試算表(財政状態とは)4/7
築山公認会計士事務所
≪売掛金≫
1 売掛金とは
売掛金とは、商品の販売(引渡し)はすんでいるけれども、その代金が未回収の状態にある金額をいいます。売掛金は、現行企業会計が発生主義を前提とすることから生じる勘定科目の典型です。売掛金という資産が発生する背後には、売上高という収益が発生しています。つまり、売掛金の発生は売上高の発生と表裏一体の関係にあるということです。また、売掛金が販売代金の未回収部分である以上、いずれは回収され現金とならなければなりません。売掛金が回収されたならば、売掛金を消滅(減少)させる処理をしなければなりませんが、この処理は現金や預金が増加する処理と表裏一体の関係にあります。
(売掛金はやがて貨幣(現金)となる資産です。そんなことから、売掛金を「貨幣性資産」とよぶことがあります。)
(1)売掛金の発生
売掛金は企業の販売活動の一定時点で把握しなければなりません。つまり、販売促進活動→受注(販売商品とその数量、販売条件の決定)→出荷の手配(仕入れ、製造)→出荷・納品(返品)→代金請求→代金回収→アフターサービスからなる企業の販売活動のサイクルで、売上高の発生が「実現」した段階で、その金額を把握する必要があります。一般に、相手先に商品を出荷した時点(引渡し時点)に「実現」の要件は満たされますので、出荷の都度その販売金額でもって売掛金を記録しなければなりません。
(2)売掛金の消滅
売掛金は入金されれば消滅(減少)します。売掛金の発生が収益である売上高の発生と表裏一体であるのに対して、売掛金の消滅は収益とかかわりのない資産形態の変動(売掛金から現金あるいは預金)です。(いわゆる貸し倒れ、返品・値引きにより売掛金が消滅する場合には、収益の取り消しや費用が発生します。)
2 売掛帳(得意先元帳)
売掛金は販売代金の未回収部分であり、ほとんどの場合は相手先に請求しなければ入金はありません。そんなことから、売掛金を管理し、漏れのない正確な請求と回収の管理をすることは企業経営上極めて重要なことです。そこで、売掛帳(得意先元帳)を「取引先ごと」に作成し、請求と回収の原始データを作成しておかなければなりません。
売掛帳の様式は、業種、業態、規模などにより異なりますが、一般的な様式は次のとおりです。
A商店(売掛帳は相手先ごとに作成します)
日付 |
適用 |
販売 |
入金 |
残高 |
4/1 |
前月繰越 |
|
|
500,000 |
4/10 |
商品A100個 |
100,000 |
|
|
4/10 |
商品B100個 |
100,000 |
|
|
4/10 |
商品C100個 |
100,000 |
|
|
4/10 |
商品D100個 |
50,000 |
|
|
4/10 |
商品E100個 |
50,000 |
|
900,000 |
4/15 |
前月分入金(振込み) |
|
300,000 |
600,000 |
4/25 |
前月分入金(手形) |
|
150,000 |
450,000 |
4/25 |
前月分入金(現金) |
|
50,000 |
400,000 |
|
当月合計 |
400,000 |
500,000 |
|
●「販売欄」の「当月合計」が、A商店に対する4月の売上高となります。
●4月15日の「前月分入金(振込み)」は、預金出納帳にも記帳されます。
●4月25日の「前月分入金(手形)」は、受取手形記入帳にも記帳されます。
●4月25日の「前月分入金(現金)」は、金銭出納帳にも記帳されます。
《請求書との関係》
一般的に請求書は、請求の「総括的事項」と「明細」を記載します。総括的事項として、前月繰越金額(前月繰越の500,000円)、当月請求金額(販売の当月合計の400,000円)、当月入金金額(入金の当月合計の500,000円)を記載します。明細としては、販売欄を個々に記載すること(4月10日の商品AからEの納品個数と金額)が一般的ですが、入金内訳(4月15日、25日の各入金金額と入金の形態)を記載することもあります。
《値引きや返品の未処理》
値引きや返品が長期間未処理となっていることがあります。特に、当初納品が仮の単価あるいは数量である場合によく起こる現象です。値引きや返品の未処理が累積すると、売掛帳の残高が異常な数値となりますのでタイムリーな処理が必要です。なお、値引きや返品はそれが確定した日付で販売欄にマイナス記入します。
