試算表(財政状態とは)2/7
築山公認会計士事務所
≪現金≫
1 現金とは
現金の典型は、「紙幣」と「硬貨」ですが、受取小切手で銀行預金口座に未入金のものや郵便為替証書など、紙幣や硬貨と同等の機能を有するものも現金に含まれます。企業の保有する現金は、支払いあるいは貯蓄手段として利用されますが、銀行預金取引が通常化している現代では、販売代金などを銀行預金口座へ入金するまでの一時的プロセスにすぎないことが実情です。
2 現金管理の単位(現金の保管場所)
会社の規模、業種などによって異なります。会社の規模が小さく支店や営業所もなく、さらに現金の増減も少ない場合には、現金の保管は1ヶ所にしておくことが望まれます。なお、現金の保管場所が複数となる場合には、保管場所ごとに金銭出納帳を記帳するとともに、試算表の勘定科目を細分化(例えば現金1と現金2のように)、あるいは補助科目を設けておく必要があります。
3 現金の把握方法
現金は、一定時点の残高だけでなく、その残高にいたるプロセスとして一定期間の各増減の結果から把握しなければなりません。これは、企業会計が損益計算を重要な目的としていること(現金の増減が損益と連動していること)、現金以外の資産と現金の変動に深い関連があることによります。以下は、現金が変動する原因の例です。
(増加)
●売上代金の集金
現金/売上高
●借入金による資金の調達
現金/借入金
●銀行預金口座からの引き出し
現金/預金
(減少)
●仕入代金の支払い
仕入高/現金
●給与、諸経費の支払い
給与など/現金
●銀行預金口座への預け入れ
預金/現金
4 金銭出納帳(現金出納帳)
(1)金銭出納帳とは
現金を把握することに用いられる帳簿です。読んで字のごとく、現金の出入りと残高を把握することを目的としています。
(2)金銭出納帳の様式と記帳例
企業の帳簿は業種や業態によって大きく異なることが通常ですが、金銭出納帳に関しては各企業ともほぼ様式は同じで、多くの企業が下記のとおりの様式で記帳しています(市販の金銭出納帳を使用していることが通常です)。
日付 |
摘要 |
収入金額 |
支払金額 |
残高 |
3/1 |
前月繰越 |
|
|
100,000 |
3/4 |
社長交通費(A物産訪問) |
|
600 |
99,400 |
3/4 |
接待費(A物産社長) |
|
10,000 |
89,400 |
3/10 |
香典(B産業副社長ご尊父様) |
|
30,000 |
59,400 |
3/15 |
社長出張旅費(新幹線他) |
|
30,000 |
29,400 |
3/20 |
売上代金回収(C商会) |
200,000 |
|
229,400 |
3/21 |
D銀行普通預金へ預け入れ |
|
200,000 |
29,400 |
3/24 |
D銀行普通預金より引き出し |
500,000 |
|
529,400 |
3/25 |
従業員給料 (2名) |
|
390,000 |
139,400 |
|
当月合計 |
700,000 |
660,600 |
|
(3)金銭出納帳の記帳
金銭出納帳は、入出金のある都度、入出金内容が判るように記帳することが原則です。上記(2)の記帳例では、3月4日、10日、20日、21日、24日の記帳が入出金の最小単位に基づいていますが、このような記帳が原則です。3月15日の社長出張旅費(新幹線ほか)と25日の従業員給料(2名)は、入出金の最小単位に基づいていませんが、1回あたりの出金件数があまりにも多く詳しく分解して記帳することが不可能で、かつ、基礎証憑(旅費の場合には旅費の精算書、給料の場合には給与台帳など)でその内容が確認できる場合にはこのような記帳でもかまいません。
(4)基礎証憑との関連
基礎証憑とは、入出金の詳細な内容を示す資料であるとともに、入出金の客観性を証明する資料でもあります。入金については請求書控、納品書控、受領書など、出金については請求書、領収書などです。金銭出納帳についての基礎証憑は、金銭出納帳の入出金日付順に保管しておくことが一般的です。
