試算表(業績の把握)5/7

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪部門別損益計算≫

 

業績を正確に把握する限りは、さらにそれを細分化して有意義に活用したいものです。通常、損益計算書を細分化する場合、商品別や地域別に設けられている部門(部署)別に行います。そんなことから、損益計算書を区分することを部門別損益計算といいます。

たとえば、あらゆるジャンルの衣料を販売する衣料品卸売業の場合は次のとおりです。(多くの財務会計ソフトに部門別損益計算機能があります。その際の入力は、通常の勘定科目(コード)、金額、摘要に加え、部門コードを入力することが通常です。)

 

勘定科目

紳士服

婦人服

子供服

合計

売上高

 

 

 

 

売上原価

 

 

 

 

 売上総利益

 

 

 

 

販売費及び一般管理費

 

 

 

 

 営業利益

 

 

 

 

営業外収益

 

 

 

 

営業外費用

 

 

 

 

 経常利益

 

 

 

 

特別利益

 

 

 

 

特別損失

 

 

 

 

 当期利益

 

 

 

 

法人税等

 

 

 

 

 税引後当期利益

 

 

 

 

 

(部門別損益計算の実際)

損益計算を部門別に行うことが好ましいのは当然です。しかし、部門別損益計算を行うからには有意義な区分をすると同時に、定期的な区分の見直しが必要です。現実の管理(組織)区分と損益計算書の区分が合致していないこともあります。また、あまりにも区分が複雑すぎると日常の事務処理も複雑となり、事務作業が遅延あるいは不正確になってしまうこともあります。

区分の設定は慎重に行う必要があります。試算表の部門設定は事業年度ごとに見直すことが通常です。

 

1 売上高の部門ごとの区分

 

販売管理ソフトを活用すれば簡単に行えると思います。販売管理ソフトの入力コードとして「部門コード」を設定しておけば、売上高一覧表をその区分に応じて作成できるからです。(販売管理ソフトを利用していない場合には、得意先元帳を区分ごとに集計して売上高一覧表を作成します。)

(仕訳の方法)

売掛金  120   売上高・紳士服  40

            売上高・婦人服  60

            売上高・子供服  20

 

2 売上原価の部門ごとの区分

 

(1)発注・仕入計上時点での区分

購買管理ソフトを活用すれば簡単に行えると思います。購買管理ソフトの入力コードとして「部門コード」を設定しておけば、仕入高一覧表をその区分に応じて作成できるからです。(購買管理ソフトを利用していない場合には、仕入先元帳を区分ごとに集計して売上高一覧表を作成します。)

 

(仕訳の方法)

 仕入高・紳士服  25   買掛金  80

仕入高・婦人服  35

仕入高・子供服  20

 

(2)区分別の棚卸

 区分別に保管場所を決めておけば容易に行えます。

 

【区分が困難な仕入高】

比較的、売上高が区分をしやすいのに対して、仕入高の区分は困難な場合が多くあります。それは次のような場合です。

(各区分間で共通する仕入先の存在)

仕入先によっては各区分共通の仕入高が発生します。仕入先が区分ごとの納品書や請求書を発行してくれる場合はよいのですが、そうでない場合の区分は困難です。自社が独自に区分を行う必要があります。

自社独自に区分を行う場合、仕入先が発行した請求明細や納品書を手がかりに各区分に分類します。しかし、製造業の原材料のように同一材料を複数の区分で用いる場合は、仕入先の請求明細や納品書からだけでは行えません。このような場合は自社で区分ごとの仕入数量を記録しておき、全仕入高をその数量の比率で按分するしかありません。ただし、仕入段階ではどの区分か判明しないこともありますので、そのような場合は消費見込み数量で按分するしかありません。

 

部門別計算には「仮定」を設けるしかありません。(部門別損益計算には各部門間の利害調整が必要です。そのためには、合理的で各部門が納得する仮定を設けなければなりません。)

なお、合理的な仮定を設けたならばその仮定を継続して用いることです。月ごとや年度ごとの比較が意味をなさなくなるからです。

 

3 諸経費の区分

 

諸経費の区分も仕入高同様に困難なことがあります。

 

(1)区分が容易な費用の例

人件費(ただし、役員報酬や管理部門人件費は区分困難)

 

(2)区分が困難な費用の例とその配分基準

事務所家賃、電気代、水道代、借入金の利息などは区分が困難(各区分が同一の場所で活動している場合)で、その費用の発生と関連性の深い、たとえば「売上高」、「仕入高」、「人員数」、「使用スペースの面積」などにより配分します。

なお、管理部門の費用(販売活動と直接関係がない部門の費用)は別途把握して、その一部あるいは全額を一定の基準で各部門に配分する必要があります(上記の損益計算書の4番目の部門として「管理」という区分を設ける必要があります)。各部門とも管理部門から何らかの恩恵を受けていますので、管理部門の費用は各部門が負担する必要があります。

 

 

≪原価計算≫

 

1 原価計算とは

 

