融資の申し込み2/2

 

作成者 公認会計士 築山 哲

当初公開2002年6月24日、更新2003年10月24日

 

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裏技を教えろ!!

 

 

≪融資を受けやすくするには≫ 

 

1 金融機関が近づいてくる会社とは

 

今までの説明に、がっかりされた方は多いと思います。もっと、融資を受けるための「裏技」や「抜け道」を教えて欲しいとお考えでしょう。「裏技」や「抜け道」があるかどうかはさだかではありませんが、金融機関のほうから近づいてくる会社の共通点は次のとおりです。

 

(1)成長著しく十分な利益を計上している

中途半端な成長性や利益ではどうにもなりません。まさに、「飛ぶ鳥を落とす勢い」でなければなりません。具体的には、成長産業に属し、人員や設備などが目に見えて拡大しており、常時、預金口座に潤沢な資金がなければなりません。

なお、このような会社は経理がずさんであっても、さらに、大変不謹慎な話になりますが、「脱税」、「詐欺」などの違法行為をしていようとも金融機関が群がってきます。

 

(2)担保提供できる不動産を保有している

いまだ担保提供されていない、あるいは担保としての余力がある不動産を保有している必要があります。

 

(3)強力な保証人や担保提供者が存在する

事業には強力なスポンサーが必要です。経営者の親族や親密な取引先などに、政治家、大物実業家、資産家がいて、スポンサーとなってくれる場合は、まさに「鬼に金棒」です。

 

(4)無借金経営

無借金経営ほど強いものはありません。少額なら、なんなく融資してくれます。

 

(5)業歴が古く過去に金融トラブルがない

このような会社には「地力」が備わっています。当然、上記(2)と(3)を備えています。なお、金融トラブルとは、手形の不渡り(当然1回のみ)、約定返済ができなかった(返済条件を見直した)などをいいます。

 

要するに、金融機関は「借りる必要のない会社」を高く評価するのです。当然かもしれません。金融機関は、資金繰りに窮している会社を救済するために融資しているのではないからです。

 

2 普通の会社にとっての融資

 

上記「1金融機関が近づいてくる会社とは」(特に(1))のような会社など、ほとんど存在しません。しかし、以下のことを心がけていれば、「雨が降った時に傘を貸してくれない」の恨み言を吐かずにすむのではないでしょうか。

 

(1)自社の経営状況を冷静に把握する(過剰な融資を受けない)

多くの場合、「貸し渋り」の原因は「借り過ぎ」です。常日頃から、金融機関(第三者)が自社をどのように評価するか(どの程度まで、どのような条件ならば融資に応じてくれるのか)を知っておく必要があります。

金融機関は、一定金額まで(担保物件や保証人に余力がある場合)はスムーズに融資に応じてくれます(ここまでは、上記「1金融機関が近づいてくる会社とは」と同様の扱いをしてもらえます。)決算書の内容もほとんど調べない、形式的な黒字決算(赤字であることは一目瞭然)でも大丈夫なこともあります。さらに、本来は会社が作成しなければならない融資の申込書を、金融機関が作成し、「社長、これに判を押してください」となることさえあります。

しかし、あるときを境に、金融機関は態度を豹変させます。決算書に難癖をつけ(これは、決算書が会計理論上間違っているということではありません)、そうそうに融資に応じてくれなくなります。このとき、多くの経営者が、「融資の受けやすい決算書を作れば」、「優秀な経理担当者に任せれば」と考えますが、まったく成果はありません。

「融資の受けやすい決算書?」が一番楽な方法かもしれません。経理担当者に高圧的に命令し作業させればよいからです(誰にも頭を下げる必要はないからです)。そんなことから、この方法に固執し、「泥沼」にはまる経営者が後を絶たないのが実情です・・・・・・。

 

(2)経理業務は正確に

上記「1金融機関が近づいてくる会社とは」の要件の、すべてあるいは大半を満たしていれば、決算書の内容についての詳細な説明を求められることはありません(場合によってはまったく説明を要求されません)。しかし、ほとんどの会社は経理内容についてなんらかの説明を求められます。そんなことから、常日頃から経理業務を正確に行い説明に備えなければなりません。説明に窮すると融資の審査が長引き会社の資金繰りに影響が出ます。

 

