては当然のことです。株主や債権者にいわれなくとも、これをしておかなければ資金を効率的に使うことができず、会社は生き残っていけません。
決算は当然のことの結果です。法律(会社法)は当然のことを明文化しているに過ぎないのです。また、法人税の計算はこの決算という結果を活用しているだけです。「決算ができない」、「決算の仕方がわからない」とかいっている会社は放漫経営であることを自ら知らしめているのです。
会社経営には第三者の視点も必要
決算というのは、第三者の視点で行わなければなりません。決算書には会社や経営者にとって不都合なことも表れます。決算書が正しければ、「良い会社は本当に良く」「悪い会社は本当に悪く」見えます。
株主や金融機関に決算書から判明する経営上の問題点を指摘されると気分が悪いかもしれません。しかし、大切なことは、これらを改善するという姿勢です。次の事業年度以降には必ず改善をし、最終的には株主や金融機関からして安心のできる会社になることです。
会社と代表者との取引
小さな会社の場合には、会社と代表者との取引が行われることが多いです。代表者と会社の資金の貸し借り、会社の不動産を代表者に賃貸する(あるいはその反対)、会社の資産を代表者に売却する(あるいはその反対)など、いずれもが決算書に表れます。
会社の代表者との取引は、その条件が曖昧になりがちですが、第三者との取引同様に取引条件を決めなければ決算書にその「いびつさ」が表れてしまいます。決算書の読者(株主、金融機関、税務署など)はそれを見逃しません。
簿記や会計を否定しない
決算書は簿記と会計の知識がなければ作成できません。簿記とは決算書の基となる帳簿を作成するための技術や手法です。簿記というのは大変専門的で、しかも特殊で、これを一朝一夕にマスターすることはできません。会計は、決算書作成に関する理論と法律です。この会計も特殊で、一般的な考えとかけ離れていることがあります。
しかし、会社経営を行ってゆくには決算書を必ず作成しなければなりませんので簿記と会計を否定することができません。
経営と会計(決算書)
会計には様々な意味があります。「帳簿の作成」「請求」「支払い」「預金や金銭の管理」「決算報告」「予算作成」など様々です。ここでの「会計」は、決算書を作成するための「理論」「法律」「知識」「事務処理」のことです。
昨今、会計に興味を持ち、会計を学んで決算書を理解できるようになり、それを経営に活かしたいと考える経営者が増えています。大変よいことだと思います。2000年代に入ってから、金融機関の不良債権問題、相次ぐ上場企業の破綻、大規模なM&A(業界再編)など、会計に深く関連した出来事が続き、今や会計を知らずして経営ができないという状況になっています。
会計は法律です(根拠は会社法)。宿命的に受け入れなければなりません。決算書は、企業活動の結果を事実どおり、明瞭に表示しなければなりません。営業用のパンフレットやサイトのように都合のよいことを書き並べればよいのではありません。経営者が自社の決算内容について「ある種の願望」を持つのは当然でしょうが、その前に企業活動の結果が、事実としてどのように決算書に反映されるかを知っておかなければなりません。
会計を学ぶ(簿記と会計理論)
会計を学ぶ一番手っ取り早い方法は書物を読むことです。会計関係の書物は多数ありますが、お奨めできないのは「誰でもわかる」「簡単」などが表題にある書物です。その多くが結果的に誇大かつ不誠実な表現です。また、受験用(簿記検定や公認会計士試験など)の書物もお薦めできません。試験勉強はそのままでは実務に役立たないからです。
お薦めは一般ビジネスマン向けの入門書です。会計を習得するには記録技術としての「複式簿記」と、理論としての「会計学(財務諸表論)」の双方を学ぶ必要があります。両者の書物を一冊ずつ購入し、どちらか片方から、あるいは並行して読んでください。
なお、書物の著者は学者(大学教授)と実務家(公認会計士、経理業務経験者など)に大別されますが、前者は体系的(理念的)で後者は実務的であることが通常で一長一短です。できれば両方を読むことが望まれます。また、会計においては結論に至るまでのプロセスの説明が十人十色です。そんなことから著者との相性が大切であるのも否定できません。一通り読んでしっくりこない場合は、他の書物へ鞍替えすることも場合によっては必要です。
最近では、「連結決算」「特別利益・損失」「債務超過」「のれん」「減損」などの会計用語も一般化してきました。しかし、これらは入門段階ではあまり重要でありません。まずは、「仕訳」「勘定科目」「試算表」「貸借対照表」「損益計算書」の意味や位置づけを学んでください。なお、学んだことと自社との関連の追求や願望の実現は当分お預けです。会計を本格的に学んだ人でも実務に慣れる(決算や申告ができ第三者にも説明ができる)には最低3年は要します。あせりは禁物です。
とりあえず書物の内容が理解できるようになったならば、次は経理担当者や会計事務所に質問をしてください。まったくの入門から1年もたてば必ず成果が出てきます。特に、次のことが漠然と分かってくれば成果は十分ですので、もうそれ以上は学ぶ必要はありません。本業に注力してください。ただし、今後も自社の試算表や決算書を見ること、経理担当者や会計事務所とのコミュニケーションは欠かさないでください。
◆会計は会社の状態を良きも悪しきもありのまま表現する技術と理論である
◆決算書を通して外部第三者は自社をどう評価するか
◆スムーズな事務処理(コミュニケーション)が決算作業の精度やスピードを左右する
◆決算書を不明瞭にしてしまう原因の多くが経営者の独善や一部社員の無軌道な行動である
◆会計は万能ではない(会計だけで会社は繁栄しない)
決算へのこだわり(数値目標を持つ)
経営者であるならば決算に「こだわり」を持ってもらいたいです。「売上を伸ばす」「利益率を高める」「資産を増やす」「負債を圧縮する」「自己資本(純資産)を増やす」など、目標とする数値を定めてください。ただし、数値のみを追い求めるのではなく、数値を達成した後のビジョンも描いてください。