相続税の実際
1 税務署の着眼点
■税務署は相続があったことを知っているのだろうか?税務署は相続財産をどの程度まで把握しているのだろうか?税務署は何時どのようにして調べるのだろうか?
「税務署はどの程度まで相続財産を把握しているのですか(税務署が把握している分だけ申告すればよいのでしょ)?」
(実際は納税額があっても)税金を払わないですむ方法があると聞きましたが?
このような相談を受けることがあります。
相続税には数多く課税上の特例(納税額が少なくなる方法)があります。特例には納税者が一定の手続をしなければ適用できないものもあり、それを知っているか知らないかで納税額に大幅な違いが生じることもあります。しかし、それが高じて「方法次第ではいくらでも税金が減らせる」と考えてしまう人がいます。
「税務署は相続財産のすべてを把握している(調査によって把握する権限がある)」と考えなければなりません。
情報公開の必要性が叫ばれていますが、税務署は相続財産を把握する方法を公開していません。なぜならば、それを公開することは警察が犯人に捜査方法を教えるのと同じだからです。なお、「税務署OBの税理士に頼めば」が、もはや通用しないのはいうまでもありません。
ともかく、相続の際は税務署と向き合うしかありません。
《税務署からのお尋ね》
相続が発生すると、その数ヵ月後に被相続人の親族などに「相続についてのお尋ね」と題した書面が届きます。税務署が人の死亡や死亡した人の親族関係を把握することは容易です。また、被相続人の生前の職業や所有不動産から、おおよその遺産は把握できます。
「お尋ねに回答すれば、相続税をむしり取られる」と考えて、回答しないことがあります。しかし、回答内容だけで税額が確定されることはありません。なお、回答内容と税務署が把握している情報からして明らかに課税されない場合は、回答だけで済むこともあります。
「税務署を煙に巻いてやれ」などの考えは「あさはか」としかいいようがありません。
2 相続関連業者
■金融機関や不動産業者が相談に乗ってくれているようだが、どの程度まで解決してくれるのだろうか?
相続関連手続は大変専門的な要素を含んでおり、「税」のみで解決できないことも数多くあります。そんなことから、税理士、弁護士、金融機関、不動産業者などが提携して「相続関連サービス」を提供していることがあります。
しかし、注意しなければならないことがあります。それは、「彼らの真意」です。
「円満相続」や「後継者へのバトンタッチ」は「建前」で、「土地売買」や「優良貸出先の発掘」が本来の目的であることもあるからです。
「更地にしておけば相続税が大変です。賃貸マンションを建てましょう。融資の返済は家賃収入でまかなえますよ!」
相続税の典型的節税手法です。確かに節税できるかもしれません。しかし、入居者がなく売却もできないという状況になれば、残るのは借金だけです。1980年代のバブル期に大流行し、後のバルブ崩壊により大怪我をした人が続出しました。しかし、「喉元過ぎれば・・・」で、今でも少し景気が上向くといつも流行します。
3 税務調査
■税務調査はどのようにして行われるのだろうか?自宅の中を調べるのだろうか?そんな方法は許されるのであろうか?
納税者側で相続財産の内容を正確に把握していない場合はかなり大変です。
「亡くなった○○がしたことなので」は、言い訳になりません。なぜならば、相続税は財産をもらった人に申告納税義務があるからです(辛いかもしれませんが)。なお、相続税逃れの生前贈与や相続財産隠しをしていることが推測される場合は、相当厳格な調査が行われることを覚悟しなければなりません。
《相続税調査の方法》
「税務署が独自に情報収集する」、「納税者の自宅などに赴く」の二通りの方法があります。
前者は、被相続人の取引銀行、勤務先、所属団体などから、被相続人の生前の所得や遺産の状況を把握するためのあらゆる情報を入手します。後者の方法が法的にどの程度まで許されるかは大変難しい問題です。しかし、前者の方法から明らかに申告漏れがあると判明した納税者の自宅に赴き、玄関や応接間で提出された申告書についての事情を聴取する程度で終わることはありえません。それなりに、自宅内を調べられるのが通常です。
4 誰に相談すればよいか
■相続のときにはだれに相談するのが「ベスト」か?税務署に相談すると「墓穴を掘る」ことになるのではないだろうか?「相続のことは税理士」で間違いないのだろうか?
