決算報告(良き理解者の出現)

 

1.     決算書

 

「貸借対照表」、「損益計算書」、「勘定科目明細書」・・・。企業経営者ならば、年に一度は否応無しに接しなければなりません。

「貸借対照表」は、事業年度末の財政状態、すなわち資産とそれを調達するための負債と資本を表します。「損益計算書」は、一事業年度に獲得した利益と、その獲得プロセスを表しています(売上総利益、営業利益、経常利益、税引前あるいは税引後当期利益)。「勘定科目明細書」は、貸借対照表と損益計算書の各勘定科目の具体的内容を記載します(預金については、銀行別、預金種類別など)。

 

2.     三つの会計制度

 

我が国の場合、企業(会社)に決算書の作成を義務付けるとともに、その計算方法や様式を定めている法律(会計制度)は次の三つです。

 

法 律

目 的

特 徴

@商法

株主に対する配当可能利益の算出と、会社資本を担保とする債権者保護をすること。

株式会社を資本金と負債総額に基づき、大中小の三つに区分し、規模に応じた規定を設けている。一般に会社の規模が大きくなるに従い、株主や債権者も増加し利害関係も複雑化するので、規模の拡大に応じて規定を厳格化させている。

我が国の株式会社の大部分が小会社に属し、そこでは株主も債権者も限られていることから決算そのものは行われても、その開示が規定通りに行われていないのが実情である。しかし、それでも実害なく会社が運営されている。

なお、有限会社については小会社をさらに簡略化した規定を設けている。(注)

A証券取引法

有価証券の発行と売買の公正性を確保し、その流通を円滑化するため、企業内容を適正に表示した財務諸表(決算書)の開示を通して投資家に有用な情報を提供すること。

主に、上場企業を対象としており、資本主義社会の一翼を担う「投資家」への情報提供を、タイムリーかつ詳細に行うよう求めている。また、各種資産の時価評価、企業グループに着目した連結財務諸表など、時代の要望をいち早く取り入れなければならない宿命にある。

B法人税法

株主総会で確定した@商法による決算書の利益を起点に、課税所得を「公平に」算出すること。

会計制度と呼ぶには疑問があるが、我が国の会社の全てが法人税の申告納税義務を負うことから、その規定は詳細で、本来@やAで明文化すべきものを補足していることもあり、多くの企業がそれを尊重している。その意味で、大変練られた規定といえる。

上記の三つの会計制度に、優先順位があるわけではありません。また、どれが絶対的に正しいというわけでもありません。そもそも、それぞれの制度の趣旨が異なるからです。かといって、三つの制度ごとに記帳技術や基礎資料が異なるわけではありません。記帳そのものは複式簿記で行い、最終の報告段階で、それぞれの目的に照らして@の商法では「計算書類」、Aの証券取引法では「有価証券報告書」、Bの法人税法では「申告書」を作成します。

なお、@の商法とAの証券取引法の「利益」は一致し、Bの法人税法の「課税所得」は@Aとは異なります。

 

(注)有限会社について

有限会社は、株式会社の簡略形と言われます。株式会社と同様に「有限責任」を原則としつつも、最低資本金額、役員数などの条件を緩和するとともに、出資者数の上限などについて制限を設けています。しかし、会計制度については「資本充実」という商法の趣旨は株式会社同様であり、その規定は概ね株式会社の小会社と同一となっています。

なお、有限会社は証券取引法の適用はありませんし(出資者数の上限により株式公開ができない)、法人税法上は株式会社も有限会社もほぼ同一の規定が適用されます。

 

3.     昨今の傾向

 

「連結決算」、「時価評価」、「自己資本」、「退職金の積立不足」・・・。ここ数年、会計に関する記事が新聞や雑誌によく掲載されています。

それらの記事に共通するのは、「ある会計処理を強制的に適用したがために、大幅赤字になったとか、倒産に追いやられた」ということです。つまり、法律により実態を暴かれ、株価の暴落、取引銀行の支援打ち切り、信用不安が生じ、結果として倒産に追いやられたとの視点が強調されています。

たしかに、大企業(概ね上場企業)には、商法や証券取引法の会計基準が強制的に適用されます。しかし、本来会計とは、法律により生み出されたものではなく、資本主義社会においては自然発生的に行われるものであります。

