試算表(業績の把握)2/7
築山公認会計士事務所
≪販売実績の把握≫(売上高)
損益計算書で、販売実績は「売上高」として表示されます。売上高は「実現主義」により計上されますが、ここに「実現」とは「販売代金の入金が確実」で「販売代金が客観的な数値」であることを要件とします。
販売活動のサイクルは以下のとおりであり、販売実績を正確に把握するためにはこのサイクルに応じた正確かつ規則性のある計数の把握が必要となります。
●販売促進活動
●受注(販売商品とその数量、販売条件の決定)
●出荷の手配(仕入、製造)
●出荷・納品(返品)
●代金請求
●代金回収
●アフターサービス
企業において上記のサイクルを行うのは「販売部門」といわれる部署で、その記録もこの部署が行うことが一般的です。
1 販売促進活動
販売促進活動は販売実績を高めるために必要不可欠な活動です。市場調査、試作品の作成、顧客へのプレゼンテーションなどを行わなければならず、それに伴って膨大な費用も発生します。しかし、この活動の段階では収益である売上高は発生しませんので販売実績=売上高としての記録とは関係しません。
2 受注
受注が確定したならば、いずれは売上高が計上されます。正確な売上高を把握するためには受注の段階から次の情報を記録しておく必要があります。
(1)得意先に関する情報
「得意先名」、「所在地」、「担当者(発注権限者)」などは当然として、得意先の信用状況の調査とそれに対する判定を欠かすことができません。これが不十分であると、以後の販売実績の把握において大変高度で判断の難しい処理を要求されます(値引きや貸倒れなど)。
(2)受注内容に関する情報
受注商品の内容(品名と数量)、販売単価について記録しておく必要があります。
(3)出荷に関する情報
「出荷予定日」、「納品場所」について記録しておく必要があります。
(4)代金回収に関する情報
「支払日」、「支払条件」について記録しておく必要があります。
(5)アフターサービスに関する情報
納品後のメンテナンスや不具合発生時の対処方法について記録しておく必要があります。
【受注簿】
一般的に、受注記録は受注簿に記録しておきます。必須の記録内容は「得意先名」、「受注品名」、「数量」、「単価」です。形式は、「一覧表形式」(多くの場合は受注日付順)、受注単位ごとの「票形式」(受注伝票などを作成します)が一般的です。この受注簿は、後日の売上計上の網羅性と請求漏れを防止するための大変重要な記録です。漏れのない記録がされていることの確認は会計上、企業経営上、大変重要な作業です。なお、業種によっては得意先からの「注文書」を受注簿として活用していることもあります。
【売買契約書】
個々の受注金額が大きい業種(建設業、ソフト制作業など)では、受注にあたり契約書を作成することが一般的です。記載内容は上記の(2)から(5)のみならず、円滑な取引を行うための一切の事項を記載することが望まれます。個々の受注単位が小さい場合(個々に契約書を作成するほどでもない場合)は、取引において生じる共通的事項の扱いを定めた「取引約款」を作成し得意先に配付しておくことが望まれます。
【販売管理ソフト】
市販されている販売管理ソフトの多くが、この受注段階から記録(入力)する仕組みとなっています。しかし、販売管理ソフトは「多品種を多数の得意先に販売する業種(卸売業)」を前提に設計されていることが通常で、業種(小売業、建設業、サービス業)によっては有効に活用できないことがあります。
【店売り】
店売りの場合は受注即販売(出荷)であり受注簿は不要です。しかし、店売りの場合でも店頭に商品がなく、引渡し(出荷)が後日となる場合は受注簿を作成しておく必要があります。
3 出荷の手配
受注が決まったならば次は得意先へ商品を届けなければなりません。このプロセスは次のとおり業種により大きく異なります。
(1)仕入商品を扱う業種(卸売業、小売業)
自社が保有している商品ならば即出荷ができますが、保有していない場合は仕入先に注文しなければなりません。
(2)自社製品を扱う業種(建設業、製造業)
製造の手配が必要となります。製造手順を決定し材料の発注、外注先の手配をしなければなりません。なお、自社商品を見込み生産している場合は(1)と同様になります。
出荷の手配は購買・製造業務との連携が必要となります。販売部門と購買・製造部門の連携がスムーズでない場合は、出荷の遅れや誤り、最悪の場合それを原因としたキャンセルや悪評が生じますので、有効な業務体制を確立しなければなりません。
