築山公認会計士事務所(大阪市北区与力町1−5与力町パークビル7F)

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個人事業者の経理
(内容)2014年7月18日現在

1.個人事業は記帳が気楽

ある意味で正しいかもしれません。
なぜならば個人事業者の場合、貸借対照表の作成が義務付けられていないからです(白色申告の場合)。なお、迷信的に信じられていることですが、個人事業者の場合は税務署 と「交渉」し推計値で税金が決まるということです。はるか昔そんな時代もあったそうですが、現在はそんな方法では税務署から大目玉を食らいます。

《推計値による申告》
「よくある質問」の「税務調査について」をご覧ください。

2.会社(法人)と個人事業者の違い

帳簿の作成自体は同様とお考えください。ただし、算出する利益(概ね所得)の捉え方が大きく異なります。

【会社の場合】
利益=売上−仕入−人件費と諸経費(人件費に役員給与=経営者取り分含む)
利益には「法人税」が、役員給与には「所得税(給与所得からの源泉徴収)」が課税されます。

【個人事業者の場合】
利益=売上−仕入−人件費と諸経費(人件費に経営者取り分含まず)
利益=事業所得に「所得税(確定申告が必要)」が課税されます。

個人事業者が経営者取り分(事業主)を引き出した場合、「事業主貸勘定」という「資産勘定」で処理し費用(必要経費)に含めません。

以上からして、個人事業者で赤字(事業所得がマイナス)ということは相当業績が悪いということで、事業主の取り分がゼロあるいはマイナス(蓄えの取り崩し)ということです。
よく、「よそも赤字(おそらく法人と考えられます)で申告しているのだから、うちも赤字で申告する」とおっしゃる方がいます。そのような方のほとんどが、事業主の取り分を差し引いて 事業所得を把握されています。よくある間違いです。

3.個人事業者特有の勘定科目

以下は個人事業者特有の勘定科目です。通常の勘定科目については「勘定科目一覧」をご覧ください。

(1)個人事業者が経営者取り分を引き出した場合、「事業主貸勘定」という「資産勘定」で処理し費用に含めません。この勘定科目は、事業主が事業とは無関係な費用を引き出した 場合も使用します。
(2)事業主が資金提供した場合は、「事業主借勘定」という「負債勘定」で処理します。
(3)会社のように資本金の変動を登記しなくとも資本金(元入金)が変動します。翌年に「当期利益」は元入金の増額、「事業主貸勘定」は元入金の減額となります。事業主借勘定 を元入金とすることもあります。
(4)親族従業員への給与は「専従者給与」として処理します。
(5)役員という考えがないため、「役員○○」という勘定科目がありません。事業主貸(借)勘定がこれに相当するとお考えください。
(6)受取利息勘定がない。個人(事業者)の場合、預金利息は「利子所得」となります。記帳の目的は事業所得の算出ですので、預金利息は「事業主借勘定」で処理します。
(7)個人事業者の場合、名義は一つ(個人名義)しかありません。私生活との線引きが必要です。

なお、長期間個人で事業を営んだ後に会社とした場合、役員給与という考えになじめないことがあります。「俺の会社から俺の取り分を引き出すのにどうして税金がかかるん だ!!」ということになってしまいます。
やはり、会社を検討している場合は、早急に会社(法人)にすることが賢明と思います。

4.事業用の預金口座

是非とも作ってください。売上代金の入金、仕入代金や諸経費の支払いはその口座から行うとともに、事業主取り分(生活費)の引き出しを明瞭な形で残してください。
事業用口座とプライベート口座の区別がない場合は、記帳が煩雑なだけでなく、税務調査の際に調査対象が拡大されてしまいます。
なお、個人事業主の預金名義は「山田商店山田一郎」のように、個人名の前に屋号をつけるのが通常です。

5.生命・地震保険料

おなじみの所得控除です。しかし、記帳(金額の把握)には注意が必要です。
所得控除の対象となる保険料は、帳簿に記帳しないことが望まれます。そのためには、事業用の預金通帳からの口座振替をしないことです。
所得控除と必要経費は違います。所得控除は事業所得とは無関係ですので(給与所得者であるサラリーマンにも認められます)、事業所得を算出するための帳簿には記載しない ような方法をとらなければなりません(プライベートの預金口座からの振替が望まれます)。
もし、事業用の預金口座からの振替になっている場合は、必要経費とはしないで「事業主貸勘定」としなければなりません。ただし、保険料が事業用建物や自動車など事業に関係 して発生する場合は、必要経費として損害保険料勘定で処理してもかまいません。

事業とは関係のない生命・地震保険料を事業所得の必要経費として差し引き、さらに所得控除するというミスもめずらしくはありません(収入から二重に差し引いてしまう)。

6.国民健康保険料・国民年金保険料

5と同様です。

7.医療費

これも5と同様です。

8.青色申告の特典

青色申告には様々な特典があります。主なものとして、青色申告特別控除(記帳状況により10、65万円)、専従者給与(適正な金額が全額必要経費)、純損失の繰越控除(白色 申告の場合は繰越せる損失の範囲が狭い)があります。
白色申告をするのは、サラリーマンの副業や主婦の内職仕事など極めて小規模な事業で、青色申告の特典が無意味な場合に限ります。