一般に原価計算とは、企業が販売する財貨(商品)と用役(サービス)を自社で製造、制作、開発するための費用を計算することやその方法をいいます。(前述した売上原価の計算が他から仕入れた商品をそのまま販売する業種を前提とするのに対して、原価計算は販売する商品を自社で製造、制作、開発した場合の売上原価の計算といえるかもしれません。)

原価計算は製造業(工場)が行うものと考えがちですが、自社で財貨と用役を製造、制作、開発している以上は正確な原価計算を行い、算出された原価と販売収入(売上高)との対応関係(採算)を把握しておく必要があります。

 

最近では工場を持たない製造業、つまり100%外注の企業(海外の別会社へ外注しているなどがその典型です)が増加していますが、製品の企画や外注先への指図を自社で行っている以上は製造業と考えなければなりません。また、原価とは物理的な有形物と考えがちですが、ソフト制作業、デザイン業、広告制作業でも自社で企画、開発、制作している以上は原価計算を行う必要があります。さらに、「コスト意識」といわれるように、自社で製造、制作、開発していない業種(小売業、卸売業)でも原価は必要な概念です。

 

会計の学習上は、原価計算を工場における「製品製造原価の計算」と捉えています。つまり自社製品の製造に要した費用(材料費、工場の家賃、機械の減価償却費、工員の給料など)を、製品別に集計し最終的には一定期間の全製造原価(=製造業の場合の売上原価)を計算する技術として捉えています。

経済のソフト化や工場の海外移転に伴い、原価計算や原価という概念が随分と変化しています。しかし、成果(売上高)を獲得するためにどれだけの犠牲(原価や諸費用)が必要であったかを正確に把握すること、より少ない原価や費用で収益を生み出す意識とその方法を見出すことはいつの時代も企業にとっては必要なことです。

 

2 原価計算と損益計算書

 

原価計算を行う企業の損益計算書の場合、売上原価は次のような様式となります。

 

期間初め製品在庫金額+一定期間の製造原価−期間末製品在庫金額

 

一定期間の製造原価算出過程を「製造原価報告書」として、製造原価の内容である製造費用を材料費、人件費、諸経費に細分化して損益計算書の内訳書として作成することが通常です。

 

【仕掛品(しかかりひん)】

製造、制作、開発作業は、止むことなく行われているのが通常です。そこで、一定時点では未完成品が存在し、それを仕掛品と呼びます。仕掛品は未完成であることから当然販売していないということになります。販売していない以上は売上原価(製造原価)に含めることはできません。そこで、上記の算式を次のとおりにしなければなりません。

製造原価=期間初め仕掛品金額+一定期間の製造費用(材料費+人件費+諸経費)−期間末仕掛品金額

仕掛品原価の計算は作業の進捗率(完成度合い)に基づき、完成品した場合の原価に一定割合を乗ずることにより計算します。仕掛品の金額には、材料費だけでなく人件費や諸経費などの無形の費用も含むことになります。

 

【材料の在庫】

一定の材料を、在庫として常備している場合は次のとおりとなります。

製造原価=期間初め「材料」と「仕掛品」金額+一定期間の製造費用(材料費+人件費+諸経費)−一期間末「材料」と「仕掛品」金額

 期間末の材料を把握する方法は、前述の≪売上原価≫と同様です。

 

3 製造原価報告書

 

原価計算を行うにあたり、試算表の費用から「製造費用」となる費用を抽出しなければなりません。ほとんどの財務会計ソフトにおいて試算表を「貸借対照表」、「損益計算書」、「製造原価報告書」(損益計算書の製造原価の内訳)に分類できる機能がありますのでそれを活用してください(仕訳入力の段階において、特定の費用は製造原価報告書に表示される費用として(製造費用)として入力することができます)。

 勘定科目

前月繰越

当月借方

当月貸方

当月残高

材料費

 

 

 

 

人件費

 

 

 

 

製造経費

 

 

 

 

(総製造費用)

 

 

 

 

月初材料

 

 

 

 

月末材料

 

 

 

 

月初仕掛品

 

 

 

 

月末仕掛品

 

 

 

 

(当月製造原価)

 

 

 

 

材料費は主要材料費、副材料費、消耗品費などに細分化します。人件費は給料、賞与、法定福利費、福利厚生費などに細分化します。製造経費は減価償却費、外注費、水道光熱費などに細分化します。

 費用の全てが製造費用となるものもあれば、製造費用と販売費及び一般管理費に分かれるものがあります。材料費や外注加工費は前者で、人件費や減価償却費は後者となります。

 

4 原価計算の方法

 

(1)総合原価計算

決められた製品を見込み生産している場合はこの方法を用います。

A、B、Cの三種類の製品を生産している場合、一定期間の全社の総製造費用をA、B、Cの単位に区分することによりそれぞれの製造原価が計算できます。それぞれの製造原価を製造数量で割れば製造単価が計算できます。総合原価計算は、「ライン」と呼ばれる工場設備の製品種類別単位で行う原価計算です。

 

