試算表(業績の把握)4/7
築山公認会計士事務所
≪売上原価≫
1 売上原価とは
現行会計は費用(犠牲)と収益(成果)の対応関係を基本とおり、とりわけ売上高と売上原価の関係においてはそれが重視されています。これは会計理論面のみならず、経営上業績を把握する場合においても重要であることはいうまでもありません。しかしながら、この対応関係を正確に把握するには精密な帳簿体系とそれを運用するための膨大なコストと労力が必要です。
売上原価とは一定期間に販売された商品原価(仕入値)の合計です。一定期間に仕入れた商品の全て(仕入高)が売上原価となるのではなく、一定期間末に残っている商品、つまり、「在庫」は売上原価となりません。また、一定期間の初めにあった商品(前の期間に売上原価とならなかった部分)が一定期間中に販売された場合はそれも売上原価となります。この関係を算式で示せば次のとおりです。
一定期間の売上原価=期間初め在庫金額+期間中の仕入高−期間末在庫金額(商品の数量×単価)
多くの中小零細企業で正確な売上原価が把握されていません。特に、月次決算においてこの傾向は顕著です。しかし、損益計算書の重大部分である売上原価がこのような状態では、月次決算を経営上の意思決定に活用することはできません。そこで、なんらかの方法を立案・構築し月次決算の正確性と利用価値を高めなければなりません。
2 期間末在庫の把握
上記1の算式において、期間初めの在庫金額は前の期間で算出した金額を、期間中の仕入金額は購買実績の算出の結果として求めることができます。そこで、期間末在庫金額が算出されれば一定期間の売上原価が算出できることになります。
期間末在庫金額を算出する方法には次の三通りがあります。
(1)継続記録による方法
商品ごとに仕入計上の記録(数量と単価)をするとともに、出荷の時点(その商品の売上計上がされたとき)にその払出数量と金額を記録しておく必要があります(当然、商品ごとに残っている数量と金額も把握できます)。一定期間の全商品の払出金額合計が一定期間の売上原価となります。これを行うにあたっては、次の問題をクリアーしなければなりません。
●商品ごとの入荷数量と金額(仕入値)の把握
●商品ごとの出荷数量の把握
商品別の在庫保管は当然として、出荷の都度記録を残しておく必要があります。
●商品ごとの払出単価(出荷した商品の仕入値)の計算
個々の商品の仕入値は一定していることもあれば、常時変動することもあります。出荷商品の原価を把握するためには、その商品にどの時点の仕入値を付すかが問題となります。方法としては、「先入先出法」、「移動平均法」、「後入先出法」などが一般的に用いられています。
取扱商品数も得意先件数も少ない場合は、継続記録を作成することも容易かもしれません。しかし、多くの場合は取扱商品数も得意先件数も相当数あるため、継続記録を作成することが困難であるため作成していないのが実情です(特に中小零細企業の場合)。なお、作成しているとしても各商品の入荷と出荷の数量を把握しているのみで、払出単価の把握にはいたっていません。多くの場合、仕入値が判明するのは一定期間経過後であるからです。もし、タイムリーに払出単価を把握しようとするならば、合理的な予定単価を設定し後日に実際単価との調整を行うという極めて高度な事務処理を要求されるからです。
(2)実地棚卸による方法
個々の商品を実際に数え、それに一定の仕入値を乗じることによって在庫金額を把握します。なお、継続記録が存在する場合でも実地棚卸は行い、その結果を継続記録と照合し差異がある場合は原因を追究します。
中小零細企業の場合、実地棚卸のみで在庫金額を把握しているのが実情です。個々の在庫の単価は「最終仕入原価法」といって、実地棚卸日から一番近い時点に仕入れたときの単価を用います。当然、この方法は理論的ではありません。なぜならば、実地棚卸日の直前に商品単価が異常に変動した場合、在庫として残っている正常な仕入単価による商品も異常な単価で評価されてしまうからです。
(3)理論的な在庫金額を推計計算する方法
一定期間の売上原価(A)=期間初め在庫金額(B)+期間中の仕入高(C)−期間末在庫金額(D)
(2)の方法は上記算式の(D)を算出することにより(A)を算出する方法ですが、この方法はそれを一歩前進させて(A)を理論的に算出し、(2)により算出された(A)と比較することによって(A)と(D)の理論的正当性を確かめる方法です。
(A)を理論的に算出する方法は次のとおりです。
一定期間の売上高に原価率を乗じることにより合理的な売上原価を算出します。その際、売上高を商品別、取引先別、部署別に分類しておけばより合理的は売上原価が算出されます。販売に当たっては目標となる利益があるはずです。一定期間の販売実績がどのような原価率(利益率)であったかを客観的に判断し、それを売上高に乗じればよいのです。
