試算表(業績の把握)6/7
築山公認会計士事務所
≪業績の予測≫
「わが社の将来」、どの経営者も気になることです。しかし、漠然とした自信や不安ではどうにもなりません。誰しも先のことはわかりません、しかし、可能な限り合理的な未来を予測することにより、「自社の進むべき方向を選択する」、「察知できる自社の欠点やリスクを排除しておく」ことは必要です。
1 業績に関する変数
試算表を作成し、「過去」の正確な業績それも細分化された業績を把握しているならば、「過去の実績」から自社の「将来の業績についての変数」を把握することができます。
たとえば、次のとおりの変数が浮き彫りになってくると思います。
(1)売上高
各商品別売上数量×単価の合計で算出できます。取扱商品が多い場合は、類似商品について一括して計算してもかまいません。
(2)売上原価
上記に一定の原価率を乗じることにより算出できます。原価率は過去の趨勢に将来の予測を加味することにより、かなり合理的な数値が算出できるかと思います。
(3)人件費
人員に変動の予定がない場合は、過去の実績に一定の昇給率を乗じることで算出できます。
(4)家賃・リース料
現状維持の場合は不変です。
(5)諸経費
かなり詳細な検討が必要となります。試算表の勘定科目でも不十分なことも多く、総勘定元帳、請求書、領収書にまでさかのぼって検討する必要があります。
(6)金利
金融機関との契約書、返済予定表から計算します。
2 変動費と固定費
費用は変動費と固定費に分類できます。変動費とは売上高の増減に応じて変動する費用で、固定費とは売上高の変動にかかわらず発生する費用です。変動費の典型は、売上原価である商品や原材料の購入費用です。固定費の典型は、事務所の家賃や従業員の給料です。ただし、固定費も長期的には変動します(事業規模や外部要因の変動に応じて)。
損益計算書(外部公表用)では費用を変動費と固定費に分類していません。しかし、業績を予測するにあたっては費用を変動費と固定費に分類することにより、販売量と利益の関係(下記の利益(1))、その販売量を達成・維持するための費用(下記の利益(2))との関係を明確にすることができます。
そこで、損益計算書を現状と予想される未来に応じて次のとおりに作成してみます。
|
現状 |
予想(1) |
予想(2) |
予想(3) |
売上高 |
1000 |
1500 |
500 |
2000 |
(変動費) |
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売上原価(商品、材料仕入) |
300 |
450 |
150 |
600 |
販売手数料 |
50 |
75 |
25 |
100 |
社員給料(歩合給) |
50 |
75 |
25 |
100 |
利益(1) |
600 |
900 |
300 |
1200 |
(固定費) |
|
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|
売上原価(工場家賃) |
100 |
100 |
100 |
300 |
役員・社員給料(固定給) |
200 |
200 |
200 |
500 |
事務所家賃 |
100 |
100 |
100 |
200 |
利益(2) |
200 |
500 |
−100 |
200 |
● 利益(1)は売上高から変動費を差引いた金額です(学問上限界利益と呼びます)。
現状と三通りの予想とも、各変動費が売上高と同一の率(変動費合計で40%)だけ発生するとします(利益率は60%ということです。なお、この率が変化することもあります)。
● 利益(2)は、利益(1)から固定費を差引いた金額です。
予想(1)(2)は固定費が不変とした場合(規模は同一)、予想(3)は固定費が規模拡大により増加する(設備の増強が必要)場合です。
●現状から予想(1)へのシフトが理想(人員や設備は不変のまま利益が増える)、予想(2)は最悪(赤字が発生する)、予想(3)は割に合わない(規模を拡大しても最終的な利益(2)は現状と同じ)と考えることができます。