難しいことだと思います。相続には「お家の事情」や「相続人間の利害」が絡み、多くの人があまり表面化させたくないからです。しかし、何もしないわけにはいきません。そこで、次の手順によるのがよいと思います。
(1)相続関連の書物を読む
書店の「法律」「税金」のコーナーに多数の書物が並んでいます。極めて平易に解説してある書物もありますので、それを購入してみることです。また、国税庁が作成している冊子も大変平易に解説されています。(国税庁のホームページでも相続税についての説明をしています。)
(2)国税局の電話相談を利用する
匿名の電話番号非通知でも質問に答えてくれます。当然無料です。身構えずに利用してみることです。
まさか電話番号を逆探知していることはないと思います。なぜならば、電話相談は納税者へのサービスであり、脱税の発見を目的としていないからです。(脱税を発見する部署はほかにあるようです。)
(3)税務署か税理士に相談する
(1)(2)から明らかに申告しなければならない場合は覚悟を決めるしかありません。しかし、それなりの予備知識があれば税務署や税理士と有意義な会話ができることと思います。丸め込まれて(?)無駄な税金を納税することもないでしょう。
(4)弁護士に相談する→税理士に「相続のすべて」を任すことは大変危険です!
相続には税以外の法的問題がともないます。特に次のような場合には、税務署や税理士のみでは解決できないこともありますので、弁護士に相談なさることをおすすめします。
●相続人が確定しない
●遺産の名義が不明瞭(権利関係が複雑)
●遺産分割の難航(各相続人の不仲)
●負の遺産が大きすぎる(相続人に多額の借金がある)
弁護士は税理士となる資格を有しています。相続事案を多数扱っている弁護士ならば、同時に相続税の申告も引き受けてくれる場合がありますので、弁護士と税理士を別個に依頼するよりも効率的です。(すべての弁護士が税理士業務を行っているわけではありません。)
税理士は税務の専門家であって、法律の専門家ではありません。
納税者は税理士にすべての解決を期待し(税理士報酬とは別に弁護士報酬を払いたくない?)、税理士は納税者の期待のすべてに応えようとする(報酬が欲しい?見栄を張る?)傾向があります。しかし、これが取り返しのつかないトラブルに発展していることが数多くあります。
税理士試験には、「相続税法」という相続税についての税務処理能力を試す試験科目はあります。ただし、数ある選択科目の一つにすぎず、すべての税理士がこの科目に合格しているわけではありません。税理士試験には、相続そのものを定めた「民法」さらにはわが国の最高法規である「憲法」についての試験科目はありません。(注)
税理士に「相続のすべて」を任すことは、大変危険であることを十分認識しておく必要があります。
なお、弁護士となるための司法試験の試験科目には「相続税法」はありません。しかし、周知のように司法試験はわが国で最難関の国家試験であり、これに合格するような人ならば「相続税法」の知識を試験によらず習得することは容易であると考えられます。相続税は相続問題の一つにすぎず、本来は弁護士業務なのかもしれません。
(注)税理士資格が付与されるための要件は多種多様です。税理士試験(国家試験)に合格するのみならず、税務署での一定期間の勤務経験、弁護士あるいは公認会計士資格を保有している(弁護士と公認会計士は申請により税理士となれます)などがあります。そんなことから、その税理士の経歴や業務方針によって税目別の得手不得手があるのが実情です。
《民間の無料相談所の活用》
一般からすれば税理士、弁護士は敷居が高く、いきなり相談しづらいと思います。その際は、税理士会や弁護士会が主催する無料(あるいは低報酬)の相談所を利用してみることです。最寄りの税理士会や弁護士会に問い合わせてみれば日時や場所を教えてくれます。
《不動産会社や金融機関に相談する》
基本的には本業の付加サービスあるいは販売促進の一環として相続関連の相談を行っていますが、昨今では本格的なサービスを提供していることもあります。相談担当者は弁護士や税理士資格を保有していないことが通常ですが、一流有名大学などで経済学、経営学、法律学などを本格的に学んだ精鋭も多く、その総合的能力は弁護士あるいは税理士以上のこともあります。
《まったくの無知》
平易な書物でもほとんど理解できないこともあるでしょう。その際は、いきなり税務署や税理士に「いくら払えばよいのですか」、「とにかく税金を払いたくない」と相談しても相手にされません。まずは、身近な人で「知識」「常識」「見識」「良識」のある人に相談してみることです。
そして、決心がついたら税務署から送付されてきた「お尋ね」をもって、税務署に行ってみることです。受付で「このようなものが送られてきましたが、書き方がわかりません」と、告げることです。相談窓口まで案内してくれます。相談係の署員が適法な指示をしてくれるでしょうからそれに従うことです。
《政治家、大物実業家、著名人などに調査の解決を依頼したい》
税務調査で税務署の指摘事項に対して意見を述べられるのは、納税者本人、依頼を受けた税理士など直接的な関係者に限られます。誰であれ、自身とは無関係な税務調査に口を差し挟むことは一切できません。
5 相続税の申告書の内容
■相続税の申告書は素人でも書けるのだろうか?税務署に相談したいが何を用意すればいいのだろうか?