この結果、上記算式の両辺がほぼ一致すれば問題はありませんが、まずは、そのようなことはありえないでしょう。なぜならば、(A)は平均的な原価率で(D)は最終仕入原価法という不合理な方法によっているからです。そこで、両者に差異があるならば、次は(A)と(D)を再検討しなければなりません。採用した(売上高に乗じた)原価率や(期間末の)個々の商品単価に異常性はないかを検討します。
この作業を何度か繰り返しているうちに、かなり理論的な金額が算出されます。そして何よりも、業績把握において一番重要な部分を検討することによって自社の現状が把握できてきます。
3 売上原価の範囲
売上原価とは販売した商品の仕入値合計です。しかし、一言に仕入値といってもその把握には注意が必要です。特に次のような費用の扱いは正確に行う必要があります。
(1)商品購入時に要した運賃
購買に直接要した運賃は仕入高に含めることが合理的です。勘定科目処理としては、仕入高とは別の勘定科目(運賃勘定)で処理し損益計算書の売上原価算出プロセスに配置するとともに、一定期間の在庫金額に未販売部分を計算し(仕入と在庫の比率などを手がかりにする)加算しておく必要があります。
(2)商品の加工賃
製造業の場合、商品は素材にすぎません。加工することによりはじめて付加価値が発生し販売できます。加工に関する費用は膨大に、しかも多種多様な項目が発生します。いわゆる製造原価と呼ばれるもので、材料費、人件費、製造経費に大別されますが、さらにそれらを詳細に分類しなければなりません。
製造原価を算出する計算技術のことを「原価計算」といいます。正確な原価計算を行うには、まずは製造原価関連の費用を分類集計するための勘定科目についての帳簿が必要となります。なお、未完成・未販売部分に関する費用は、在庫として繰り越さなければなりません。これにも複雑な計算が必要です。
(3)販売員給料
販売員の給料は仕入値には含めません。それは、購買活動とは別の販売活動の費用であるからです。
(4)販売手数料と販売促進費用
代理店などに支払う販売手数料や、展示会費用、販促物配布費用などの販売促進費用も、購買活動とは別の活動であることから売上原価には含めません。
4 無形の売上原価と在庫
最近は、工場の海外移転、各種サービス業の台頭により、売上原価(製造原価)という考えが随分と希薄になってきました。しかし、売上原価とは物理的な概念ではなく企業が提供する財貨やサービスを生み出すための費用です。
サービス業の典型は、ソフト制作、各種情報提供産業などがありますが、いずれも物理的商品を販売しているわけではありません。これらの業種における原価は、費やした自らの労力(人件費)や他から有償で仕入れたサービスやノウハウです。未販売のサービスに対する費用は、在庫として繰り延べなければなりません(次の会計期間の費用としなければなりません)。
在庫は棚卸資産として貸借対照表に計上しなければなりませんが、貸借対照表には物理的な資産のみが計上されるという固定観念を捨てなければなりません。
《在庫が増えると利益が増える!?》
「在庫は極力減らす!」が経営の鉄則です。在庫は資金を寝かした状態であり(投下した資金が回収されていない)、在庫があまりにも多いと経営を圧迫します。
一方、売上原価の計算においては、事実としての在庫の量は同じであっても、在庫を増やす、つまり期間末の在庫金額(個々の在庫に付す単価)を多くすれば(会計用語においては評価するといいます)売上原価は少なくなり利益は増えます。このことは、上記の売上原価を算出するプロセスからして明らかなことです。業績が悪い会社は業績をよく見せるために在庫金額を高く評価する、業績のよい会社は節税のために少なくするといわれるのはこのためです。
《在庫処分》
経営的には、売れ残った在庫をたたき売り、投下資金を早期に回収するために行われることです(たとえ、損が出たとしても資金が回収できる)。会計的には、在庫として残しておいても費用(売上原価)とはならないものが、販売されることにより費用となるということです(業績好調で節税をしたい会社には有効な方法です)。
《不良在庫》
在庫数量は確定しているとして、評価の問題です。不良在庫(損傷、時代遅れ)は、通常の在庫よりも評価額を低くしなければなりません。在庫が仕入値のまま評価されるのは、それに一定の利益を上乗せした価格で販売できる将来の費用であるからです。しかし、それができない不良在庫の場合には、すでに将来販売した際の損が発生していると考えなければなりません。不良在庫の評価を通常の在庫より低くすることは、業績不振企業にとっては大変つらいことです。(すでに販売不可能な在庫は廃棄することが通常です。当然、評価はしません。もう、ないのですから。)
《損益計算書における売上原価の表示》
