平成28年分(2017年3月申告)
所得税確定申告情報(3/9)
≪事業所得≫
1 事業所得の概略
確定申告が必要な典型例です。また、申告納税制度の趣旨(納税者と税務署との信頼関係)がもっとも表れる所得でもあります。事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得です(不動産所得、山林所得、譲渡所得に該当するものは除く)。事業所得の金額は、一年間の「(1)総収入金額−(2)必要経費−(3)青色申告特別控除額(青色申告を申請している事業者に限る)」として計算します。
多くの事業で一年間の(1)総収入金額と(2)必要経費は膨大な件数になりそれを集計しなければなりません。また、何をもって(1)や(2)にするかの判断が容易でないこともあります。さらに、以上の計算プロセスを「帳簿」として記録しておく必要があります。
以上から、事業所得者の確定申告は一朝一夕に行えるものでないことをご理解いただけるかと思います。
事業所得者にとって確定申告とは、日常の記帳の結果を(1)総収入金額−(2)必要経費として計算し、日常の記帳に間違いはないか、確定申告ゆえに必要な処理は何かなどを検討することであります。大変酷ないい方かもしれませんが、確定申告の時期を目前にしてこのレベルに達していない場合には、相当苦戦すると考えなければなりません。このような状態の人の中には「無申告」、せいぜい「スケッチ申告」で急場をしのぐことしかできず、後日の税務調査で大変な目にあっている人が少なからず存在します。
一年間の総収入金額と必要経費は、一定の様式に従って集計し「損益計算書」として申告書に添付しなければなりません。税務署は損益計算書の様式として、青色申告の場合は「青色申告決算書」、白色申告の場合は「収支内訳書」という用紙を交付してくれます。
《消費税の処理》
計算が簡単な「税込処理」でよいと思います。つまり、たとえ店頭での販売や請求を消費税別で行っていても、さらに、すべての仕入や経費の領収書で消費税が区分されていても、税込処理をおすすめいたします。帳簿上は消費税を含めて収入、仕入、経費を把握すればよく、記帳の手間が省けるからです。「税抜処理」の場合には、収入については仮受消費税を、仕入や経費については仮払消費税を記録しておく必要があります。
《青色申告特別控除》
青色申告の適用事業者については、その記帳状況に応じて10万円あるいは65万円を事業所得から控除することができます。ただし、65万円の控除を受けるためには申告期限内(3月15日まで)に確定申告書を提出する必要があります。
《青色申告の申請・特典・義務》
青色申告の申請は、青色申告しようとする年の3月15日まで(青色申告で申告書を提出するのは翌年になります)に行う必要があります。平成28年に事業を開始した場合には平成28年の3月15日までに申請しなければなりません。ただし、1月16日以降に事業を開始した場合には業務開始から2か月以内に申請すれば青色申告することができます。青色申告には、上記の青色申告特別控除以外に、青色事業専従者給与の必要経費算入(白色申告よりも親族への給与を多く支払える)、純損失の繰越などの特典があります。しかし、この特典を得るためには一定の方法によって記帳をしておく必要があります。
【余談】以前は青色申告の場合には「青い色」の申告書を使用していましたが、現在は白色申告と同様の色の用紙を使用しています。現在、両者の区別は当初の申請と申告書の青色申告である旨の選択欄のマークで行っています。なお、当初の申請をせずに、申告書の選択欄のマークのみで青色申告を選択することはできません。
《白色申告は記帳しなくてよい?》
「青色申告は記帳が必要で、税務署の意のままに事業内容を把握されてしまう」「白色申告で適当にやるのが得」などの考えが根強くあります。白色申告といえども記帳義務はあります(税務調査の際は申告の計算プロセスを説明しなければなりません)。白色申告をするのは、青色申告のメリットを享受するほどの規模でない場合に限られていますので、事業を開始したならば青色申告の届けを提出することは「常識」とお考えください。
《申告書にコメントを添える》
「前年に比べてあまりにも所得が多いと(少ないと)・・・」
よく聞く納税者の声です。
確かに、税務署は過去数年の申告諸数値の比較をしています。しかし、事業者の個別事情、社会経済情勢、業界の特性などから「異常なし」と判断されるならば疑われません。そこで、おすすめしたいのが「申告書へコメントを添える」ということです。青色申告決算書(あるいは収支内訳書)に「本年中の特殊事情」という欄があるかと思います。そこに、著しい変動となった理由を簡潔に書くのです。