「青色申告にすると記帳が厳しく税務署の思惑どおりに所得を把握される」とか「白色申告は記帳が不要」といった誤解がありますが、そのようなことではとんでもない目にあいま す。

(注)余談ですが、昔は(平成12年分の申告まで)青色申告は「青い色の申告書用紙」を用いていましたが、現在は色による申告書用紙の区別はありません。

9.自宅兼事業所

私的費用との区分が困難となるケースが多発します。その典型は次のとおりです。
(1)電話代
(2)水道光熱費
(3)自宅建物の取得費その他(住宅ローン金利、修繕費、固定資産税、火災保険など)
(4)車両費用
いずれも事業に必要な割合を合理的に算出し、それ相当の金額を必要経費とすることができます。
記帳方法としては、支出時に費用科目と事業主貸勘定と区分けする方法(事業用の資金から支出している場合)と、決算時に事業部分を一括して必要経費とする方法(私的資金か ら支出している場合)があります。

10.個人事業者の記帳の実態

上記1のとおり、個人事業者は記帳が気楽と信じられていることは否定できません。しかし、その原因は個人事業者は小規模であるため会計事務所が関与していないことが多く(会 計事務所報酬が負担できない)、「水入らず」の経理をしていることによります。
自己流の記帳をしている個人事業者が多く、場合によっては上記5から7(最悪の場合2)の間違いを長期間していることがあります。

税務調査は、毎年、全事業者に対して行われることはありませんので、ミスが長期間指摘されずまとめて追徴課税されることもあります(さかのぼって税務調査が行われる最長期 間は7年です)。
毎月のミスが(所得を過少に計算している)が5万円あるとすれば、年間で60万円所得を過少に計算していることになります。このミスが7年間続けば420万円です。所得税の税 率が10%として追徴税額は42万円です。これに過少申告加算税や延滞税、さらには住民税や事業税も追徴されますので恐ろしい金額になります。

やはり、「個人事業者は気楽」という先入観は持ってはいけません。

《個人事業者の典型的記帳方法》
現金出納帳や預金出納帳など一切存在せず、「青色申告決算書」や「収支内訳書」(ともに申告書の添付書類)の損益勘定科目の合計金額を領収書などから集計しています(貸借 対照表は作成していません)。そして、その集計「メモ」が帳簿ということです(市販の帳簿や表計算ソフトなどで作成している場合もあります)。
確かにこの方法でも損益(所得)は把握できますが、重複や漏れが発見できません。やはり、現金管理(金銭出納帳)に基づいて損益を把握することが必要です。
なお、将来的に「法人成り」(個人事業から会社に成ること)をご希望の場合はこの方法は絶対にやめてください。法人成り後にカルチャーショックを受け、最悪の場合は「個人成り」 する羽目となります。

11.ミスの累積を防止する(無料税務相談所の活用)

確定申告の時期に税理士の無料税務相談が行われています。自分で下書きした申告書とその基となった諸資料を持参し、チェックしてもらうことです。
細かなミスはともかくとして、基本的で多額なミスは指摘してくれます(指摘漏れとなることもあります)。大変親切に教えてくれますので是非ともご活用ください。

なお、無料相談所では記帳や申告書作成はしてくれません。そんなことから、資料不十分な場合は厳しい対応をされることもあるかもしれません。その際は、指摘された事項を改善 してから再度無料相談所にいくことです。

《無料記帳指導》
地域によっては、商工会議所などが「無料記帳指導」を行っています。指導してくれるのは税理士で、1〜3年間定期的に(3ヶ月に一度程度)訪問してくれます。体系的な指導を受 けられますので是非とも活用してください。
無料税務相談や無料記帳指導は税理士の社会的使命です。これは弁護士の刑事裁判における国選弁護人と同様の趣旨です(ただし、税理士の無料指導は国選弁護人のような 法定されたものではありません)。
税理士業務はたとえ無償であっても無資格者は行えません(税理士の無償独占性)。ある意味で、無料税務相談や無料記帳指導は税理士の権益を守るための税理士のための活 動なのです。
ただし、「無料」であることから税理士も本心としては意欲的でないのが実情です(税理士会からわずかな手当がもらえます)。税理士によっては「これ(無料相談・無料記帳指導)を 使う奴は税理士の敵(税理士に報酬を渡すつもりがない)!」と思っていることもあり、相当横柄な態度を取ることもあります。そんなことから、納税者と税理士が喧嘩することや納税 者が泣いて帰るもともあります。つまり、変な税理士に当たったら大変だということです。
また、税理士の無料指導を「税務署が後押しして納税者の実情を探っている!」と敬遠する納税者が多いのも事実です。

12.個人事業者のメリット

事業を始めるにあたって登記も不要ですし、場合によっては源泉所得税の徴収・納付や社会保険への加入も必要ありません。その意味では大変気楽であるといえます。
はっきりいいまして、会計事務所は会社形態を勧めます(強引に勧める場合もあります)。報酬が高くなるからです。
「個人事業者は気楽」という先入観から個人事業者を選択することは感心しませんが、個人事業者の特性と自身への適合性を理解した上での選択でしたら合理的といえるのではな いでしょうか。