(3)担保や保証人を出し惜しまない

親族や知人に日頃自慢話のネタにしている立派な人物(よい職業に就き資産も保有している)がいながら、融資の際には「兄には頭を下げたくない」(周囲にぶざまな姿は見せたくない)などといって、担保や保証人を出し惜しむ経営者がいます。持てるものは何でも利用するのが事業ではないでしょうか。

 

(4)いざというときの援助者の確保

自社の能力で不足する場合の援助者の確保が欠かせません。常日頃から、周囲と良好な関係を保っておく必要があるのではないでしょうか。

 

 

≪どこで借りればよいか≫

 

  国民生活金融公庫(国金)

 

いわゆる制度融資(公的機関による融資)のひとつで、ほとんどの中小零細企業が、最初の融資はここで受けています。まさに、「国金」は、初心者向けの融資といえます。しかし、融資を受けられる金額の上限は1000万円程度(保証人や担保により大きく異なります)で、また審査は大変厳格(ある意味で杓子定規)です。

なお、いったん融資をしてくれれば、以後の返済を約定どおりに続けてさえいれば(著しい業績不振とならない限り)、最終返済期日が迫ってくると、先方から再度融資を申し込むことを勧誘する案内を送ってくることがほとんどのようです。その意味で、一度「実績」をつくれば心強い存在となります(コピー機のリース契約や自動車ローンに似ています)。

 

  信用保証協会

 

これも、制度融資のひとつで、中小零細企業にとっては一般的です。信用保証協会からの保証(保証料が必要です)を得た後に、一般の金融機関から融資を受けます。保証を受けられる金額は企業の規模にもよりますが、いわゆる零細企業(従業員数10名未満)の場合は2000万円程度が上限のようです(保証人や担保により大きく異なります)。

信用保証協会の保証は、「政府の経済政策」によって、その対象業種、保証額などが著しく変動するようです。去る98年秋に、貸し渋りにあえぐ中小零細企業向けに、ほぼ無差別に保証が行われたことはあまりにも有名です。つまり、保証してもらえるときに(融資の必要がなくても)、保証してもらっておく必要があるということです。

 

《求償権の行使》

これは、まれにある誤解なのですが、「信用保証協会は公的機関なので、返せないときはこころよく肩代わり(代位弁済)してくれる(業績不振企業を救済してくれる)」と考えている人がいるということです。保証人が債務者の肩代わりをした場合(代位弁済)には、債務者に肩代わりした金額の支払を求めること、つまり「求償権」を行使することができます。当然、信用保証協会もこの求償権を行使してきます。

また、信用保証協会は、保証するための保証人や担保を要求することがあります。そんなことから、「保証料を払っているのに、なんのための信用保証協会か分からない?」との声さえ聞かれます。(保証協会は、簡単には代位弁済せず、まずは保証人に連絡するようです。)

 

  銀行

 

上記1と2が、中小零細企業の融資のほとんどを占めているのが実情です。しかし、いずれも急な資金(納税資金や賞与資金など)を調達することはできません。そこで銀行と直接交渉することも必要となります。まずは、預金口座を開設し1や2の返済を確実に行うとともに、定期預金や積立預金をしておくことです。いずれ、銀行のほうから面談を求めてくれば、こころよく応じることです。

事業を拡大させていきたい(零細企業で終わりたくない)とのお考えをお持ちの場合には、いつでも銀行と面談できる関係を、是非とも築いておいてください。

 

  同業者団体

 

商工会議所などが、上記1や2の融資の斡旋を行っていることがあります。ただし、団体への加入年数が一定期間必要である、所定の経営指導を受けなければならないなどの条件を満たす必要がある場合がほとんどのようです。

 

《マル経融資》

商工会議所が、会員企業を国金に推薦してくれます。担保も保証人も不要です。多くの中小零細企業は、このマル経融資からスタートしています。詳細は最寄の商工会議所にお問い合わせください。

 

  その他

 

最近、目的を限定した制度融資(創業支援、特定の産業育成など)が活発化しています。多くの場合、1や2の特殊形態です。しかし、融資対象業種や事業が特定されており審査も相当厳格です。さらに、融資を受けた後も「定期的な事後的審査」を受けなければならないことが多々ありますので、安易な利用は禁物ではないでしょうか。

 

 

≪いくらまで借りられるか≫

 

1 決算書から判断して借りられる金額

 

