試算表(財政状態とは)6/7

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪買掛金≫

 

1 買掛金とは

 

買掛金とは、商品の引き取りはすんだけれども、代金が未払いの状態にある金額をいいます。買掛金は売掛金と同様、現行会計が発生主義であることから生じる勘定科目の典型です。買掛金という負債が発生する背後では、仕入高という費用が発生しています。つまり、買掛金の発生は仕入高の発生と表裏一体の関係にあるといえます。また、買掛金が仕入代金の未払い部分である以上、いずれは現金や預金で支払わなければなりません。買掛金が支払われたならば、買掛金を消滅(減少)させる処理をしなければなりませんが、この処理は現金や預金が減少する処理と表裏一体の関係にあります。

 

(1)買掛金の発生

 買掛金は、商品を引き取った時点(納品・検品)で把握しなければなりません。しかし、通常、商品を引き取った時点では品名と数量しか判明しないため実務上は請求書が届いた時点に帳簿に記録します。ただし、その日付は請求書に記載された納品日付によります。

 

(2)買掛金の消滅

買掛金は支払えば消滅(減少)します。買掛金の発生が費用である仕入高の発生と表裏一体であるのに対して、買掛金の消滅は費用とかかわりのない負債と資産の変動(買掛金という負債と現金あるいは預金という資産が同時に消滅する)です。(値引きや返品により買掛金が消滅する場合は、仕入高という費用が取り消されます。)

 

2 買掛帳(仕入先元帳)

 

買掛金は仕入代金の未払い部分であり、当然のことながら相手先は後日請求書を発送してきます。つまり、請求金額をそのまま記帳するとともに、それを支払えば主体的な管理(記帳)は不要かもしれません。しかし、相手先の請求が正確であるという保証はなく、正確な経理記録と支払いのためにも主体的な管理が必要となります。そこで、買掛帳(仕入先元帳)を仕入先ごとに作成し、仕入計上と支払義務のある金額の原始データを作成しておかなければなりません。

買掛帳の様式は、業種、業態、規模などにより異なりますが、一般的な様式は次のとおりです。

 

A商事(買掛帳は相手先ごとに作成します)

日付

適用

仕入

支払

残高

5/1

前月繰越

 

 

500,000

5/10

商品A80個

100,000

 

 

5/10

商品B80個

100,000

 

 

5/10

商品C80個

100,000

 

 

5/10

商品D80個

50,000

 

 

5/10

商品E80個

50,000

 

900,000

5/15

前月分支払(振込み)

 

300,000

600,000

5/25

前月分支払(手形)

 

150,000

450,000

5/25

前月分支払(現金)

 

50,000

400,000

 

当月合計

400,000

500,000

 

 

●「仕入」の「当月合計」が、A商店からの5月分の仕入高となります

●5月15日の「前月分支払(振込み)」は、預金出納帳にも記帳されます

●5月25日の「前月分支払(手形)」は、支払手形記入帳にも記帳されます

●5月25日の「前月分支払(現金)」は、金銭出納帳にも記帳されます

 

3 買掛帳の集計

 

個々の仕入れごとに作成した買掛帳の合計金額を、仕入高一覧表(試算表(業績の把握)の購買実績の把握を参照)に集計していきます。

 

仕入先名

前月繰越

当月仕入高

当月支払

当月残高

○○物産

 

 

 

 

○○林業

 

 

 

 

○○興産

 

 

 

 

合計

 

 

 

 

 

4 買掛帳と試算表の関係

 

買掛帳は、仕入高一覧表を介して試算表と次のような関係にあります。

 

(1)個々の仕入先の「仕入の当月合計」は、特定月の試算表の「仕入高の借方合計」と一致します

(2)個々の仕入先の「仕入の当月合計」は、特定月の試算表の「買掛金の貸方合計」と一致します

(3)個々の仕入先の「支払合計」は、特定月の試算表の「買掛金の借方合計」と一致します

 

 買掛帳から仕入高一覧表を介して仕訳を起こすのは、上記の(1)と(2)のみです。(3)については、金銭出納帳、預金出納帳から仕訳を起こし、それが正しければ(3)の関係が成り立ちます。

 

5 買掛帳と試算表の不一致

 

仕入先ごとの買掛帳の記帳は正しいとして、買掛帳と試算表が不一致となる原因は次のとおりです。買掛金の試算表におけるウエイトは極めて多く、その誤りは試算表全体に重大な影響を及ぼします。両者が不一致となっている場合には、タイムリーに原因を追求し修正しなければなりません。

 

●仕入先ごとの買掛帳から仕入高一覧表への集計漏れ、集計誤り

●仕入高一覧表からの仕訳誤り

●金銭出納帳(これは正しいとして)から仕訳誤り

●預金出納帳(これは正しいとして)から仕訳誤り

●支払手形記入帳(これは正しいとして)から仕訳誤り

 

 

≪支払手形≫

 

1 支払手形とは

 

支払手形とは、仕入代金などの支払いのために振り出す手形です。勘定科目としては、まずは買掛金が発生し、買掛金消滅の際に支払手形が発生します。つまり、支払手形取引に損益は関連しないということです。支払手形が消滅するのは手形が期日決済された時点ですが、この際も相手勘定科目は預金であり損益とは関連しません。

 

2 支払手形記入帳

 

振出日

摘要

金額

手形種類

手形番号

受取人

振出人

振出日

満期日

支払場所

てん末

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●振出日

 振り出した順番に記入して行きます。この日付で買掛帳に記帳するとともに、「買掛金/支払手形」の仕訳を起こします。

●振出日

 手形に記載した振出日を記入します。

●満期日

 手形に記載した満期日を記入します。

●てん末

 「期日決済」された旨とその日付を記入します。

 

