不動産所得の必要経費(青色申告決算書・収支内訳書の勘定科目)
不動産所得で生じる必要経費を、確定申告書の添付書類である青色申告決算書・収支内訳書の勘定科目に沿って説明いたします。
【租税公課】
賃貸物件(土地建物)に課税される固定資産税と都市計画税、賃貸による儲けに課税される事業税、賃貸物件を取得したときに課税される不動産取得税と登録免許税です。なお、所得税と住民税は必要経費にはなりません。
【損害保険料】
建物に対する火災保険や地震保険の保険料です。なお、保険料を前払いしている場合には、そのうちの当年度分しか必要経費になりません。ただし、1年分の前払いを毎年しているならば前払計上は不要です。
【修繕費】
賃貸物件の維持管理や破損時の原状回復に要する費用です。
【減価償却費】
建物についてはその購入価額(取得価額)を、複数の年度にわたって毎年一定の金額を減価償却費として必要経費とします。
【借入金利子】
賃貸物件取得のための借入金の利子です(賃貸前の利子は、建物に対応する部分については建物の取得価額に含めて減価償却をします)。なお、不動産所得が赤字の場合には他の所得と損益通算するにあたって、利子の内、土地の購入に要した部分は除かれます。
【地代家賃】
借りた物件を賃貸している場合に生じます。例えば、土地を借りて(借地)その上に自身の建物を建築し、それを賃貸している場合です。
【給料賃金】
不動産賃貸業務(入居者の募集、賃貸借契約の締結、地代家賃の請求と集金、賃貸物件の維持管理など)に関して従業員を雇用し給料を支払っている場合に生じます。
【その他の経費】
上記の一般的な必要経費以外に生じるものです。入居者の募集広告費用、仲介業者へ支払う仲介手数料、専門業者に物件の管理を任せている場合の費用などです。
【専従者給与】
青色申告者で、不動産の貸付が事業的規模で行われている場合に限り、税務署に事前に届ければ、生計を一にする親族(15歳以上)で専らその青色申告者の経営する事業に従事する人に対して支払う給与は、適正な金額であれば必要経費になります。
【収支内訳書(白色申告)独自の勘定科目】
○貸倒金
入居者が破産などにより家賃を支払えない場合に、すでに収入に計上している家賃相当額をこの勘定科目で必要経費にすることにより減額します。
○雑費
青色申告決算書の「その他の経費」に相当します。
○専従者控除
白色申告の場合、生計を一にする親族に対する給与は、専従者控除として配偶者は86万円、配偶者以外には50万円までしか控除されません。
賃貸物件を取得した年度の必要経費
賃貸物件を取得した年度の必要経費に関する処理は慎重に行う必要があります。
「どうせ、あれもこれも減価償却の対象(取得年度には必要経費にはならない)」とあきらめずに、十分な資料を取り揃え、貪欲に処理してください。
★賃貸物件の取得費用で取得した年度の必要経費にできるもの
賃貸する建物の建築費用や土地(敷地)の購入代金は当然として、賃貸物件の仲介手数料、設備や備品の設置費用など、賃貸物件の取得に付随して要した費用も土地や建物の取得価額に含めなければなりません。建物の取得価額は、その法定耐用年数に応じ各年度に減価償却費として必要経費に算入します。土地は減価償却しませんので、土地の取得価額に算入された額は必要経費にはなりません。
賃貸物件の取得に際して支払う印紙税、登録免許税、不動産取得税は、取得に要した費用であっても、取得した年度の必要経費とすることができます。この金額、結構大きいですよ!
とはいうものの、取得した年度の必要経費となるのは、減価償却を除けば、せいぜい全支出の数パーセント程度でしょう。
しかし、ここであきらめてはいけません!
★建物とそれ以外の減価償却資産(建物付属設備など)との区分です!