(例1)8月の1ヶ月間、店舗改装のため休業したので8月の売上がありません。
(例2)同業者からその営業を承継したために売上が激増しています。
このようなコメントを添えておけば、税務署は関連諸数値から「激変」の合理性を理解してくれます。コメントを添えたからといって、税務調査が省略されるというわけではありません。ただし、コメントがない場合は、「電話で説明を求められる」「調査の際に質問が長引く」など、痛くもない腹を探られることになります。
《事業の名義人》
事業における名義人と、実質的に事業を行いその成果を得ている者とが異なる場合があります。そのような場合には、実質的に事業を行っている者の所得として申告しなければなりません。例えば、事業を譲り受けた者が以前その事業を営んでいた者の名義のままで事業を営んでいる場合には、現在事業を営んでいる者の所得として申告しなければなりません。(特に親族間ではこのようなケースが目立ちます。)
現実には、名義人と実質的な事業者の明確な区別がつかないことがあります。名義人も一部事業を行っている、実質的な事業者から名義人に対価が支払われていることなどがあります。長期間、不明瞭な関係を継続していると思いもよらぬ税金上のトラブルが起こります。早めに税務署や税理士に相談なさることをおすすめいたします。
《共同事業》
複数の人が1ヶ所(同じビルの一室など)で事業を行っていることがあります。特に最近は経費削減のためこのような形態が目立ちます。
各人が別々に受注している場合には共同の経費(家賃や水道光熱費など)を各人に配分しなければなりません。
誰かが代表して受注している場合には処理が複雑です。代表して受注した人から他の人への外注とする(各人とも事業所得者)、代表して受注した人から他の人へ給与を支払う(代表した人のみが事業所得者でそれ以外は給与所得者)の二通りが考えられますが、前者の場合には処理が複雑となるのはいうまでもないことです。
《リストラの一環として事業所得者にさせられた・・・》
「俺は・・・、本当はサラリーマン(給与所得者)なんだ!!」
昨今、名目上は独立した事業者であっても、「以前勤務していた会社のみ」からの仕事をしている人が目立ちます(外見上は以前のまま)。元勤務先が、このような施策を採るのは、「人件費の変動費化」「諸経費の削減(特に社会・労働保険料)」「源泉所得税徴収義務の回避」がその主な理由だと思います。このような立場の人(独立して事業を営んでいるとはいえない人)が事業所得者となるかどうかは疑問ですが、元勤務先が「給与所得の源泉徴収票」を発行していない以上は事業所得として確定申告するしかありません(とりあえず形式に従うしかありません)。
このような人の共通の悩みは次のとおりです。
●必要経費がほとんどない
作業するのは元勤務先(そこの設備を利用できる)、交通費も相手負担であることが通常で、収入金額から一定金額の給与所得控除が認められるサラリーマンよりも所得税の負担が増えてしまいます。
●記帳が煩わしい
多くの人は、サラリーマン時代に経理を経験したことがありませんので大変なのは当然です。
●早く還付を受けたい
特定の職業によっては、毎回の受取り金額から源泉所得税が天引きされることがあります(デザイナーなど)。天引きされる率は10%ですので(1回の支払いが100万円を超える場合には100万円を超える部分については20%)、大変つらいです。しかし、これを取り返すには(還付を受けるには)、確定申告まで待たなければなりません。間違っても、「天引きしないでくれ」などと依頼してはいけません。
●消費税が心配・・・
人によっては年間の売上が1000万円を超えることもあります(経費は自前、自宅で仕事をするなどの場合)。売上が1001万円(税込み)とすれば、税務署に納付する消費税は約24万円となります(簡易課税、サービス業)。37万円といえば大卒の初任給です。やはり、一国一城の主になった以上は、サラリーマン社会への未練は捨てて、独立自尊の精神をもって稼がなければなりません。
2 収入の計算
(1)収入とは
事業所得における収入とは、いわゆる「売上」と呼ばれるもので、その年に「収入とすべき」金額を収入としなければなりません。収入とすべき金額とは、収入の対価として現金を受け取った分だけではなく、入金はまだでも収入に含めなければならない分もあります。要するに、「収入とすべき権利の確定」している金額を収入としなければならないということです。
「入金もまだなのに課税の対象にするとは、わが国の税制はなっていない」と憤慨なさるかもしれません。しかし、「信用取引が一般的であること」「経費についても支払いが済んでいなくても一定のものは収入から差し引けること」を考えると、少しはご納得いただけるのではないかと思います。抵抗はあるかもしれませんが、この考えは事業を行っていく以上は受け入れるしかありません。いつまでも、ヘソを曲げているようでは税務署との衝突が永久に続きます(経理担当者や税理士とも)。