以上からして、ほとんどの中小零細企業が最高でも3000万円程度の資金で戦わなければならないといえます。この3000万円を有効活用し、本業の収支(売上代金−仕入代金−諸経費)から融資の約定返済ができる状態にしなければなりません。

なお、約定返済は毎月返済を60回の均等で行うのが一般的です。融資金額が3000万円として毎月の返済は元金だけで50万円です。これは、若手従業員2名分の給与です。「融資さえ受けられれば・・・・」は、本当に正しい考えなのでしょうか。

 

ちなみに、返済可能であるための「損益計算書」は次のとおりです。

 

売上高

  100,000,000

売上原価

   60,000,000

  売上総利益

   40,000,000

販売費及び一般管理費

   30,500,000

 役員報酬

    6,000,000

 給与

   18,000,000

 減価償却費

    1,500,000

 諸経費

    5,000,000

  営業利益

    9,500,000

営業外収益(受取利息など)

      300,000

営業外費用(支払利息など)

    1,500,000

  経常利益

    8,300,000

法人税等(住民税・事業税含む)上記の40%

    3,320,000

  当期利益

    4,980,000

(当期利益から収支を求める)

 

減価償却費を加算(資金が流出しないので)

    1,500,000

当期収支

    6,480,000

 

借入金の元金返済は損益計算書には現れません。借入金の返済は、当期利益、厳密には当期収支(当期利益に減価償却費など収支を伴わない損益を加減算したものから逆算可能です)から行わなければなりません。

上記は大変単純なケースですが、多額の販売代金が未回収であったり(貸借対照表の売掛金がかなり多くなります)、毎月多額の積立預金をしている、貯蓄型保険の保険料を支払っているなどの場合、大変収支が苦しくなります。そのような場合、役員報酬の未払いや仕入代金の支払繰延べで急場をしのぐしかありませんが、いずれ限界に達します(多くの中小零細企業の実情です)。

多くの中小零細企業は、いわゆる「借り換え」によってしのいでいます。しかし、業績が悪化傾向になれば、借り換えに応じてもらえず窮地に陥ってしまいます。

 

「融資頼みの経営」には、増収増益(最悪でも約定返済が可能な業績の維持)が義務付けられていると考えなければなりません。金融機関は、だてに付き合える相手ではないのです。

 

最近、「損益なんて役に立たない、キャッシュフロー(資金の収支)経営だ」といわれています。確かに金融機関も収支を重視します。しかし、金融機関は損益計算書と貸借対照表があれば極めて大雑把な(審査に必要な)収支は把握できます。損益の強みは、複式簿記を前提としているので「網羅性」と「正確性」が確保されていることです。

やはり、日々の記帳と月次試算表を軽視してはいけません。

 

2 借り時?

 

金融機関の貸出姿勢は、経済情勢や金融機関の経営方針によって著しく変動します。たとえば、ある企業の経営状態が同じであっても、融資を申し込む時期によって、金融機関に応じてもらえるときと、応じてもらえないときがあります。つまり、借りられるときに、先を見越して借りておく必要があるということです。

経営者によっては、融資が必要なときのみ金融機関と接触し、そうでないときは先方の面談依頼を無下に断ることがあります。今後、融資を受ける必要がまったくない場合を除いて、金融機関との面談にはこころよく応じる必要があるのではないでしょうか。

 

3 当座貸越

 

当座貸越とは、一定限度額まで当座預金をマイナスにできる契約です。たとえば、3000万円までの当座貸越契約を結んでおけば、3000万円を借りっ放しにしておけます(金利のみ支払います)。当座貸越契約にしておけば、毎月の約定返済がありませんので資金繰りは楽になります。しかし、当座貸越契約には担保が必要であり、さらに一定期間ごと(1年程度)に限度額の見直しが行われます。最近倒産した老舗企業(担保あり)の倒産原因の多くが、この限度額の引き下げによる資金繰りの悪化です。

  もし、担保提供資産がある場合には、当座貸越契約を結び、腰をすえた経営をするのも一法だと思います。

 

4 金融機関は経営者に誤った経理知識を植えつける?