賃貸する建物は、「本体」と「建物附属設備」としての給排水設備、電気設備、ガス設備その他の設備に分かれます。本体よりも給排水設備、ガス設備、冷暖房設備は法定耐用年数が短く、しかも定率法を選択できるので、これらを本体と区分して減価償却をしたほうが早期に減価償却費を計上することができます。
建物附属設備のほか、構築物や器具備品で処理できるものもあると思います。そうなれば、建物附属設備よりもさらに短い耐用年数になる場合もあります。
この区分をしないで支払金額のすべてを建物の取得価額に含めている人が実に多いです。なお、区分するためには、それぞれの明細を明確に区分した見積書、契約書、請求書が必要ですので、建築業者にはその点を事前に十分伝えておくことです。
【固定資産税の精算】
賃貸物件の固定資産税は必要経費にできます。しかし、購入時のいわゆる「固定資産税精算金」は必要経費ではなく賃貸物件(土地と建物)の取得価額に含めなければなりません。固定資産税の納税義務者はその年の1月1日現在の不動産の所有者つまり売主で、年度途中で不動産を売却したならば売却日以降の分を買主に負担させるべく精算金を要求してくるのです。精算金を支払った買主には納税義務がないので、租税公課ではなく、物件の購入コストとして取得価額に含めなければなりません。
賃貸物件の修繕と改良
賃貸物件の修繕や改良の扱いをまとめれば次のとおりです。
■基本となる考え方
修繕費とは賃貸物件の通常の維持管理のために必要な費用、災害により毀損した場合の原状回復のための費用です。修繕費は支出した年度に支出全額を必要経費として処理できます。しかし、これらの支出によりその資産の価値が増加する(面積が増える、機能が向上するなど)、使用可能な年数(耐用年数)が延びる場合には、その支出をその年度だけの必要経費とすることは妥当ではなく、翌年以後へも配分しなければなりません。このような支出を「資本的支出」といい、修繕をした資産の取得価額に加算され、減価償却により複数の年度にわたり必要経費とします。
修繕費、取替費、維持費、改造費など名目はどうであれ、支出された金額は必要経費か資本的支出に区分しなければなりませんが、これが実務上は非常に困難です。そこで、税務上の扱いにおいては一定の形式基準(数値基準)や具体例を示して、これによって区分している場合にはその処理を認めることとしています。
■必要経費となるもの例(支出のあった年度に全額必要経費とできる)
○支出の周期がおおむね3年以内であるもの(金額のみで判断)
○支出額が20万円未満であるもの(同上)
○60万円未満または前年末簿価残額のおおむね10%以下であるもの(修繕費か資本的支出か不明の金額がある場合)
○支出額の30%相当額と前年末簿価残額の10%以下のいずれか少ない金額(同上)
■資本的支出となるもの例(減価償却によって支出を複数の年度に配分)
○建物へ避難階段を取り付けるなど、物理的に付加された部分に対する金額
○用途変更のための模様替えなど、改造、改装に直接要した金額
★請求書や領収書の金額や名目を変えれば?
上記のような「例示」や「形式的な基準」に対しては、このようなことを考える人がいます。しかし、そんなに甘くはありません!
税務署は、建築業者などに問い合わせて請求書や領収書の真偽を確かめます。
もっと必要経費を増やせないか?
事業所得(個人事業者)の必要経費が、その業種・業態・規模、事業主の方針などによって、納税者ごとに千差万別であるのに対して、不動産所得の必要経費は「ワンパターン」であるといえます。不動産賃貸は、「購入した不動産を維持管理、補修しながら貸す」という、誰であっても同じ内容であるからです。
賃貸物件の購入当初には多額の必要経費が生じます。不動産取得税と登録免許税、入居者の募集費用(広告費や紹介手数料など)など、必要経費を合計すれば、年間の家賃収入よりも多くなる場合もあります。不動産所得以外に損益通算できる(赤字を相殺できる)所得があれば、「節税効果!」は絶大です。
年々減少する必要経費もあります。物件を借入金で購入した場合の金利などはその典型です(元利均等返済)。定率法で償却する電気設備などの減価償却費も年々減少します(建物は定額法に限る)。
不動産を節税目的で購入した人にとっては耐え難いことです。
「なんとか、必要経費を購入当初の水準にできないだろうか・・・」
そこで考えるのが、次を必要経費にすることです。
★自家用車を物件の視察時に使っている
自動車の減価償却、ガソリン代、高速代
★自宅で不動産賃貸に関する事務をしている(書類を保管している)
自宅建物の減価償却、固定資産税、水道光熱費、パソコンの購入代金など
★家族に家賃の集金や物件の管理を任せている
給料、交通費
★交際費!
交際費を必要経費にできることは、必要経費が認められる者(事業所得者や不動産所得者など)の「特権!」かもしれませんが・・・
以上を必要経費に計上すると、税務署から見て、大変「目立つ」とを思います。そして、「詳しい事情を聞いてみたいので税務調査の対象にするか」とされる可能性が相当高まるでしょう。
以上が絶対に必要経費にならないわけではありません。しかし、必要経費にするからには、相当な理由があり、税務署に明瞭に説明できなければなりません。
自己責任で、どうぞ!
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