消費税の税務調査
赤字企業でも調査対象に選定されます!!
●消費税の税務調査は、法人税(会社)や所得税(個人事業者)の税務調査と同時に行われます。
●法人税や所得税においては問題とされないミスでも、消費税においては修正の対象となることがあります。
●消費税の税務調査は、帳簿を基本に行われます。
1 調査対象となる事業者の選定
(1)消費税の申告をしていない事業者
所得税(個人事業者)、法人税(会社)の申告の際には決算書を添付します。この決算書からして、消費税の納税義務がある(基準期間あるいは特定期間の課税売上高が1000万円を超えている)にもかかわらず、消費税の申告をしていない事業者は調査対象に選定されることが通常です(電話などで消費税の申告を促し申告書を提出させることで済まされる場合もあります)。
決算書からすれば免税事業者であるけれども、決算書自体の正確性が疑わしいと判断される場合にも調査対象とされます。さらに、所得税や法人税の申告をしていない場合も調査対象に選定されることがあります。
(2)消費税の申告税額が過少と思われる事業者
課税事業者が提出した決算書、申告書、さらには税務署が独自に収集した資料からして、申告税額が少ないと判断される課税事業者は調査対象に選定されます。
2 調査の際に調べられる帳簿など
(1)帳簿について
記帳漏れのない正確な帳簿であることは当然として、収益については消費税の課税対象に「なるか」と「ならないか」の区分、費用や資産の取得については「仕入税額控除の対象となるか」を確認し、その結果と提出された申告書の税額との照合作業が行われます。なお、簡易課税を選択している場合には、収益についての事業区分の適否を検討します。
なお、消費税と帳簿の関係につきましては、「消費税と帳簿」をご覧ください。
(2)請求書、領収書など
帳簿だけではなく、帳簿を作成する基となった請求書や領収書も検討の対象となります。帳簿では仕入税額控除の対象となる費用であっても、実際に請求書や領収書をたどってみるとそうでない場合があるからです。
3 典型的な修正事項
(1)法人税や所得税と共通する修正事項
売上の計上漏れ、仕入や諸経費の二重計上は法人税や所得税でも修正事項(所得の増加要素)ですが、消費税においては、前者は受け取った消費税の増加、後者は支払った消費税の減少として修正の対象とされます(いずれも消費税の納税額は増える)。
(2)消費税独自の修正事項
法人税や所得税では修正事項とならなくても、消費税においては修正事項となることもあります。売上計上そのものはしていても消費税の課税対象としていない場合(受け取った消費税の計算上考慮していない)、費用とはなるけれども仕入税額控除できない費用(人件費や租税公課など)を控除していた(支払った消費税の対象にしていた)などが、消費税独自の修正事項です。
4 赤字企業と消費税
利益は「収益(売上高など)−費用(売上原価や諸経費(人件費や減価償却費含む)など)」として計算されます。一方、納税する消費税は、「受け取った消費税−支払った消費税」として計算されます。納税する消費税の計算における受け取った消費税は、おおむね利益の計算の収益総額に比例しますが、支払った消費税は費用総額から直接は導けません。費用総額の5%(あるいは5/105)が支払った消費税となるのはまれなケースです(通常はこれよりも支払った消費税がはるかに少ない)。
「収益−仕入税額控除の対象とならない人件費や減価償却費を除く費用」がマイナスという異常な状態にでもない限り(倒産寸前)、赤字企業でも消費税の納税義務があります。赤字企業でも消費税が課税される理由の詳細につきましては、「赤字企業と消費税」をご覧ください。
≪税務調査の結果、消費税の課税事業者になった≫
法人税や所得税の税務調査で、売上などの収入の漏れを指摘され修正申告に応じ、その結果として消費税の課税事業者になってしまう場合があります。
≪例≫資本金100万円の株式会社、各事業年度がいずれも12ヶ月、税務調査は第1期から第3期までについて行われたとします。
■法人税の修正申告前の売上高(消費税込で課税売上高に等しいとします)
第1期950万円(免税事業者)
第2期980万円(同上)
第3期900万円(同上)
■法人税の修正申告後の売上高(同上)
第1期1030万円(免税事業者)
第2期1090万円(同上)
第3期900万円→課税事業者。基準期間は第1期で課税売上高が1000万円(免税事業者の場合は税込で判定する)を超えている。
税務署は、消費税が無申告となっている第3期について、至急、消費税の申告書を提出するように促します。
年間売上高が900万円台で推移している場合には、税務調査の対象とされやすい傾向にあります。要注意です!
≪消費税は申告をしていなかった(所得税や法人税は申告している)≫
消費税の専門用語としての「基準期間」「課税売上高」などの意味を理解するのは容易でなく、「自身が課税事業者であるのか」「どの期間の消費税を何時までに納付するのか」について正確に認識できていない納税者が少なからずいます。しかし、「知らなかった・・・」では済まされないのはどの税金(法律)も同じです。知らずに消費税の申告と納税をしていない場合には、早急に所定の手続をしなければなりません。
■税務署は所得税や法人税の申告書から課税事業者を把握しています
税務署は所得税や法人税の申告書に添付する損益計算書の売上高などから課税事業者の存在を把握しています。一般的には損益計算書の売上高が1000万円を超えれば、その納税者に消費税の課税事業者であることを書面で連絡します。この書面には消費税課税事業者届出書が同封されています。消費税の課税事業者になった場合には、消費税課税事業者届出書を提出しなければならないからです。
消費税課税事業者届出書を提出していない場合には税務署から何度も督促されます。ですから、この時点で「知らなかった・・・」という言い訳は通用しないのです。
「引越していた!」
その場合には、その届けをしなければなりませんので、これも言い訳にはなりません。
■本当に1000万円を超えているのか?
損益計算書の売上高が1000万円を超えていても、その中に非課税の部分が含まれている、計算が間違っているなどで、実際の課税売上高が1000万円を超えていないというケースもあり得ます。課税売上高が1000万円を超えていなければ消費税の課税事業者には該当しませんので、当然、消費税の申告と納税は不要です。
今一度、入念に確認してみましょう!
■税務署は決算書の内容から消費税額を計算するのか?
まずは納税者の帳簿、請求書、領収書などを調べ、その後に納税者に自主的な申告を促します。税務署が決算書の内容から消費税額を計算する(このようなやり方を「決定」といいます)のは、納税者が一向に申告をしない場合に限られます。ですから、決算書が間違っているなどで、決算書をそのまま消費税の申告に利用すれば不利になる場合には、帳簿、請求書、領収書などに基づいて消費税を計算すればよいのです。