試算表(財政状態とは)3/7

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪預金≫

 

 

1 預金とは

 

 預金とは、金融機関に預け入れている会社の現金です。預金には、普通預金、当座預金、定期預金、積立預金など様々な種類のものがあります。どの預金にも共通するのは、預け入れると金額が増加し、引き出せば減少し現金として支払いの手段に充てることができるということです。さらに、金融機関が預金通帳や残高証明書を発行してくれますので、外部的な証拠資料に基づいた正確な金額を把握することが容易です。

 

2 預金管理の単位

 

 預金は、銀行ごと、預金種類ごと、預金口座ごとに管理します。これは、金融機関が増減を把握する、会社が貯蓄する、会社が引き出して支払手段に充当するなど、この単位ですることが通常だからです。

 

3 預金の把握方法

 

 預金は、一定時点の残高だけでなく、その残高にいたるプロセスとして一定期間の各増減の結果から把握しなければなりません。これは、企業会計が損益計算を重要な目的としていること(預金の増減が損益と連動していること)、預金は資産の一つに過ぎず預金以外の資産と預金の変動に深い関連があることによります。以下は、預金が変動する原因の例です。

 

(増加)

●売上代金の集金

預金/売上高

●借入金による資金の調達

預金/借入金

●銀行預金口座への預け入れ

預金/現金

(減少)

●仕入代金の支払い

 仕入高/預金

●給与、諸経費の支払い

 給与など/預金

●銀行預金口座からの引き出し

 現金/預金

 

4 預金出納帳(銀行帳)

 

(1)預金出納帳とは

 預金を把握することに用いられる帳簿です。読んで字のごとく、預金の出入りと残高を把握することを目的としています。作成は、銀行ごと、預金種類ごと、預金口座ごとに行います。

 

(2)預金出納帳の様式と記帳例

企業の帳簿は業種や業態によって大きく異なることが通常ですが、預金出納帳に関しては各企業ともほぼ様式は同じで、多くの企業が市販の預金出納帳を使用しています。

(A銀行当座預金口座番号1234番)

日付

摘要

預入金額

引出金額

残高

3/1

前月繰越

 

 

100,000

3/2

A物産より売上代金振込み

100,000

 

200,000

3/4

B商事の小切手預け入れ

50,000

 

250,000

3/10

C工業へ仕入代金振込み

 

80,000

170,000

3/10

同上振込手数料

 

600

169,400

3/10

預け入れ(現金より)

500,000

 

669,400

3/25

従業員給料(3名)

 

500,000

169,400

3/31

電話代

 

2,000

167,400

3/31

水道代

 

3,000

164,400

 

当月合計

650,000

585,600

 

 

(3)預金出納帳と預金通帳の関係

現金と違って、預金の場合には金融機関が預金通帳を発行してくれますので、企業自身で作成する預金出納帳は不要と考えがちです。しかし、預金通帳では全ての入出金内容を把握することができません。上記(2)の例では、通帳に入出金の内容が表示されるのは3月2日のA物産より売上代金振込み、3月10日のC工業に振り込んだ際の振込手数料、3月31日の電話代と水道代のみです。

「通帳にメモを残しておけば」との方法もありますが、記入スペースに限りがあります。やはり、預金出納帳を作成しておく必要があります。

 

(4)預金出納帳の記帳

 預金出納帳は、預金の変動(預け入れと引き出し)のある都度、変動内容が判るように記帳することが原則です。上記(2)の記帳例では、3月2日、4日、10日、31日の記帳が預金変動の最小単位に基づいていますが、このような記帳が原則です。3月25日の従業員給料(3名)は、預金変動の最小単位に基づいていませんが、1回あたりの預金変動件数があまりにも多く、基礎証憑でその内容が確認できる場合にはこのような記帳でもかまいません。 

 

(5)基礎証憑との関連

 基礎証憑とは、預金変動の詳細な内容を示す資料であるとともに、預金変動の客観性を証明する資料でもあります。預け入れについては請求書控、納品書控、受領書など、引き出しついては請求書、領収書などです。預金出納帳についての基礎証憑は、預金出納帳の入出金日付順に保管しておくことが一般的です。

 

(6)預金出納帳の正確性

 入出金については上記(4)の基礎証憑との合致、残高については「帳簿残高(預金出納帳の残高)」と「実際残高(通帳の残高)」の合致を確認することにより、その正確性を確かめることができます。 

 

(7)預金出納帳と仕訳(振替伝票)

上記(2)の記帳例では、3月2日、4日、10日、31日の入出金は、預金出納帳からそのまま仕訳を起こすことができます。

(3月2日)

