土地建物等の譲渡をした場合の所得税(3/4)
税務署の着眼点(譲渡の事実を把握する方法)
税務署は、ありとあらゆる手段を用いて土地建物等を譲渡した事実(時期、譲渡価格、相手先など)を把握します。また、譲渡所得の申告漏れを防止すべく、土地建物等を譲渡した人には翌年の確定申告の時期(2月16日から3月15日)までに申告書用紙と譲渡所得の説明書を送付しています(大阪国税局管内の税務署ではこのようになっています)。
土地建物等を譲渡したならば、「もう、税務署からは逃げることはできない」と考えなければなりません。
1 不動産登記簿(法務局)
不動産登記簿(法務局に登録された情報)から土地建物等を譲渡した事実を把握します。なお、「登記さえしなければ・・・」は、大変甘い考えです。譲渡の事実を把握する方法は、以下をはじめとして無数にあります。不動産の登記は、不動産の所有者が第三者に対して自身の権利を明示するための手段であり、売買の事実や時期を証明することを第一の目的とはしていません。ですから、「登記が済んでいないから売ってはいないんだ」は通用しないのです。
2 不動産業者(売買の仲介を依頼した)
不動産業者は一定の取引を税務署に報告する義務があります。また、税務署が不動産会社から任意に情報を入手することもあります。
3 金融機関
譲渡した土地建物等に金融機関の抵当権が設定されている場合や、譲渡収入で借入金を返済した場合には、このような事実関係から土地建物等を譲渡したことが判明します。
4 譲渡先
譲渡先が税務申告した(住宅取得借入金等特別控除、事業用資産の減価償却など)、取得資金を金融機関から調達したことなどから判明します。
5 物件の視察
くまなく物件を視察し、事実関係を調査しているようです。
情報公開の必要性が叫ばれていますが、税務署は土地建物等の譲渡の事実を把握する方法については公開していません。なぜならば、それを公開することは犯人に捜査情報を教えるのと同じだからです。
「大物税務署OBの税理士に依頼すれば」が通用しないことは周知のとおりです。なお、税務上問題となっている具体的・個別的な案件に対して意見を述べられるのは、売主、買主、それらから依頼を受けた税理士のみであり、「○○氏(政治家、著名人など)にいいつけてやる!」と叫んでもどうにもなりません。
≪土地建物等を損して売っても確定申告が必要な場合(課税される場合)≫
一般的に「土地建物等を売って損をした」といえば、「売値−買値−金利(借金して買った場合)」だと思います。しかし、税金の計算はこのようにはしません。
■建物の買値(取得費)については購入後の減価(価値の減少分)を考慮します。
建物は購入直後から価値が減少することからその分を差し引きして買値(取得費)を計算し直します。つまり、10年前に1000万円で購入した建物が売却時点で400万円減価しているならば、その建物の買値(取得費)は600万円(1000万円−400万円)ということです。減価した400万円部分は、使用によって「元を取った」と考えるのです。
■土地建物等を購入するための金利は考慮されません。
売却した土地建物等を賃貸していた場合には、賃貸していた期間の金利については不動産所得の必要経費となります。また、住宅にしていた場合には住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の対象となります。取得費に含まれるのは購入した土地建物等を使用していない期間に対応する部分です。
「税金の計算方法」において利益が出る場合には申告が必要ですのでご注意ください。利益が出ない場合も、税務署からお尋ねが書面で送られてくることが通常です。正しく計算し回答しておくことです。
【土地建物等の購入や売却のための費用】
案外忘れがちです。取得費として売却益を減少させる効果がありますので忘れないようにしてください。
●購入費用の例
登記費用(登録免許税、司法書士手数料)、不動産取得税、不動産業者の仲介手数料、印紙(契約書に貼る)、購入後のリフォーム代金など
●売却費用の例
不動産業者の仲介手数料、更地にして売る場合の建物の取り壊し費用など
【居住用財産の譲渡損失(損益通算と損失の繰越控除)】
住宅ローンの有無などを要件に他の所得から差し引ける(他の所得と損益通算できる)だけでなく、それでも損失が残る場合には翌年に繰り越せます。ですから、損して売った場合には積極的に申告をするべきです。
【業務用固定資産の売却・除却と消費税】
業務用の固定資産、つまり会社などの法人、個人事業者(含む不動産貸付業)が保有している建物、機械、車両などを売却や除却した場合の消費税についても注意が必要です。
■売却代金が消費税の対象になります(消費税を受け取っているのです!)
勘定科目で消費税の対象になる(消費税を受け取っている)のは「売上高」だけと考えがちですが、それ以外にも消費税の対象になるものはあります。業務用固定資産の売却がその典型です。
簿価500万円の建物を200万円で売却した場合の仕訳は次のとおりです(金額は税込)。
≪借方≫現金200+建物売却損300
≪貸方≫建物500
200万円が消費税の対象になります。消費税を200万円×8/108≒14万8千円受取っているのです。
この仕訳だけを眺めていても実感がわきませんが(損して売っているのに消費税だなんて・・・)、次の仕訳で考えれば納得できます。
≪借方≫現金200
≪貸方≫建物売却収入(雑収入)200
≪借方≫建物売却原価(雑損失)500
≪貸方≫建物500
■除却は消費税と無関係(除却関連費用は除く)
簿価500万円の建物を除却した(取り壊した)場合の仕訳は次のとおりです(金額は税込)。解体業者に支払う取壊し費用は無視します。
≪借方≫建物除却損(雑損失)500
≪貸方≫建物500
消費税とは一切関係しません。借方の建物除却損は「仕入税額控除」の対象ではありません。建物の購入に関して支払った消費税は購入時に仕入税額控除するからです。
★基準期間の課税売上高に影響します
「2年前の売上が1000万円を超えていると(今年の売上が1000万円を超えると2年後は)」
この場合の売上には業務用資産の売却収入も含まれるということです。