(5)金銭出納帳の正確性
入出金については上記(4)の基礎証憑との合致、残高については「帳簿残高(金銭出納帳の残高)」と「実際残高(手持ち残高)」の合致を確認することにより、その正確性を確かめることができます。
(6)金銭出納帳と仕訳(振替伝票)
上記(2)の記帳例では、3月4日、10日、20日、21日、24日の入出金は、金銭出納帳からそのまま仕訳を起こすことができます。
(3月4日)
旅費交通費600/現金600
交際接待費10,000/現金10,000
(3月10日)
交際接待費30,000/現金30,000
(3月20日)
現金200,000/売上(売掛金)200,000
(3月21日)
普通預金200,000/現金200,000
(3月24日)
現金500,000/普通預金500,000
一方、3月15日の社長出張旅費(新幹線ほか)と25日の従業員給料 (2名)は、基礎証憑を手がかりに仕訳を起こします。
(3月15日)
旅費交通費15,000/現金15,000
交際接待費15,000/現金15,000
(3月25日)
給与手当400,000/現金390,000
通勤手当10,000/預り金20,000
(7)入金伝票と出金伝票
仕訳を起こす伝票の基本形は貸借両勘定とその金額を記入する「振替伝票」ですが、相手勘定科目が「現金のみ」である場合には、入金の場合には「入金伝票」を、出金の場合には「出金伝票」を使用することがあります。上記(2)の記帳例では、3月4日、10日、20日、21日、24日の入出金は、入金伝票あるいは出金伝票を用いることにより起票の省力化を行うことができます。
(8)現金過不足
金銭出納帳と実際の現金残高が一致しない場合があります。原因は様々でしょうが、次のようなことが考えられます。
●記帳金額の誤り
実際の現金の増減が、金銭出納帳に誤って記帳された場合(例)450円の出金を540円と記帳した。
●記帳漏れ
実際の現金の増減を、金銭出納帳に記帳していない場合(例)500円の出金があるのに記帳していない。
●出納誤り
本来出し入れすべき金額と異なる金額を出し入れした場合(例)650円の請求に対して560円支払った。(金銭出納帳には650円と記帳した。)
●現金の紛失と会社以外の現金が混入した場合
記帳や出納そのものは正しいが、現金を紛失した、会社の現金以外が混入している場合。
以上を検討しても、なお原因が不明な場合には現金過不足勘定で処理します。
(金銭出納帳が多い場合)
現金過不足○○/現金○○
(金銭出納帳が少ない場合)
現金○○/現金過不足○○
(9)金銭出納帳と試算表
上記(2)の金銭出納帳の金額と試算表の金額には次の関係が成り立ちます。
●金銭出納帳の前月繰越=残高試算表の現金勘定の前月繰越(必ず成り立ちます)
●金銭出納帳の収入金額の当月合計=残高試算表の現金勘定の当月借方(仕訳によっては成り立たないこともあります)
●金銭出納帳の支払金額の当月合計=残高試算表の現金勘定の当月貸方(仕訳によっては成り立たないこともあります)
●金銭出納帳の月末残高=残高試算表の現金勘定の当月残高 (必ず成り立ちます)
金銭出納帳の記帳が正しいのに、残高試算表と上記の関係が成り立たない場合には、仕訳が誤っている、仕訳は正しいが総勘定元帳や総勘定元帳から試算表への転記が誤っていることが考えられます。
《小売業の金銭出納帳》
小売業の場合には、毎日の「入金件数」が膨大な分量となります。そこで、金銭出納帳に記帳する日々の「入金」は、レジなどから集計した金額を合計して記入します。
《小口現金》
現金の管理を、「現金」と「小口現金」に区分する場合があります。「現金」は売上代金回収や仕入代金支払い、「小口現金」は日常の小口経費の支払用とし、金銭出納帳も試算表の勘定科目も区分しておきます。
《仮払い》
