試算表(業績の把握)7/7

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪現金主義の欠点≫

 

発生主義にご不満をお持ちの方は多いと思います。そのような場合には、現金主義の欠点を考えてみることをおすすめいたします。なお、ここでの現金主義とは、費用=支出(出金)、収益=収入(入金)で、現金とは貨幣、紙幣、預金のことです。

 

1 現金主義の利点

 

やはり、計算が簡単で素人にも理解しやすいことと、誰が計算しても同じ結果になるということでしょう。現金主義においては、収入−支出=利益(収支)であり、利益は一定期間の初めに保有していた現金と一定期間の末に保有していた現金の差額です。発生主義におけるような複雑な費用と収益の計上基準も不要です。すべての入出金を銀行預金で行っているならば、預金通帳さえあれば利益(収支)の計算は行えます。

 

2 キャッシュ・フロー計算書(資金繰り表)

 

公開企業(株式を証券取引所で売買できる会社など)においては、キャッシュ・フロー計算書つまり資金繰り表により、一事業年度の収入と支出、結果としての現金の残高を開示しなければなりません。(当然、発生主義による損益計算書も開示しなければなりません。)

 

3 現金主義の欠点

 

たんなる現金の増減を表すにすぎず、業績の尺度とはならないということです。これは、次のような例を考えていただければ明らかであることをご理解いただけると思います。

 

(1)ある期間に支出が先行しているが、次の期間にはその成果である収入が、先行した支出をはるかに上回る金額ある場合

現金主義ならば利益(収支)はマイナスとなります。しかし、発生主義においては費用と収益の対応関係を重視することから、次の期間に見込まれる収入を収益として計上します。当然、利益はプラスです。

 

(2)ある期間に収入が先行しているが、次の期間にはその収入のための支出が、収入をはるかに上回る金額である場合

現金主義ならば利益はプラスになります(多額の法人税が課税されます)。発生主義の場合には、次の期間に見込まれる支出を費用として計上しますので、利益はマイナス(損失)となります。

 

発生主義は、現金主義の欠点を補うために必然的に生み出された会計処理方法であるということをご理解いただけると思います。会計には、様々な人(株主、債権者、経営者など)の利害が絡み、人によって望ましい利益の金額は異なります。配当を受け取る立場である「株主」は利益が多くなるようにと望み、返済を受ける立場の「債権者」は返済財源確保のため配当による会社財産の流出を押さえるべく利益は少なくなるようにと望みます。

発生主義においては、現金主義のように唯一絶対的な費用や収益の計上基準はなく、一般的に受け入れられるルール(多くの人の利害調整の結果としての約束事)が必要となります。つまり、発生主義にはルールが必要なゆえに、それぞれの人にとっては融通に利かない部分がどうしても存在してしまうのです。

 

4 発生主義を受け入れる必要がない場合

 

すべての経営者は、株主や債権者への決算報告のため、決算報告の結果を受けての税務申告のために発生主義を受け入れなければなりません。

ただし、次のような場合には受け入れる必要はありません。(「受け入れる必要がない」はいい過ぎかも知れません。「受け入れなくてもやっていける」が適切な表現かもしれません。)

 

(1)資金が潤沢にあり株主や債権者に決算報告してまで(頭を下げてまで)資金調達する必要がない

そもそも発生主義に基づく決算書は、株主や債権者への報告資料です(中小零細企業の場合に大きな存在は債権者である金融機関です)。「株主や債権者などいなくても経営はできる(資金に困ることはない)」といい切れる場合には、発生主義など受け入れる必要はありません。

 

(2)税務署の指摘には率直に従う

法人税の計算は発生主義により作成された決算書に基づき計算します。決算書が不正確であれば(発生主義によっていない)法人税の計算も誤りとなります。税務署は黙っていません。「持って帰るだけ持って帰ってください(追徴課税してください)」といい切れる場合には、発生主義など受け入れる必要はありません。

 

《過去の収支がプラスであるのは当然のこと》

 

企業は収支がプラスであるから存在しているのです。公開企業が公表するキャッシュ・フロー計算書において収支がプラスであるのは当然のことです。キャッシュ・フロー計算書(資金繰り)において大切なのは、収入と支出の内容です。「販売代金入金の減少を銀行借入で補った」、「収支は悪いが先行投資をした」などが大切なのです。(公開企業が公表するキャッシュ・フロー計算書においてはこのことを明らかにしています。)

 

《支払を延ばせば収支の実績は改善する》

 

もし、この世に発生主義が存在しなかったら、企業の業績は収支で評価されることになります。ある期間の業績(収支)を改善させる方法はいたって簡単です。支払を延ばせばいいだけです。こんなことをしている企業が優良企業といえるでしょうか?