上記の算式にしたがって、次のとおり表示します。
(1)期首商品棚卸高(+)
(2)当期商品仕入高(+)
(3)期末商品棚卸高(−)
(4)当期売上原価(1)+(2)−(3)
《月次試算表における売上原価の表示》
上記《損益計算書における売上原価の表示》同様の表示でよいと思いますが、期首は月初め、期末は月末となることは当然です。ただし、下記(2)の処理により年度決算への対応が必要となります。
(1)毎月の処理
●前月の仕訳(1ヶ月目)
月初め商品棚卸高100/商品100
商品110/月末商品棚卸高110
●当月の仕訳(2ヶ月目)
月初め商品棚卸高110/商品110
商品120/月末商品棚卸高120
●翌月の仕訳(3ヶ月目)
月初め商品棚卸高120/商品120
商品120/月末商品棚卸高120
●翌々月以降の仕訳(4ヶ月目以降)
3ヶ月目と同じとします。
(2)年度決算への対応
上記の処理を続けてゆくと月初め商品棚卸高と月末商品棚卸高が累積してしまいます。(当月の月末商品棚卸高と翌月の月初め商品棚卸高は同額ですので、累積していることが年度の損益に影響することはありません。また、商品勘定自体は正しい金額となっています。)そこで年度決算においては次の処理が必要となります。
●期首商品棚卸高100/(1ヶ月目の)月初め商品棚卸高100
●(1ヶ月目から11ヶ月目までの)月末商品棚卸高1310/(2ヶ月目から12ヶ月目までの)月初め商品棚卸高1310
●(12ヶ月目の)月末商品棚卸高120/期末商品棚卸高120
試算表に月初めと月末の在庫を反映すると、大変不恰好なことになってしまいます。(金融機関などの第三者は理解に苦しみます。)そんなことから、実際は試算表においては月初めと月末の在庫は反映せず、試算表とは別に各月を一つの事業年度とみなして年度決算同様の様式で決算書を作成していることが通常です。
≪諸経費≫
世間一般で用いられる言葉である「諸経費」とは、企業の維持に必要不可欠な費用のことです。損益計算書において「諸経費」は「販売費及び一般管理費」として表示されます。なお、製造業の場合には、製造原価の内訳として「製造経費」として分類表示される部分と、「販売費及び一般管理費」に分類表示されるものに分かれます。
1 諸経費の分類
諸経費の内容は種々雑多ですが、大別すれば次のとおりとなります。
(1)人件費
役員報酬、従業員給与、社会保険料、福利厚生費など。
(2)設備費用
社屋、機械、備品、車両など設備の減価償却費、家賃、リース料など。
(3)その他
交際費、会議費、通信費、交通費、研修費用、販促費、保険料など。
2 諸経費の把握
諸経費は以下の手順で把握します。
発注→納品・検品→請求→代金の支払
諸経費の発生も購買活動の結果ですので、その把握方法は仕入高(購買実績)の把握方法と同様かもしれません(費用としての勘定科目が異なるだけ)。しかし、諸経費はその内容が質と量の両面において、購買活動とは比較にならないほど多種多様です。設備の購入、人の採用などあらたまった意思決定や発注・契約を要するものから、文房具や取引先との食事代のように、その場で出費を決定し支払うものまでと様々です。
そこで、一般的には出費の金額に一定の基準を設け把握の方法を区分します。たとえば、一件あたり3万円を超える出費については購買活動同様の方法で把握し、3万円以下についてはその都度支払って記録していきます。
【多額な諸経費の把握方法】
多額な諸経費(取引金額と件数が多い)、つまり、特定月の購入代金を一括して支払うような諸経費については、≪購買実績の把握≫の「仕入高一覧表」と同じ要領で、購入先ごとの一覧表を作成しておくとよいと思います。ただし、仕入高一覧表の勘定科目がすべて仕入高であるのに対して、諸経費の場合には相手先によって勘定科目が異なります(相手先によっては、特定月の購入金額が複数の勘定科目となることもあります)。
3 諸経費の把握の現状
多くの中小零細企業経営者は粗利益(売上高−売上原価=売上総利益)を稼ぐことに精一杯で、諸経費については無頓着か闇雲に削減しているかのどちらかです。「当社は粗利率50%なので契約時に代金の半額をもらっておけば、もし販売先が倒産しても損はない」との発言を平然とする経営者も決して珍しくはありません。
厳しい不況が続いていますが、「従業員の反発や意欲減退を招く」、「取引先など外部者の反感を招く」、「同業他社に遅れをとる」経費削減はしてはなりません。
多くの中小零細企業経営者は、本業、つまり損益計算書の売上総利益(粗利益)の算出プロセスは熟知しています(帳簿上はともかくとして肌で実感しています)が諸経費については無知です。その原因は諸経費の内容の多種多様性にあります。
まずは、諸経費の発注と発生時点でその内容を吟味するとともに、正確な勘定科目処理を行うことにより事後的検討(月ごと年度ごとの比較)をすることです。