「今年入金がないのに売上に含めた分は、来年入金があっても売上にはならない」のですから、あまりムキにならないのが賢明ではないでしょうか。
収入とすべき金額の計算は、業種や業態によって異なってきますが、典型例は次のとおりです。
●商品の販売
商品を引渡した日(一般には出荷した日)。つまり、その年度中に引渡した商品の代金合計が収入となります。(小売業の場合には、引渡し=入金となります。)
●建設工事の請負
目的物の全部を完成して引渡した日。つまり、その年度中に完成し引渡した目的物の代金合計が収入となります。
●サービスの提供
その提供の完了した日。つまり、その年度中に完了したサービスの代金相当額が収入金額となります。
(2)値引き
「請求書を発行しても(収入とすべきであっても)すべてが入金されることはない。請求金額に課税されるなんてとんでもない」
ごもっともです。しかし、ご安心ください。請求後、値引きがあった場合には、その金額を収入から差し引くことができます。つまり、その年の総収入金額はその年に請求した合計金額から、その年に値引かれた合計金額を差し引いた金額となります。
なお、値引きにはその年に請求した金額でその年に値引かれた分と、前年以前に請求し(収入に含め)その年に値引かれた分がありますが、両方ともその年の収入から差し引くことができます。
(3)返品
値引きと同じ理屈です。
(4)前受金
事業によっては商品の引渡しや作業に先立って、取引先から一定の代金をもらうことがあります。収入は商品の引渡しや作業が完了した部分となりますので、引渡しや作業が完了していない段階でもらう「前受金」に相当する部分は収入となりません。ただし、翌年に前受金に相当する商品の引渡しや作業の完了があれば、その金額を翌年の収入に含めなければなりません。
(5)計算が複雑な収入
●共同受注による収入
各人の取り分を明瞭に区分けする必要があります。
●外貨による収入
日本円に換算する必要があります。
●引渡しや作業は済んでいるが最終的な請求金額が決まっていない収入
引渡しや作業が完了している以上は、「合理的な見積り」により計上しなければなりません。
経済取引が無数にあり、しかも日々変化している以上、収入の集計方法も無数に考えられます。税務署、税理士などへの相談をおすすめいたします。
3 必要経費の計算
(1)必要経費とは
収入(売上)を得るための売上原価(仕入代金)と経費(販売費・一般管理費・その他事業を営むために生じた費用)をいいます。必要経費の「必要」とは「事業のために必要である」という意味で、売上に対応する商品の仕入代金は当然として、事業に関連しての支出である以上は必要経費とすることができます。例えば、あまり成果を生まなかった多額の広告宣伝費、事業拡大を見込んでやや広めの事務所や倉庫を借りた場合の賃料も、事業のための支出である以上は必要経費とすることができます。
事業に必要な経費であるならば、「こんなに必要経費が多いと税務署に怪しまれる(認めてくれない)」と、考える必要はありません。反対に、事業に無関連の支出はどんなに少額であっても必要経費に含めることはできません。
(2)売上原価とは
売上金額に対する仕入代金です。例えば、店舗で衣料品を販売している場合には衣料品の仕入金額です。ただし、仕入れた金額がそのまま売上原価となるわけではありません。年末に売れ残った部分(いわゆる在庫=棚卸高)は売上原価となりませんし、年初(前年末)からある部分は売上原価となります。つまり、「売上原価=年初(前年末)棚卸高+当年度仕入高−年末棚卸高」として計算します。なお、今年の年末棚卸高が来年の売上原価となることはいうまでもありません。
【年度末在庫の集計】
12月末時点で実際に数えておく必要があります。しかし、一定の帳簿などから年度末在庫金額を導ける場合には、それにより算出することもできます。例えば、商品仕入の請求書を販売済み分と未販売分(在庫)に区分して集計することも場合によっては可能です。
【不良在庫】
不良在庫(販売不能あるいは仕入値以下で販売しなければならない在庫)は、年内に処分(販売か廃棄)することが賢明です。年度末の在庫が少なくなり売上原価が増えるからです。
【目に見えない売上原価(在庫)?】