しかし、予想(1)の場合、設備面で同業他社に遅れをとりやがては競争に敗れるかもしれませんし、予想(3)がさらなる拡大のステップかもしれません。予想(2)ならば、販売拡大や規模縮小(固定費削減)を考えなければなりません。
【業績予想と資金繰り】
上記においては、借入金や増資(資本金を増加させる)による資金調達、借入金の返済を考慮しておりません。予想(1)の場合には、それでもかまいません(借入金がない、あるいは現状の利益(2)で借入金の返済が可能であるならば)。予想(2)の場合には、現状の借入金の返済が不能となる場合には、借換え(新たな借入をしてそれで返済する)や遊休資産の売却を検討する必要があります。予想(3)の場合には、設備投資の財源(借入金、増資、遊休資産の売却など)を検討しなければなりませんし、財源を借入金による場合には将来的な返済を考慮しておく必要があります。
≪業績と資金繰り≫
「勘定あって銭足らず」、業績がよいのに資金繰りは悪いことを意味する言葉です。損益計算書は発生主義に基づき作成され、そこでの費用と収益は入出金の時点以外にも捉えますのでこのような現象が起こります。
1 業績はよいのに資金繰りが悪いケース(業績はよいのに目先の資金がない)
(1)販売代金の回収が長期化している
売上計上は出荷の時点で行わなければなりません。販売代金の回収があまりにも長期化しており、すでにその販売した商品の代金を支払っている場合は、業績はよいのに資金繰りは苦しくなります。
(2)投下資金が費用とならない
商品は仕入れただけでは費用(売上原価)とはなりません。先を見越して多額の商品仕入をして代金を支払った場合には、業績はよいのに資金繰りが苦しくなります(過去に仕入れた商品は順調に販売できたとして)。また、設備代金(工場や店舗)を一時に支払った場合も、設備投資額は減価償却費として数期間の費用となります(投資したことの収益は将来に発生する)ので同じような現象が起こります。
(3)借入金の返済
借入金の返済財源は利益です(損益計算書に表れるのは支払った利息のみです)。上記(2)の先を見越した仕入や設備投資を早期に返済しなければならない借入金によって行った場合には、費用を上回る支出(支出が費用に先行する)があるために資金繰りは苦しくなります。
(4)貸し渋り
多くの中小零細企業は、その運転資金や設備資金を金融機関からの借入で調達しています。通常、その返済は5〜7年で分割して行い完済後あるいは半額程度返済した段階で再び借入を行います。しかし、昨今ではこの再度の借入に応じてくれる金融機関が激減しており、返す一方の企業も珍しくありません。いわゆる貸し剥がし(はがし)であり、これが資金繰りを圧迫するのは当然です(よほど利益が出ていないと返済できない)。
2 業績が悪いのに資金繰りがよいケース(業績は悪いのに目先の資金はなんとかなる)
(1)資金援助者、担保、遊休資産の存在
業績が悪くても、強力な資金援助者(株主や近親者で資金を援助してくれる人)や担保(金融機関の融資のための要件)が存在すれば持ちこたえることができます。また、遊休資産(活用していない不動産など)があれば「売り食い」ができます。シェア拡大のための低価格販売や営業人員の増員には、このようなバックボーンを欠かすことができません。
(2)不良資産の処理
長期間販売できなかった不良資産を仕入値以下で販売した場合(損失を出して販売する)、業績は悪くても資金繰りは楽になります(支出は過去に行われ収入のみがある)。また、稼動してない設備を廃棄した場合も同様のこととなります(損益計算書上の損失は発生するが支出を伴わない)。
【資金の必要性】
事業を開始するにあたっては「設備資金」と「運転資金」が必要です。設備資金とは、店舗や工場を用意するための資金です。運転資金とは、仕入代金と諸経費を支払うための資金です。事業開始のときに設備資金と運転資金が不十分であると、よほど条件のよい(利益率が高く代金の回収もスムーズにできる)事業でない限り資金繰りは苦しくなります。
設備資金は短期間では回収できません。販売代金に少しずつ上乗せして回収していかなければなりません。「事業開始にあたり多額の設備資金を要しましたので当面は割増販売いたします」では、相手にされないことはいうまでもありません。
