試算表(その仕組み)4/8
築山公認会計士事務所
≪試算表≫
1 合計試算表と残高試算表
試算表の様式は次のとおりです。
借方残高 |
借方合計 |
勘定科目 |
貸方合計 |
貸方残高 |
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資産勘定 |
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負債勘定 |
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資本勘定 |
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収益勘定 |
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費用勘定 |
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○○ |
△△ |
合計 |
△△ |
○○ |
借方合計と貸方合計の様式のものを「合計試算表」、借方残高と貸方残高の様式のものを「残高試算表」と呼びますが、通常は両者を同時に作成するため上記のような様式とします。
【合計試算表】
一定期間の全仕訳の金額を勘定科目ごとに記入します。具体的方法としては、各勘定科目の総勘定元帳から借方合計と貸方合計を集計し記入します。すべての仕訳の金額が左右(借方と貸方)一致で行われている以上、全仕訳の左右(借方と貸方)合計金額が一致するのは当然です。
【残高試算表】
合計試算表の左右(借方と貸方)を差し引きします。
資産勘定科目 借方(増加)−貸方(減少)=残高(残高は借方となります)
負債勘定科目 貸方(増加)−借方(減少)=残高(残高は貸方となります)
資本勘定科目 貸方(増加)−借方(減少)=残高(残高は貸方となります)
収益勘定科目 貸方(増加)−借方(減少)=残高(残高は貸方となります)
費用勘定科目 借方(増加)−貸方(減少)=残高(残高は借方となります)
残高試算表の左右(借方と貸方)の残高合計は一致します。
「合計試算表」で次の関係が成り立つと思います。
(借方)資産の増加+負債の減少+資本の減少+費用の発生=(貸方)資産の減少+負債の増加+資本の増加+収益の発生
この両辺を入れ替えてみます。
(借方)(資産の増加−資産の減少)+費用の発生=(貸方)(負債の増加−負債の減少)+(資本の増加−資本の減少)+収益の発生
さらに、次のとおりに展開できます。
(借方)資産の残高+費用の発生=(貸方)負債の残高+資本の残高+収益の発生
「残高試算表」の貸借が一致することが理解できます。
《開始残高試算表》
上記の残高試算表では開始残高(前年度からの繰越)を無視してきましたが、ここで考慮してみます。前年度にも残高試算表は作成しています。それをそのまま利用すればよいのです。
資産勘定科目 年度初め残高(借方)+借方(増加)−貸方(減少)=残高(残高は借方となります)
負債勘定科目 年度初め残高(貸方)+貸方(増加)−借方(減少)=残高(残高は貸方となります)
資本勘定科目 年度初め残高(貸方)+貸方(増加)−借方(減少)=残高(残高は貸方となります)
年度初め残高においては次の関係が成り立ちます(左右は一致します)。
資産の残高=負債の残高+資本の残高
(注)複式簿記では年度初めのことを「期首」(会計期間の先頭の意味)、年度末のことを「期末」といいます。収益と費用については繰越金額がないのは前述のとおりです。また、試算表作成作業を進行させている期を「当期」、その前の期を「前期」といいます。前期とは「後期」に対する意味ではありません。
2 残高試算表から貸借対照表と損益計算書を作成する(当期利益を算出する)
今までの説明で答えは簡単に導けます。
残高試算表において前述のとおり次の関係が成り立ちます。
(借方)資産の残高+費用の発生=(貸方)負債の残高+資本の残高+収益の発生
これを展開してみます。
資産の残高−負債の残高−資本の残高=収益の発生−費用の発生
等式の右辺はまさに「損益計算書」であり、算出されるのは「利益」です。
そうなると次のとおりの等式が成り立ちます。
資産の残高−負債の残高−資本の残高=利益
さらに次のとおり展開できます。
資産の残高=負債の残高+資本の残高+利益
これは「貸借対照表」にほかなりません。