一般に(簿記の教科書では)売上原価といえば、目に見える商品(衣料品、事務用品など)の仕入金額のことをいいます。このような場合、年度末には目に見える(数えることのできる)在庫が残り、これは翌年度の必要経費となります(たとえその年に支払いが済んでいても翌年度に繰り越します)。最近では経済のソフト化が進み、従来のような在庫を持たない事業が増えています。しかし、このような事業においても在庫という考えがなくなったわけではありません。例えば、ゲームソフトをCDで販売している事業の場合、CD(プラスティック?)とパッケージ(紙とビニール)だけが在庫のように思えるかもしれません。しかし、これらをはるかに上回る金額の制作費(シナリオ、プログラム、音声など)がかかっているはずです。年度末に未販売のパッケージが残っている場合には、物理的な仕入金額(CDとパッケージ代)だけでなく制作費も在庫として翌年度に繰り越す必要があります。制作プロセス上、物理的な形に至っていない場合には(CDとパッケージ代がいまだ発生していない)まったく無形の在庫となります。
(3)必要経費の分類
税務署が配布している青色申告決算書や収支内訳書では、必要経費を多数に分類しています(初めての人は戸惑うと思います)。「租税公課」「荷造運賃」「水道光熱費」「旅費交通費」「通信費」「広告宣伝費」「接待交際費」・・・・と延々と続きます。税務署はその手引書で詳細かつ平易な解説をしていますが、必要経費の内容は事業者により無数に考えられますので相当悩むことがあります。しかし、大切なことは「分類よりも、必要経費となるかどうかです(事業に必要かどうか)」です。まったく的外れな分類はともかくとして、必要以上に分類に過敏になることは賢明ではありません。
(4)親族へ支払った給与
所得税の計算においては、「生計を一にしている」(ふところが同じ)親族に対しての給与は、原則として必要経費にできません。これは、親族への形式的な所得分散をすることによる所得税の負担減少を防止するためです。わが国の所得税はいわゆる累進税率を採用していることから、所得金額が上昇するにつれて税率も上昇します。これを避けるために所得分散は行われます。
しかし、生計を一にする親族への給与の支払いも経済的に合理性があるので(当然なので)、一定の条件のもとに必要経費とすることを認めています。なお、専従者給与を支払った親族については、その金額が配偶者控除や扶養控除の要件を満たす場合であっても、これらの控除を適用することはできません。
【青色申告の場合】
●青色事業専従者に支払われた給与であること
青色事業専従者とは、「青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること」「その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること」「その年を通じて6か月を超える期間、その青色申告者の営む事業に(一定の場合には事業に従事することができる期間の1/2を超える期間)専ら従事していること」の条件を満たす者です。ただし、学生や他に職業のある者は不可となる場合があります。
●「青色専従者給与に関する届出書」を所轄の税務署長に提出していること
提出期限は、青色事業専従者給与を支払う年の3月15日までです(新たに事業を開始した場合は、その開始した日から2か月以内)。この届出書には、青色事業専従者の氏名、職務の内容、給与の金額、支給期などを記載することになっています。
●上記の届出書に記載されている方法により支払われ、しかもその記載されている金額の範囲内で支払われたものであること
●青色事業専従者給与は、労務の対価として相当であると認められる金額であること
過大とされる部分は必要経費と認められません。なお、給与を決める絶対的な基準はありませんが、その専従者がよそで働いた場合もらえる給与の額が目安となります。
【白色申告者の場合】
●次の二つの金額いずれか低い金額です
◆事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、配偶者でなければ専従者一人につき50万円
◆この控除をする前の事業の所得金額を、専従者の数に1を足した数で割った金額
●事業専従者控除を受けるための要件は、次のとおりです
◆白色申告者の営む事業に事業専従者がいること
白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。その年を通じて6か月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事していること。
◆確定申告書にこの控除を受ける旨、その金額など必要な事項を記載すること
税務署は、親族への所得分散を大変厳しくチェックします・・・
「親族に所得を分散すれば(給与などを払って必要経費とすれば)所得税は減る」
「所得税が所得×税率と計算されること」「税率は所得が増えるに従って上昇すること」からすれば、容易に理解できます。そこで、多くの人が「できるだけ多く(世間相場より高く)親族に給与などを払いたい(所得を分散したい)」と考えるのが人情です。