4 出荷(収益の実現=売上計上)
前述のとおり、売上高は実現主義の原則に基づき行います。実現とは「販売代金の入金が確実」で「販売代金が客観的な数値」であることですが、この条件は商品を出荷した時点(引渡した時点)で満たされます。そこで、出荷の時点(収益実現の時点)を正確に捉えることが会計上大変重要な作業となります。
出荷の時点は次の方法で捉えます。
(1)自社で配達する場合
得意先に配達した日付で売上計上します。なお、この日付を明確にするためには得意先の「受領書」を入手する必要があります。(得意先が受領書に押印してくれない、取引件数が多く受領書の入手と保管が困難な場合には、下記の「出荷伝票」を保管しておく必要があります。)
(2)運送業者に納品を依頼する場合
運送業者の「受領書」の日付(運送業者が配達することを引き受けた日付)で売上計上します。この場合も、上記(1)同様に得意先への配達が完了した日付で売上計上するのが正確かもしれません。しかし、運送業者が得意先に配達した日付を把握するのは大変手間がかかります(運送業者が得意先から受領書をもらいそれを回収する必要があります)。そんなことから、運送業者が配達することを引き受けたのならばまずは得意先に商品が届くということから、運送業者が受領した日付で売上計上をします。
売上計上が終了したならば、受注簿に売上計上が終了した旨の記録を残しておく必要があります。
【出荷伝票】
出荷する際には「出荷伝票」を作成することが一般的です。出荷伝票は自社での出荷の事実を残す記録であるとともに、得意先に納品を知らせるための記録でもあります。よく利用されているのは、「出荷伝票(倉庫への出荷指示)」、「売上伝票(売上計上の指示)」、「納品書(得意先への納品内容の連絡)」、「受領書(得意先に納品時に押印を求める)」の4枚複写方式です。
【得意先元帳】
個々の売上計上(出荷)は取引先単位で作成する「得意先元帳」に記録を残しておきます。これが、請求書を発行するときの「請求明細」を作成する基となります。なお、得意先元帳の具体例につきましては試算表(財政状態とは)≪売掛金≫をご覧ください。
【売上高一覧表】
一定期間(通常は月ごと)の各得意先別の売上高合計を一覧できる表を作成しておくと大変便利です。得意先元帳から得意先別売上高を集計します。これが「請求合計」となります。また、全得意先の当月売上高を合計したものがその月の売上高合計です。
得意先名 |
前月繰越 |
当月売上高 |
当月入金 |
当月残高 |
○○商事 |
|
|
|
|
○○工業 |
|
|
|
|
○○産業 |
|
|
|
|
合計 |
|
|
|
|
「前月繰越」とは前月以前に売上計上された分の当月初めの代金未回収額です。月末締めの翌月入金の場合には、この金額は前月の当月売上高に一致します。
「当月入金」とは前月繰越と当月売上高のうち当月に代金の入金があった部分です(得意先元帳から導きます)。月末締めの翌月入金の場合には、この金額は前月繰越に一致します。
「当月残高」=前月繰越+当月売上高−当月入金となります。
(消費税の処理)
上記の表はいわゆる「税込処理」を前提としていますが、「税抜処理」の場合には当月売上高を「本体価格」と「消費税額」に分割します(2段書きにしてもよいと思います)。また、税抜処理の場合には得意先元帳の段階でも本体価格と消費税額に分割しておく必要があります。
【振替伝票の起票】
売上高を試算表に反映するためには、振替伝票の起票つまり仕訳を起こす必要があります。個々の売上計上の記録は得意先元帳にありますので、仕訳は上記の売上高一覧表から一定期間の合計で行えば足ります。試算表の売上高合計と売上高一覧表の売上高が一致するのはいうまでもありません。
【締日】
通常、代金の請求は売上の都度相手先にするのではなく、一定期間の売上を集計して請求書を発行します。いわゆる「締日(しめび)」です。締日の設定で問題となるのは次の事項です。
(イ)締日と試算表作成期間の不一致
ほとんどの企業が事業年度を特定月の初日から一年後の月末終了としており、月次試算表は月単位(月初から月末)で作成しています。ところが、締日(請求期間)は当月21日から翌月20日など試算表作成期間と一致しないことがあります。この場合、試算表に計上された売上高の金額が試算表作成期間と一致しません。企業が日々活動している以上、売上は日々発生しているはずです。損益計算書における最重要項目がこのような状況は好ましくありませんが、試算表を分析するにあたっての「前提条件」と考えるしかありません。