「貸借対照表と損益計算書の利益がなぜ一致するのか?」多くの人が抱く疑問です。しかし、これで謎が解けたのではないでしょうか。
《精算表》
一般に試算表から貸借対照表と損益計算書を作成する際は「精算表」を用います。一番左側に残高試算表を配置し、次に損益計算書、貸借対照表の順に配置します。複式簿記の教科書では、残高試算表と損益計算書の間に「修正仕訳」、「決算仕訳」、「決算整理」などの欄を設けています。これは、決算独自の取引(減価償却、在庫、評価損益など)を通常の取引と区別するためです。この方法は、学習上だけでなく実務でも用いられます。決算整理の内容を明確に残しておけば、次年度の決算作業の参考なるだけでなく、重要性の高い決算整理を外部者(公認会計士や税務署)にスムーズに説明できるからです。
《資本と利益》
利益とは何でしょうか。それは、企業が一事業年度に稼いだ正味の儲けです(収益−費用)。それでは、利益は誰のものでしょうか。「株主への配当・・・」はとりあえず無視するとして、利益は会社のものと考えることにしましょう。
会社を創業するときに株主が出資したと思います。仕訳で考えれば、「(借方)現金○○(貸方)資本○○」となります。利益はこの資本の増殖部分にほかならず、会社の努力の賜物です。そこで、資産=負債+資本(増殖分としての利益含む)という、いわゆる「貸借対照表等式」が成り立つのです。また、利益が貸借対照表の資本の部分に記載されるのはこのためです。
《資本金と資本》
資本金とは、会社を設立するときに株主が出資した金額と設立後に増資(追加出資)した金額の合計です。この金額は過去に出資された金額を表すにすぎませんので、以後も増減することはありません(法定の増減資手続をしない限り)。しかし、会社が活動するに従い、正味資産=資産−負債(当初は資本金相当の現金のみであったはずです)に増減が生じます。そこで、貸借対照表では次のように表示します。
「資本金+累積利益=資本(正味資産)」
累積利益がプラスの場合は「資本金<資本」、マイナスの場合は「資本金>資本」となります。資本金はある意味で会社の規模を表す形式的尺度にすぎませんが、資本は会社の正味の財産(資産−負債=株主の持分)を示します。「資本金」に利益を加算減算した「資本」が「資本金」より多いことが望ましいのはいうまでもありません。「資本金>資本」の状態が続けば(赤字の継続)、やがて会社は倒産するからです。
《当期純利益という勘定科目》
存在しません。当期純利益は、残高試算表を貸借対照表と損益計算書に「分割」した結果生じる「差額」だからです。
《前期繰越利益という勘定科目》
存在します。前述のとおり貸借対照表勘定科目は翌年度に繰り越します。その際、開始残高試算表で「(借方)資産=(貸方)負債+資本」という等式が成り立つ必要があります。そのためには、増殖分としての利益を考慮しなければならないのです。つまり、「(借方)資産=(貸方)負債+資本金+前期繰越利益」として貸借をバランスさせる必要があるのです。
先ほど上記の《資本と利益》では株主への配当を無視しました。配当した際は、「(借方)前期繰越利益○○(貸方)現金○○」と仕訳します。当期の配当は出金(仕訳)のタイミングとしては、翌年度に行われる当期の株主総会後ですので前期繰越利益の減少となります。さらに、次の一事業年度が終了し貸借対照表項目を翌年度に繰り越す際には、当期純利益相当を前期繰越利益に加算しなければなりません。
《個人事業者の資本》
当初出資金額を「元入金」という勘定科目で表示します。会社のように資本金の制度は存在せず元入金は増減します。一事業年度が終了し貸借対照表勘定科目を繰り越す際に、当期利益相当を元入金に含めて繰り越します。
《複式簿記は理数系の学問?》
今までの説明で、複式簿記の原理そのものは「算数」レベルであることがご理解いただけたかと思います。しかし、仕訳をするには取引の内容を解読しなければなりませんが、取引は経済事象の中で貨幣価値(数字)に表示できるものに限られます。そんなことから、「数字嫌い」の人には複式簿記はつらい学問かもしれません。
現在、ほとんどの資本主義国で公認会計士制度(決算書と税務申告書の作成やそのアドバイスだけでなく決算内容の監査をする国家資格)が存在します。各国の公認会計士の中には学生時代の専攻が理数系学科である者も少なからずいますが、これは特定の経済事象(金融商品など)の解読には「数学的素養」が必要であるからです。