(1)第1表(課税価格、相続税額)
(2)第2表(相続税の総額)
(3)第3表(農業投資価格による相続税額)
(4)第4表(贈与税額控除)
(5)第5表(配偶者の税額軽減)
(6)第6表(未成年者控除、障害者控除)
(7)第7表(相次相続控除)
(8)第8表(外国税額控除、納税猶予税額)
(9)第9表(生命保険金など)
(10)第10表(退職手当金など)
(11)第11表(課税財産)とその付表(相続時精算課税適用財産、小規模宅地等など)
(12)第12表(納税猶予を受ける特例農地等)
(13)第13表(債務・葬式費用)
(14)第14表(相続開始以前3年以内の暦年課税分の贈与財産等)
(15)第15表(相続財産の種類別価額表)
複式簿記という極めて特殊な技術による記帳を前提とする、法人税(会社に課税される税金)や所得税の事業所得(個人事業者に課税される税金)と異なり、相続税は比較的素人でも理解が容易です。上記すべての申告書用紙を使用しなければならないことはまれで、通常は(1)(2)(5)(9)(11)(13)(15)で済むことがほとんどです。
そこで、とりあえずは以下の申告書用紙の一部分を埋めてください。
(2)第2表(相続税の総額)
すべての相続人の氏名、住所、生年月日と被相続人との続柄を記入してください。
(9)第9表(生命保険など)
保険会社作成の報告書のとおり記入してください。
(11)第11表(課税財産)とその付表(相続時精算課税適用財産、小規模宅地等など)
思いつくまま、個々の財産とそのおおよその金額、相続により取得した人(遺産分割がまだの場合には空白)を記入してください。
(13)第13表(債務・葬式費用)
かなり自信を持って書けると思います。ただし、租税債務や一部の葬式費用については難しい計算や判断が伴います。
以上の記入がすめば、堂々と税務署に相談にいくことです。(下手に税務署に歩み寄ると「税金をむしり取られる」は、やぼな考えです。税務署とのやり取りは、民間人同士の交渉のように「駆け引き」の上手い下手ではなく、法律に基づき行われるからです。)
相続税の申告書を、一度に完璧に書ける人などはほとんどいません。何度か通う必要があり苦痛をともなうでしょうが、税務署は丁重に対応してくれ着実に申告終了に向かいます。
わざわざ、税理士に高額な報酬(特に生前の相続税対策に対する報酬)を支払う必要などありません。浮いたお金を、「故人の慰霊」や「皆様方の今後の人生」のために有意義に活用してください。
◆主な遺産が「一般的な住宅、保険金、預貯金」、「相続税法の特例は度外視して客観的・常識的に計算した遺産総額が1億円以下」、「相続人が配偶者と子2人以上」、以上を前提とすることをお断りしておきます。
◆「税金を払ってやるのだから申告書を書け」、「ここで教えてもらったとおりに申告書を書けば、調査はないのですね」は、禁句です(税務署はこのような発言に対しては毅然とした態度をとります)。相続税は申告納税制であり、申告内容の適法性は詳細な調査(税務署内部や納税者の自宅などにおける)が終了しない限り判定できないからです。しかし、税務署は質問の範囲内で適法な回答をしてくれます。
このページとともにご覧ください。
初めて税理士に相談するとき、どこまで遺産の内容を知らせるべきか?
このことで悩む人が非常に多いです。初めて税理士に相談するときは具体的な話をするのではなく、相続税の一般的な説明を受けるだけでよいと思います。「相続税の計算方法」「相続税の計算に必要な資料」「申告と納税の時期」など、今から踏むべき手続をわかりやすく説明してもらうことです。そうすれば、相続税に対する漠然とした恐怖心が払拭されるはずです。また、おおよその相続税額が浮かんでくるかもしれません。税理士を一番困らせるのは、何の資料も持たず、具体的な説明も十分せずに、「相続税額はいくらになりますか?」という結論を急ぐ人です。税理士はかたくなに口を閉ざすことでしょう。ほとんどの税理士は最初1〜2時間程度の相談は無料で受けてくれます。5・6人の税理士に相談すれば、相続税の計算や手続のイメージが具体的になってくると思います。税理士が提出を求めている資料の意味も理解できるようになってきます。
生前贈与(遺産の申告漏れ)の恐怖!
相続開始前3年以内に、相続人が被相続人から贈与を受けている場合には、その贈与を受けた財産を遺産に含めて相続税を計算しなければなりません。「亡くなる前にずいぶんと財産の名義変更をしているので遺産は相当減りました。」といって得意気に話す人がこのことを聞いて血の気が引いていく、あるいは激怒することがあります。生前贈与の処理は、相続税の申告に当たっての「最重要ポイント!」であるといっても過言ではありません。贈与であるものを贈与に含めなかった場合には、遺産を過少に申告したことになります。遺産の申告漏れは相続税の過少申告に他なりませんので、税務署は黙ってはいません。贈与について無知で無防備な人が非常に多いです。税理士に相続税の申告を依頼するにあたっては、贈与に関して公正かつ誠実な対応をしてくれるかを確認しておく必要があります(税理士は必ず生前贈与についての説明をします)。
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