運転資金は、売上代金回収と仕入代金支払のタイミングと利益率によります。売上代金の回収が仕入代金の支払いに先行し、なおかつ売上代金>仕入代金+諸経費である場合には運転資金は不要です(事務所家賃や人件費などの諸経費は、売上代金−仕入代金で支払えます)。しかし、現実にこのような旨い商売はほとんどなく、それ相応の運転資金が必要であることが通常です。
安定的(当面返済しなくてよい)な設備資金と運転資金があり、売上代金>仕入代金+諸経費で売上代金回収と仕入代金支払のタイミングが一定していれば問題ないのですが、売上代金の回収が遅延する、仕入代金の支払期限の早期化を要求される、借入金の急な返済を迫られるなどの場合は、資金繰りは急に苦しくなります(通常、借入金の返済は売上代金−仕入代金−諸経費の余力として行います)。
多くの中小零細企業には余裕資金などありません、さらには資金繰りを悪化させる危険性が常時つきまといます。「損益計算書の業績」などは悠長なことかもしれません。
【業績と資金繰りの違いの把握とその対処】
業績と資金繰りの違いには次の二通りがあります。
(イ)やがて一致する違い
●ある期間に先を見越して商品を仕入れ期間末には未販売であるけれども近い将来確実に販売可能
●設備投資資金を販売価格に順次転嫁可能
(ロ)当分は一致しそうにない違い
●販売不振在庫の存在
●未稼動設備の存在
●貸し剥がし
つらいのは(ロ)でしょう。しかし、業績と資金繰りが慢性的に一致しない原因の多くが経営上のミスです。
【損益の必要性】
やはり、正確かつ理論的な計算の結果であるということです。さらに、損益がよければ長期的には資金繰りもよくなるからです。また、複式簿記に基づいていますので網羅的であることも強みです。
≪業績と貸借対照表≫
貸借対照表は一定時点の財政状態を表します。貸借対照表の仕組みを理解することは容易ではありません。また、貸借対照表は業績と直接関係ありませんので、あまり重要視しない経営者も多くいます。しかし、貸借対照表の次の勘定科目は業績と深い関連をもっています。また、次の項目が異常であるならば損益計算書が間違っている可能性もあります。
1 売掛金
売上代金の未回収部分です。売上代金の未回収部分は売上高一覧表(当月残高)からも捉えることができますが、試算表作成処理が正しく行われているならば両者の金額は一致します。また、「当月分販売代金の回収を翌月中」にしているならば、試算表の当月末の売掛金は当月売上高と一致します。
売掛金の金額が回収条件からして異常な場合は、経営実態と事務処理の両面から検討しなければなりません。
2 棚卸資産(商品・材料)
次の期間の販売時に売上原価となる金額です。発生主義会計ゆえに繰越処理を行います。棚卸資産金額の水準について一概に論ずることはできませんが、資金を投下し、いまだ回収していない金額であることを忘れてはいけません。
3 固定資産(建物、機械、車両など)
固定資産は長期に使用するため、その取得価額(購入費用)を数期間に減価償却費として費用配分します。貸借対照表に表れる固定資産は、次の期間以降に費用となる部分です。以後の期間において販売価格に転嫁して回収していかなければなりません。
4 買掛金
仕入代金の未払部分です。仕入代金の未払部分は仕入高一覧表(当月残高)からも捉えることができますが、試算表作成処理が正しく行われているならば両者の金額は一致します。また、「当月分仕入代金の支払いを翌月中」にしているならば、試算表の当月末の買掛金は当月仕入高と一致します。
買掛金の金額が回収条件からして異常な場合は、経営実態と事務処理の両面から検討しなければなりません。
5 借入金
企業活動の源泉となる資金の調達を金融機関などから行い今後返済しなければならない金額です。調達した資金が投下されたならば費用となります。費用以上で販売しなければ返済財源を確保できないことはいうまでもありません。
6 資本金
企業活動の源泉となる資金の調達を株主から行い今後返済不要な金額です。調達した資金が投下されたならば費用となります。費用以上で販売しなければ資本金として調達した資金は減少していきます。
資本金は、自己資本や自己資金と呼ばれこれが多いほど経営が安定します。一方、借入金は他人資本と呼ばれ、やがて返済しなければなりません。