《諸経費の勘定科目の例》
【役員報酬】登記されている取締役、監査役に対する定時の給与です(賞与は利益処分となります)。
【給料手当】従業員、パート、アルバイトに対する給与です。基本給のほか諸手当も含めます。ただし、通勤手当は旅費交通費に含めるのが一般的です。
【賞与】従業員、パート、アルバイトに対する賞与です(通常、役員の賞与は利益処分となりますのでここには表示しません)。
【雑給】パート、アルバイトなど、一時雇用者に対する給与をこの勘定科目で処理することがあります。
【退職金】役員、従業員、パート、アルバイトに対する退職金です。
【退職金掛金】企業年金の掛け金(中退金、特退金など)がこれに該当します。ただし、保険料勘定に含めてもよいかと思います。
【法定福利費】社会・労働保険料など、法定されている役員や従業員関連費用です。
【福利厚生費】役員や従業員のレクレーション費用、慶弔金などです。
【外注費】営業、事務、清掃などの作業を外部の業者に依頼した場合の費用をいいます。
【荷造運賃発送費】商品や製品の梱包と運搬に要する費用です。なお、仕入に関する運搬費用は仕入高に含める場合があります。
【広告宣伝費】商品販売のための雑誌や新聞の広告掲載費用、求人費用、展示会費用、パンフレット制作費用がこれに該当します。
【交際費】得意先、仕入先、その他事業に関係する者に対する接待、供応、慰安、贈答その他これに類する行為のために支出した費用をいいます。
【会議費】取引先との商談、社内での打ち合わせに通常要する費用をいいます。実務上、交際費との区分が困難な場合があります
【旅費交通費】電車代、バス代、タクシー代、高速代、一時預けの駐車上代、通勤手当、出張費用(宿泊費、宿泊手当)、ガソリン代がこれに該当します。旅費交通費の内容が多い場合は、勘定科目の細分化が必要かと思います。(例)出張旅費、出張手当、海外旅費、通勤手当など
【通信費】電話代、葉書切手代、宅配便料金がこれに該当します。なお、宅配便料金については、荷造運賃発送費でもよいかと思います。
【販売手数料】代理店などへの手数料、仲介料がこれに該当します。なお、販売手数料と交際費の区分が実務上困難なことがあります。
【消耗品費】固定資産計上されない工具器具備品(机、椅子、パソコンなど)、事務用品費(コピー用紙、封筒など)、ガソリン代がこれに該当します。
【事務用品費】事務に関する消耗品費をいいますが、消耗品費に含めてもかまいません。
【修繕費】有形固定資産の修繕(現状維持のための点検費用、原状回復のための修理費用など)に関する費用です。実務上、有形固定資産か修繕費かの区分が困難な場合があります。
【水道光熱費】電気、水道、ガス料金です。
【新聞図書費】新聞代と書籍購入費用です。
【諸会費】同業者組合、地域団体への会費です。実務上、交際費や広告宣伝費との区分が問題となります。
【支払手数料】銀行の振込み手数料、弁護士、公認会計士などの報酬がこれに該当します。
【車両費】車検費用、車両の修繕費、ガソリン代など、車両関連費用を特別に把握したい場合に設けます。
【リース料】リース契約に基づくリース料の支払金額です。なお、レンタル料は賃借料で処理します。
【保険料】損害・生命保険料がこれに該当します。社会・労働保険料の会社負担額は、法定福利費で処理します。
【寄付金】国や地方公共団体に対する寄付金、公益目的の会社や団体への寄付金、特定公益増進法人、その他一般への寄付金に分類されます。税務上の扱いが事細かに定められています。
【研究開発費】研究開発に関する費用をいいます。研究所(新製品の開発に専念する部署)の費用がこれに該当しますが、営業や事務部門の研修費用もこれに含めます。
【減価償却費】固定資産の取得価額を各事業年度に費用配分した金額です。
【地代家賃】工場、事務所、駐車場(一時預け分は交通費)の地代家賃をいいます。
【賃借料】会議室、備品、車両などをレンタルした場合の費用をいいます。
【租税公課】印紙、自動車税、固定資産税その他の税金や公的な手数料がこれに該当します。法人税、住民税、事業税は法人税等に含めます。なお、税込経理の場合の消費税納付額はここに含めます。
【貸倒れ損失】売掛金や受取手形が回収不可能となったとき、回収不能金額をこの勘定科目で費用処理します。
【雑費】以上のいずれにも含まれない費用をこれで処理します。この勘定科目の多発は避けるべきです。一時的かつ少額な費用で、適当な勘定科目が見当たらない場合に用いてください。
《勘定科目大論争!!》
経営者の皆様方へのお願い
経理担当者は、諸経費の勘定科目分類に想像を絶するほど悩みます。
勘定科目が原因でノイローゼになる、退職する経理担当者が後を絶ちません。
勘定科目を決めるのは経営者です!!