 

発生主義の場合も、業績をよく見せるために収益を先行して計上し(実現していないのに計上し)、発生している費用の計上を見送ればよいのかもしれません。しかし、そんなことをすると、発生主義会計におけるもうひとつの重要資料である「貸借対照表」に如実に異常数値が表れます。

 

《大切なのは目先の入金と出金》

収支も大切です。

 

業績の把握には発生主義が優れています。しかし、企業にとっては収支も大切であることはいうまでもありません。特に、目先の入金が出金(回収が支払)より少なければ企業は倒産します。

 

要するに、発生主義(利益)と現金主義(収支)はそれを用いる局面が違うということです。

 

 

≪業績に関する指標≫

 

試算表の業績に関連する諸数値は、個々には無味乾燥です。そこで、諸数値をより理解し活用するために、下記のとおりの業績に関する指標を算出してみることです(いわゆる経営分析です)。

特に、下記の指標を「年度ごと」や「月ごと」に比較することは大変有意義です。景気動向や季節要因が浮き彫りになってきます。なお、多くの財務会計ソフトは、試算表を年度ごとや月ごとに比較することが可能な、いわゆる「推移表の作成機能」があります。是非とも活用してみてください。(期間ごとの比較は大変有意義です。下記の諸指標を算出するまでもなく、自社の状況が浮き彫りとなってきます。)

 

1 収益力に関する指標

 

(1)売上高総利益率

●売上総利益÷売上高×100(%)

●売上総利益=売上高−売上原価

売上総利益(粗利)の売上高に対する比率です。高ければ高いほどよいのは当然です。売上高総利益率は季節や年度によって変動することがあります(季節によって扱う商品が異なり利益率が異なる。特定の年度に利益率のよい商品が売れた)。

なお、同業他社よりもこれが高いと大変有利です。なぜならば、会社の維持費用(販売費及び一般管理費)を差引いても同業者よりも多くの利益(営業利益)が発生し、それをさらに将来の投資に回せるからです(ますます強くなります)。

 

(2)売上高営業利益率

●営業利益÷売上高×100(%)

●営業利益=売上総利益−販売費及び一般管理費

営業利益の売上高に対する比率です。高ければ高いほどよいのは当然です。売上高総利益率は同様であっても売上高営業利益率は季節や年度によって変動することがあります(賞与を支払った月の利益率は低くなる。年度によって人員が大幅に違う)。

同業他社よりも(1)の売上高総利益率が高くても、余剰人員や余剰設備(分不相応な本社ビルなど)を保有していてはこの率は低下します。また、売上総利益が必要額に達していない(販売費及び一般管理費を賄えない)場合はこの率はマイナスとなります。

 

(3)売上高経常利益率

●経常利益÷売上高×100(%)

●経常利益=営業利益+営業外収益−営業外費用

経常利益の売上高に対する比率です。高ければ高いほどよいのは当然です。たとえ本業が順調でも、営業外で株式の売却損や評価損があればどうにもなりません。また、本業が悪くても営業外でカバーできることもあります(資金運用に成功しているなど)。

 

(4)売上高純利益率

●税引前当期利益÷売上高×100(%)

●税引前利益=経常利益+特別利益−特別損失

税引前利益の売上高に対する比率です。高ければ高いほどよいのは当然です。突発的な原因(特別に発生した利益や損失)で大きく変動します。しかし、マイナスが好ましくないのは当然です。

 

2 損益分岐点分析

 

(1)損益分岐点売上高

●損益分岐点売上高=変動費+固定費(利益ゼロとなる)

●限界利益=現状の売上高−変動費(売上高の増加に応じて増える利益で、これで固定費を賄う)

●限界利益率=限界利益÷現状の売上高×100(%)(一定していると考える)

●損益分岐点売上高×限界利益率=固定費(限界利益と固定費が等しい)

●損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率

損益分岐点売上高とは収益と費用が等しくなる場合の売上高です(利益はゼロとなります)。俗にいう事業の採算ライン(採算点)です。当然、「現状の売上高」が「損益分岐点売上高」をクリアーしていなければなりません。

「変動費」とは売上高の増減に比例する費用で、その典型が商品仕入です。「固定費」とは売上高の増減に関係なく発生する費用で、その典型は人件費や事務所の家賃です。

 