平成16年に、最高裁で「弁護士が、弁護士である妻(夫とは別の事務所を設けている)に支払った弁護士としての報酬が必要経費にならない」との判決が下されました。腑に落ちないかもしれません。しかし、裁判所は次の「条文」を尊重したようです(条文は口語にしております)。
【所得税法56条】(1)「納税者と生計を一(ふところを同じにする)にする親族が、納税者の経営する事業に従事している場合に、これらの親族に支払う給料などは必要経費にできない」、(2)「生計を一にする親族が支払った(負担した)事業に必要な費用は必要経費にできる」(例えば、生計を一にする親族が家賃を支払っている賃貸マンションで事業を行っている場合には、事業に必要な部分で親族への支払いが行われているならば事業を営んでいる者の必要経費とできます。)(3)「親族が受け取った給料などはその親族の所得とはならない」
【所得税法57条】「上記のうち給料は、一定の要件のもとで必要経費にできる」
「生計を一にする」「事業に従事している」「一定の要件(妥当な給与の金額など)」の解釈はさておいて、所得税法においては親族への所得分散は「原則的にできず」「できる場合も限定されていて要件が厳格」であることをご理解いただけると思います。
親族への所得分散には、税務署は大変厳しい対応をしてきます。その根拠は、上記の条文(法律)だということです。「よそも払っている!」「所得分散による節税は自営業者の特権だ!」だけではどうにもなりません。法律のプロである弁護士でも、この件についての裁判に敗れるのですから・・・。
上記の条文の趣旨は、生計を一にする親族間での所得分散による租税回避を防止することです。
その背後には、生計を一にする親族間では、対価のやり取りなどすることはない(そんな他人行儀なことはしない)、家業のために事業主以外の親族が事業に必要な費用を負担するのは当然、といったような考えがあるようです。
●このような考えは、すべてにおいて当てはまるのでしょうか?
●当てはまらないのは、どのようなケースでしょうか?
●当てはまらないケースを、明瞭、公平に定めることができるのでしょうか?
●当てはまらないケースがあるとして、その場合は上記の条文をどのように解釈すべきなのでしょうか?
会社にすれば!?
一理あります。会社の場合(法人税法の場合)、上記のような条文はないからです。しかし、役員給与として過大な金額(親族を役員としている場合)は損金(個人事業者の場合の必要経費)に算入することができません。
(5)減価償却
建物、機械、器具備品、車両運搬具などの減価償却資産(固定資産とも呼ばれます)は、数年にわたって使用され、時の経過にしたがってその価値が減少してゆきます。そこで、これらの資産を事業用に取得した場合、その取得に要した金額を使用期間に応じて(使用した各年に分割して)必要経費としなければなりません。この手続を減価償却と呼びますが、減価償却は定額法、定率法などの所得税法で認められる方法で行う必要があります。なお、10万円未満の減価償却資産については取得時の費用とすることができます。
減価償却の計算要素は次のとおりであり、各要素の決定次第で減価償却の金額が異なってきますので所得税法はそれぞれについて詳細な規定を設けています。
●取得価額(償却の基礎となる金額)
●取得年月日(償却を開始する年月日)
●耐用年数(償却をする期間)
●残存価額(償却終了後も残る資産の価値)→平成19年4月1日以降取得する分は1円(備忘価額)となります。
●償却率(その資産の耐用年数で償却が終了する率)
(6)貸倒れ
販売代金の回収が相手先の倒産などにより不可能となったことを、貸倒れ(かしだおれ)といいます。貸倒れは、値引きや返品とは事情が違います。貸倒れの場合は、販売そのものは成立していますので収入はそのままです(いったん収入とする権利は確定したけれども、その後の状況の変化により代金が回収できなくなった)。貸倒れ相当額は、必要経費として収入から差し引きます。貸し倒れはその年に実際に起こった貸倒れ金額しか必要経費とはできません。なお、一定の方法により貸倒れ見込額を必要経費とすることができます。いわゆる「貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)」です(青色申告と白色申告で必要経費とできる貸倒引当金の金額が異なります)。
(7)家事関連費
家事関連費とは、私生活と事業の双方に関連する支出です。自宅兼事業所の場合の家賃、水道代、電気代、電話代などがその典型です。そのような支出の場合、その支出を私生活と事業に区分するのに合理的な数値(たとえば家賃の場合は面積)の比率で区分し、事業部分のみを必要経費とします。