13.必要経費がほとんどない場合

各種講師、ライター、デザイナー、コンサルタント、モデルなど、特定の業者に従属しているにもかかわらず、給与所得ではなく事業所得として申告しなければならない場合がありま す。
以上のような業種・業態の場合、あまり必要経費は発生しません。従いまして、収入のほとんどが課税の対象となってしまいます(給与所得ならば給与所得控除があります)。
経費の水増しは許されません。相手と交渉し雇用契約に移行することをお勧めします。

14.源泉徴収される場合

業種によっては支払いを受けるときに一定割合の所得税を源泉徴収されることがあります(上記13の業種など)。大変つらいかもしれませんが、これは拒むことはできません。源泉 徴収された税額は、確定申告で算出された年税額から差し引くことができますし、年税額よりも源泉徴収税額が多い場合はその差額が還付されます。
姑息な手段(源泉逃れや徴収しないことの依頼)は絶対に避けてください。
なお、ある程度の規模であれば源泉徴収されないで済む会社形態にすることも一法です。

15.共同経営

一人では何かと大変なので、数人が共同して事務所を借り、従業員を雇うことがあります。確かに経済的ですが、税務上は複雑な処理が要求されます(トラブルが多発していま す)。

(1)特定の者が事業主となる場合
数人の間に支配従属関係があり、特定の者が対外的にグループを代表している場合は、そのうちの一人が事業主(事業所得)であり、その他の者は従業員(給与所得)となりま す。
つまり、収益は一人の事業主に帰属し他の者はその事業主から給料をもらうことになります。諸経費が事業主の負担になるのは当然です。
(2)各人が事業主となる場合
数人の間に支配従属関係もなく、それぞれが自身の名前で対外的活動をしている場合は、各人とも事業所得となります。その場合、収益の配分と費用の負担関係が問題となりま す。

16.専従者給与(生計を同じくする親族への給与)

青色申告の場合は上限がありません。しかし、「適正な金額」である必要があります。「適正な金額」とは、まったくの他人にでも支払う労働の対価という意味です。「適正な金額」を 税務署に証明するには、労働したことの客観的記録(タイムカードなど)が必要です。

「よそも渡している」では理由になりません。

≪会社を設立しましょう≫

おかげさまで、このページは多数の方からご覧いただいております。
昨今、個人事業者(いわゆるSOHO、在宅ビジネス)が激増しているようです。個人事業者は法人事業者(会社形態での事業)と比べて大変ローコストであり、収益性が望めない不 況下では大変効率的な事業形態であるといえます。

HPをご覧いただきましたらお分かりいただきますように、当事務所では会社設立を無条件に推奨しておりません(「起業したい(会社の設立)」「会社から個人事業者に変更した い」などをご参照ください)。それは、「見栄」、「好奇心」などから法人事業者の特性を十分理解しないまま会社を設立し、会社設立後に生じる法人事業者独自の些細な壁を乗り越 えることができずに、あえなく個人成り(会社から個人事業者に変更すること)する法人事業者が後を絶たないからです。

個人事業者はローコストかもしれませんが、ビジネスにおいて次のような致命的欠点があることは否定できません。

(1)得意先から軽く見られる(いかにも事業意欲がなさそう?)
ローコスト経営による低価格は得意先にとってはありがたいことです。しかし、多くの得意先は「どうせ、あそこはたいした技術やノウハウを持っていない」、「あの人は、最低の生活さ えできればいいのだから」と考え、何かあった場合に取引をあっさりと打ち切られてしまうことがあります。
(2)信用状態が把握しにくい
法人事業者の場合は、登記簿謄本(登記事項証明書)の閲覧により事業の概略を把握できます。しかし、個人事業者の場合には概略さえ把握することができません。結局、個人事 業者は強力な伝手でもない限り新規取引ができないことになりがちです。
(3)経理がずさんになりやすい
法人事業者ならばあらゆる事業上の取引や契約を会社名義にしておくことにより、事業の資金と代表者個人の資金を明確に区別しておくことができます。しかし、個人事業者の場 合はこの区別が大変です。このことが、融資の難航、税務調査の長期化と多額の追徴課税につながることがあります。
(4)活動が制限される
「法人事業者」が条件となっている、取引、契約、同業者団体などが少なからず存在します。そんなことから、個人事業者では競争相手に遅れをとってしまうことがあります。

当事務所ではお客様と膝を交えて、経理業務とするそれに関連する諸業務をサポートすることにより、企業経営の安定と発展のお手伝いをすることが大切と考えています。
他の会計事務所にありがちな「経理業務は専門的です。素人には手に負えませんので一切お任せください」という態度をとる、つまり、お客様から経理業務を奪い取り、会計事務所 にとって都合のよいようにお客様を支配するようなことは断じていたしません。


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公認会計士 築山 哲(日本公認会計士協会 登録番号10160番)


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