(2)損益分岐点比率

●損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷現状の売上高×100(%)

損益分岐点からの距離を表します。100以上が必要です。

 

(3)必要売上高

●必要売上高=(固定費+目標利益)÷限界利益率

損益分岐点売上高に目標利益を加算した売上高です。

 

損益分岐点はかなり重要な指標です。これをクリアーしないとやがて企業は消滅していくからです。しかし、損益分岐点の算出は容易ではありません。まずは変動費(変動費率・限界利益率)と固定費を算出しなければなりませんが、各費用を変動費と固定費に区分するためには、日常の正確な記帳と試算表の作成が必要不可欠となるからです。

 

3 その他の指標(貸借対照表も必要です)

 

(1)売掛債権回転期間

●売掛債権回転期間=売掛債権÷(売上高÷12ヶ月)

何か月分相当の売掛債権(売掛金+受取手形)が残っているかを表します(月単位で算出する場合には売上高を12で割る必要はありません)。月末締めの翌月末入金(手形なし)でしたら(さらに分母の売上高が月ごとの数値であるならば)、この値は常に1になります(当月売上高相当の売掛金しか残らないからです)。

なお、数期間を比較してこの値が大きくなっていると、外部者は警戒します。売掛債権の回収遅延が生じているおそれがあるからです。

 

(2)買掛債務回転期間

●買掛債務回転期間=買掛債務÷(仕入高÷12ヶ月)

何か月分相当の買掛債務(買掛金+支払手形)が残っているかを表します(月単位で算出する場合には仕入高を12で割る必要はありません)。月末締めの翌月末支払(手形なし)でしたら(さらに分母の仕入高が月ごとの数値であるならば)、この値は常に1になります(当月仕入高相当の買掛金しか残らないからです)。

なお、数期間比較してこの値が大きくなっていると、外部者は警戒します。資金不足から買掛債務の支払繰延べが生じているおそれからです。

 

(3)商品回転期間

●商品回転期間=商品÷(仕入高÷12ヶ月)

何か月分相当の在庫が残っているかを表します(月単位で算出する場合には仕入高を12で割る必要はありません)。この数値は小さいこと(短期間で資金が回収されている)がよいのはいうまでもないことですが、業種によっては長いのが通常の場合もあります(不動産販売業などは長くなります)。

なお、数期間比較してこの値が大きくなっていると、外部者は警戒します。商品の売れ残りが生じているおそれがあるからです。

 

(4)総資本回転率

●売上高÷総資本又は資産(回/年)

総資産が一年間に何回転したかを表します。回転数が多いほうが少ない資本で効率よく経営していることになります。しかし、それにともない利益を生んでいる必要があります。

 

(5)総資本経常利益率

●経常利益÷総資本又は資産×100(%)

投下した総資本の効率を表します。

 

 

≪業種による損益計算書の様式の違い≫

 

今までの説明では、損益計算書を作成する業種が仕入商品販売業(小売業と卸売業)を前提としてきました(一部、製造業のことも触れてきましたが基本的には仕入商品販売業を前提としてきました)。また、市販されている会計の書物(とくに複式簿記の解説書)においても、同様のことを前提としています。

 

商品仕入業以外の業種においては、1/7≪損益計算書の様式≫を次のとおりに変更していただく必要があります。

 

1 製造業

 

●売上高(仕入商品販売業に同じ)

●売上原価(製造原価。詳細は製造原価報告書で明らかにする)

売上総利益

以下は同様です。

 

仕入商品販売業の売上原価が他から仕入れた商品の購入費用だけであるのに対して、製造業の売上原価には材料という有形物だけでなく(この点は仕入商品販売業と同じ)、加工賃(人件費、外注費)や諸経費(機械の減価償却費や維持費用)などの無形物(顧客からは見えない)も含まれます。また、次の期間への費用の繰り越しである在庫にもこれらが含まれ、それを計算するためには原価計算を行う必要があります。

また、外形上は同様の性質の費用であっても、その消費の目的が、製造か、販売・管理かによって製造原価(売上原価)と販売費及び一般管理費に分かれます(製造部門の人件費は製造原価で、営業事務部門の人件費は販売費及び一般管理費となります)。

 

2 サービス業

 

●売上高

●売上原価(主に人件費。詳細は製造原価報告書で明らかにする)

売上総利益

以下は同様です。

 