(年度末での調整)
決算書はあくまでも会計期間で作成しなければなりません。そこで、年度末には締日と会計期間を一致させるため、締日以降年度末までの売上高を特別に集計し計上しなければなりません。
なお、翌年度の開始月(3月末決算の場合には4月)では次の処理を行います。
(A)とりあえず通常月と同じように締日で売上計上する
(B)前年度の決算で計上した締日以降決算日までの売上高を減額する(反対仕訳を起こす)
(A)の中には前年度分が含まれていますので、(B)により取り消しておく必要があります。
(毎月の調整)
月次決算においても、締日とは無関係に試算表作成期間で売上高を把握することが望ましいことはいうまでもありません。販売管理ソフトを利用している場合は、集計期間の設定が自由自在にできると思いますので是非とも売上高を試算表作成期間に一致させてください。それには、個々の売上高のタイムリーな処理が必要となりますが。
(ロ)締日が複数存在する
多くの場合締日は得意先の要望で決まります。そんなことから締日が複数存在することもあります。試算表分析の前提条件と年度末の処理が複雑化するのは当然です。
【売上計上事務作業に要する日数】
試算表作成期間終了日とほぼ同時(翌月の5日くらいまで)に集計できるのが理想です。しかし、現実には、出荷伝票の整理が遅れている、得意先が受領書に押印してくれないなどが原因で遅れてしまうことがあります。
【得意先との認識のズレ】
売上は得意先にとっては仕入となるため、当然、双方の売上と仕入は一致します。しかし、こちらでは出荷もして売上計上したけれども運送途上にある、到着しているけれども検収作業をしていない(仕入計上の前提として検収作業をします)場合などは双方の数値が一致しない場合があります。このような通常起こる範囲内の認識のズレならばよいのですが、大幅な認識のズレについてはしかるべき処理が必要となります(得意先の正式な発注ではなかった、商品違いであったなど)。
5 代金請求
代金の請求は締日ごとに行います。請求書の様式は様々ですが下記の事項は是非とも記載したいものです。
(1)請求日付と請求期間
(2)前月繰越金額
(3)当月販売高((イ)納品日、(ロ)商品名、(ハ)数量、(ニ)単価、(ホ)(ハ)×(ニ)とその合計)
(4)当月入金額
(5)当月請求金額((2)+(3)−(4))
(消費税の処理)
いわゆる税抜処理の場合には、(3)当月販売高は「本体価格」と「消費税額」に分割されます。
請求書の発行は、一定期間の得意先元帳と売上高一覧表が完成しその金額や内容に誤りがないと確認できた時点で行います。当然、(3)は得意先元帳や売上高一覧表の金額と一致していなければなりません。
6 代金回収
代金回収は売上計上と直接関係ありません。しかし、代金回収の結果によっては当初の売上計上金額を修正しなければならない場合があります。問題となるのは次のような場合です。
(1)請求金額どおりの入金がない
得意先の支払ミスによる場合はよいのですが、当方の請求ミス(過大過少請求)や何らかの理由による値引き要求(品違い、不良品)の場合はしかるべき処理が必要です。請求ミスの場合は早急な売上高の訂正処理、値引きの場合は明らかな値引きであることを確認した後に値引き処理(売上値引き勘定あるいは売上高のマイナス処理)を行う必要があります。
(2)正当な請求金額の回収ができない
まずは得意先の正確な経営状態を把握する必要があります。得意先に支払能力がない場合(法的手続の開始など)は、貸倒れ処理や貸倒引当金の繰入処理(売上高はそのままにしておき貸倒損失あるいは貸倒引当金繰入という費用勘定を計上する)を行います。相手先が、一方的に支払を繰り延べているような場合には大変処理に窮します。値引き処理や貸倒れ処理を行うことはできませんので、しばらくは資金の裏づけのない売上高が計上されることになります。このような事態はできる限り受注の段階で防止しておかなければなりません。
(3)代金の前受け
商品の出荷つまり売上計上に先立って代金を受け取ることがあります。このような場合には、売上計上のない入金ですので、上記4出荷(収益の実現=売上計上)【売上高一覧表】の当月残高はマイナスとなります(前月繰越がないとして)。
【仮納品】
代金や数量がはっきり決まらないままに納品しなければならないこともあります。多くの場合は得意先との信頼関係、慣習などから仕方なく行われることです。事情はともあれ合理的に見積もった「仮の金額」で売上計上しておくしかありません。