出張などに際して、出金予定額を「仮払い」することがあります。仮払いの段階では、具体的な出金内容が判りませんので、金銭出納帳には「○○への仮払い」として記帳するとともに、仕訳に際しても「仮払金/現金」として相手勘定科目として費用勘定科目(交通費、交際費など)を用いません。
後日、仮払いした金額の具体的出費内容が判明した時点で、「交通費/仮払金」などの仕訳を起こします。なお、仮払金が残った場合には「返金」となりますので、「現金/仮払金」の仕訳を起こすとともに、金銭出納帳で入金処理をしておく必要があります。
《財務会計ソフトの金銭出納帳》
金銭出納帳は、総勘定元帳や残高試算表とは独立した帳簿として作成するのが通常で、市販の金銭出納帳などに手書きで記入する、あるいは表計算ソフトなどで作成したフォームに入力します。つまり、金銭出納帳と同一の総勘定元帳(現金勘定)が作成されることになります。これは、ある程度の規模の会社では現金の管理者と試算表作成者を別々にしていることによります。ただし、会社の規模も小さく現金の管理者と試算表作成者が同じ場合には、財務会計ソフトの金銭出納帳(総勘定元帳の現金勘定)のみを用いてもかまいません。
5 複式簿記における金銭出納帳の重要性
「帳簿にあんなことを書くから」と、経営者が経理担当者に激怒することは決してめずらしくありません。経営者にすれば、隠したい入出金が発生することがありますが、以上から、金銭出納帳への未記帳が次のような結果を招くことは容易にご理解いただけるかと思います。
(1)不都合な入金を金銭出納帳へ記帳しない
金銭出納帳の残高が、実際の現金残高より少なくなります。なお、未記帳とした入金金額によっては、金銭出納帳の残高がマイナスになるという異常な結果になります。
(2)不都合な出金を金銭出納帳へ記帳しない
金銭出納帳の残高が、実際の現金残高より多くなります。なお、未記帳とした出金金額によっては、金銭出納帳の残高が考えられないほど多額になります。
税務署(税務調査)、金融機関(融資の審査)などが「金銭出納帳」の提示を求めるのは、金銭出納帳の記帳状況(タイムリーに、漏れなく、正確に記帳しているかどうか)にその企業の経理の信頼性が最も端的に表れるからです。確かに、「金銭出納帳はありません」といえば、相手は「わかりました」とすんなりと引き下がります。しかし、相手は必ずといってよいほど、心の中では「この会社の経理は信用できない」、「不都合を隠している」と考えていますので注意が必要です。
金銭出納帳の存在なくして、税務署、金融機関、会計事務所など経理と関連する外部者と、自身が有利となるような関係は築けないとお考えください。「金銭出納帳の不存在、不備の多くが記帳能力ではなく、仮装隠蔽願望にある」ということが、会計の世界の経験則です。会計の世界に「黙秘権」は存在しません。黙った時点で(証拠資料が提示できなくなった時点で)敗北は確定です(信用が失墜します)。
《入出金内容の仮装》
金銭出納帳への未記帳を一歩前進(?)させた方法として、入出金内容を「仮装」することがあります。しかし、仮装には不自然さがともないます。帳尻は合うかもしれませんが(金銭出納帳の残高はもっともな数字となる)、いつかはばれると考えなければなりません。
《入金と出金をほぼ同額となるように未記帳とする》
会社の内部資料からでは、外部第三者は発見することはできません。しかし、経営者の暮らし振りや資産状況、内部告発などから外部にばれるケースが大半のようです。
6 試算表における現金残高の意味
試算表に表示される現金残高は、一定時点(月末、年度末など)に企業が保有する手持ち現金の残高です。現金が支払いや貯蓄の手段である以上、現金は多いに越したことはありません。しかし、現金保有量の絶対的基準はなく、その企業にとって必要量以上を保有していることが大切です。現金の必要量は、現金勘定を眺めているだけではわかりません。それは、会社の業種、業態、規模によって異なってきます。しかし、現金が企業経営上重要な資産であることは疑いのないことであり、その残高のみならず増減を正確に把握しておくことは当然のことです。