試算表(その仕組み)7/8

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪試算表のどこを見ればよいのか?≫

 

ここでの試算表は、5/8の「財務会計ソフトの試算表」の様式を前提とします。

 

せっかく複式簿記をマスターし試算表まで作成できるようになっても、試算表はある意味で無味乾燥な数字の羅列にしか過ぎません。いわば、試算表は素材に過ぎず、様々な「検討」や「加工」をすることにより付加価値が増すのです。そこで、試算表の諸数値を理解し活用するために、たとえば次のことを実行してみてください。

 

1 (当月残高の)各合計欄を見る

 

いきなり、勘定科目に目をやっても意味がわかりません。そこでまずは、損益計算書と貸借対照表の各合計欄(当月残高)に注目してみることです。

 

(1)損益計算書

 

次の「合計」「差引」欄を見てください。なお、目で数字を追うだけでなく、必ず電卓を叩いて、ある数値がどのようにして計算されているかを確認してください。

 

(イ)売上高合計−売上原価=売上総損益(利益)

企業の根源的収入である売上高からその仕入原価(売上原価)を差し引きして売上総損益を算出します。売上総損益は、俗に粗利益と呼ばれるもので、これがマイナスではどうにもなりません。

(ロ)売上総損益−販売管理費計=営業損益(利益)

(イ)の売上総損益から企業の維持費用である販売管理費(人件費や家賃など)を差し引きして営業利益を算出します。企業が存続してゆくには、売上総損益で販売管理費を捻出しなければなりません。

(ハ)営業損益+営業外収益合計−営業外費用合計=経常損益(利益)

(ロ)の営業損益に受取利息(営業外収益)や支払利息(営業外費用)を加減算して経常損益を算出します。

(ニ)経常損益+特別利益合計−特別損失合計=税引前当期損益(利益)

(ハ)の経常損益に突発的な利益(特別利益)と損失(特別損失)を加減算して税引前当期損益を算出します。

(ホ)税引前当期損益−法人税等=当期損益(利益)

(ニ)の税引前当期損益から税負担額(法人税等)を差し引きして当期損益を算出します。

 

(2)貸借対照表

 

(イ)資産合計

「現金や預金」だけでなく、「将来の費用」(在庫=商品や有形固定資産=機械の取得価額など)、「回収予定額」(将来現金で回収される売上代金=売掛金など)も含まれます。なお、資産は、現金や預金、比較的短期間(貸借対照表の作成日から1年以内)に費用となる商品など、さらに比較的短期間に回収される売掛金などの「流動資産」、長期間の投資である有形固定資産(建物や機械など)を中心とした「固定資産」に分かれます。

(ロ)負債合計

典型的な負債である「借入金(金融機関など)」だけでなく、「未払いの仕入代金(買掛金)」なども含まれます。なお、負債は支払いまでの期間の長短によって、「流動負債」「固定負債」に分かれます。

(ニ)資本合計

資本合計は、(イ)資産合計と(ロ)負債合計の「差額」です。つまり、「正味の財産」ということです。なお、「資本金(当初出資金額)」に損益計算書の創業以来の「当期損益」を加減算した金額が資本合計となります。

 

2 各勘定科目の検討

 

上記1で試算表を「大局的に把握」できたならば、その疑問に応じて各勘定科目に目を通す必要があります。

 

(1)営業損益がマイナスになっている

販売管理費の各勘定科目の内容を総勘定元帳などから調べます。営業損益がマイナスであることが事実であるならば、自社の実情や同業他社の状況から、削減できる費用は削減しなければなりません。(あるいは、売上を伸ばすしかありません。)

 

(2)資産が多いけれども実感が湧かない

前述のとおり、資産には「現金や預金」だけでなく、「将来の費用」(在庫=商品や有形固定資産=機械の取得価額など)、「回収予定額」(将来現金で回収される売上代金=売掛金など)も含まれます。つまり、「先行投資(多額の仕入れや設備購入)をした」、「大量販売して代金が未回収」などの状況では、現金や預金以外の資産が多くなります。

 

(3)売上総損益がマイナスとなっている

月次の試算表では、月末の商品の把握が行われていないことがあります。そんなことから、その月の売上高に対応しない売上原価が試算表に表示され(翌月以降の売上原価が差し引かれている)、売上総損益が思いもよらぬ金額となってしまうことがあります。

 

(4)資本合計が資本金と一致しない(当初出資した分はどうなっているのか)

資本は、「資本(資本金+累積利益)=資産−負債」という差し引き計算によって算出されます。会社設立時には、資本金=資産(負債はなし)=現金(預金)=資本合計という関係になっていたはずですが、活動するにつれてこの内容に大幅な変動が生じます。

 

3 他の期間と比較する

 

売上高、仕入高、販売管理費を「年度ごと」や「月ごと」に比較してください。景気動向や季節要因が浮き彫りになってくるのではないでしょうか。なお、多くの財務会計ソフトは、試算表を年度ごとや月ごとに比較することが可能ないわゆる「推移表の作成機能」があります。

 

4 関連する勘定科目同士の相互比較をする

 

複式簿記は、取引の両面性に着目します。それゆえに、各勘定科目の金額は相互に関連しています。たとえば、売上代金の未回収額である売掛金と売上高(月次あるいは年度で)を比較してみてください。売上高が増えれば売掛金も増えているのではないでしょうか。

 

5 勘定科目を細分化してみる

 

勘定科目によっては、総括的で漠然としているものもあります。たとえば、売上高を製品別や得意先別に細分化してみてください。どの商品で、どこの得意先で稼いでいるかが理解できるのではないでしょうか。

 

6 各勘定科目を複式簿記外の諸資料と照合する

 

当然のことですが試算表から読み取れる業績や財産の状態は、事実どおりでなければなりません。利益は収益とそれに対応する費用を差し引いたものである、資産は実在する、負債は漏れなく計上されている、となっていなければなりません。

まずは、現金勘定と現金の実際の残高を照合してください。合致しているでしょうか。

 

 

複式簿記の第一の目的は、外部報告用の決算書作成であります。しかし、複式簿記により作成される数値は大変広範な情報であり、しかもその情報には信頼性があることから、様々な活用が可能です。

企業経営は数値の追求(向上)が目的です。苦労して作成した試算表を、有効に活用してください。

 

 

≪最後に≫

 

「会計など学問ではない」、「帳簿付けは○○にでもやらしておけ」、「適当にごまかしておけ」。

残念なことに、「高学歴で見識のある人」、「バイタリティに満ちた事業家」と呼ばれる人たちの中にも、このように考える人が少なからず存在します。しかし、以上の拙い説明から会計が緻密で厳格なルールの上に成り立っていることを、多少なりともご理解いただけたのではないかと思います。昨今ますます重要性を増してきている外部者への報告は、企業の規模、形態にかかわらず精密かつ正確に行う必要があるのではないでしょうか。

油断をしていると「寝首をかかれる」結果となりかねません。

 

企業という組織は様々な構成要素からなります。試算表はこの構成要素やその変動原因の数多くを示してくれます。自社の構成要素が把握できたならば、自ずとその弱点や将来進むべき方向も見えてきます。

試算表は、企業のほぼ全行動の記録にほかなりません。試算表作成のスピードと正確性は、企業という組織内での情報伝達のスピードと正確性に左右されます。つまり、試算表の作成が遅れがち、あるいは作成された試算表が不正確である場合は、なんらか組織的な問題があるのです。

試算表は経営にも役立ちます。

 

 

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