資本主義社会においての主役は企業=会社です。資本主義社会においては、誰でも、営利を目的として、自由に会社を設立できます。会社を興し営業活動を行うには、一定金額以上の資金が必要となります。会社においては、その資金を多くの出資者から募るのが原則であり、また、それが会社制度のメリットであります。そして、出資者は直接経営には関与せず、特定の者に経営を委ねます。一定の期間、すなわち事業年度が終了したならば、出資者は経営者に対して会社の業績や資産状態の報告を求め、相応の分配を要求します。その報告において、決算書(損益計算書、貸借対照表)が必要となるのは当然です。会社をさらに成長させるには、現在の出資者のみならず潜在的な出資者=投資家を発掘すべく、広く一般に事業内容を公表しなければなりません。

会計は、会社を興し、それをさらに発展させ、永続させるための自立的機能であると言えます。

「脱税」は、「犯罪」です。

それに対して、決算数値を実態よりも良く見せる、いわゆる「粉飾決算」は、「裏切り」であるとともに「自殺行為」と言えます。投資家に真実を報告せず資金を募り、結果的に予期せぬ倒産にいたることは「裏切り」です。また、真実を隠すために体力を超えた配当や納税をすることは「自殺行為」です。

ただし、ある会社が粉飾決算を行い、違法配当(配当財源以上に配当すること)をすれば債権者の利益を損ねますし、粉飾決算が表面化したときの株価急落は、多くの投資家に損失を与えます。そしてなによりも、予期せぬ倒産は、投資家や債権者以外の多くの利害関係者を混乱させ、計り知れない損害を与えます。その意味で、粉飾決算は犯罪であり、それに対しての刑罰が必要であることは言うまでもありません。また、一定の会計基準や開示方法を確立し、それに法的強制力を持たせることは当然のことです。

 

≪バランスシートブーム?≫

最近、新聞や雑誌の会計に関する記事の中でも「バランスシート調整」、「含み損失」、「遊休資産の整理」、「負債圧縮」など、とりわけバランスシート=貸借対照表に関する記事が目立ちます。

貸借対照表は、事業年度末の財政状態、具体的には資産とそれを調達するための負債と資本を表します。ここでの資産とは、即時に支払手段となる現金預金のみならず、将来の費用となる前払費用や簿価(貸借対照表の金額)以下でしか売却できない工場設備など、一般に資産とは呼び難い項目が多数含まれています。これは、現行会計が発生主義を採用しており、そこでの主役は適正な期間損益を表す「損益計算書」であることによります。ある意味で貸借対照表は、翌会計期間以降に持ち越す費用あるいは収益の備忘記録に過ぎません。発生主義会計は、企業の継続と信用取引を前提としており、資産を売却して負債を返済した結果として正味財産がいくら残るという思想はありません。

それでは、なぜ、貸借対照表について議論が交わされるのでしょうか。その理由は次の二つではないかと考えられます。

@市場価格の変動が企業に与える影響

資本主義社会の発展は、投資活動なくしてありません。投資活動は様々な金融商品を生み出しましたが、それら金融商品の多くが投資元本の保証がなく、市場価格の変動が利益あるいは損失をもたらします。多数の金融商品が多額に貸借対照表に資産として計上されていますが、従来は買値、いわゆる取得原価で計上していました。資産における金融資産のウエイトからして、年度末には取得原価でなく時価に計算し直し評価損益を認識することは当然の成り行きです。なお、市場価格の変動が、思いもよらぬ隠れ負債を発生させていることもあります(退職金の積立不足)。

A企業規模や形態の変化に応じて生じる不要資産

企業に栄枯盛衰はつきものです。取扱い製品の成熟化あるいは同業他社との競争に敗れ、事業を縮小することや、異業種に事業転換することは珍しくありません。その際、多くの遊休設備や在庫がもはや収益を生まないものとなってしまいます。一般的な換金性を有するという意味においての資産としてはおろか、発生主義会計における将来収益の源泉である資産としても、もはや貸借対照表に計上しておくことはできません。

特に、バブル崩壊後の我が国企業では、@、Aとも顕著な傾向です。最近のバランスシートブームは、発生主事を中心とした従来の会計思想を否定するものではなく、むしろ発生主義会計の進化と考えるべきであると思います。

なお、金融機関の不良債権問題は、従来の発生主義会計の枠内でも当然処理されるべき問題です。しかし、その処理は容易ではなく、「認識(不良債権か否か)」と「測定(金額をどうするか)」という古くて新しい問題をはらんでいます。

 