 

金融機関が決算書や申告書を検討する目的は「返済能力の有無」です。決算書が会計的に正しいか、申告書は税法に照らしても正しいか(脱税をしていないか)はどうでもいいことなのです。つまり、「融資に応じてくれたときの決算書(申告書)=正しい決算書(申告書)」と考えることは間違いです。

これは、まれにあることなのですが、金融機関が、「実は、この決算内容では苦しいのですが、なんとかしてみます」といって、決算書をねじ曲げて(返済能力があると解釈して)、審査資料を作成し融資に応じてくれるということです。

会社と金融機関の関係は、あくまでも民間同士の自由な関係です。結果的に返済さえできれば、決算書をねじ曲げて審査書類を作成したことなどどうでもいいことなのです。くれぐれも、「金融機関の決算書の利用方法」に、惑わされないようにご注意ください(決算書なんて適当になると考えないでください)。

 

5 金融機関の審査結果は十人十色?

 

「返済能力の有無」の判定には主観的判断が伴います。金融機関ごとに異なることは当然として、同一の金融機関でも、担当者によって、さらに同じ担当者でも審査の時期によって異なるでしょう。「実績があり出世コースまっしぐらの人(無理して実績を伸ばす必要はない人)」の判断は厳しく、「実績が乏しく手柄をたてなければならない人(多少の無茶はやむを得ない人)」の判断は甘くなるのではないでしょうか。

そこで、数回断られたくらいであきらめず、何度も審査を依頼することも必要かもしれません。ただし、「なんとしてでも返済する」という気概が必要なのはいうまでもないことです。

 

6 高利からの脱出!!

 

「金利負担が重いので、低金利の融資に乗り換えたい」

よく聞く話です。確かに、金利負担が減少すれば経営は楽になるかもしれません。しかし、金融機関はそう簡単には乗り換えに応じてくれません。

 

「借りていることを隠して」

決算書から消すことは簡単です。資産勘定との相殺、名目の変更などによりいとも簡単に決算書からは消せます。しかし、決算書の分析、金融機関の独自調査により、高利による資金調達の存在は簡単に判明するようです。

一般論として、高利から資金調達するような会社は、大幅な業績悪化に見舞われており、もはや、決算書のお化粧もできない状態です。

 

7 身内からも見捨てられた

 

保証人や担保提供者は身内の者がなるのが普通です。保証人や担保提供者がいないということは、身内からも見捨てられたということです。到底、赤の他人の、しかも、この世で最もクールなエリート集団である金融機関が信用してくれるはずはありません。

これ以上の悪あがきは禁物です。次の手段(民事再生・破産などの法的手続き、大幅な事業縮小など)を検討してください。

 

8 自殺・・・

 

そこまで考える必要はないのではないでしょうか。資本主義社会においては、企業に永続の保障などなく、企業が破綻するのは当然のことです。債権者も見る目がなかったのですから・・・・・。

 

9 倒産寸前の際の相談相手

 

やはり、弁護士に限ると思います。弁護士は敷居が高いかもしれませんが、合法的で最善の倒産処理手続きを熟知しています。まずは、最寄の無料法律相談を利用してみてはいかがでしょうか。

 世の中には、「悩みごと相談室」などと称した相談窓口が数多くありますが、ビジネスの世界で行われる倒産という処理には、精神論や慰めよりも、確かな専門知識に基づいたアドバイスと手続きが必要だと思います。

 

 

≪わが国の金融システムと中小零細企業≫

 

3期連続黒字決算!!

杓子定規な金融機関の融資審査は相変わらずです。今後も、これは続くでしょう。

 

わが国の法人税率は30%であり、ほとんどの中小零細企業の役員報酬の税率を上回っています。つまり、多額の黒字決算にするよりも、役員報酬を十分にとって、利益ゼロ前後の決算にするほうが中小零細企業にとっては合理的なのです。

しかし、融資は黒字決算(当然、正しい処理による必要があります)が大前提となっています。利益ゼロ前後ではどうにもなりません。要するに、中小零細企業は、「連戦連勝」で、さらに「痩せ我慢(節税策をあきらめる)」までしなければ、融資を受けることができないのです。

 

 

≪最後に≫

 

経営者は、事業拡大のため、生き残るために融資による資金調達をしなければならず、黒字決算に躍起になるのは当然です。しかし、残念ですが、決算書(経理担当者、公認会計士、金融機関)は、経営者の気力、体力、志よりも、先に力尽きてしまう「意気地なし」です。

 

ご健闘をお祈りしております。

 

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