贈与税の概略(1/2)
贈与税が課税される場合(贈与税が課税される財産とは?)
2014年8月31日現在
大阪市北区与力町1−5
■目次■
1/2 贈与税が課税される場合(贈与税が課税される財産とは?)→このページ
1 贈与税が課税される場合
2 贈与税が課税される財産・その1/2(贈与によって取得した財産)
3 贈与税が課税される財産・その2/2(贈与によって取得したとみなされる財産)
2/2 贈与税の計算(申告と納税)
4 贈与が行われても贈与税が課税されない財産
5 人によって課税される財産の範囲に違いがある
6 贈与税の計算方法(相続時精算課税適用分は除く)
7 贈与税が課税される財産の評価方法
8 贈与税の申告と納税(相続時精算課税適用分は除く)
9 相続時精算課税制度
このページとともにご覧ください。
1 贈与税が課税される場合
贈与税は、贈与があった場合に、贈与を受けた人に贈与の額に応じて課税される税金です。こういってしまえば簡単ですが、「贈与とは何か?」、「何時贈与があったのか?」と突き詰めて考えてみると大変難しいです。
贈与税は、個人から財産を贈与されたときに(もらったときに)、贈与された人に(もらった人に)、贈与の額に応じて課税される税金です。よくある誤解は、贈与税は親から子への贈与に限定して課税される税金であるということです。親だけでなく、他人からの贈与を受けた場合にも贈与税は課税されます。当然、子から親への贈与や夫婦・兄弟姉妹間の贈与にも課税されます。なお、会社など法人から財産を贈与されたときには贈与税は課税されませんが、所得税が課税されることになっています。贈与税は、相続税の補完税であるといわれています。もし、ある人が生前に財産を贈与してしまえば、相続税の課税を回避できることができます。贈与税はこのような贈与による相続税の課税漏れを補完するためにある税金です。
贈与税の課税方法には、暦年課税と相続時精算課税の2つがありまずが、相続時精算課税は一定の要件を満たす場合にのみ選択できる方法です。
暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対して課税されます(複数の人から贈与を受けている場合にはすべてを合計して計算します)。1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下なら贈与税は課税されません。贈与税の申告も不要です。
相続時精算課税は、贈与者は65歳以上の親、受贈者は贈与者の推定相続人である20歳以上の子である場合に、受贈者(子)の選択により認められる課税方法です。贈与者(親)ごとにその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から2500万円の特別控除額を控除した(差し引いた)残額に対して贈与税が課税されます。この特別控除額は贈与税の期限内申告書を提出する場合のみ認められます(申告の期限は翌年の2月1日から3月15日までです)。また、前年以前にこの特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2500万円からすでに控除した残額がその年の特別控除限度額となります。
《贈与とは》
贈与とは民法上の贈与契約のことをいいます。民法の規定によると、贈与とは当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立する契約のことをいいます。平たくいえば、「あげましょう」、「ちょうだいします」が贈与ということです。相続税法(贈与税は相続税の補完税であることから相続税法において規定されています)においては、民法上の贈与契約だけでなく実質的に贈与と同様の経済的利益を受けた場合にも贈与税を課税しています。
《贈与となる例》
●親の土地や家屋を無償で子の名義に変更する(親から子への贈与となる)
●夫の資金で妻名義の株式を購入する(夫から妻への贈与となる)
●親が子の住宅購入資金を援助する(親から子への贈与となる)
●夫婦共有名義の住宅ローンの返済を夫の資金のみでする(夫から妻への贈与となる)
贈与の事実認定(現実に贈与であり贈与税が課税されるか否か)は大変難しいのが現実です。なぜならば、相続税法だけでなく民法や不動産関連法規などに基づいて判断しなければならないからです。法律の素人としては、とりあえずは、「あげた(もらった)」「貸した(借りた)」「預けた(預かった)」「売った(買った)」などの区別(形式的な書面だけでなく状況や当事者の意思)を明瞭にしておくしかありません。なお、実際に贈与であっても「計算結果」や「特例」によっては贈与税が課税されないこともあります。
《贈与の方法》
贈与の意思表示は書面でも口頭でもできます。
【贈与の取消し】書面によらない場合にはその履行が終わらない部分に限りいつでも取り消すことができますが、書面による場合には法定取消権などの定められた方法でしか取り消すことはできません。