当座預金(A銀行)100,000/売上高(売掛金)100,000

(3月4日)

当座預金(A銀行)50,000/現金(売掛金あるいは売上高)50,000

(3月10日)

 仕入高(買掛金)80,000/当座預金(A銀行)80,000

 振込手数料600/当座預金(A銀行)600

 当座預金(A銀行)500,000/現金500,000

(3月31日)

 通信費2,000/当座預金(A銀行)2,000

水道光熱費3,000/当座預金(A銀行)3,000

一方、3月25日の従業員給料 (3名)は、基礎証憑を手がかりに仕訳を起こします。

(3月25日)

給料手当550,000/当座預金(A銀行)500,000

通勤手当30,000/預り金(所得税・社会保険料)80,000

 

(8)預金出納帳と預金通帳の不一致

預金出納帳と預金通帳の残高が一致しない場合があります。原因は様々でしょうが、次のようなことが考えられます。

(イ)記帳金額の誤り

 実際の預金の増減が預金出納帳に誤って記帳された場合(例)450円の引き出しを540円と記帳した。

(ロ)記帳漏れ

 実際の預金の増減を預金出納帳に記帳していない場合(例)500円の引き出しがあるのに記帳していない。

(ハ)他店小切手

いわゆる他店小切手を預け入れた場合には、金融機関の通帳上は直ちには入金扱いされません。

(ニ)未落ち小切手

小切手の受取人が長期間小切手を預け入れないことがあります。

(イ)と(ハ)は当然預金出納帳の修正を行う必要があります。(ハ)と(ニ)は、不可避的に生じる差異ですので預金出納帳の修正は不要ですが、差異の内容は把握しておく必要があります。 

 

(9)預金出納帳と試算表

上記(2)の預金出納帳の金額と試算表の金額には次の関係が成り立ちます。

●預金出納帳の前月繰越=残高試算表の預金勘定の前月繰越(必ず成り立ちます)

●預金出納帳の収入金額の当月合計=残高試算表の預金勘定の当月借方(仕訳によっては成り立たないこともあります)

●預金出納帳の引出金額の当月合計=残高試算表の預金勘定の当月貸方(仕訳によっては成り立たないこともあります)

●預金出納帳の月末残高=残高試算表の預金勘定の当月残高 (必ず成り立ちます)

 預金出納帳の記帳が正しいのに、残高試算表と上記の関係が成り立たない場合には、仕訳が誤っている、仕訳は正しいが総勘定元帳や総勘定元帳から試算表への転記が誤っていることが考えられます。

 

5 複式簿記における預金管理の重要性

 

現在では、ほぼ全ての企業が銀行取引を行っており預金口座を活用しています。各種決済も預金口座で行うのが常識であり、企業の収益源泉や財産の状況も預金口座から把握するのが通常です。そんなことから、複式簿記においては預金口座の出入りを正確に把握することが極めて重要な作業となります。

以下のような入出金不明事項が存在すると、預金残高はともかくとして、あらゆる勘定科目が不正確となります。

 

(1)預金の増加原因が不明(売上代金の場合)

銀行振込みしてきた場合には、ほとんどの金融機関の預金通帳に相手先名が表示されるのでよいのですが、売上代金の現金回収、小切手回収を預け入れた場合には正確な記録を残しておく必要があります。

 

(2)預金の増加原因が不明(売上代金以外の場合)

 「銀行預金間の移動」、「手持ち現金からの預け入れ」、「経営者からの資金融通(いわゆる役員借入金)」など、明瞭な記録を残しておく必要があります。

 

(3)預金の減少原因が不明

ほとんどの金融機関の通帳において、口座引落しを除いて出金原因(具体的な相手先)は表示されません。出金内容については、預金出納帳、振替伝票、基礎証憑からすぐさま解明できるようにしておく必要があります。

 

6 試算表における預金残高の意味

 

試算表に表示される預金残高は、一定時点(月末、年度末など)に企業が保有する手持ち預金の残高です。預金が支払いや貯蓄の手段である以上、預金は多いに越したことはありません。しかし、預金保有量の絶対的基準はなく、その企業にとって必要量以上を保有していることが大切です。

預金の必要量は、預金勘定を眺めているだけではわかりません。それは、会社の業種、業態、規模によって異なってきます。しかし、預金が企業経営上重要な資産であることは疑いのないことであり、その残高のみならず増減を正確に把握しておくことは当然のことです。さらに、銀行取引が常識となっている現在では、企業のあらゆる損益や資産負債の変動に預金が介在することが通常であり、預金の正確な把握が正確な決算書作成の第一歩であることを忘れてはなりません。

 

 

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