(2)個別原価計算

注文個別生産を行う場合はこの方法を用います。オーダーメードで製造する機械メーカー、建設業、ソフト制作業などはその典型です。個々の受注単位で原価を集計しなければならず、全ての製造費用を受注単位で跡づけなければなりません。

 

【直接費と間接費】

製造費用の中には、ある製品を製造するために直接要した費用と間接的に要した費用があります。前者を直接費、後者を間接費といいます。直接費は製品別(製品の種類、受注単位)に直接集計できますが、間接費は何らかの基準で製品別に配分しなければなりません。

 

5 試算表から原価計算へのデータの提供

 

(1)総合原価計算の場合

総合原価計算を行っている場合に総製造費用を製品単位へ区分する方法は、前述の≪部門別損益計算≫の区分の方法と同じ要領です。区分された製造費用を、完成品と仕掛品に配分する方法は次のとおりです。

●総製造費用 120万円

●完成品個数 100個

●仕掛品個数 40個(進捗率50%=完成品ベースでは20個)

(完成品原価)120万円×100個÷(100+20)個=100万円

(仕掛品原価)120万円×20個÷(100+20)個=20万円

全製品の仕掛品原価を集計し次の仕訳を行えば製造原価報告書は完成します。

仕掛品  ○○   一定期間末仕掛品棚卸高  ○○

 

(2)個別原価計算の場合

総製造費用を個々の受注単位ごとに区分しなければなりません。一般的には受注単位ごとに「原価台帳」を作成し、製造費用を原価台帳ごとに集計します。受注単位ごとの区分・集計の方法は製造費用の内容や製品により異なりますが、一般的には次のとおりです。

●材料費 使用量

●人件費 製造時間

●経費 製造時間、重量など

なお、期間末の仕掛品については総合原価計算のような完成品との配分を行う必要はありません。未完成部分の原価台帳に集計された製造費用の合計が仕掛品原価となるからです。

一定期間末の全未完成品についての原価台帳の製造原価を集計し、次の仕訳を行えば製造原価報告書は完成します。

仕掛品  ○○   一定期間末仕掛品棚卸高  ○○

 

【原価台帳】

受注単位ごとに要した原価(材料費や人件費)を集計するために用います。また、原価台帳は作業や発注の計画、さらには原価の発生状況をタイムリーに捉えるための管理資料としても用いられています。

 

【原価計算と総勘定元帳】

教科書の説明では、試算表の費用勘定科目を「製造勘定」などに振り替えています。しかし、実務においては費用勘定科目を、損益計算書に表示される販売費及び一般管理費と製造原価報告書に表示される部分(製造費用)に区分けする程度に留めています(材料費については材料仕入高という勘定科目を用います)。これでも上記の方法で期末仕掛品と製品原価の算出ができさえすれば、製造原価報告書の作成が可能であるからです。

 

6 原価計算の必要性

 

簡単な例で考えてみましょう。

個別受注ソフトの制作をする会社の当月の損益計算書は次のとおりであるとします。

 

●売上高(+)  1000(X社400、Y社300、Z社300)

●人件費(−)   500(役員A200、社員B120、C100、D80)

●外注費(−)   300(外注先E100、F200)

●諸経費(−)   100

 ●利益(差引)   100

 

個別原価計算により集計を受注ごと(X、Y、Z)に行った結果、それぞれの原価は次のとおりとなりました。

(X)社員Bの人件費80+社員Dの人件費30+Eへの外注費100+諸経費30=240

 (Y)社員Bの人件費40+社員Dの人件費30+諸経費30=100

 (Z)社員Cの人件費100+社員Dの人件費20+Fへの外注費200+諸経費40=360

人件費については各社員の月額給料を月間総労働時間で割り、それを受注単位ごとに各社員が費やした作業時間に乗ずることにより配分します。

ここでの外注費と諸経費は受注単位と直接関連するものであることを前提とします。

役員は営業活動と全社的管理に専念しソフト制作作業をしないことを前提とします(役員報酬は原価に含めず販売費及び一般管理費とします)。

 

受注ごとの利益は次のとおりとなります。

(X)400−240=160(1)

 (Y)300−100=200(2)

 (Z)300−360=−60(3)

(注)(1)+(2)+(3)−原価に含めなかった役員報酬200=100(上記の利益)

 

以上の結果の解釈は様々でしょう。

 

「社員Bはよく稼ぐ」(Bが関係したXとYは利益がよく出ている)

「社員Cは無能な奴」(Cが関係したZは損失が出ている)

「外注先Fの請求が多い」(Fに外注したZは損失が出ている)

「Y社からの仕事を増やしたい」(利益率がよい)

「Z社からの仕事はもう受けない」(利益率が悪い)

「今回Z社の仕事で得たノウハウが将来活用できる」(損失はノウハウ獲得のための費用)

「ソフト制作は感性とひらめきに左右される」(利益が出るか出ないかは偶然の結果)

 「もう一度計算し直そう」(原価計算の方法によって利益が異なる)

 

解釈は無数にあるでしょうが、何も見えないのではどうにもならないのではないでしょうか。

 

 

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