《財産の取得時期》
贈与の時期がいつであるかは、納税義務の発生時期、贈与財産の評価の時期、申告期限に関連してきます。
●書面による贈与
贈与契約の効力が発生した時
●書面によらない贈与
贈与の履行があった時(書面によらない贈与は履行が終わるまでは取り消せる)
【登記を遅らせれば、登記をしなければ】
贈与税が課税されるにもかかわらず、申告をせずに申告期限から7年を経過すれば、贈与税の納税義務はなくなります。そこで、「(不動産ならば)贈与しても登記を遅らせればいいんだな(しなければいいんだな)」と、ひらめく人もいるかと思います。上記のとおり、書面による贈与は契約の効力が発生した時(契約書などに明記されているはず)、書面によらない贈与は履行(不動産の場合には引渡し)があった時に贈与したことになります。税務署が不動産の贈与を把握する重要な手段が登記である実情からすれば、贈与はしておいて「登記を遅らす(登記をしない)」ことは節税手段(課税逃れ)かもしれません。しかし、税法解釈上、書面による贈与の場合には「なぜ登記が遅れているのか」(書面を作成した時点では贈与していないので登記をしていないのでは)について、書面によらない贈与の場合には「履行」(いつ引き渡したのか)についての事実認定を相当厳格に行います。つまり、「登記の直前」に贈与があったとして贈与税を課税してくるということです(税務署は法務局から不動産の名義変更についてのデータをタイムリーに入手しているようです)。
《親子間などでの金銭貸借と贈与》
「ある時払いの催促なし」や「将来返済能力ができたときに返済する」などの場合には贈与と扱われるおそれがあります。そこで、親子や近親者間での金銭貸借においても、以下の点に留意しておく必要があります。(なお、資力を喪失して返済ができない場合には贈与税が課税されません。)
●返済期日を明確にしておく
●通常支払われると認められる利息を付す
●貸付と返済の事実を証明できるようにしておく(銀行振込みなど)
《土地を無償で借り受ける(使用貸借)場合》
個人間の土地の使用貸借には贈与税は課税されません。土地の使用貸借は法的な保護を背景とする借地権とは異なり、専ら人的信頼関係に依存するものですから、当事者間において契約解除の制限もなく、また権利としての譲渡性も乏しいことから財産価値はゼロとして評価されます。
《負担付贈与》
負担付贈与とは、財産の贈与を受けると同時に債務の引受けなどをすることをいいます。負担付贈与の場合には、贈与を受けた財産の価額から負担額を差し引いた価額に相当する金額について贈与があったものとされます。なお、土地や家屋を負担付贈与する場合には、土地や家屋の価額は路線価(贈与税の原則的評価額)ではなく通常の取引価額によって行います。これは、通常の取引価額>路線価であることを利用した節税を防止するためです。
例えば、通常の取引価額5000万円、路線価4000万円、負担額(借入金)4000万円の場合、路線価によるならば贈与税は課税されません。このような不合理が起こるのは、路線価が通常の取引価額より低めに設定されているからであり、課税上このような不合理を是正しています。
《後継者への事業の移譲》
●個人事業者の場合
事業上のあらゆる財産、つまり商品、製品、売掛金などのプラスの財産から、買掛金、未払金などのマイナスの財産を差し引いた価額に対して贈与税が課税されます。
●会社の場合
後継者に事業を名実とも移譲するには、後継者を代表取締役に就任させるだけではなく、会社の支配権・所有権である株式を贈与する必要があります。贈与税が課税されるのは、この株式についてとなります。
《遺産分割と贈与税》
相続が発生し遺産分割をした場合には相続税が課税されます。遺産分割そのものでは贈与税の問題は発生しませんが、遺産分割した財産を他の相続人に低額で譲渡した、共有持分を放棄したなどの場合には、これによって財産を得た者に贈与税が課税される場合があります。
《財産の名義変更に課税されないためには・・・・》
財産の名義変更をした場合には、原則として新たに名義人となった人が贈与により取得したとされ贈与税が課税されます。ただし、次のような場合には、「財産の名義人を本来の所有者に戻すことを条件」に贈与税が課税されません。
●名義人となっている者がその事実を知らず、財産を使用し収益を得ていない、管理運用していない場合
●誤って(軽率に)他人名義とした場合
●法令などにより取得者の名義とすることができないため他人の名義とした場合
●強制執行その他の強制換価手続を免れるために、やむを得ず名義変更した場合
●贈与契約の取消しなどがあった場合(双方による贈与契約の取消しの場合は贈与税が課税されます)