会計についての規定が設けられている法律である証券取引法(公開企業)と商法(すべての会社)において、勘定科目については「適切な勘定科目分類をせよ」といった抽象的規定と「一部の勘定科目についての例示」をしているにすぎません。つまり、諸経費の勘定科目について、法律上適用を強制された詳細な規定はなく、唯一絶対的な分類はないということです。
しかし、勘定科目が決らないと仕訳が起こせませんし(試算表が完成しない)、勘定科目の適切な設定とそれへの正確な分類集計ができていないと試算表が意味をなさなくなります(同様の費用が複数の勘定科目に表示される)。
そこで、次の点を留意の上、勘定科目の決定を行ってください。
(1)同一の費用については以後も同一の勘定科目を使用する
(例)ガソリン代
旅費交通費、消耗品費、車両費いずれでもよいのですが、一度用いた場合は以後も同一勘定科目で処理してください。そうでないと複数事業年度や月ごとの比較ができないからです。
(2)できるだけ業界用語(隠語)、略称を勘定科目として用いない
外部第三者が理解に苦しみますので、他の表現が見つからない場合以外は避けてください。
(3)必要に応じて勘定科目の新設、廃止、統合をする
新たな取引、今までは金額が少なく適当な勘定科目に含めていた取引の金額が多額となった場合は、勘定科目の新設をしてください。反対の場合は、勘定科目を廃止、統合をしてください。なお、この場合(1)が守られなくても仕方ありません。
(4)内部管理用の勘定科目と決算書(外部報告用)の勘定科目はできるだけ統一する
世間一般に用いられている勘定科目は上記(2)のとおり抽象的・一般的であることから、企業によっては内部管理用に独特の勘定科目を用いていることがあります。それはそれでよいのですが、その場合でも外部公表用の決算書においては、あくまでも一般的な勘定科目を用いなければなりません。そこで、「組替表」を作成し内部勘定科目と外部勘定科目の関連を第三者に説明できるようにしておく必要があります(通常、内部勘定科目は詳細に分類されているため、外部勘定科目への組み換えは、内部勘定科目の外部勘定科目への統合作業となります)。
【経営者は適切な勘定科目を決めなければなりません!!】
前述のとおり、同一の取引であっても勘定科目の分類が異なることがあります。つまり、勘定科目への分類には主観的要素が入るということで、唯一絶対的に正しい分類はできないということです。そこで必要となるのが、経営者の判断です。
「よそがどうであれ、わが社ではガソリン代は旅費交通費にする。以後、遵守せよ!!」。経営者は強烈なリーダーシップ(?)を発揮しなければなりません。
【勘定科目への分類には取引の背後にある事実関係の正確な把握を欠かせません】
諸経費の勘定科目への分類に当たって経理担当者を悩ますもうひとつの問題が、支出の内容が正確に把握できないということです。たとえば、飲食代金の場合、店名と金額がわかっていても、誰といったのか、何人で行ったのかによって勘定科目が異なってきます(交際費、会議費など)。単に、「何時、どこ、いくら」(これは領収書でわかります)だけでなく、「何に、誰と、何のため」の記録を残しておく必要があります。(「何に、誰と、何のため」の記録は、社内で作成する「承認書」や「報告書」などの、いわゆる内部記録によるしかありません。)
しかし、中小零細企業の場合はこの部分に大変弱く、せっかくの試算表を無意味にしています。
《前払費用》
財貨(消耗品など)やサービス(運賃など)を購入しても(代金を支払っていても)、それを消費していない(消耗や利用していない)以上は費用とはなりません。いわゆる「前払費用」といわれるものです。前払費用は売上原価の計算における在庫と同じかもしれません(支出を費用とせずに繰り延べる)。しかし、在庫が売上高と明確な対応関係によって計上されるのに対して、前払費用は消費の有無によっている点が異なります。