≪黒字倒産≫

会計関係の書物によく出てくる言葉です。「勘定あって銭足らず」とも言われます。

現行会計は発生主義会計を採用しており、入金を待たずに収益の計上を行います。例えば、商品を販売する場合、相手先に引き渡した時点で売上高とします。3月決算の会社が、3月25日に相手先に商品を引き渡し入金は4月以降(翌年度)となる場合でも、当年度の売上に含めなければなりません。発生主義会計では企業の継続と信用取引を前提としており、入出金が確実となった時点で費用と収益を認識します。なお、現金主義(入出金時点で費用と収益を認識する)によった場合、一事業年度での費用と収益の対応関係を見出せない不備が生じてしまいます。しかし、発生主義はこれを回避し適正な期間損益計算を可能とします。

しかし、収益の認識時点で入金が確実視されていようとも、その後の状況変化で入金不能となることは当然あります。また、見積もっていた費用が思いのほか多額となることがあります。さらに、決算報告は事務処理の関係上、事業年度末から一ヶ月以上経過してから行われるのが通常であり、「過去の情報」という宿命を持っています。

「黒字倒産」は発生主義会計の不備ではなく、激変する経済環境が発生主義会計にもたらす「災害」と考えなければなりません。ただし、事業年度終了後に生じた事象が決算数値に影響を及ぼす場合は、決算数値への反映あるいは、決算書への注記(コメント)が要求されていますし、決算発表の早期化、四半期決算の導入などにより「黒字倒産」を回避できる環境が整いつつあります。さらには、キャッシュ(企業が自由に使うことができる資金)の出入りと年度末の保有高を表す「キャッシュフロー計算書」、法的な企業単位ではなく企業グループという経済的実態から作成される「連結財務諸表」も上場企業には開示が強制され、企業内容の開示制度は日増しに充実してきております。

なお、収益や費用の見積りを恣意的に行って黒字決算とし、決算終了後に倒産にいたるのは、「黒字倒産」ではなく「粉飾決算」であることは言うまでもありません。

 

≪粉飾決算と税務署≫

「仮装経理」という規定が税法にはあります。仮装経理を行い余分な税金を納付した場合は、還付の請求を行えます。しかし、仮装経理であることを税務署に説明することは至難の業であり、そう簡単には還付には応じてくれません。

やはり、粉飾決算は「自殺行為」であることを肝に銘じなければなりません。

 

4.     中小零細企業の決算報告の現状

 

我が国の会社の大半(95%強)が、いわゆる非公開企業です。非公開企業とは、株主が親族、友人、知人などに限られており、また、実際の経営をする役員もその中から選出されている会社です。非公開企業は、証券取引所に株式を上場していませんので、証券取引法の適用はありません。しかし、商法の適用は当然あります。ただし、株主と経営者が一致していることが通常ですので、決算報告の意義や重要性はほとんどありません。また、会社債権者も、会社の資本ではなく、一定の担保や経営者の資質に基づいて取引をしており、決算内容をさほど重視しておりません。

そんなことから、中小零細企業では、法人税法、すなわち税務署のみを意識した決算報告を行っているのが実情です。もっとも、税務署に提出した決算報告書は、税務署の厳重な管理のもと一切外部に公表されませんので、税務署への決算報告書の提出は、「報告」というよりも「提出」といったほうが正しいかもしれません。

現状、非公開の中小零細企業に決算報告制度は無いと考えても良いかもしれません。

 

≪金融機関への決算報告≫

一つ、大切なことを忘れていました。金融機関です。

ほとんどの中小零細企業にとって、資金調達の相手先は金融機関です。商法は、債権者の保護を目的の一つとしています。債権者には、決算書や帳簿の閲覧権が認められます。また、債権者を保護すべく、配当可能利益や資産の評価など、債権者の担保となる会社の資本を充実すべく、大変厳格な規定を設けております。

法律の規定はともかくとして、金融機関は融資審査の際、決算書の提出、場合によっては帳簿の閲覧とより詳細な情報の提供を求めてきます。中小企業経営者にとって金融機関への決算報告は、まさに、金融機関に掌で運命をもてあそばれている心境でしょう。

民事再生法などで敗者復活が認められる大企業と異なり、中小零細企業はトーナメント戦です。一度失敗すれば、代表者の氏名や生年月日が金融機関のリストに保存され、会社はもとより、その経営者個人も再起の道が閉ざされます。

大企業の粉飾決算が「体面」とすれば、中小零細企業の粉飾決算は、「生への執念」かもしれません。

 

≪たかが赤字、されど赤字≫

「三期間連続して経常黒字」。金融機関から融資を受ける際の「常識」となっています。

会計処理には様々な仮定や見積が介入します。そして、同一の事象について複数の会計処理が存在し、選択適用が認められていることもあります。そこで、会計処理次第で決算数値が変動することが起こります。