なお、仮納品で売上計上することは「実現主義」と矛盾するかもしれません。「販売代金が客観的な数値」でないからです。しかし、仮納品は特定の得意先との特殊な取引です。通常の場合なら請求しているであろう販売代金を客観的な金額と考えなければなりません。
7 アフターサービス
アフターサービスは販売活動において必要不可欠です。アフターサービスの良否がリピートの確率を左右することも多く、これを惜しむことはできません。しかし、この活動は売上計上と関係ありません。
《実現主義》
発生主義会計においては、費用と収益を発生主義に基づいて計上しますが、収益の計上においてはさらに「実現主義」であることを要求しています。この件についての説明は論者(学者)によって異なります。しかし、実務上は、(1)実現主義も「発生主義の中の一原則」であること(入金にかかわらず収益を計上すること)、(2)収益は「一定の時点」で計上すること、(3)その一定の時点を「実現」と呼ぶ程度の理解で十分だと思います。
預金や貸付金の利息、不動産の賃貸料などの収益は「時の経過」によって発生しますので、実現主義ではなく発生主義により計上すると考えることができるかもしれません(特定時点で計上するのではない)。しかし、利息や賃貸料同様に、商品の販売(物の引渡しを要する収益)も時の経過にともなって収益が発生すると考えることもできます。たしかに、収益が「実現する」のは販売(出荷)の時点かもしれませんが、この実現は上記の販売活動のサイクルの前段階があってのことであり、一定時点で突如として収益が発生するのではないからです。
《業種別の実現の要件》
「実現」の要件は業種の数だけあります。ほとんどの業種で妥当な売上計上基準が確立されていますが、新たな取引形態の業種の場合はそれがないことも多く判断に迷うこともあります。
(実現=売上計上要件の例)
(1)物品販売業(卸売業、製造業など)→出荷時点、得意先受領時点
出荷や受領の時点が明確でない場合もあります。たとえば、仕入先から商品を直送してもらう場合などは出荷や受領の時点の判断に迷います。
(2)請負業(建設業、ソフト開発など)→完成時点(得意先が完成の事実を認識した時点)
完成の時点が明確でない場合もあります。得意先に完成を見極める能力がない場合や、請負内容の性質によっては完成の見極めに長期を要することもあるからです。
(3)賃貸業(不動産賃貸業、物品レンタル業など)→時の経過に応じて(月極めならば毎月)
契約で賃貸期間や契約解除の要件を明瞭にしておく必要があります。
《売上計上基準》
上記の売上計上をする時点を売上計上基準といいます。いうまでもなく売上高は、損益計算書における最重要項目ですので、妥当な売上計上基準を確立しそれを遵守することは当然のことです。妥当な売上計上基準の確立なくして、正確な業績の把握をすることはできません。
《代金の請求と売上計上基準の関係》
通常は、当月の請求合計=当月の売上高となるはずです。(ある月の売上高とは、その月の日付で請求できるようになった販売代金の合計と理解しておけばよいということです。)
しかし、次のような場合には両者は一致しません。
(1)代金の前受け
当月は当月の請求合計>売上高となりますが、翌月は当月の請求合計<売上高(翌月に前受けはないとすれば)となります。
(2)請求を得意先の検収時点に合わす
こちらが売上計上基準を満たし売上計上している場合であっても、得意先が納品された商品の検収ができておらず、得意先は検収した分のみを請求するよう要望してくることがあります。このような場合には、当月は当月の請求合計<売上高となり、翌月は当月の請求合計>売上高(翌月にこのようなことはないとすれば)となります。
《売上計上基準の変更》
取引内容が同一である限りは売上計上基準を変更することはできません。しかし、取引内容が同一であっても、より合理的な売上計上基準が採用可能な場合は変更してかまいません。たとえば、従来は出荷の時点で売上計上をしていたため品違いによる返品が多発していたけれども、より正確を期すために先方の受領時点で売上計上するよう変更する場合などは、より正確な方法へ変更ですので認められます。
《複数の売上計上基準の採用》
事業内容が複数である場合は、売上計上基準も複数となることがあります。また、事業内容がひとつであっても、取引条件が複数ある場合にも売上計上基準も複数となることがあります。(たとえば、単に商品を配達する場合には出荷時に売上計上し、配達商品を組み立てるあるいは取り付ける場合には受領時点で売上計上する場合がこれに該当します。)