手持ち資金と所得金額の関係
所得が同じでも手持ち資金が大きく異なる場合がある
所得があるのにお金がない場合もある(反対の場合もある)
以下は、いずれも300万円の元手で事業を始めた初年度の所得金額の計算で、事業所得は500万円と等しくなるけれども、年度末の財産(預金)が異なるケースです。
所得とは「年間の儲け」であり、「その儲けが入金されているか」「儲けを生むための必要経費を支払済みであるか」「儲けをどのように使ったか=私生活の水準」とは無関係です。以下はほんの一例であり、もっと複雑な(戸惑う)ケースもあります。「泥沼」にはまってしまった(計算結果に納得できない)場合には、できるだけ早く税務署や税理士に相談されることをおすすめいたします。
【例1】収入の未回収、必要経費の未払がない
●元手300万円の預金(全財産)で事業を開始
●収入1000万円(年末までに全額回収)
●必要経費500万円(年末までに全額支払い済みで、固定資産や在庫=費用の繰延べはなし)
●事業主の生活費360万円(全額私生活において消費している=預金をしていない)
事業所得は収入1000万円−必要経費500万円=500万円となります。なお、年度末の預金(余裕資金は手元に置かないとして、硬貨や紙幣は持たないとして)は、300万円(当初の元手)+事業所得500万円−事業主の生活費360万円=440万円となります。
【例2】収入の未回収はあるが、必要経費の未払はない
●元手300万円の預金(全財産)で事業を開始
●収入1000万円(年末に200万円の未回収あり)
●必要経費500万円(年末までに全額支払い済みで、固定資産や在庫=費用の繰延べはなし)
●事業主の生活費360万円(全額私生活において消費している=預金をしていない)
事業所得は収入1000万円(未回収部分も収入となります)−必要経費500万円=500万円となります。なお、年度末の預金(余裕資金は手元に置かないとして、硬貨や紙幣は持たないとして)は、300万円(当初の元手)+事業所得500万円−年度末未回収200万円−事業主の生活費360万円=240万円となります。
【例3】収入の未回収はないが、必要経費の未払がある
●元手300万円の預金(全財産)で事業を開始
●収入1000万円(年末までに全額回収)
●必要経費500万円(固定資産や在庫=費用の繰延べはなし。年度末に100万円の未払いあり)
●事業主の生活費360万円(全額私生活において消費している=預金をしていない)
事業所得は収入1000万円−必要経費500万円(未払の部分も必要経費になります)=500万円となります。なお、年度末の預金(余裕資金は手元に置かないとして、硬貨や紙幣は持たないとして)は、300万円(当初の元手)+事業所得500万円+必要経費の未払い部分100万円−事業主の生活費360万円=540万円となります。
【例4】生活費の一部を預金している
●元手300万円の預金(全財産)で事業を開始
●収入1000万円(年末までに全額回収)
●必要経費500万円(年末までに全額支払い済みで、固定資産や在庫=費用の繰延べはなし)
●事業主の生活費360万円(300万円消費し、60万円預金にした)
事業所得は収入1000万円−必要経費500万円=500万円となります。なお、年度末の預金(余裕資金は手元に置かないとして、硬貨や紙幣は持たないとして)は、300万円(当初の元手)+事業所得500万円−事業主の生活費360万円+私生活上の預金の増加60万円=500万円となります。
【例5】翌年の事業拡大に備えて借金をした
●元手300万円の預金(全財産)で事業を開始
●収入1000万円(年末までに全額回収)
●必要経費500万円(年末までに全額支払い済みで、固定資産や在庫=費用の繰延べはなし)
●事業主の生活費360万円(全額私生活において消費している=預金をしていない)
●年末に翌年の事業拡大のため300万円の借金をした(年末時点では事業に投下していない)
事業所得は収入1000万円−必要経費500万円=500万円となります。なお、年度末の預金(余裕資金は手元に置かないとして、硬貨や紙幣は持たないとして)は、300万円(当初の元手)+事業所得500万円−事業主の生活費360万円+借金300万円(お金は増えますが収入ではありません)=740万円となります。
【例6】事業は順調だが私生活で浪費をしている
●元手300万円の預金(全財産)で事業を開始
●収入1000万円(年末までに全額回収)
●必要経費500万円(年末までに全額支払い済みで、固定資産や在庫=費用の繰延べはなし)
●事業主の生活費360万円(全額私生活において消費している=預金をしていない)
●年末に競馬で140万円負けた(必要経費にはならない)
●年末に友人(事業とは無関係)と派手に飲み歩き100万円使った(必要経費にはならない)
●年末に友人(事業とは無関係)に200万円貸してやった(必要経費にはならない)
事業所得は収入1000万円−必要経費500万円=500万円となります。なお、年度末の預金(余裕資金は手元に置かないとして、硬貨や紙幣は持たないとして)は、300万円(当初の元手)+事業所得500万円−事業主の生活費360万円−競馬の損140万円−飲み代100万円−友人に貸した200万円=ゼロ!!(一文無し)となります。(競馬の損と飲み代がもっと多ければ、借金しないとやっていけません。友人に貸したお金が返ってこなければ大変です。しかし、その場合も事業所得は500万円です。)
【例7】収入が全く入金されていない(販売件数が少なく、販売から入金まで日数を要する業種で起こる現象)
●元手300万円の預金(全財産)で事業を開始
●収入1000万円(年末までに一切の回収なし)
●必要経費500万円(年末までに全額支払い済みで、固定資産や在庫=費用の繰延べはなし)
●事業主の生活費360万円(全額私生活において消費している=預金をしていない)
事業所得は収入1000万円(入金がなくても収入です)−必要経費500万円=500万円となります。なお、年度末の預金(余裕資金は手元に置かないとして、硬貨や紙幣は持たないとして)は、300万円(当初の元手)+事業所得500万円−未回収の収入1000万円−事業主の生活費360万円=マイナス560万円となります(借金しないとやっていけません)。業種によってはこのようなことも起こりますが、確定申告の時点で入金されていれば納税はできます。
【生活費に対する考え方】
●元手300万円の預金(全財産)で事業を開始
●収入1000万円(年末までに全額回収)
●必要経費500万円(年末までに全額支払い済みで、固定資産や在庫=費用の繰延べはなし)
●事業主の生活費500万円(全額私生活において消費している=預金をしていない)
事業所得は収入1000万円−必要経費500万円=500万円となります。なお、年度末の預金(余裕資金は手元に置かないとして)は、300万円(当初の元手)+事業所得500万円−事業主の生活費500万円=300万円となります。
このケースでは、事業所得と生活費が等しく(事業による儲けを全額生活に費やしている)、年度末の預金が事業開始から全く増えていません。
けれども、事業所得を500万円として計算することに疑問を持つ人もいると思います。しかし、「所得とは生活費や蓄財の源泉をどれだけ獲得したのか」と考えるのです。「稼ぎ(所得)で生活する」と考えるのです。「稼ぎの一部は国に巻き上げられ、残りで生活する」のです。
もっとも、上記では触れていませんが、事業所得からその事業者の家族構成などの個別状況を考慮するため、いわゆる所得控除(配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除など)を差し引くことができますので、事業所得にそのまま課税するのが酷な場合への配慮もされています。
【今年は苦しいが・・・(今年は楽だが・・・)】
ご理解いただけると思います。
「【例2】収入の未回収はあるが、必要経費の未払はない」では、翌年になって未回収となっている部分が回収されても、課税の対象としての事業所得にはなりません。
「【例3】収入の未回収はないが、必要経費の未払がある」では、翌年になって必要経費の未払部分を支払っても必要経費にはなりません。
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