企業の全てを決算書から読み取ることはできません。同業の数社がほとんど同じ決算数値であっても、経営者の資質、人材、ノウハウ、取引先構造などに違いがあれば、やがては格差が開きます。また、現在は決算数値が同業他社よりも悪い会社が、将来は業界トップに踊り出ることもあります。

にもかかわらず、現在の決算数値が重視され、決算数値が悪い場合は、融資の打ち切り、取引停止などを招きます。この現実を、一朝一夕に解決することはできません。「家柄」、「学歴」、「職業」などだけで人の能力や価値を判断できないのと同じように、決算書の利益だけでは企業を判断できないのですが・・・・・。

そこで、重要となるのは「経営者の決断」ではないでしょうか。外部の顔色を気にしてばかりでは、まともな経営はできません。また、「借りないことを前提とした経営」、「借りなくとも乗り切れる経営」を確立しなければなりません。

そして何よりも、「今に見ておれ。見返してやる。」という気概が必要ではないでしょうか。

 

5.     中小零細企業の決算報告の今後

 

株式会社の場合、取締役3名、監査役1名が最低必要です。最近よくあるのは、友人知人はおろか、親族でさえ取締役や監査役に就任することを敬遠する傾向にあるということです。ましてや、銀行融資の保証人を引受けてくれる人を求めるのは、さらに困難となっています。

これからの時代はどんなに小さな企業でも、まずは「事業内容」を明瞭かつ正確に把握し、そして「将来展望」を描き、周囲に説明をすることを怠ってはいけません。そうでなければ、だれも役員にも出資者にもなってくれません。ただし、公開企業と異なり、決算報告の対象者は限られてきます。また、報告する範囲も相手によって異なることもありえます。

決算報告の最低内容と、相手から求められた場合報告する、あるいは報告することが有意義と認められる内容は、次の通りではないでしょうか。なお、税務署については税務署所定の様式に従う必要があります。

《必ず報告する内容》

@貸借対照表

A損益計算書

株主、全役員、保証人、幹部社員、主要取引先に配付することが望まれます。

なお、中小零細企業では、勘定科目の名称やそれへの割り振りが不明瞭かつ不正確な場合が多くあります。単なる、総資産、純利益の報告に済ましてはいけません。さらに、主要経営指標(流動比率、自己資本比率、経常利益率など)の算出や、前期あるいは数期間比較形式の貸借対照表や損益計算書も有用ではないでしょうか。

《相手によっては報告する内容》

@科目明細書

「総論的な」貸借対照表や損益計算書を補足するために必要です。

・売掛金や買掛金の明細は取引先の状況確認、預金明細や借入金明細は銀行取引の状況を捉えるために有用です。

・突発的かつ特殊な勘定科目、例えば土地や有価証券の売却損益、長期未回収売掛金、取引先との資金融通的取引(代金の前受けや前渡しなど)は、詳細な説明が必要です。

・借入金の明細は、利率、返済条件、担保を明記することが望まれます。

A税務申告書と納税証明書

一般に、利益が出ていれば法人税を納税しなければなりません。損益計算書の信憑性を確保するための一手段として、税務申告書と納税証明書の提示も必要です。

B資金繰り表

時として、損益と資金繰りに大きな乖離が生じることがあります。資金繰り表は会計の知識がなくとも作成できます。また、作成していないはずはありません。日常使用している実質的なものでも良いですから保管しておいてください。

C総勘定元帳などの帳簿と領収証類

決算書は突如として完成するのではなく、日々の取引の集大成として完成されます。その最小構成項目の記録や証拠である、総勘定元帳などの帳簿と領収証類を保管しておくのは当然です。

D株主名簿

中小零細企業においては、以外に軽視されています。場合によっては、現在株主がほとんど把握されていないことがあります。そのままでは、配当はもちろんのこと、株式の譲渡、株主の相続などの時に大変混乱しますので、決算ごとに必ず作成し株主の確認を得ておく必要があります。

E事業内容の経過を文書化したもの

いわゆる決算書(貸借対照表、損益計算書、科目明細書)は数値の羅列にすぎません。そこで、決算数値算出にいたった経過を、文書化しておく必要があります。その様式は問いませんが、上場企業の決算短信(決算発表資料)が参考になるのではないかと思います。上場企業の決算短信は、各企業のホームページから入手できます。

F事業展望

株主や取引先の関心事は「将来」です。将来展望を明確にしなければ支持は得られません。ただし、将来は現在の延長線上にあります、正確な現状把握を起点とした将来展望でなければなりません。

この将来展望についても、上場企業の決算短信(決算発表資料)が参考になるのではないかと思います。

 