3 売掛帳の集計(売上高一覧表の作成)
個々の得意先ごとに作成した売掛帳の一定期間の合計金額を、下記のとおりの売上高一覧表に集計します(詳細は「試算表(業績の把握)の販売実績の把握」参照)。
得意先名 |
前月繰越 |
当月売上高 |
当月入金 |
当月残高 |
○○商事 |
|
|
|
|
○○工業 |
|
|
|
|
○○産業 |
|
|
|
|
合計 |
|
|
|
|
4 売掛帳と試算表の関係
売掛帳は、売上高一覧表を介して試算表と次のような関係にあります。
●個々の得意先の「売掛帳の前月繰越」は「売上高一覧表の前月繰越」に転記集計された後、特定月の試算表の「売掛金の前月繰越」と一致します(必ず一致します(一致しなければなりません))
●個々の得意先の「売掛帳の販売の当月合計」は「売上高一覧表の当月売上高」に転記集計された後、特定月の試算表の「売掛金の借方合計」、あるいは「売上高の貸方合計」と一致します(仕訳によっては一致しない場合があります)
●個々の得意先の「売掛帳の入金の当月合計」は「売上高一覧表の当月入金」に転記集計された後、特定月の試算表の「売掛金の貸方合計」と一致します(仕訳によっては一致しない場合があります)
●個々の得意先の「売掛帳の月末残高」は「売上高一覧表の当月残高」に転記集計された後、特定月の試算表の「売掛金の当月残高」と一致します(必ず一致します(一致しなければなりません))
5 売掛帳と仕訳
売掛帳に関連する仕訳は下記のとおりです。
(1)売掛金(売上高)の発生
企業は販売活動を絶え間なく行っていますので、その販売活動の成果である売上高も絶え間なく発生しています。しかし、経理実務上(記帳、請求など)は、「売上計上すべき金額(総額請求すべき総額)」としての売掛金の把握は、一定期間ごと(通常は月ごと)に把握します(個々の売掛帳の記帳自体はその都度行います)。
(2)売掛金の入金
売掛金の入金は、売掛帳と金銭出納帳(預金出納帳)という重要な二つの帳簿に記録されます。当然、両者の記録は一致しなければなりません。
(3)2重仕訳の防止
売掛金の入金の仕訳を起こすにあたっては、2重仕訳が発生しないようにしなければなりません。つまり、売掛帳と金銭出納帳(預金出納帳)のいずれを仕訳の基データとするかを決めておく必要があります。一般には、金銭出納帳(預金出納帳)を基データとします。なぜならば、あらゆる費用、収益、資産、負債の変動は、最終的には現金(預金)の変動をともなうために、現金(預金)勘定の仕訳を最優先する必要があるからです。
(4)振込手数料
得意先が代金を振り込むにあたり、振込手数料相当金額を差し引いてくることがあります。その際の仕訳は次のとおりです。
預金59,500/売掛金60,000
支払手数料500/
この場合、売掛金60,000円は当方が振込手数料を負担することにより全額回収したことになります。売掛帳の入金欄には60,000円と記入しますが、預金出納帳には59,500円と記入します。しかし、預金出納帳の摘要欄に「振込手数料500円当方負担」とでも記入しておかないと、預金出納帳からは正しい仕訳を起こすことができません。
6 売掛帳(売上高一覧表)と試算表の不一致
得意先個々の売掛帳の記載は正しいとして、売掛帳(売上高一覧表)と試算表が不一致となる原因は次のとおりです。売掛金の試算表におけるウエイトは極めて多く、その誤りは試算表全体の正確性に重大な影響を及ぼします。両者が不一致となっている場合には、タイムリーに原因を追求し修正しなければなりません。
●個々の売掛帳(これは正しいとして)の売上高一覧表(当月売上高)への集計ミス(漏れ、重複)
●売上高一覧表からの仕訳誤り
●入金時の金銭出納帳(これは正しいとして)から仕訳誤り
●入金時の預金出納帳(これは正しいとして)から仕訳誤り
≪受取手形≫
1 受取手形とは
受取手形とは、売上代金の対価として受け取る手形です。勘定科目としては、まずは売掛金が発生し、売掛金消滅の際に受取手形が発生します。つまり、受取手形取引には損益は関連しないということです。受取手形が消滅するのは手形が期日決済された時点ですが、この際も相手勘定科目は預金であり損益とは関連しません。