サービス業といえども無形のサービスを製造しているのですから、売上高に直接対応する売上原価はあるはすです(ソフト制作業の人件費など)。その計算方法は、材料がない点を除いて製造業の場合と同じです。なお、サービス業においては「製造」ではなく「制作」とか「作業」という言葉を使うことが一般的です。

 

《業種独自の勘定科目名》

 

業種によっては勘定科目の名称も異なってくることがあります(たとえば、建設業では売上高が完成工事高となります)。しかし、意味さえ同じであれば一般的な名称の勘定科目を用いてもよいと思います(財務会計ソフトの場合は既存の設定でよいと思います)。

 

≪組織的問題≫

 

業績把握の方針、すなわち損益計算書の作成方針が決まったならば、次は「誰に各事務作業を担当させるか」、そして、「正確な事務作業を確保するにはどうするか」という組織的問題を解決しなければなりません。

 

1 担当部署

 

一般的には次のように事務作業を分割し担当者を配置します。下記はいずれも相互に連携しあう関係にありますので、情報の流れを円滑にしておく必要があります。

 

(1)販売関係事務

多くの企業は販売部門単位で組織が分かれています。そこで、各販売部門に事務要員を配置します。そして、次の事務作業を担当させます。

●受注管理

●出荷手配(下記(2)の担当者との連携)

●代金請求

●代金回収状況の把握(下記(3)の担当者との連携)

 

(2)購買関係事務

購買部門が販売部門単位で複数存在する企業もありますが、多くの企業は一つの購買部門が複数の販売部門の購買業務を担当しています。購買部門が担当する事務作業は次のとおりです。

●発注管理(上記(1)との連携による)

●納品管理(発注状況との整合性)

●仕入代金の集計(支払は下記(3)との連携による)

 

(3)出納事務(現金預金管理)

預金口座の出し入れ、試算表の作成、給与計算、諸経費の発生状況の把握や支払は、上記(1)(2)以外の部門が担当することが通常です。一般には「経理」や「財務」、給与計算については「人事」と呼ばれる部門です。

 

(4)内部監査

中小零細企業に内部監査部門が存在することはまずはありません(監査役という制度がありますが監査役は名目にすぎない場合が通常です)。しかし、経営者自らあるいは経営者から指名された者(幹部や公認会計士)が、上記(1)から(3)の事務作業が円滑に行われていることを定期的に点検することを欠かしてはなりません。

 

2 ミスと不正の防止

 

「特定の者に事務作業を集中させるとミスと不正が発生する」は、事務作業の鉄則です。また、「ある者の事務作業を他の者が定期的に点検すること」も欠かしてはなりません。下記は、ミスや不正を防止するための一例です。

 

(1)受注記録は営業担当者の確認後に行う

受注の処理が不正確であると、以後の販売事務処理も不正確となります。営業担当者と得意先が同意している確かな受注内容の確認後でなければ正式な受注記録を行ってはなりません。

 

(2)受注条件を検討する

得意先への与信枠の設定が必要です。営業担当者が与信枠を超えて受注している場合は、受注記録を停止しすみやかに上司へ報告することが必要です。また、内部監査において受注記録を査閲するにあたってはこの点を見逃してはなりません。

 

(3)代金請求は営業担当者と出納担当者への確認後に行う

 営業担当者へは入金条件を、出納担当者へは入金の事実を確認しておく必要があります。

 

(4)代金回収状況を検討する

 代金の回収が受注条件に見合っていることを検討しなければなりません。特に、販売部門は代金回収の遅延を隠す傾向にあります。この点を内部監査では重点的に検討しなければなりません。

 

(5)代金回収用預金口座の管理は出納担当者が行い入金の都度販売事務担当者に連絡する

 代金回収口座の出し入れまで営業部門に任せてはいけないのは当然です。しかし、これでは営業部門が入金状況を確認するにあたり遅延が生じてしまいます(得意先とのやり取りのためには、営業部門も入金状況を把握しておく必要があります)。そこで、入金状況は営業部門で常時確認できる体制が必要です。銀行からのFAXによる入金連絡や、インターネットによる入金確認の権限は営業部門に与えてもよいかと思います。ただし、出金の手続は出納担当者でないと行えないようにしておく必要があります。

 

(6)発注は受注(受注見込み)に基づき行う

 受注や受注見込みのない発注は、無駄な在庫=資金の固定化となります。

 

(7)仕入代金請求書と発注簿の照合

 仕入記録の正確性を把握する最終段階の作業です。特に仕入先の事務能力が乏しい場合にはこれを入念に行っておく必要があります。

 