現状、中小零細企業の場合、一度会社を倒産させれば、その経営者は全個人財産を失うばかりか、信用回復の道はほとんどありません。そんなことから、上場企業以上に露骨で強引な粉飾決算をする場合もあります。しかし、それでは言い訳にはなりません。

中小零細企業に限らず決算報告で大切なのは、経営者が外部者とともに「外部者の視点」で、包み隠さず自社を見つめることです。そして、自社の問題点が把握できたならば、その改善策を見出し、実行に向かって猛然と突き進む必要があるのではないでしょうか。

必ず、「良き理解者」が出現することでしょう。

 

 

 

 

追加説明

中小零細企業の貸借対照表

 

中小零細企業の場合、金融商品を保有していることはほとんどなく、設備といっても大変脆弱です。さらに、隠れ負債の原因となる退職金そのものがないのが実情です。そんかことから、昨今のバランスシートブームには無縁かもしれません。

しかし、貸借対照表は過去を引きずります。過去の経営の不始末や記帳・会計処理誤りを明瞭に残します。中小零細企業経営者の方によっては、貸借対照表の特定の勘定科目について、金融機関や税務署から厳しい指摘を受け、結果的に金銭的打撃(融資が受けられなかった。追徴課税された。)を受けら方がおられるかと思います。

そこで、過去のご経験はともかくとして、一度自社の貸借対照表をご覧ください。そして、次のような現象が起こっている場合は「感情」を抜きにして、経理担当者や顧問の公認会計士や税理士と「その現象を引き起こすに至った経緯」を、「記帳と会計処理」、「経営実態」の両面から解明し、早急に改善案を考えてください。そうでないと、今後思いもよらぬことで足元をすくわれてしまいます。

 

≪資産勘定≫

@仮払金や貸付金が異常に多い

中小零細企業では、役員一族の個人出費が行われやすい傾向にあります。これを費用処理すると、税務上は役員賞与や報酬として扱われます。経営者が何気なく行った個人出費を、また、「黒字で頼む」の経営者の一言に、経理担当者が苦し紛れにこの勘定に諸費用を計上していることがあります。前者の場合は経営者の個人財産からの返金、後者の場合は遅ればせながら費用処理をするしかありません。

さらに、グループ企業がある場合、クループ企業への資金融通の結果がこの勘定に残ることがあります。税務署は、交際費や寄付金として追徴課税を要求し、金融機関は資金流出の蛇口(返済財源の食いつぶし)と考えて警戒します。

いずれにせよ、仮払金や貸付金は大変「玉虫色」の勘定科目です。外部者は、様々な憶測をします。最悪の場合は、「暴力団に揺すられている」、「社長が商品相場で失敗した」など、数え上げればきりがありません。そして、なによりも仮払金や貸付金が発生しない経営をしなければなりません。

A売掛金が売上高と比較して異常

「黒字信奉」から、売上を先行して計上した、あるいは返品処理を未処理にしている場合などは、売掛金が異常に多くなります。全く入金の見込みがないのならば、早急に処理しなければなりません。

なお、反対の場合は、売掛金が少なくなります。

B在庫が異常

在庫の検数や評価は利益に多大な影響を与えます。業績下降期には、つい不良在庫の処理を先送りしてしまいます。中小零細企業では、在庫記録が不備なことがほとんどです。年度末には、正確な実地棚卸を心がけたいものです。

C有形固定資産が異常に多い

AやBと同じく「黒字信奉」から、除却の会計処理や、場合によっては償却を見送ることがあります。有形固定資産の会計処理が、利益に与えるメカニズムは売掛金や在庫と同じです。

D保険積立金が異常に多い

通常、保険契約は長期に及び、その会計処理を一度誤るとミスが累積していきます。費用処理できる部分を資産計上していることや、満期時や契約見直し時に保険積立金勘定の取り崩しを忘れていることがよくあります。

 

≪負債勘定≫

@預かり金が異常に多い

預かり金の主な内容は、従業員の給与から天引きした「所得税や住民税」と「社会保険料」です。資金繰りの悪化でこれらを滞納している場合は、その事実が如実にこの勘定科目に現れます。

A役員やグループ会社からの借入金が異常に多い

これも、資産勘定の仮払金や貸付金同様、大変「玉虫色」の勘定科目です。どこからその資金を調達したかが問題です。隠し財源(所得)があるならば税務署は黙ってはいません。金融機関は、役員個人やグループ会社は名目にすぎず、「真の債権者」は誰であるのかを勘ぐります。

 

 

築山公認会計士事務所

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