(8)リース、レンタル、分割払い
固定資産を購入する際、その支払方法として次の方法が考えられますが、それぞれにより必要経費の計算が異なります。
●全額自己資金
購入代金を減価償却により必要経費とします。
●リース
支払ったリース料を必要経費とします。(平成20年4月以降契約するリースについては、ごく一部を除いて資産の購入として扱い減価償却することになりましたが、従来どおりリース料を支払った都度必要経費とする処理も引き続き認められます。)
●レンタル
支払ったレンタル料を必要経費とします。
●分割払い(購入した業者への)
購入代金(未払い分を含む)を減価償却により必要経費とします。「請求書や領収書を10万円未満に分割しておけば(分割して払えば)・・・」あまりにも古典的な方法です。税務署はすぐに発見します。なお、税金の知識が平均以上の取引業者からも「笑いもの」にされます(取引を打ち切られるかもしれません)。
●金融機関などからの借入れ
購入代金(借入金による部分を含む)を減価償却により必要経費とします。
(9)借金と必要経費
「こんなに借金を返しているのに、(返済金額を)なぜ必要経費にしてくれないのか?」
大変よく聞くことです。しかし、借金をしてから今日までのことを冷静に振り返ってください。借金をするのは仕入代金や特定の経費を支払うためで、借金をしたならそれ相当の必要経費が発生しているのです。つまり、借金の返済分を必要経費とすれば経費を二重に計上することになるのです。
税務署に、「借金をしたときには入金がありましたので、それは収入にしてください」と、いわれたら(絶対にそんなことはいわれませんが)、貴方は何と答えますか・・・・・。
(10)領収書の無い支出
●領収書の入手を忘れた、紛失した場合
至急発行してもらってください。相手先か拒む場合があります。そのときは帳簿(金銭出納帳や出金伝票)に出金内容を明瞭に記載し(金額、相手先、支払内容など)、領収書に代わる書類(請求書、納品書、注文書など)を残しておくしかありません。
●領収書が無いのが当然の場合
◆電車賃
利用者と交通経路を記載した記録(金銭出納帳、旅費明細、出金伝票など)を残しておきます。
◆販売機での購入(ジュースなど)
いつ、どこで、何のために支出したかについての記録(金銭出納帳、出金伝票など)を残しておきます。
◆香典、祝金
案内状やお礼状を残しておきます。
◆預金口座振替で領収書の発行が省略されているもの(保険料、月会費など)
通帳は当然として、毎月の振替金額を取り決めたときの契約書を残しておきます。
「領収書さえあれば(たとえ偽造したものであれ)」は言語道断ですが、「領収書がないから」といってあきらめる必要はありません。かといって、「領収書がなくても」はいけません。
(11)未払費用(未払金)
支払が済んでいなくても、その年にその経費についての支払義務が確定しているものについては、必要経費とできます。例えば、忘年会をしてその支払を年明けにした場合であっても、前年の収入から必要経費として差し引くことができます。
(12)所得税は必要経費となるか?
残念ながら、必要経費とはなりません。さらに、住民税も同じく必要経費とはなりません。ただし、事業税、(事業用車両の)自動車税、印紙税などは必要経費となります。
(13)経費の前払い
一定の契約により継続的に役務の提供を受けるための支出で、1年以内に提供を受ける役務に対するものについては、支払った金額のすべてをその年の必要経費とできます。例えば、保険料(年払い)、家賃(翌月分の当月末払い)がこれに該当します。ただし、この処理を毎年継続する必要があります。つまり、所得の多い年に集中的に1年先の分を前払いして必要経費を増やすという方法は認められないのです。
(14)消耗品のまとめ買い
消耗品(包装材料、広告印刷物など)の代金支払は済んでいても、年度末に未使用であるものについては、売上原価の年度末棚卸高と同様に、その年の必要経費とはできません。しかし、毎年一定数量を購入・消費するものについては、購入した年の必要経費とできます(ただし、この処理を今後も毎年続けなければなりません)。
所得税法には、必要経費についての規定が多数あります。しかし、すべての必要経費について詳細な規定が設けられているわけではなく、処理に悩むこともあります。税務署、税理士などへの相談をおすすめいたします。
5分程度でお読みいただけるように簡潔にまとめてみました。
必要経費について頭の中を整理していただければ幸です。
ついでに、机の中も整理してください(笑)。
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