もう一つのベンチャー
1. ベンチャー企業
わが国では、松下、ソニー、ホンダ、米国ではマイクロソフト、インテル、ヤフーなど、いわゆるベンチャー企業が人類にもたらした恩恵は計り知れないものがあります。これらのベンチャー企業の共通点は、アイデア、技術、経営者のリーダーシップとカリスマ性が卓越しているということです。
昨今、経済のグローバル化・ソフト化が叫ばれ、いわゆるオールドエコノミーに未来はないとさえ言われています。それならば、皆が松下幸之助やビルゲイツにならなければ生きていけないのでしょうか。
2. 自社の問題点とビジネスチャンス
「ピンチはチャンス」、「不況こそ飛躍の機会」などとよく言われます。今の不況下、ほとんどの企業が数え切れない問題点を抱えています。そして、その重さや膨大さに途方にくれているのが現状でしょう。しかし、「皆同じなので」では、座して死を待つようなものです。
まずは、自社の問題点を冷静に見極め、同業他社よりも「一歩前進」するほかありません。
@資金調達
「貸し渋り」という言葉をいやというほど聞きます。確かに金融機関は融資先の選別姿勢を鮮明にしています。しかし、今一度、次の点を再検討しなければなりません。
「担保提供できる資産を出し惜しみしていないか」
「金融機関や保証人との接触をおっくうがっていないか」
「資金調達することを恥ずかしいことだと考えていないか」
「各種公的融資や補助金の情報収集を怠っていないか」
「融資を受けるための裏技があると信じていないか」
金融機関は貸し渋りの背後で、優良貸出先を懸命に探しています。また、公的融資や補助金も「地に足のついた企業」に対してはより一層注がれる傾向にあります。多くの有名ベンチャー企業は、「リスクの保有」と「根気ある投資家への説得」からスタートしています。決断の時を誤ってはいけません。
A提供する財貨やサービス
「品質」、「接客」、「品揃え」、「受注から納品のスピード」、「クレーム対応」、「明瞭な商品情報の提供」など、ありきたりのことを再検討し、同業他社に対しての優位性を確認しておかなければなりません。
Bリストラ
バブル崩壊後、いわゆる「リストラ」が進み、これ以上リストラはできない水準まできているかと思います。しかし、リストラ=費用削減ではありません。「支出の20%削減」というような「総論的なリストラ」は、一時しのぎにすぎません。
環境の変化に合わせて企業の規模、業態を見直し、それに応じた「費用構造」を構築していかなければなりません。リストラは自社の「身の丈」と、活躍できる「土俵」を無視しては行えません。
C既存設備
「古い」、「遅い」などとよく聞きます。不況と叫ばれるわりには、各社とも物があふれています。そして、それらが倉庫や事務室の片隅を占領しています。本当に不要な物は廃棄し、活用可能な物は活用しなければなりません。従来の技術、手法に改善と磨きをかけることも必要ではないでしょうか。
D販売先
「信頼関係」、「ある時払いの催促なし」、「系列」、「縁故」などへ過渡に依存することは致命傷になりかねません。長年の間に、お互いが変化しているという事実を忘れてはいけません。特に、「逃げ切り(法的整理による廃業など)」を狙っている取引先の「損切り」は当然のことです。
「社長の不在が多い」、「社長が将来を夢のように語る」など、一般的に言われる「倒産の予兆」を見逃してはいけません。
E仕入先
「仕入単価を切り下げれば何とかなる」との考えが通用しなくなっています。優良仕入先は取引先を選別していますし、不良仕入先は「叩けば潰れる」からです。いくらデフレ経済といっても、必要な出費を惜しんではいけません。
F情報収集
情報は待っていては集まってきません。情報収集には、それ相応の時間、労力、費用が必要です。情報を、「近親者」や「権力者」からもらうのでは手遅れになることがあります。各種新聞や情報誌は当然として、所属団体、取引先などへの積極的な問合せを怠ってはいけません。
Gリーガルチェック
リーガルチェックとは、自社がどの程度法律を遵守しているかをチェックすることです。「法律の通りやっていたら」とか「よそもやっている」をよく聞きます。しかし、今後、益々活発化するであろう「公的支援」の恩恵を受けるには、法律の遵守が前提です。法律を守らない会社を、法律で支援する必要などないのは当然だからです。
H周囲の意見
ほとんどの企業が破綻にいたるまでの過程で、周囲に反対派が存在しています。経営者は決して優柔不断ではいけませんが、周囲が「たまりかねて」意見してきた時には、「危険信号」考えるべきではないでしょうか。
I経営数値の把握
経営数値は企業を測る尺度です。そして、経営数値は良い数値でなければなりません。正確な経営数値を算出し、自社の問題点を把握したならば、改善案の実行に向かって猛然と突き進まなければなりません。
3. 飛躍のチャンス(社会体制の整備)
通信、金融、証券など、随分と「規制緩和」が進んでいます。誰もが、堂々と新しい事業をはじめることが可能となりました。また、経営者の世代交代も進み、従来の慣習やしきたりの縛りもなくなりつつあります。さらには金融と証券の自由化が進み、とりわけ株式市場に集まったリスクマネーが懸命にその投資対象を探しています。
今、全ての企業に、存続は当然として、発展のチャンスがあるのではないでしょうか。
「当社の製品は成熟化しているので」とよく聞きます。しかし、たとえ成熟製品でも、いわゆる「勝ち組み企業」を相手に販売すれば事情は変わってきます。勝ち組み企業は効率性や利便性を追求します。同一商品、同一価格であるならば、品揃えや納品のスピードを重視します。販売方法次第では、他社のシェアを奪えるのです。
「デフレ」、「不良債権」、「製造業の海外移転」、「政府の無策」。これらが大きく圧し掛かり、企業には大変厳しい状況です。しかし、すべての企業が倒産するわけではありません。また、一握りの企業だけが生き残るのではありません。
松下やマイクロソフトも、そのスタートは些細なアイデアや問題点の改善からです。それには、周囲の反発や嘲笑があったかもしれません。しかし、それを跳ね除け、卓越した才能を存分に発揮したのです。
中小零細企業の場合は、大変狭い地域や特定業種のなかでの競争です。大それたことを考える必要はありません。顧客は、劇的な変化ばかり望んでいるのではありません。同業者よりも、一歩秀でていれば満足してくれることも多いのです。
些細なアイデアや改善、周囲の説得、「もう一つのベンチャー」が大切ではないでしょうか。
築山公認会計士事務所