《一定時点の未決済残高合計の把握》

手書きの支払手形記入帳ではすぐさま把握することはできず、手作業で分類・集計しなければなりません。てん末欄を手掛かりに未決済の手形と決済済みの手形を分類し、未決済の手形の金額を集計します。

 

《満期日ごとの決済金額合計》

 手書きの支払手形記入帳ではすぐさま把握することはできず、手作業で分類・集計しなければなりません。てん末欄を手掛かりに未決済の手形と決済済みの手形を分類し、さらに未決済の手形を満期日ごと分類し集計します。

 

3 支払手形記入帳と買掛帳

 

支払手形が発生したならば、支払手形記入帳に記帳すると同時に、買掛帳の支払欄に記帳しなければなりません。この処理が漏れていると、買掛帳の残高、試算表の買掛金残高とも過大な状態となります。

 

4 支払手形記入帳と試算表

 

●支払手形記入帳から特定の月に振り出した手形の金額を集計すれば、特定月の試算表の「支払手形勘定の貸方金額」に一致します

●支払手形記入帳から特定の月に期日決済された支払手形の金額を集計すれば、特定月の試算表の「支払手形勘定の借方金額」に一致します

●支払手形記入帳から特定の月末に未決済となっている支払手形の金額を集計すれば、特定月の試算表の「支払手形勘定の残高金額」に一致します

 

 

≪借入金≫

 

1 借入金とは

 

借入金とは、企業の重要な資金調達手段である金融機関などからの金銭の借入です。借入金は「他人資本」といわれ、いずれは返済しなければならず、「自己資本」といわれ返済不要な資本金と対照的です。

借入金が発生した時点には現金あるいは預金が同額発生します。借入金は返済により消滅しますが、その際資産としての現金や預金が減少します。また、借入金には一定の利息がともなうことが通常です。以上から、借入金の変動は企業の財政状態と経営成績の両面に影響することになります。

わが国の企業、特に中小零細企業においては資金調達手段としての借入金のウエイトが極めて高く、借入金の多寡と推移を正確に捉えることは企業の管理上および外部者への報告上極めて重要なことであります。さらに、借入金にともない資産の担保提供や保証人など、決算書には直接表れない出来事が発生することが通常です(注)。

 

(注)法的には(企業会計を規制している商法からすれば)決算書の欄外に注書きとして、借入金について担保提供している会社の資産を明示しておく必要がありますが、中小零細企業ではそれを行っている例はほとんどありません。ただし、金融機関は融資申込みの際に、担保提供資産や保証人についての詳細な情報を要求することが通常です。

 

2 借入金の形態と仕訳

 

(1)一定金額を数回に分けて(毎月あるいは一定間隔で)数年で返済する借入金

中小零細企業が最も多く利用しているのがこの形態の借入金です(国民生活金融公庫、保証協会の保証付融資)。

(借入時)

預金/借入金

(返済時)返済する元金が一定の場合と、返済する総額(元金と利息)が一定の場合があります。

借入金(元金)/預金

支払利息

 

(2)特定の返済期限に全額返済する借入金

(借入時)

 預金/借入金

(利息支払時)

 支払利息/預金

(返済時)

 借入金/預金

 

(3)増減が頻繁な借入金

 当座貸越(当座預金をマイナスできる契約)の場合、その借入金の増減は頻繁となります。

(借入時)

仕訳なし(当座預金が減少しマイナスの残高となります)

(利息支払時)

 支払利息/当座預金

(返済時)

仕訳なし(当座預金が増加しプラスの残高となります)

 

(4)返済不要な借入金

 下記(5)の役員借入金のほか、上記(2)と(3)の形式的な契約更新がこれに該当します。

 

(5)役員(その企業と深い関わりのあるもの)からの借入金

中小零細企業ではよく行われることです。その本質は、中小零細企業経営者が自分の会社が危機に瀕している際に私財を提供するということです。そして、ほとんどの場合無利息です。なお、昨今では経営者が私財を使い果たし、さらには会社として金融機関から資金調達ができず、経営者が個人名義で金融機関(含む金融機関以外の第三者)から借り入れて会社に貸し付けるケースが多発しています。

資金の本源的な発生源と会社が形式上無関係である以上、役員からの借入金として処理しなければなりません。なお、金融機関からの借入金とは異なって、契約書はおろか返済条件も不明瞭なことが通常です。せめて、正確な記帳だけでも心がけなければなりません。

 

3 借入金と試算表

 

●一定期間に新規に借り入れた金額の合計金額が、一定期間の試算表の借入金勘定貸方合計と一致します

一定期間に返済した元金の合計金額が、一定期間の試算表の借入金勘定借方合計と一致します

一定時点の未返済元金合計が、一定時点の試算表の借入金勘定残高に一致します

 

 

≪資本金≫

 

 設立時以降、ほとんど増減することはない(仕訳を起こす必要のない)勘定科目です。しかし、資本金および資本という概念は企業会計を理解する上で大変重要です。詳細は、当事務所ホームページ、ノウハウ集の「試算表(その仕組み)」をご覧ください。

 

 

≪利益≫

 

 利益は、「収益−費用」、「資産=負債+資本金+利益」として把握されますので、あらたまって仕訳を起こす必要はありません。しかし、企業会計が利益算出を重要な目的の一つとしている以上、これについての理解が必要不可欠です。  詳細は、当事務所ホームページ、ノウハウ集の「試算表(その仕組み)」をご覧ください。

 

 

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