月次決算においても、該当する支出については前払費用とすることが好ましいのはいうまでもないことです。たとえば、年度の初めにリース料を1年分支払った場合には、1ヶ月目の月次決算において以後の月の分までのリース料が計上されてしまい、正確な月次での利益が計算されませんので、11か月分は前払費用としておく必要があります。(家賃などの毎月定額で発生する費用の前払いについては、前払費用として処理しなくても影響はありません。)
《月次決算における費用の引き当て》
月次決算において、上記の前払費用と反対の現象が起こることがあります。業績給の賞与時での一括払い、年に一度の定期点検費用などがこれに該当します。これらの全額を発生した月に計上すると、本来は他の月にも負担させなければならない費用が発生した月に過重に負担されることになります(月ごとでの費用と収益が対応しない)。そこで、年間の発生見込み金額を見積もって、その1/12を毎月次決算において未払い計上しておく必要があります(見込み計上した金額と確定した金額の差額は、確定した月に処理します)。(若干性質が異なるかもしれませんが、減価償却費も毎月次決算において年間見込み額の1/12を計上しておくことが望まれます。)
≪金利≫
「これだけたくさん借金を返済しているのに黒字とは」、「借金の返済は損益計算書のどこに表れるのですか」、大変よく聞くことです。
損益計算書は企業の一定期間の収益と費用の対応関係、 成果と分配の関係を表します。金利(勘定科目としては営業外費用の支払利息)は、企業に資金提供してくれた者(一般には金融機関)に対する成果分配です。損益計算書には、この分配(費用)としての金利(営業外費用の支払利息)しか表れません。
《元金はどうやって返済するんだ!?》
税引後当期利益で返済します。それができない場合には、再度借り入れをし(いわゆる借換え)、それで返済します。(借り入れたときの入金、返済したときの出金ともに損益計算書には表れません。)
≪法人税≫
法人税は損益計算書から算出される当期利益から、税法で定める調整を経て算出された課税所得に一定税率を乗じて算出されます。当期利益と課税所得は程度の差こそあれ一致しません。損益計算書が業績を表示するものであるのに対して、課税所得は課税の公平性や政策的配慮から当期利益に調整を加えるからです。たとえば、将来の特定の支出に備える引当金を繰り入れること(費用処理する)は、正確な業績を把握するためには必要なことです。しかし、税法上は引当金の繰入れを大幅に制限しています。
業績と課税所得は別物(目的が異なる)と認識しておく必要があります。(両者の異なる度合いは、会社が採用する会計処理によります。たとえば、正確に業績を把握するために(利益を計算するために)、課税所得の計算においては認められない費用を多額に計上している場合には、課税所得は利益よりも著しく多くなります。)しかし、経営上は最終的な法人税の納税を無視することはできませんので(法人税も費用と考える必要があります)、毎月次決算終了後はその時点の法人税額の概算金額とそれにいたるプロセスを把握しておく必要はあります。
≪消費税≫
1 税抜処理
消費税が間接税であることからすれば(負担するのは得意先)、その理論的な処理方法は「税抜処理」です。つまり、販売時に受け取った消費税は「仮受消費税」(負債=預り)、仕入時に支払った消費税は「仮払消費税」(資産=仮払い)として、それぞれを貸借対照表の負債と資産に計上します。そして、納税は両者の差額となります。
消費税は事業者にとって預かった税ですので、損益には影響しません。
2 税込処理
消費税の趣旨からすれば税抜処理が理論的かもしれません。しかし、税抜処理は事務処理が煩雑ですので税込処理を行うこともできます。税込処理の場合、販売時に受け取った消費税も仕入時に支払った消費税も試算表には表れません。それらは、各収益と費用に含まれています。その意味で、収益費用ともに過大に計上されることになります。ただし、最終的な納税額を費用処理することによりこれは調整されます。