2 受取手形記入帳
受取手形は、決済期日前に金融機関に取立てに出さなければなりません。また、手形現物の保管は厳重に行う必要があります。受取手形記入帳の様式は、各企業ともほぼ同様であり市販の手形記入帳あるいは手形管理ソフトを活用しています。
受取日 |
摘要 |
金額 |
手形種類 |
手形番号 |
支払人 |
裏書人 |
振出日 |
満期日 |
支払場所 |
てん末 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
●受取日
受け取った順番に記入して行きます。この日付で売掛帳に記帳するとともに、「受取手形/売掛金」の仕訳を起こします。
●支払人
約束手形の場合には振出人、為替手形の場合には引受人を記入します。
●裏書人
裏書譲渡を経て受け取った場合には、裏書人(直前の)を記入します。
●振出日
手形に記載された振出日を記入します。
●満期日
手形に記載された満期日を記入します。
●てん末
「期日決済」、「裏書」、「割引」など、受取手形が消滅した理由を記入します。
《一定時点の未決済残高合計の把握》
手書きの受取手形記入帳ではすぐさま把握することはできず、手作業で分類・集計しなければなりません。てん末欄から現存する手形と消滅した手形を分類し、現存する手形の金額を集計します。
《満期日ごとの決済金額合計》
手書きの受取手形記入帳ではすぐさま把握することはできず、手作業で分類・集計しなければなりません。てん末欄から現存する手形と消滅した手形を分類し、さらに現存する手形を満期日ごと分類し集計します。
3 受取手形記入帳と売掛帳
受取手形が発生したならば、受取手形記入帳に記帳すると同時に、売掛帳の入金欄に記帳しなければなりません。この処理が漏れていると、売掛帳の残高、試算表の売掛金残高とも過大な状態となります。
4 受取手形記入帳と試算表
●受取手形記入帳から特定の月に受け取った受取手形の金額を集計すれば、特定月の試算表の「受取手形勘定の借方金額」に一致します
●受取手形記入帳から特定の月に期日決済された受取手形の金額を集計すれば、特定月の試算表の「受取手形勘定の貸方金額」に一致します(割引、裏書きがある場合はこの限りではありません。)
●受取手形記入帳から特定の月末に未決済となっている受取手形の金額を集計すれば、特定月の試算表の「受取手形勘定の残高金額」に一致します
5 手形の割引と裏書き
(1)割引
受取手形記入帳のてん末欄に割引いた旨とその日付を記入します。なお、仕訳としては次の二つの方法があります。
(その1)
【割引時】 預金/受取手形(ただし、手形の金額から割引料が差し引かれますので借方に割引料という勘定科目が発生します)
【期日決済時】 なし
(その2)
【割引時】 預金/割引手形(ただし、手形の金額から割引料が差し引かれますので借方に割引料という勘定科目が発生します)
【決済時】 割引手形/受取手形
一定時点で割引され未決済の状態の手形がどれだけあるかは大変重要な情報です。なぜならば、手形の割引はその手形が決済されない限り手形相当金額を借り入れているのと同様だからです。それからすれば、(その2)は試算表にその金額が表示されるので大変合理的です。しかし、仕訳数が増加し手間がかかります。いずれにせよ、割引をして未決済状態の手形の内訳と金額は常時把握しておく必要があります。
(2)裏書き
受取手形記入帳のてん末欄に裏書きした旨とその日付を記入します。なお、仕訳としては次の二つの方法があります。
(その1)
【裏書き時】 買掛金/受取手形(裏書きは仕入先に対して行うのが通常です)
【期日決済時】 なし
(その2)
【裏書き時】 買掛金/裏書手形
【決済時】 裏書手形/受取手形
一定時点で裏書きされ未決済の状態の手形がどれだけあるかは大変重要な情報です。なぜならば、手形の裏書きはその手形が決済されない限り手形相当金額を借り入れているのと同様だからです。それからすれば、(その2)は試算表にその金額が表示されるので大変合理的です。しかし、仕訳数が増加し手間がかかります。いずれにせよ、裏書きをして未決済状態の手形の内訳と金額は常時把握しておく必要があります。