(8)銀行取引印の保管

 銀行取引印の保管は強固な金庫の中に厳重に行うのは当然です。そして、その金庫を開けることができるのは、出納担当者、その上司などのごく少数の者に限定しておく必要があります。

 

(9)銀行残高証明書の入手

 定期的に入手しておく必要があります。なお、入手は出納担当者以外の者にさせる必要があります。また、郵送で入手する場合はそのあて先を出納担当者以外としておきます。

 

(10)金銭出納帳と現金の実際残高の照合

 毎日照合する必要があります。照合作業は出納担当者以外か、第三者立会いのもとに出納担当者が行います。

 

3 ミスと不正の実際

 

ほとんどの中小零細企業では銀行取引印の保管を経営者が行っているために、預金口座から勝手に引き出されたりするような不正はありません。しかし、営業にせよ購買にせよその記録が不正確で断片的なことから、次のようなミスや不正が少なからず起こっています。

 

(1)得意先の信用力を超えた販売

事業を維持拡大するには営業活動が必要なのはいうまでもありません。しかし、会社の能力や営業担当者の権限を超えた受注はすることはできません。営業担当者には明確な受注条件を知らせておくと同時に、それを超える場合にはタイムリーに報告することを徹底しておく必要があります。

 

(2)従業員と取引先の個人的関係や従業員同士の結託

中小零細企業のミスや不正の多くに、従業員と取引先との癒着や馴れ合い、従業員同士の申し合わせやモラル低下があります。ネームバリューのある大企業と異なり、名もなき中小零細企業の従業員は「どうせ、ボーナスも退職金も、地位も名誉も、失業保険もないのだから」と考え、いつでも辞める覚悟をしている場合があります。これが、大企業では考えられないミスや不正を発生させます。

 

(3)営業担当者の予期せぬ独立

営業担当者が既存の得意先を奪って独立することがあります。特に、営業担当者が現行の待遇に不満を抱いている場合に起こる現象です。営業担当者の不満の原因はともかくとして、このような行為は道義的、場合によっては法的にも許されません。営業担当者に「営業日報」を作成させ、常にその行動に注意しておく必要があります。特に、営業担当者と得意先との個人的関係には注意しなければなりません。これが、上記(1)の原因となることもあるからです。

 

(4)売上代金の着服

 現金集金の場合に起こります。集金先リストを正確に作成し、入金状況を常時フォローしておく必要があります。

 

(5)在庫の横流し

中小零細企業では特に在庫管理が不十分です。在庫の受払簿がないことが多く、在庫の横流しを長期間発見できないことがあります。倉庫への施錠や監視カメラの設置のほか、発注記録と請求書の査閲を欠かしてはいけません。なお、在庫の横流しは、取引先、営業担当者、購買担当者が結託して行うことが通常です。

 

(6)仕入代金の水増し

購買担当者や出納担当者が、個人的関係のある仕入先の請求を水増しする、あるいは架空の仕入先の請求書を作成することがあります。発注記録の信憑性とその発注の必要性、最終的には請求書の査閲を欠かしてはいけません。

 

(7)不正確・不明瞭な勘定科目分類

ミスや不正が発生すると勘定科目にそれが現れることがあります。経理担当者(試算表作成者)は処理に窮しますが、経理担当者によっては不十分な事実関係のまま不正確・不明瞭な勘定科目処理を続けることがあります。各勘定科目の推移や他の勘定科目との関連性に不自然な点があれば、早急に検討しなければなりません。

 

(8)不良経理担当者

残念ながら存在します。多くの中小零細企業経営者は経理を苦手としている、あるいは軽視しています。また、「経理をする者は皆まじめ」、「帳簿は○○にでもやらしておけ」と考えます。不良経理担当者かどうかを見抜くのは容易ではありませんが、次のような行動や発言には注意が必要です。

(自信過剰型)

●決算や経理業務の内容を説明しようとしない

●節税策や資金調達方法について誇らしげに語る

●連携プレイを嫌う

●他の者の査閲を嫌う

 経営者はこのタイプに案外騙されます。「頼りになる奴」、「優秀な奴」と考え、その油断が不正や重大な法令違反に発展しているケースもあります。

(無気力型)

●知識や能力が不足している

●責任転嫁する

●指示待ちする

このタイプは、社内の重大な不正や法令違反を見逃すこと(見て見ぬ振りする)ことがあります。しかし、基本的にはまじめな者が多く、訓練次第では優秀な経理担当者となることがあります。

 

 

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