【親族名義の預金口座】親族名義の預金口座を開設し、そこに少しずつ預け入れすることはよく行われる贈与の方法です(贈与税の年間の基礎控除額である110万円以内を毎年預け入れる)。しかし、この方法では親族への贈与の時期が、毎年ではなくその預金をその親族が自由に使うようになった時とされてしまうおそれがあることをご理解いただけると思います。なぜならば、贈与した以上はその財産を贈与された者が自由に使えなければならないからです。
2 贈与税が課税される財産・その1/2(贈与によって取得した財産)
ここでの財産とは、金銭に見積もることのできる経済的価値があるものすべてです。
(1)土地(土地の上に存する権利を含む)
田、畑、宅地、山林など
(2)家屋
家屋、構築物など
(3)事業用財産
減価償却資産(機械、器具など)、商品、製品、半製品、原材料、売掛金など
(4)有価証券
株式、出資、公債、社債、証券投資信託受益証券、貸付信託受益証券など
(5)預貯金
現金、小切手、預貯金、金銭信託など
(6)家庭用財産
家具、什器備品など
(7)その他の財産
生命保険金、立木、自家用自動車、電話加入権、貸付金、未収入金、書画、骨董など
3 贈与税が課税される財産・その2/2(贈与によって取得したとみなされる財産)
贈与とは民法による概念です。贈与税は民法による贈与の概念よりも広い範囲に課税されます。次のような場合には、それによって受けた財産または利益は贈与によって取得したものとみなされます。下記はいずれも法律上=民法上は贈与ではありませんが、経済的実質は贈与と同様であることから贈与税の課税の対象となります。
(1)委託者以外の人を受益者とする信託が行われた場合
信託とは、一定の目的にしたがって、自分(委託者)の財産を管理または処分させる者(受託者)に移転することをいいます。委託者は信託した財産から生じる収益を受けるとともに、信託期間が満了すれば元本の返還を受けることができます(受益権)。この信託の受益者(受益権を有する者)が委託者以外の者である場合には、信託行為があったときに受益者が委託者から信託の利益を受ける権利を贈与によって取得したとみなされます。
(2)保険料を負担した人以外の人が保険金(死亡保険金、満期保険金など)を受け取った場合
保険金を受け取った人は保険料を支払うことなく保険金を受け取りますので、このような場合には保険料を負担した人(必ずしも保険の契約者とは限りません)から贈与を受けたという扱いになります。なお、被相続人(死亡した人)が保険料を負担していた保険契約の死亡保険金を受け取った場合には保険金を受け取った人に「相続税」が、保険料を負担していた人自身が保険金(死亡保険金、満期保険金など)を受け取った場合にはその人に「所得税」が課税されます。
【契約者変更】契約者を変更しただけでは贈与税は課税されません。(相続により契約者が変わった場合には相続税が課税されます。)
【保険料の負担者】契約者以外(法人は除く)が保険料を負担していたとしても保険料相当額は贈与とはされません(課税は、保険金の受取りや相続の時点で行われます)。
【誰が保険料を負担していたか?】事実認定(税務調査での判断)の問題であり、事実認定が相当困難となる場合もあります。しかし、専業主婦や学生が保険料を負担していたというのは一般的には不自然と解されます。
(3)掛金または保険料を負担した以外の人が定期金の給付を受けることとなった場合
定期金(いわゆる年金)を受け取った人は掛金または保険料を支払うことなく定期金を受け取りますので、このような場合には掛金または保険料を負担した人(必ずしも保険の契約者とは限りません)から贈与を受けたという扱いになります
(4)著しく低い価額で財産を譲り受けた場合(財産の時価と譲受価額の差額)
著しく低い価額による譲渡が行われるのは相手方に利益を与える意図があること、あるいは実際は売買でありながら贈与税の負担を逃れるという意図が背後にあることから、このような場合にも譲受け側に贈与税を課税しています。(ただし、譲り受けた者が資力をなくして債務を弁済することが困難であるために、その債務の弁済にあてる目的でその扶養義務者から譲り受けた場合には、債務を弁済することが困難であると認められる部分については課税されません。)
(5)債務の免除、引受けまたは第三者による弁済により利益を受ける場合
「債務の免除」とは債権者が債務者の債務を免除することをいいます。「債務の引受け」とは債務者以外の者が債務を引き受けてその者が債務者となることをいいます。「第三者による債務の弁済」とは債務者の債務を他の者が代わって弁済することをいいます。いずれの場合も、債務者が利益を受けることに変わりはないことから、贈与税が課税されることとなります。(ただし、資力を喪失して弁済が困難である場合の債務の免除、扶養義務者から債務の引受や弁済が行われた場合には課税されません。)
(6)その他の経済的な利益を受けた場合
●同族会社に対する財産の無償提供などにより株式や出資の価額が増加した場合(財産提供した者以外の株主や出資者が利益を受けることになります)
●同族会社の増資が直前の出資割合と異なる比率で行われた結果、持分の変動が生じ出資の価額が増加した場合